第135話 王立魔法学院に転入しました。
ノエルとビラが学生生活を満喫します。でも、飛び級で大丈夫ですかね。
(11月6日、グレーテル市です。)
ノエルとビラは、少し気が抜けてしまった。この1週間、結婚式だ、婚約パーティだと忙しいのに、最後は、王立魔法学園への転入試験だ。合格するのは、分かっていたが、明日から、学校に行かなければならない。ノエルは、今の中等部3年の子なら、少し知っているが、大学となると、ずっと年上で、知っている人がいる訳が無かった。しかし、大学の在校生たちは、皆、ノエルの事を知っていた。3年前、鳴り物入りで中等部に入校してきたワジンの子だ。今までの入学試験で見せたことも無いような能力と威力を発揮して先生、生徒を驚かせた子。家庭の都合で、すぐやめたと聞いたが、今度は、15歳になったばかりで、大学へ飛び級進学してきたのだ。全ての学生、教授の注目の的だった。
もう一人の銀色の髪の子も凄い。17歳だが、1年飛び級で3年に転入してきた。しかも、転入試験で、魔力測定人形を粉砕してしまったらしい。え、あれを粉砕。どんな魔法を使えば、あれを粉砕できるのか、誰も知らなかった。王立学院創立以来、あの人形が粉砕されたことは無かった。
しかし、その試験で、ノエルが、人形を消滅させてしまったことは、教授以外には知らされていなかったのである。
ビラは、少し緊張していた。久しぶりの学校生活だ。クラスメイトはどんな子がいるのだろうか。もう2学期も終わりに近いのに、無事卒業できるのか不安だった。
初めての授業は、魔法学だった。ビラが習っていたところよりも、当然先に進んでいるが、理解できない内容ではなかった。教授の質問にもちゃんと答えることが出来た。魔法の術式と構成については、実践で経験を積んだので、何となくわかっているが、こうして体系的に教わると、ああ、あの事を言っているのかと、理解できる自分が楽しかった。ビラの午後の授業は、魔法修練場での実技講習だ。ファイア・ボールや、サンダー・ボールの連発の練習だ。いかに詠唱を短くできるかという事と、魔力をワンドへいかに早く流せるかが決め手だ。
同級生の中には、1度だけ発動するのにも時間がかかり、次の詠唱がなかなかできなくて時間切れの子も多かった。できる子でも、3回連続させたら立派なもので、しかも、その威力も花火程度しかなかった。
ビラの番だった。ビラは、教授を見た。教授が、少し抑えるように手ぶりで合図をしてきた。ビラは、5連発に止めることにした。ワンドを前に突き出す。
「サンダーボルト、ボル、ボル、ボル、ボルト。」
ゴロゴロゴロ、ドカン、ドカン、ドカン、ドカン、ドカン
修練場の中が、電気スパーク特有のきな臭い匂いに包まれた。床に大きな電撃痕が、5つ焼け焦げていた。それもきれいな五角形を描いて。同級生達が、ポカンとしていた。中には、気を失っている女の子もいた。電撃の衝撃を浴びたわけでもないのに、想像して気を失ってしまったらしい。教授が、生徒たちの中にけが人がいないかを点検していた。雷撃の感電網が、控え場所の近くまで走っていたからだ。ビラは、それから、攻撃魔法の実技は、見るだけになってしまった。
でも、良いこともあった。一気に生徒達の憧れの的になってしまったのである。王国魔導士長でさえ、あれだけの極大魔法を5連発しかも無詠唱ではできないのに、簡単にやってしまった。課外では、無詠唱のやり方を指導することになったのである。学校が終わっても、皆でスイーツ屋さんに行ったり、ラーメンを食べに行ったりと充実した学校生活となった。以前の貧しい学生だった頃には、考えられなかったことだ。
おまけであるが、ビラが転入してきてから、女子生徒のスカートが段々短くなり、男子生徒がとても喜んだそうである。
1週間後のことである。3年生は、課外授業で、月に1度のダンジョン攻略があった。日帰り実習だったが、4人ずつでチームになり、王国騎士団の方2名と共に潜って行くのである。ビラは、女性だけのチームに入った。最近、男子のアタックが激しくなってきたからだ。騎士さん達も女性だ。ビラ達は、第1階層で、ゴブリン達を相手に戦った。仲間のファイヤ・ボールやアイスランスは、単発で威力も弱いため、最終的な『とどめ』は騎士さん達にお願いしていた。
ビラの番になった。ゴブリン5匹が現れた。『サンダーボルト』を5つに分けて放った。5連発ではない。分けただけである。すべて命中し、ゴブリン達を殲滅した。ビラは、直ぐにゴブリンの死骸から魔石を取り出した。その、あまりの手際の良さに、騎士たちが驚いていた。
ビラは、『C』ランクの冒険者証を見せた。そういえば、最近、更新に行っていなかった。もうそろそろ『B』ランクに昇格するはずだ。今日の夕方でも、冒険者ギルドに行ってみようかなと思った。騎士さんの内の1人が、ビラの事を知っていた。ゴロタの仲間2人が、王立魔法学院に転入してきたということを。それからは、クラスメートが最初に魔法を放って、戦闘能力を削った後、ビラがとどめに殲滅するというパターンになり、騎士さん達は見ているだけになった。
