第128話 ゼロス教大司教様の後継者
いやあ、トムとジェリーの育成、うまく行っていますね。この調子だと、一本立ちもすぐのようです。
(9月21日、冒険者ギルドです。)
トム達が、納品した魔石はゴブリンのものが33個、ゴブリンソルジャーのものが27個だった。ゴブリンの魔石は1個大銅貨2個、ゴブリンソルジャーの魔石は1個大銅貨8枚だった。大銀貨2枚、銀貨7枚と大銅貨2枚になった。
魔光石10個の納品は、別会計だった。
トム達もビックリしていたが、受付の女の人は、もっと驚いていた。しかし、僕の方をチラと見て納得していた。どうやら、僕の情報が伝わっていたらしい。
トム達は、回収した武器類を売ったが、鉄屑としての価値しか無かった。全部で、大銅貨3枚だ。これで、明日からは、つまらない装備品は持ち帰らないだろう。きっと今までのパーティーは、少しでも元を取ろうと、トム達に辛い荷物運びをさせていたのだろう。2人でハアハア言いながら10キロも歩かされて、大銅貨3枚。トムの目に悔し涙が浮かんでいた。その時、後方から大柄の熊人族の冒険者が声を掛けてきた。
「おい、トムじゃないか。随分稼いでいたな。これも俺の指導のおかげだろう。おい、指導料を貰ってやってもいいんだぜ。」
男の後ろには、狼人と牛人の冒険者が下品な笑いをしていた。
「俺は、金はいいから、このジェリーと仲良くするぜ。金は、2人で分けな。」
トムは、背中にジェリーを匿って、ギッと熊人の男を睨んでいる。きっと、トム達を食い物にしていた冒険者達だろう。
「何、怒ってんだよ。いいから、こっちへ来いよ。」
男達は、トムの腕を掴んで、ギルドの裏へ連れて行こうとする。ジェリーが、僕に助けを求めるような目付きをするが、僕は、お茶を飲んでいて動かない。トム達が、裏に出てから、イフちゃんに見張らせた。手を出すようだったら、懲らしめるようにお願いしている。
男たちは、裏に出たら、突然、トムを羽交い締めにして、懐を探ろうとした。ジェリーは、狼人に押さえ付けられている。イフちゃんが、ささやかな火球を男達の首筋に当てた。マッチの火位の大きさだ。
驚いた男達は、トム達を離してしまった。トムは、ジェリーの所に走って行き、男達の方を向いてナイフを抜いた。
男達は、首筋をさすりながら、
「何だ、今のは。まあ、いい。ナイフを抜いたってことは、俺達を殺そうとしたって事だよな。話が早いねえ。じゃあ、返り討ちだな。」
男は、ロングソードを抜こうとするが、抜けない。抜けないどころか、動けない。僕が、ギルドのレストランに座りながら、『威嚇』を使ったのだ。狼人を除いて。
狼人は、リーダーが動かなくなったのを見て、不思議に思いながら、ショートソードを抜いた。狼人は、完全にトムを馬鹿にしていた。犬っころが狼様に逆らうなんてと。ショートソードを大きく振りかぶって、トムに斬りかかってきた。遅い。トムには、狼人の動きが良く見えている。横をすり抜けながら、ナイフを振った。浅いが、狼人の脇腹を抉った。すぐ振り向いて、狼人の首筋にナイフを当てた。狼人は、動けなかった。
ジェリーは、ポカンとしている。トムに何が、起こったのだろう。イフちゃんが、姿を現した。お兄さんの格好だ。
「もう、そなた等ではこの子と戦うのは無理じゃ。レベルが違いすぎる。立ち去るが良い。」
突然現れたイフちゃんにビックリすると共に、さっきのトムの動きも自分達では太刀打ち出来ないことが分かった男達は、本当に尻尾を巻いて逃げていった。熊人の男は、尻尾が短くて巻けなかったが。
イフちゃんが、2人に能力測定をしてみるように言った。ギルドに戻って、早速測定してみた。
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【ユニーク情報】
名前:トム
種族:犬人族
生年月日:王国歴2007年8月15日(15歳)
性別:男
父の種族:犬人族
母の種族:犬人族
職業:無職 冒険者D
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【能力】
レベル 13
体力 100
魔力 70
スキル 80
攻撃力 120
防御力 85
俊敏性 110
魔法適性 土
固有スキル
【匂い探知】【持久走】
習得魔術 なし
習得武技 なし
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15歳にしては、有り得ないレベルだ。特に、攻撃力と俊敏性が、常人を超越している。先ほどの動きも納得できる。もう『D』ランクに到達していた。
次に、ジェリーも測定してみた。
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【ユニーク情報】
名前:ジェリー
種族:犬人族
生年月日:王国歴2007年8月15日(15歳)
性別:女
父の種族:犬人族
母の種族:犬人族
職業:無職 冒険者D
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【能力】
レベル 11
体力 90
魔力 130
スキル 90
攻撃力 50
防御力 110
俊敏性 60
魔法適性 聖 水
固有スキル
【神の御技】【匂い探知】
習得魔術 なし
習得武技 なし
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へ?僕は驚いた。『神の御技』って?
