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第117話 名刀 ヒゼンの刀

いやあ、進みが遅いようですが、この国でなければ、発生しないイベントが多くて。スミマセン。

(6月23日、ミヤコ市を出発します。)

  レイ女帝陛下から大公閣下への親書を預かり、ミヤコ市から東へ向かう事にした。目指すは、この国の最高峰フミ山だ。


  ちょうど、これからが登山シーズンらしい。大勢の和の国の人達が、頂上を目指すそうだ。麓の、標高1800m位のところまでは、馬車で行けるので、僕達も、駅馬車で、フミ山の麓のフミモト町まで行く事にする。そこからは、登山馬車に乗り換えるらしい。


  ミヤコ市からフミモト町まで、馬車で7日の旅だ。やはり、野営はない。この国の人達は、野営が嫌いなのか、駅馬車で1日の行程以内に必ず宿場町を作っている。もう少しで、大きな市に着くといっても、馬車で夕方6時までに到着しない場合には、小さな旅館だけであっても、宿場を作っている。


  几帳面なのかどうか分からないが、旅の安全を最優先しているみたいだ。中には、中途半端な市よりも宿場町の方が栄えている場合もあるようだ。


  街道は整備されており、駅馬車に警護の部隊は付かない。定期的に衛士や兵士の騎馬隊が巡回しているだけだ。魔物も、街道周辺は、綺麗に討伐されており、旅行者が狙われることは無いようだ。


  宿場町が整備されていることと合わせ、国の統治がうまく行っている証拠だろう。しかし、何事にも例外があるようだ。


  旅を始めて3日目、ヒコニャ市を過ぎて、峠に差し掛かった時である。前方に黒煙が上がっていた。駅馬車は、一旦停止し、御者の一人が、様子を見に行こうとしていた。


  僕は、その御者さんに、少し待つようにお願いしてイフちゃんに調査させることにした。トラちゃんは、こういう時には役には立たない。まあ、何に役に立つかよくわからないが。


  アオちゃんは、あれから、ポケットでじっとしている。冬眠している訳でも無いだろうが、どうもイフちゃんが苦手なようだ。その証拠に、夜、イフちゃんが剣に戻ると、すぐポケットから出て来て、何か食べたいと言い始める。最近は、トラちゃんとアオちゃんの夜食を準備しなければならないので面倒臭い。


  イフちゃんは、思念を飛ばして調査していたみたいで、


  「魔物じゃ。それも大きい。数も多い、」


  と教えてくれた。それを聞いていた駅馬車の同乗客たちは、一斉に馬車から降りて、先頭の馬車の御者さん、この人が馬車の運行責任者だが、その人に引き返すようにお願いしていた。


  僕とシェルさんも、馬車から降りて、前の方に歩いて行き、駅馬車にこの場で待機してもらうようお願いした。


  黒煙の場所まで1キロくらいか、僕達が到着した時には、魔物達は、駅馬車の旅人達を食べている最中だった。


  何台かの駅馬車はひっくり返って燃え上がっている。体長3m近いオーガが5匹位だ。あと、ゴブリンがワラワラいる。何匹いるのか数えるのも面倒だ。


  中には、女性客の死体に対して腰を振っているゴブリンもいた。広域殲滅魔法では、もし生存者がいたらまずいので、各個撃破をすることにした。


  僕は、ベルの剣を抜いた。ほんの少しだけ気を込めて、青白く光らせた。シェルさんは、ヘラクレイスの弓を構えた。身体がほんのり赤い。弓には、炎の魔石をセットしている。


  最初は、シェルさんの弓矢がうなりを上げた。真っ赤な矢が10本、オーガ5匹に向かう。心臓に2本ずつ命中している。


  僕は、まず女性の死体に腰を振っているゴブリンの頭を跳ねた。驚いたことに、それでも腰を振り続けているが、さすがに先っちょがはずれて、白い液体をまき散らしている。


  そのまま走り続け、次々と頭を切り飛ばす。あまりの切れ味のよさに、直ぐに血は噴出さず、僕が5m位離れたころに、緑色の血が噴き出してくる。ほとんどのゴブリンを倒したころ、シェルさんが、残党のゴブリンを掃討していた。