その日の内に3階層まで潜り、階層ボスのトロールを黒焦げにして討伐したところで、課外授業は終わりとなった。帰りは、ビラが先頭で、雑魚キャラを殲滅しながら地上まで戻って行った。騎士の一人から、何かあった場合には、力を貸してくれるように頼まれてしまった。ビラは、『学校を通じてならいつでもどうぞ。』と答えてあげるだけだった。王都で何かあったら、私ではなくゴロタさんやエーデルさんが何とかする筈と思ったからだ。
その日から、土・日の休校日も、クラスメートからダンジョン攻略に誘われるようになった。いい小遣い稼ぎになるようだ。勿論、ビラも等分に分けて貰っているが、今のビラにとっては、たいした金額ではないのでお金など欲しくは無い。でも、クラスメートの手前、いらないとも言えないので貰うことにしている。
ゴブリンやオークでは、魔石も安く金貨1枚稼ぐのに2か月以上かかってしまう。僕達と冒険をしている時に、シェルさんからお小遣いとして貰っていたのが、溜まってしまい、今では金貨20枚以上あるので、ギルドの口座に預けていることは、皆には内緒にしていた。
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ノエルは、自分よりも4つも5つも年上の人達と一緒に学ぶことになった。しかも、全員男性である。最初は、ノエルを邪魔くさそうに見ていたが、大学の講義にしても実技研究にしても、誰もノエルにかなわなかった。
一体、どこで勉強したのか聞かれたが、学校に通ったのは、中等部の3か月間だけだった。しかしマーリン先生から、魔法の基礎と応用について集中的に教えて貰ったし、その内容を、この1年半の間に実践で確認していったので、今では、見たことも聞いたことも無い魔法でも、その効果をイメージするだけで構築できるし、火魔法を風魔法で自由に運ぶなど、応用も色々やってみた。
今、研究しているのは、『聖なる炎』で、敵に対してはダメージを、味方に対しては治癒効果が発揮される魔法である。引っ掛かっているのは、対象の見分け方で、この方法を教授に聞いても、魔法の力にそこまでの応用力は無いと言われてしまった。しかし、自分のイメージなので、できると思えば出来てしまうのではないかと思い、研究を重ねている。あと、魔道具作りも大学で学びたいことの一つだった。
大学では、魔法実習があり、王国魔導士の方と一緒に、ダンジョンに潜るのだ。学生の殆どは、卒業後、王国魔導士となるため、その時のために、いまの内から、先輩たちの指導を受けておこうという事だそうだ。
ノエルは、他の学生3人とともに、チームを組んだが、担当の王国魔導士は、何と王国魔導士長のおじさんだった。名前を、マリンピアと言い、ノエルが僕の婚約者であり、2年半前中等部に入ってきたときには『神童』と言われていたことも知っていた。あの、王国魔導士長ってお立場、忙しくないのですか?
マリンピア魔道士長はノエルと一緒にダンジョンに潜って、その実力に吃驚した。全ての魔法が無詠唱だ。それに火魔法も風魔法も初級魔法のはずなのに、その効果は極大級で、一度に10発のファイヤとかウインドなどあり得ない。トロールなど、ウインドカッターで、一刀両断、上下に分断してしまった。
地下5階層のボスなどは、アイアンゴーレムだったが、火魔法でこんがり焼いてから、5枚のウインドカッターで首、両手、両足を分断してしまった。
縦横自在に変化させるウインドカッターもそうだが、その前のファイアは、単なるファイアだ。焚き木や暖炉で使う家庭魔法のはずなのに、ノエルが使うと、5m近いアイアンゴーレムが業火に包まれて真っ赤になってしまった。そこにウインドカッターである。バターを切るようにスパスパ切れてしまった。
地下6階層のゾンビワールドでは、広範囲ホーリーで、階層全体のアンデッドを殲滅してしまうし、地下7階層ではアイアンイーグルの急降下を、風魔法で墜落させてから、ヘル・ファイアで黒炭にしてしまった。
地下8階層の森林エリアでは、トレントが根っこ攻撃をしてくるのを構わずに、トレントの口の中からファイアを発動させて殲滅してしまうし、地下9階層では、巨大なゴーレムを、ヘル・ファイアで火だるまにして、未だ燃え盛っている最中にウインド・スピアで穴だらけにしてしまって、穴の中から入り込んだ炎で中から土くれに変化させてしまった。
最終エリアのワイバーン3匹に対しても、毒を吐こうと開けた口目掛けてファイア・ボールを撃ちこみ、羽をウイング・カッターでズタボロにして落としてから、ヘル・ファイアでこんがりと焼いて殲滅してしまった。
マリンピア魔道士長は、まさか、大学の実習で、最下層のダンジョンボスと戦うなど想像もしていなかったが、遂に来てしまった。アンデッドの王、レブナントだ。黒い瘴気を纏い、瘴気弾を放って来る。通常は、マリンピア魔導士長と部下30人位の編成で戦う相手だった。ノエルは、ホーリーシールドを這って、瘴気弾を防ぐとともに、ホーリースピア10本を同時にレブナントに放った。身体のあらゆる部位を刺し抜かれたレブナントは、瞬間的に消滅してしまった。ダンジョンクリアである。
帰還石で、地上に戻ったが、同行していた学生達は、ただ見ているだけだった。魔導士長は、この状況を早く国王陛下に報告せねばと、早々に王城に帰ってしまった。
王国内でも、比類なき魔導士になれるみたいです。なりませんが。




