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第118話 紅き剣が完成しました。

山の上には何か有るみたいです。今日は、登山です。

(6月30日、フミモト町に到着しました。)

  フミモト町は、フミ山の西に位置しているが、フミ山に登る者達が、必ず1泊するので、宿場町としてはかなり大きい。


  僕達は、登山観光客とは違うが、これからすぐに登ることはできないので、1泊することにした。かなり高級な温泉旅館に泊まることにした。


  ホテル『カガ』ほどではないが、部屋専用の中居さんがいて、全て世話をしてくれるので、ゆっくりすることが出来た。


  明日は、フミ山に登ると言ったら、登山用の装備を一切携行していないことに驚かれてしまった。


 登山道具というと白蛇山脈に登った時の装備があるので、特に準備するものもいらないと思うのだが、多くの登山客は、フミ山登山用の杖を買うらしい。登山用のピッケルがあるので、いらないと思うのだが、明日、どんなものか見てみることにした。


  フミ山は、五合目1800mの高さまでは、登山馬車があるので、そこまでは皆、馬車で行く。


 実際には、馬車は、九十九折の登山道をゆくので、20キロ位は走行するのだが、馬が苦労するだけで、乗ってる人間は、楽なものだ。


  ただし、朝早く出発しても、五合目に到着するのは、午後3時ころになる。


  五合目には大きな山小屋があり、深夜の出発に合わせて夕食と仮眠をとる者が多い。深夜に出発する者が多いのは、明日の朝の『御来光』を拝むためだ。ここ和の国でも日の出伝説があり、朝日には、特別の力を感じるらしい。


  僕も、特に急ぐことは無いので、皆と一緒に山小屋に泊まることにした。夕食は、カレーライスかラーメンという事だったので、カレーライスにした。


  カレーがものすごく薄く、あまりおいしく無かったが、大銅貨1枚半と値段は1流だった。休憩室は、広い畳の部屋で、毛布と枕を受け取って雑魚寝だった。


  毛布も枕も、ずっと使いっぱなしのようだったので、寝袋を出して、シェルさんと一緒にくるまって寝ていたら、他の登山客からジト目で見られてしまった。


  最近は、イフちゃんが異空間に居ながらにして、必要な物品を放り投げてくれるので、知らない人が見たら、何もない空間から突然、物が放り投げられてくるように見えるだろう。


  午前0時、頂上目指して出発をした。山小屋で買った登山用の杖には、鉄の輪と鈴が付いており、地面に杖を突くたびに、シャンシャン音が出るのだが、実は、魔物除けにもなっているそうだ。


  魔物といっても、大したことは無く、山オオカミや山ウサギそれに山ワシ程度なのだが、突然背後から襲ってくるので、怪我をする者も結構いるようだ。


  昔は、単なる野生の動物だったのが、山の中腹から上で噴出してくる魔石の欠片からの魔力を浴び続けて魔物化したようだ。


  それで登山客は数十名単位でグループを編成し、1グループごとに帝国軍の兵士が防護のために付いてくれるのだが、たったの2人しか付かないので、万一の際に役に立つかどうか分からない。


  八合目まで登ってきたら、空気が薄くなってきて、休む人が多くなってきた。シェルさんが、風魔法で、空気を圧縮して僕と自分の口に当てているので、まったく空気が薄いとは感じていないが、それはかなり狡い気がする。


  九合目に来た。まだ、頂上は見えないが、東の空がうっすらと明るくなってきている。まもなく日の出だ。


  僕は、別に頂上で日の出を見ようとは思わないが、他の登山客は、折角ここまで来たんだからと、疲れ切っている身体に鞭打って、頂上を目指している。僕は、ズーッと同じペースで登り続けている。


  あと少しで、頂上という所で、僕達は金色の光に包まれた。御来光だ。シェルさんの顔もピンク色になっている。


  僕が、シェルさんの手を取って、頂上に登り始めた時だった。御来光の光の中に金色に光る何かを認めた。その光は、僕達に近づいてきて、僕とシェルさんを包み込んだ。


  僕達は、今までとは違う風景の中にいた。高い山の頂、しかし、風も吹かなければ寒くもない。遥か遠くの下界には雲海が拡がっている。


  真上は抜けるような青空、日の光は、雲海から顔を出しかかっている太陽から注がれている。太陽の反対側には、まだ星が瞬いている。世界が陰と陽に分けられているのを実感できる風景だ。


