第109話 このリッチ 強すぎ ハンパね?
エーデル姫、良かったですね。『復元』スキルで、腕を生やすのは、かなり無理があったようです。
(2月10日です。)
僕達は、森の中で一睡もせずに警戒を続けていた。イフちゃんの情報によると、ずっと北側に異常な魔力を感じるが、周辺にはレブナント級の魔物はいないそうだ。
僕達は、一旦、本隊まで下がることにした。部隊と合流して、『気』の回復を図ることにしたのだ。おそらく、あのレブナント1人で、後続の公国軍は全滅するだろう。それほど恐ろしい敵だった。あのような敵を作り出す敵の主は、通常のリッチではないだろう。もう少し情報が欲しい。
後続部隊は、森に入って40キロを過ぎた地点にいるはずだ。このまま下がると、今日の夕方には合流できると思う。
僕は、シェルさん達の消耗を考え、1人で部隊のいる方向に向かった。ベルの剣を脱いで速度を上げた。邪魔をする枝や細い木は、切り倒しながら進むのだ。昼過ぎ、進軍中の公国軍と合流した。
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公国軍は、一旦、進軍を中断した。僕達は、ドナルド将軍と参謀に、レブナントの脅威について話した。尋常ではない防御力、人外の攻撃力、あふれる瘴気の恐ろしさ。僕の気力・体力が全回復しないままでは、勝機は無い事。そしてリッチの特殊個体がいる可能性が高い事を伝えると、皆、顔が青ざめていた。
今日は、この場所で野営することにした。公国軍は、思わぬ休憩に喜んだが、レブナントの恐ろしさが伝わると、一気に士気が落ちてしまった。僕達は、夕方まで仮眠を取った。夕食後、ドナルド将軍達と今後の方針について、話し合った。
レブナントが、あの3体のみだったなら、公国軍にも勝機はある。問題は、リッチの特殊個体である。周囲は、アンデッドで固めているだろう。可能性が高いのは、スケルトンの部隊である。今から300年前の遺体では、スケルトンになる位しか身体が残っていないだろうからだ。
あの、レブナントは、きっと特別の事情で肉体が残っていたのであろう。どこかに氷窟があるのかも知れない。明日、黒龍で、ボスのリッチを探索する。同行者はシェルさんにした。現着したら、戦闘前に全員を呼ぶので、いつでも来れるように準備して貰っている。
また、リッチの位置が分かったら、その方面に向け、部隊を進軍してもらうことにした。きっといるだろう、スケルトンとの戦闘のためだ。森を保存するためにも、広範囲魔法は、使いたくない。
仮眠を取ったものの、疲れが完全に取れていなかったことから、蜂蜜入りのホットミルクを飲んでゆっくり寝ることにした。
翌朝、全回復した僕は、森が開けている場所で、ワイちゃんを呼んだ。突然現れた黒龍に、公国軍は大騒ぎになったが、僕が召喚したと知って、騒ぎは収まった。
二人乗り用の鞍を付け、僕とシェルさんは、飛行服で身を固め、騎乗した。目的地はリッチのいるであろう北の森である。ゆっくりと上昇を始めた黒龍に、公国軍は尊敬と畏怖の眼差して見守っていた。当然、エーデル姫達は、とくに感動もなく見送ってくれた。
上空300mで、北に向けて全力飛行に移った。1時間も飛んだら、北の森を抜けて、より北方に行ってしまうだろうから、もう少しゆっくり飛んでくれるように頼んだ。
ゆっくりと20キロほど飛んだら前方に瘴気が立ち上っているのが見えた。まるで竜巻のように見える瘴気の渦だ。ゆっくり降下したら、森の中はスケルトンの群れであふれる程だった。ワイちゃんが、炎のブレスで着地点を焼き払い、僕が氷魔法で、燃え上がる炎を冷やしてから、地上に降り立った。
辺りには、スケルトンの燃えカスが散乱していた。森の一部も燃えて消し炭になっていた。スケルトンには『威嚇』が効かないので、遠くのスケルトン達が近づく前に、イフちゃんと皆を呼んだ。
ノエルとビラが、ホーリーを連発して、スケルトンを倒していたが、対リッチ戦のために、スケルトンには物理攻撃で殲滅するようにお願いした。ビラは、コマちゃんを使って、スケルトンを蹴散らしていた。エーデル姫は、レイビアで、スケルトンの頭蓋骨を突き刺して、胴体から外していた。ある程度たまったら、レイピアに突き刺さったままの頭蓋骨を後ろの方に放り投げていた。
クレスタさんは、杖に聖なる魔力を纏わせて、スケルトンの頭蓋骨を砕いていた。エグイやり方だが、確実で、一度、聖なる魔力を纏わせると、10分位はそのままだった。
ノエルは、何もしないで、魔石を拾い集めていた。
イフちゃんは、丁寧にコンガリと、骨焼きを作っていた。
僕は、シェルさんとともにリッチのいるところに向かった。リッチは、地面に杖を突き刺して、瘴気を流し込んでいた。地面の中から、次々とスケルトンがはい出してきている。
僕は、シェルさんをシールドの盾で守り、自分は、シールドを身体に纏った。シェルさんは、30本の矢を地面に突き刺して、3本を弓につがえ、『身体強化』と『敏捷強化』の二つを、一遍に発動させていた。僕は、『ベルの剣』を抜いて、『気』を込めた。剣の光が、青色から白色に変化し、ついに赤くなった。そのまま、『瞬動』で、リッチに接近し、斜め袈裟切りで、リッチの首筋を狙った。しかし、剣は空振りだった。リッチは一瞬で5m位下がっていた。奴も『瞬動』を使えるようだ。