居た。大司教様の後継者が。然し、この事が、大いなる混沌への道とは気が付かない、僕であった。
遅い昼食を済ませ、4人で武器屋に行った。イフちゃんは、何時もの女の子に戻っていた。武器屋で、最低限の装備を揃える。
トムは、作業服タイプの冒険者服と軽金属製の軽鎧セット。頭には、金属片が付けられた鉢巻。武器は、鋼鉄製のショートソードにした。いわゆる短剣であるが、武器屋さんでは、ショートソードと言わないと、訂正されてしまう。僕の頭の中では、ナイフ<短剣<長剣<大剣と言う区分だが、どうも国によって呼び方が違うようだ。
ジェリーも冒険者服を買ったが、この国にもミニスカートの流行が来ているみたいで、スカートタイプは、全てミニスカートだった。専用のパンツがあり、見られるために履くパンツで、スコートと言うらしい。物によってはスコートの方が高いようだ。防具は、胸当てだけにし、魔法防御の白色ローブを買った。武器は、水属性の魔石を嵌め込んだトネリコの杖にした。
後、解体用のナイフも持たせた。先が少し曲がっていて、護身用にも使えるタイプだ。あ、ジェリーさん、その姿でクルクル回ったら、パンツが見えちゃいます。うん、見えた。
トム達と一緒にホテルに戻った。トム達は、12歳の時から、この街に住んでいるが、このホテルに入るのは初めてだそうだ。ツインの部屋を取ってあげて、まずお風呂に入る様に言った。少し、犬臭い。その後、食事の時に、皆に紹介する事にした。
シェルさん達は、夕方、遅くなってから帰って来た。店の人が3人、荷物を抱えながら一緒に来たので、手当たり次第に買ったのだろう。現在の口座残高を知ってから、もう歯止めが効かなくなっている。きっとワイバーンの尻尾位は買った筈だ。大司教様、真似していると教会が破産しますよ。あ、婆やのフミさんがついに買ったようだ。恐れていた事が現実になった。僕は、視線をそっとずらして、見なかった事にした。
食事は、セットメニューにした。トム達は、肉料理のお任せコースにした。ジェリーが食後のデザートに出たケーキに目を輝かせていたので、お代わりをしてあげた。大司教様とレミイさんも欲しそうにしていたので、勿論追加してあげた。
あれ、いつのまにか食事の支払いが、僕になってしまっている。あの、大金貨を見られたのが不味かった。あ、もしかすると。
恐る恐るシェルさんに、今日の買い物の支払いについて聞いたら、男がそんな事を気にしちゃダメと言って、横を向き、吹けない口笛を吹いていた。ワイバーンの特殊個体、また出ないかなと思った僕だった。
部屋に戻る前に、重大発表をした。大司教様の後継者が見つかった事だ。ジェリーのスキル『神の御技』について説明すると、皆、ビックリしていた。ジェリーを大司教様の部屋に連れて行き、異端審問に使った帽子の様な機械をジェリーの頭に被らせた。直ぐに、あの老人が現れた。今日は、略式だった。あの呪文みたいなものと、煙みたいな物は演出らしい。
『神に選ばれしもの。神の加護を受ける者。神の御技を使いし者』
老人が消えた。流れる静寂。僕は、ずっとこのままの静寂が続けば良いと思ったが、婆やのフミさんが、口を開いた。
「おお、まさしく大司教様の後継者です。これは、もう、早く国に戻らねば。お育てする婆を選ばねばなりません。」
「えーっ、婆やが教育すれば良いじゃん。」
「何を、仰るのです。それは、フランシスカ様が大司教としてのお役目が、しっかり出来るようになってから、言ってください。」
今、初めて、婆やの役割を知った僕だった。シェルさんの郷でも、婆やの役目は同様だった。
大司教様は、ジェリーを大司教国へ連れて行かなければならないのに、ノエルの誕生パーティーまで居ると言ってきた。理由を聞いたら、『居たいから。』と言う訳の分からない理由だった。いつだって、自分のしたいことを、したいようにする。基本、お姫様モードはそうなんだろう。
ノエルの誕生日は、9月30日、あと9日だ。まあ、それ位なら良いかと思っていたら、シェルさんが大事なことを思い出した。
「あーっ、ゴロタ君の誕生日パーティやってない。」
僕にとっては、どうでも良い事だった。また、首にリボンを巻いて、裸で誕生日プレゼントと言われても、苦痛以外の何物でもなかったからだ。
え、もう見つかっちゃったのですか。ちょっと早いようですが、いつまでも、大司教様の馬車と一緒じゃ大変ですからね。