  すべてが終わったあと、ひっくり返った馬車の中や、森の方で止っている馬車の中を点検した。森の方に泊まっていた1台の馬車の中から、母親と娘の3人連れ発見した。夫は、ゴブリン達と戦っていたそうだ。そういえば、現場に、和の国特製の剣が落ちていた。生存者はいなかったので、きっと死んでしまったのだろう。


  死体は、殆どが原形をとどめていないが、気丈な奥さんは、オークやゴブリンの死体の中から、夫の遺骸を探し始めた。小さな娘さん2人はシェルさんに任せて、イフちゃんを、後方の駅馬車まで走らせた。すぐにイフちゃんは帰ってきて、間もなく僕達の駅馬車が到着するだろうと言ってくれた。


  巡回中の衛士部隊が到着するまで、人間の遺体は可能な限り、形を整えて、道沿いに並べ、魔物達は、僕とイフちゃんで焼き尽していった。魔石は無視した。欲しくもない。


  先ほどの奥さんは、夫の遺品である剣、カタナと言うらしいが、その剣を鞘に納めて胸に抱えていた。遺体は見つからなかったらしい。おそらく、戦って敗れた瞬間に、ゴブリンどもに貪り喰われてしまったのだろう。あいつらは、最初に心臓と脳みそを食うので、顔と胸が一番最初に無くなってしまうのだ。


  ゴブリンに犯されていた女性は、シェルさんが洗濯石で綺麗にして、衣服を可能な限り整えてあげていた。このような現場では、女性は、いつも悲惨な被害者だ。


  衛士部隊が来たので、後の事は任せて、僕達の駅馬車は出発した。今日の目的地、セキノハラ市に着いたのは、午後7時半で、もう太陽はとっくに沈んだ後だった。


  駅馬車の運行責任者の方が、一緒に衛士詰所に来てくれと言ったので、シェルさんと一緒に伺ったら、細かな事情は、先ほどの衛士部隊から早馬で知らせが来ていたみたいで、深く礼を言われた。


  もう、大分遅いがレストランとホテルの予約をしてくれた。予約だけでなく、食事代、ホテル代も衛士詰所の方で支払ってくれていた。良い人達だと僕は思った。


  次の日から、僕達の乗った馬車が先頭を走るようになった。


  トウミヤコ市までの街道で、一番大きな都市、ナゴヤマ市に到着したのは、旅を始めて5日目、6月28日だった。この都市は、職人街と商人街が南北に分かれており、大きな港もある都市だった。ここまでが、ミヤコの統治範囲で、ここから東はトウミヤコの統治となるそうだ。


  この街で、一番の名物料理は、鶏肉を甘い味噌スープで煮込む料理と、平べったくて太いパスタだ。両方を一緒に食べたが、非常に美味しく、味噌のレシピを教えて貰えないか頼んだが、秘伝だと言われた。王国に帰ったら、味噌の醸造を練習してみようと思った。


  ホテルも、結構良いホテルだ。和風のホテルで、室内のお風呂が広く、ゆっくり入ることができた。今日のシェルさんは、いつもよりも積極的で、何回も夜のセレモニーをしたがった。最近、本当に胸が膨らんできたような気がする。うん、気のせいだった。


  この都市では、明日1日休養なので、武器屋さんを覗くことが出来た。南の方に、いい鋼を作る工場があるので、匠の刀鍛冶がこの一帯に多いらしい。しかし、一番有名なのは、此処より北に行ったところだそうだが、生憎と駅馬車が立ち寄らないので残念だった。


  刀鍛冶がずらっと並んでいる町があったので、端から順に見て行ったが、1軒の鍛冶屋さんで、素晴らしい刀を見つけた。ツーガ市でみたものよりも小ぶりだったが、一目見て、他の刀と違うことが分かった。刀身が赤く光っていたのだ。ヒヒイロカネだ。


  早速、店内に入ってみると、作刀したのは、遠く西の方から、修行にきて、和の国の女性と結婚して、定住しているドワーフ族の男だった。ヒヒイロカネは、大陸では伝説の金属、古の金属として新しく産出されることはない。