『ナニモノダ?』
念話で、話しかけてきた。当然、僕は話すわけがない。念話とは言え、全く見知らない人には話しかけられない僕だった。
僕は、さらに『瞬動』で近づき、もう一度、同じ形で袈裟切りを仕掛けたが、今度は、赤く光るシールドで跳ね返された。
跳ね返された剣を、左回転で構え直し、横払いで首を狙った。これも跳ね返されたが、構わず、左腕を狙って切り下げた。赤い火花が散って、跳ね返されたが、確かに手ごたえがあった。見るとリッチのシールドの赤い光が薄くなっている。たまらず、リッチは『瞬動』で10m下がり、そこでシールドを張り直した。リッチが詠唱を始めようとする矢先に、僕は、上段からの面打ち、切り下げての斜め切り上げ、胴の横払いと連続攻撃を重ねて行った。
何合、打ち掛かったろう。遂に、リッチの右腕を飛ばした。そのチャンスを逃すものかと上段から切り下すと、リッチの姿が揺らいで消えた。
リッチは、右10m位の位置に忽然と現れた。そこにシェルさんの弓矢3本が放たれた。両目と心臓を狙っている。白い光を引きながら、リッチに吸い込まれていくが、『カキン』と跳ね返された。シェルさんは、構わず、残りの矢を全て打ち放った。8回目から、矢が通るようになってきて、9回目には、両目に突き刺さった。10回目は、すべてを心臓に向けて放った。たまらずリッチは、左10mに移動した。そこには、僕の剣がうなりをあげて切り下されていた。
リッチの首が飛んだ。終わったと思ったら、まだだった。飛んだ首はそのまま、宙に浮いたままだった。首の無い身体が、その場から首の浮かんでいる下まで瞬間移動し、首とドッキングしてしまった。
『オマエタチハ、ナニモノダ?』
当然、応える気など無かったが、シェルさんが応えてしまった。
「彼は、全てを統べる者よ。」
『スベテヲスベルモノ。ゼンノウノオウニシテセカイヲスクウモノ。ワレカナワナイ。』
リッチは消えてしまった。気配も残っていないところから、空間転移をしたのだろう。しかし、まだ戦闘は継続中だ。僕とシェルさんは、エーデル姫達のところへ戻った。まだまだ、スケルトンがいるのだ。主人がいなくなっても、戦闘命令が撤回されない限り、死ぬまで、いや動けなくなるまで戦い続けるのだ。もう面倒だから、ノエルとビラに広範囲ホーリーを掛けて貰った。周囲50m位が青白い聖なる光に包まれた。とりあえず、近くにはスケルトンがいなくなった。
素っ裸の6歳児になって、戦いを面白そうに見ていたワイちゃんに黒龍の姿になって貰った。僕は、シェルさんと一緒に、ワイちゃんに騎乗し、部隊のところに帰った。
残っていた皆を、イフちゃんと一緒に呼び出して、今日の戦いは終わった。明日、スケルトンの残党を殲滅するために、部隊は北に進軍するそうだ。ワイちゃんは、僕からお土産を貰って北の山に帰っていった。
シェルさんは、しきりに僕に謝っていた。余計な事を言ったせいで、リッチに逃げられてしまったと。僕は、全く気にしていなかった。今の僕達の戦力では、致命傷を与えることが出来ても、きっと逃げられていただろう。そうすれば、あのリッチは絶対に復活するに決まっている。問題は、あいつが何処に逃げたかだ。なんとなくだが、世界のどこかで、悪いことが起こっているような気がした。
僕達は、ノエル以外、全員疲れていた。ノエルは、最後に使った広範囲ホーリー程度では、魔力は十分残っているので、平素と変わりが無かった。末恐ろしい魔女っ娘ぶりだ。今日は、ゆっくり眠ることにした。食事も、公国軍の夕食を我慢して食べた。クレスタさんも、疲れて食事の準備をする気力が残っていないそうだ。ノエルが、自分が作ると言っていたが、今日は休ませることにした。
翌朝、北に進軍を始めて10キロの地点で、スケルトン軍団と公国軍本隊が遭遇した。敵は、スケルトンしかいないと分かっているので、公国軍は喊声を上げて突撃し、スケルトンを殲滅していった。
後で、数えると公国軍が倒したスケルトンは、900体ほどであった。もう二度と悪さができないように、イフちゃんが、骨を炭に変えていた。それから、2日程、野営をして、スケルトンの残党を探索したが、発見はできなかった。
公国軍がレント公国公都テック市に戻ってきたのは、2月22日だった。
僕達が回収したレブナントの魔石3個とミスリルの盾と鎧、そして黒曜石の剣は、レント公国のギルドで買い取ってもらった。黒曜石の剣は、闇魔法の魔力を込めないと、全く役に立たないそうなので、二束三文でたたき売ってしまった。あの『斬撃』、エーデル姫の腕を消滅させた『斬撃』、もう二度と見たくなかった。
レント公閣下が、祝勝会を催してくれた。部隊ごとにレストランやホテルでそれぞれに祝勝会をやり、僕達は、レント公閣下の屋敷で祝勝会に参加した。スミ少佐も参加していた。スミ少佐は、飲み過ぎたのか、僕にベタベタとくっ付いて来て、シェルさんにかなり強引に弾き飛ばされていた。
僕達が、大公国イースト・フォレストランドに戻ったのは、3月18日になってしまった。時間がかかったのは、雪解けが始まり、橇も馬車も使えない時期があったためだった。
今回のリッチは強すぎです。この森に、リッチが現れたのって、ゴロタが通過する予定の頃と重なっていたのは、偶然でしょうか。




