第132話 カーマン王国王都シャウルス市
今回は、皆でアルピス山脈を越えます。
(まだ10月10日です。)
ゴロタは、『空間転移』で、すぐにガチンコさんの店の裏に行った。裏から、工房に入ると、丁度ガチンコさんが剣を打っている最中だった。お土産も何も無いが、許して欲しい。焦っていたから、顔を見て、お土産のことに気が付いた。
ガチンコさんは、ゴロタを見て、何も言わずにレイピアを受け取った。鞘から抜いて見るとガチンコさんも驚いた。
ヒヒイロカネのレイピアは、初めて見た。ヒヒイロカネは、硬い金属だ。だから、しなりが必要なレイピアを作るのは、卓越した技術が必要だ。
ガチンコさんが、どこで手に入れたかを聞いてきた。
「カーマン王国のイーストウッド市」
ガチンコさんは、さらに驚いた。ゴロタが喋ったのだ。
「いくらだった。」
「大銅貨2枚。」
「何だと、この詐欺野郎。で、どうするんだ。こいつを。」
「エーデルさん用に直したい。」
「あのエーデル姫か。ちょっと短くなるけど、大丈夫だろう。あと、刃もつけ直さないとな。それに、鞘に貼られてる皮もボロボロだ。全体的に、作り直さないと。」
「これ、使って。」
ゴロタは、ワイバーンの皮とシルバーウルフの皮を出した。
「うん、あと水竜の皮もあるかい?」
ゴロタは、それも出した。
「お前、何でも持っているんだな。聞いたぞ。お前、『殲滅の死神』とか『ロリ殺し』って言われているらしいな。」
いや、絶対に、違うから。でも、そこは黙っていた。
それから、ゴロタの背中の刀を見て、直ぐにヒゼンさんの作と分かってしまい、更に今付けている鎧の作りを見たりで、楽しく2時間位過ぎてしまった。
出来上がりは、2週間後だった。ゴロタは、また裏口から、ホテルに帰って行った。
ホテルには、まだ誰も帰っていなかった。
ゴロタは、ロビーのソファに座って、1人、ニヤニヤしていた。
こんな田舎の武器屋だったから、あの剣の価値が分からなかったんだ。店主は、きっとヒヒイロカネを見たことがないのだろう。
しばらくすると、シェルさん達が帰ってきた。大きな荷物を抱えていた。イリアさんの店では、大したものが無いみたいだったから、買い物はしないだろうと思っていたが、女性陣は、北大陸のこれからの季節に備えて冬服を買っていたみたいだ。当然、裾はミニにしてもらっている。ツイードの上下スーツとか、ニットセーターにウールのミニとかだ。ニーソックスも、厚手の物にして貰っている。
こちらの大陸では、今は初夏なので、売れ残り品か、今年の冬物の試作品ばかりで、極端に安かったようだ。
エーデル姫には、例のレイピアのことは内緒にしていた。2週間後に吃驚させようと思った。鞘と柄には金装飾をふんだんに使って貰うようお願いしている。
この街から王都までは、直線で10日の距離だが、途中3000m級の山アルピス山脈が立ちはだかっており、馬車は途中までしか登れない。後は徒歩で3日間かけて山脈の向こう側まで行かなければならない。
荷物があると、とても登れないので、一般の旅行者は、北側の海沿いの街道を行くのが一般的だ。しかし、そのコースでは、あと5日間、余分に日数がかかってしまう。
もちろん、ゴロタ達は直線コースを行く予定だ。そのために、登山道具を途中の町で購入する予定だ。ザイルとかピッケルとか。初夏とはいえ、高山は朝夕、かなり気温が下がるので、防寒衣等も準備しなければならないが、女性陣は、毛皮のコートをイフちゃんに出して貰えば十分と考えているようだ。頭が痛い。まあ、ゴロタのシールドを掛ければ、暑さ、寒さを防護するから、本当は必要無いが、気持ちの持ちようにおいて間違っていると思うゴロタだった。
3日目、アルピス山脈の麓の街についた。ここから登山馬車で4合目まで登り、そこで一泊、山の途中で更に野営をして、山越えとなる。
本来なら、登山ガイドを付けるようだが、バルドとイフちゃんがいるので、道に迷うことはない。魔物もいるようだが、冬山ではないので、難しいのはもう出ないとの事だった。
翌朝、登山馬車に乗った。利用客はゴロタ達だけだった。農耕用の足の短い馬が8頭で4人乗りの馬車を引く。ゴロタ達は2台をチャーターした。平場では、まあまあの速度だったが、上り坂になって急に速度が落ちてしまった。それでも、立ち止まることなく、確実に登って行く。その日の午後3時頃に4合目に到着した。登山馬車は、ここでUターンして下山していく。4合目には山小屋があったが、無人だった。
ベッドは合ったが、マットレスは黴臭い匂いがしたし、備え付けの毛布も、いつ洗ったのか分からない位汚れていた。
とりあえず、キッチンを借りて食事の準備をした。クレスタさんとノエルが頑張って、今日は、それなりの物を作った。猪肉のソテーと蒸し鶏のグリーンサラダ、ほうれん草のスープだ。パンもオーブンでトーストにしてバターとイチゴジャムを塗って食べた。
オーブンの予熱で、雉肉を使って明日の夕食の下準備をしておいた。それから、今日、余分に作ったソテーでサンドイッチを作っておいた。明日の昼用だ。
お風呂も、キチンと沸かして入り、マットレスを洗濯石で綺麗にしてから、その上で寝袋で寝ることにした。
翌朝、いよいよ登山の開始だ。ゴロタを先頭に登る。バルドとイフちゃんに警戒をお願いした。登り始めて1時間くらいで、シェルさんが、足が痛いと騒ぎ始めた。エーデル姫は、最初からコマちゃんに引いてもらっている。そういえば、新婚旅行の登山も、ずっとゴロタが背負って山越えしていたことを思い出した。