  ここ和の国では、北の小さな島の金山で、ほんのわずか産出されるらしい。金1キロを産出する際に、1グラム以下ではあるが、うっすらと金の地金の表面に付着しているらしい。比重が金よりも軽いため、そうなるらしいが、詳しい事は分からない。したがって、1キロ以上の金の地金を作らない限り、この金属は発見できないようだ。


  早速、見せて貰うことにした。ベルの剣よりも20センチ位長いが、重さはあまり感じない。剣のバランスが良いのだろう。白木の柄をつけて貰って、振らせてもらうことにした。店内では危ないので、裏で振らせてもらう。


  両手で構えて、静かに上段に振りかぶる。右足を、送り足で前に出すと同時に、面を打つ。全く気を込めていないのに、青い光が前に飛び出して、塀を壊してしまった。構わず、振り続けると、次々と蒼い光が飛び出して、最後には、塀が消滅してしまった。


  次に、青眼に構えて気を込めてみる。次々と込めて行くが、安定して光が増していく。真っ赤に光ったところで、気を回収した。ドワーフのおじさんが、すこしズボンを濡らしていた。


  僕に剣術の事を聞いてきた。知っているかも知れないと思い、ガチンコさんの名前を出したら、涙を流して懐かしがっていた。なんでも、ガチンコさんは、この鍛冶職人の兄弟子だったらしい。


  この剣の値段を聞いてみたら、柄と鞘と革製の刀袋を付けて、大金貨15枚と言われた。さすがに高い。どうしようか。悩んでいたら、シェルさんが、もう購入の手続きをしていた。内金として、金貨5枚を支払い、後は、夕方、支払いに来るという。


  え、買っちゃうのですか。と言うか、買ってしまったのですか?


  和の国は、独自の冒険者ギルド組合だったので、僕の口座から降ろす事が可能かどうか確認したら、魔法器具でつながっているので、可能だという。


  どんな仕組みか分からないが、僕の冒険者カードをかざして、残金照会のボタンを押すと、金額が表示されるのだ。


  早速、やってみると『大金貨40枚』と表示された。その金額を見て、ギルドの職員の方は吃驚していたが、僕が大金貨15枚を降ろしたいというと、もっと吃驚されてしまった。大金貨15枚というと30キロはある。それほどの高額は準備できないと言ってきた。


  どうにかできないかと聞いたら、小切手を切っていただくと、裏書保証をするので、通用できるそうだ。その小切手を相手に渡すと、ギルドで、現金の交換に応じるようになっている。


  後日、僕が口座を作ったギルドから、振り込まれることになるそうだ。ただ、手数料が2%かかるそうだ。大金貨15枚の2%というと、金貨3枚になるが、ここは諦めるしかない。ギルドが保証してくれる小切手を作って貰った。


  夕方、ヒヒイロカネの刀を手に入れた。名前は、作刀者のヒゼンから『ヒゼンの刀』とした。ヒゼンさん、泣いて喜んでいた。それからシェルさんが、塀の修理費として金貨2枚をこっそり渡していた。


  もう一度、裏で二刀流の型の練習をした。右手にベルの剣、左手にヒゼンの刀を持ってみる。うん、バランスが良い。


  ゆっくりと型を振る。中心になるのは、ヒゼンの刀であるが、ベルの剣も防御から攻撃とスムーズに動いている。かつて、黒剣とベルの剣で二刀流をしていたが、それよりも攻撃力が高くなっている気がする。


  刀袋は、しまっておき、平素、帯剣するときは、ベルの剣は、左腰に、ヒゼンの刀は左袈裟で背中に背負うことにした。帯剣して、抜刀してみたが、両刀を同時に抜刀することが出来た。ただ、馬車に乗るときやシェルさんを背負うときは邪魔になるので、右腰に帯刀することにしたのだった。


名刀ムラマサばりの名前を考えたのですが、創造力が枯渇したようで。切れ味そのものは、ヒゼンの刀の方が上のようです。内緒ですが、ヒゼンの刀の芯には、玉鋼を鍛えて、柔軟性を持たせた芯金が仕込まれています。でも、手入れが大変です。あ、鞘はワイバーンの革でくるんでもらっています。

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