  先ほどの金色の光、良く見れば人間、しかも女性の形をしているようだ。服は着ていないが、胸や大事なところは長い金色の髪で隠されている。


  その光は、直接、僕の心に話しかけてきた。念話とは違う感覚だ。


  『全能の王にして世界を救う者になる資格を持つ者よ。そなたは、その力を欲するか?』


  僕には、分からなかった。力を欲しいと思ったことは無い。ただ、シェルさんを守るための力なら欲しいかも知れない。しかし、それは今では無いのは確かだ。


  『分からない。』


  僕は、素直に答えた。


  『おお、分からぬか。ならば聞こう。世界の王になる力を欲しくはないか?』


  これは、直ぐに答えられる。全く欲しくない。


  『欲しくない。』


  『何と、この世界を統べる者になりたくないのか?』


  『なりたくない。』


  『すべての国々の権威と栄華を、そなたにあげようぞ。私には、それだけの力を持っているのだ。』


  『いらない。』


  光は、消えた。一人の女性が現れた。きちんと着物を着ていた。


  『あなたは、大いなる力を得ることができます。さあ、自らの胸の中に光を感じなさい。』


  僕は、胸の中、心臓ではない、胸の真ん中に光が集まって来るのを感じた。


  『光は、熱になります。そのためには、ほんの少し、自分自身を燃やしなさい。光とともに燃やすのです。』


  僕は、自分自身の一部が光に代わり、熱を持ち始めたことを感じた。その熱は、決して消えることが無いように思えた。


  『その熱を、胸の内に閉じ込めるのです。どんどん、閉じ込めるのです。』


  僕は、熱を閉じ込める感覚を感じた。熱は、僕の自由にコントロールできるエネルギー体になった。燃えるのではない。自分が力を発する存在そのものになった。


  『初めに光があった。光は集まり、物質となり、物質は集まり力となった。そなたは無限の力を得ることが出来た。しかし、決して、全てを解き放ってはいけない。それは、この世界を消し去ってしまうから。さあ、手を空に向けて、力を放ちなさい。』


  僕は、言われたとおりに、両手を上に向けて、胸にある力の塊を手から放った。


  一条の光が、上空に放たれた。光は、全てを力に変えた。空気でさえも。太陽からの弱弱しい朝日の光さえも。そして虚空へ消えて行った。


  『紅き剣を手に持ちなさい。』


  僕は、赤き剣を左手に持った。虚空から出現した感覚は無い。持とうと思ったら、持っていた。ベルの剣の形をしていた。


  ヒゼンの刀の形をイメージした。ヒゼンの刀の形になった。変化させようと思ったわけではない。ヒゼンの刀を持とうとしたら、ヒゼンの刀になっていた。


  『紅き剣は、形無き剣。全てのものを無に帰すことのできる剣。無に帰すことは、力になること。紅き剣は、切った物の力を得る剣。力は、物の大きさと、光の速さの掛けたものに光の速さを掛けたもの。決して、全ての力を使ってはならない。この世が無くなることになる。』


  僕は、この女の人が何を言っているのか理解できなかった。でも、分かったことが一つだけある。


  紅き剣を全力で使ってはいけない。それは、世界が消滅するときだからという事を。この人は、しつこいくらいに繰り返していた。


  女性は忽然と消えた。僕は、人が決して持ってはいけない力を持ってしまった事を感じた。








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  シェルさんは、僕の傍にずっと立っていたが、身動き一つしていない。僕が不安になって、確認すると呼吸をしていなかった。心臓も動いていない。というか、微動だにしないのだ。


  僕は、時間が止まっていることを感じた。胸の中の力に命じた。時間を動かせと。シェルさんが動き始めた。


  「あれ、ゴロタ君どうしたの。ねえ、見て。御来光が綺麗よ。」


  僕は、シェルさんと共に御来光を見た。荘厳で、心の中にしみいる光だった。僕は、何故か涙を流していた。理由は分からない。自分が自分であり続けることが、できるかどうか不安だった。








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  下山した僕達は、大公国に帰ることにした。ワイちゃんを呼ぼうとしたが、イフちゃんに止められた。


  「ゴロタよ。そなたは大いなる力を得たのだ。その力を空間に少しだけ注いでみよ。空間の切れ目が見えるはずだ。その向こうの世界をイメージしろ。空間をつなぐのだ。それだけの力を持っているはずだ。」


  イフちゃんは、空間のはざまにいるだけなので、自由に行き来はできない。今、いる場所と、空間を切り裂くことのできるベルの剣の間にいるだけだ。


  しかし、僕は、自分の膨大な力で空間を曲げることができる。二つの空間の距離を捻じ曲げてゼロにすれば、小さな一歩で、空間を移動できる。そのイメージを実現するためには、胸の中の力をほんの少し解放するだけで可能となる。


  僕は、シェルさんをお姫様抱っこした。遠く、シェルさんの郷、エルフ公国の自分たちの家を思い浮かべた。


  今いる場所の空間に裂けめを作って、空間を歪めた。自分達の家の空間と、目の前の空間をくっ付けた。一歩、空間をまたいだら、周りの風景は、エルフ公都の自分達の家の前だった。


  自宅には、だれも居なかった。シェルさんは、吃驚していたが、何も聞かなかった。古の魔法、失われた魔法に空間転移がある。何百年も人間が使うことが出来なかった魔法。それを今、僕が使った。当然のことのように思えた。しかし、これって魔法なのだろうか。魔力を使った感覚は無かった。


  シェルさんは、僕が、このまま手の届かない、遠くへ行ってしまうのではないかと危惧した。これからどこへでも自由に行ける。自分はいなくても、行きたいところへ行けるのだ。


  シェルさんは、不安を消すように、僕とキスをした。長い長いキスをした。帰って来たエーデル姫達に引きはがされるまでキスをしていた。

ついに、紅き剣が完成しました。剣と言うよりも、力を手に入れたのですね。まだ、人類が手にしていない力のようです。これで、『魔力』、『気力』そして『無限の力』を手に入れたのです。

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