ゴロタは、コマちゃんに先頭を歩いて貰い、ザイルで3m間隔で輪を作って、その輪に皆を捕まらせて引っ張ってやった。それから、30分交代で、ゴロタが1人を背負ってあげた。通常なら、午後4時頃に、途中のビバーク場所に着く予定なのだが、午後1時頃に到着してしまった。もっと上に登っても、ビバークに適した開けた場所がないことが分かっていたので、此処で野営となった。
ここまで一気に来たので、遅い昼食を取り、後はのんびりとした。標高1600m位なので、空気も薄くないし、木々も生えている。
バルト、コマちゃんとトラちゃんは、周辺で狩りを始めた。コマちゃんには、火は使わないように注意しているので、林が燃えるようなことは無いだろう。
バルトが山ウサギを捕まえて来た。トラちゃんが小型のカモシカを捕まえ、コマちゃんが子ヤギを捕まえて来た。それぞれ美味しくいただいた。昨日、準備した雉肉は、あすの昼のサンドイッチにした。
夜、満天の星空の下でのキャンプは最高だった。皆、星空を見とれている。今日は、スペースが無いので、風呂は無しにした。
翌朝、気温がかなり下がっていたため、毛皮のコートを出して着ていた。ゴロタは、武器屋で買った防寒用の冒険服を着ている。鎧の上から着用できるようにゆったりしており、内側には兎の毛皮が貼っている。また、昨日のようにコマちゃんが先頭で皆を引っ張りながら登る。
ゴロタのシールドも長さ20m以上の縦長に掛けている。あっという間に頂上に着いてしまった。頂上からは、遠くマッキンロウ山脈が霞んで見えた。さすがに、北の大雪山脈は見えなかった。
下りは、ゆっくり行っても1日で、西側の麓のクロミエ村に到着した。村の人達は、ゴロタ達の軽装を見て、とてもアルピス山脈を踏破して来たとは信じられなかったようだ。
村は、チーズとバターが特産らしく、色々な種類のチーズが揃えられていた。高原の村らしく、気候がチーズ作りに合っているみたいだった。
あと、ヤギのソーセージも特産品らしく、至る所で、燻煙の匂いがしていた。この村には、ホテルはなく、旅行者がある時には、民家が臨時宿屋になるみたいで、ゴロタ達は、村長の家の二階に泊まることになった。ツインの部屋が2つしかなかったので、ベッドをくっ付けて、ダブルサイズにして、3人ずつで寝た。この日、夜のセレモニーは無い予定だったが、シェルさんとエーデル姫が両脇に寝ていたので、軽い夜のセレモニーをしてから寝ることになった。
ここは、ペット禁止だったので、コマちゃんとトラちゃんは、外の馬小屋で寝ることになったようだ。アオちゃんは、最初からゴロタのポケットの中なので、問題は無かった。
翌日の夕方、カーマン王国ナチュラル辺境伯領の領都ブリドムラ市に到着した。領都といっても、それほど大きくない。王都が近いせいか、主要な店舗などが王都に集まってしまい、ブリドムラ市は、周辺の農場からの集荷場所としての役割位しかないためだ。
ブリドムラ市にも冒険者ギルドがあったが、オークションの取り扱いはしていないため、以前出したケルベロス等の応札価格は分からなかった。
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(10月20日です。)
それから、3日後、いよいよ王都シャウルス市に到着した。ゴロタ達は、平民の列に並んで、普通に入城した。
ゴロタ達の冒険者ランクに驚いていたが、特に、何も言われなかった。能力測定では、『SSS』ランクだが、冒険者カードでは『A』ランクのままだったからだ。
この国の国王は、ブリ・ド・モー・カーマン8世陛下で、四方を山脈で囲まれているため、外敵に侵略されたことはない。北東の一部はメディテレン海に面しているが、交易路はないようだ。
気候は温暖で、農業生産と鉱山採掘が主な産業である。そのため、王都には、色々な種族が暮らしており、はるか南からやって来た魔人族も、少数だがいるようだ。ゴロタは、魔人族を見たことは無いが、普通の人間に角が生えていることが大きな相違点だそうだ。男性も女性も大柄で、力仕事に従事している者が多いようだ。
ゴロタ達は、市内でも上等なホテルを予約し、その日の夜は、外のレストランで食事をすることになった。当然、クレスタさんの案内だ。クレスタさんの故郷から、王都に出店している郷土料理店である。
その店は、平たいパスタを、カボチャと豚肉で煮て、味噌仕立てで食べるのだが、中に入っているキノコが絶品であった。また、物凄く太い松の根元に生えるキノコの塩焼きを食べたが、香りが強く、歯ごたえも良いものだった。1本銀貨1枚もする高級品だった。
食後のフルーツのブドウと梨もジューシーで美味しかった。クレスタさんの郷里には、美味しいものが沢山あるようだった。
翌朝、今日は1日、王都観光をするつもりだ。クレスタさんと一緒に宝石店に行き、結婚指輪を買った。プラチナ台にダイヤを並べたもので、金貨2枚だった。ゴロタは、ダイヤの入っていないもので、シェルさんの時と同じ仕様にした。
出来上がりは、3日後と言ったので、後で取りに来ることにした。当然、ゴロタ一人で取りに来る予定だ。
ゴロタ達は、いよいよ、クレスタさんの故郷である、ベール侯爵領ガーリック男爵領チェダー市に向けて出発した。
いよいよ、クレスタさんの国に到着します。