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第107話 レント公国の隻腕兵士

レント公国は、森からの侵略を防護するための軍を常駐させています。

  遠征の旅は順調だった。途中の小さな村に旅館などは無かったが、村民の方々が親切で、お風呂を貸してくれたり、水を補給してくれたりしてくれた。食事は、基本的に部隊と一緒だったが、昼食などは、兵士の方達は携行食品を食べていたので、僕達は、自炊をすることにした。スミ少佐は最初遠慮していたが、2日目からは普通に一緒に食べるようになっていた。


  僕達のテントの周りには、一般部隊のテントが無数に張られているので、夜のセレモニーは全くなく、僕は毎日、爆睡できた。当然、シェルさん達の寝ているテントもシールドを掛けてあげている。部隊の馬車は、夜、座席を片付けて、4人用の寝台車になり、交代で寝るのだが、僕達は、全員が、慣れたテントで寝た。そちらの方が、マットは柔らかいし、シールドのお陰で、暖かいのだ。スミ少佐は、最初、馬車で一人で寝ていたが、シェルさんに一緒に寝ようと誘われ、翌日からはテントで一緒に寝る事になった。


  レント公国に行く途中のゲン公国公都シマン市は、標高700m位の高地にあった。道中、ダラダラと上りが続く。時々、そりが動かなくなる時があったが、僕が、そっと後ろから押してあげると、スッと動き始めた。もう少し上がると、吹雪がひどくなると、スミ少佐が言っていた。






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(1月28日です。)

  猛吹雪の中、ゲン公国公都シマン市に到着した。ひどい吹雪だ。前が殆ど見えない。前の場所のそりの跡を頼りに進んでいた。予定よりも2日遅れてしまった。ここには、ホテルや旅館が多いので、部隊全員が宿泊できた。僕達は、市内で最上級のホテルに泊まることにした。スミさんは、中位の所が指定されていたが、費用は構わないから一緒に泊まろうと言ったら喜んでくれた。


  部屋は、ダブルが1室にツインを3つにした。ゴロタは、イフちゃんと同じ部屋にして貰った。ビラはスミ少佐と同室だ。食事は、ディナーコースにしたかったが、部隊とスミ少佐に遠慮して、お得な夕食セットにした。隣の席では、ドナル中将と参謀さん達が同じものを食べていた。


  シェルさんが、ワインを頼んで飲み始めて、ドナル中将にも勧めていたところ、皆も飲み始めて、宴会状況になってしまった。スミ少佐が酔って、ゴロタの肩を抱き寄せていたのを、シェルさんがジト目で見ていた。この日は、ビラ以外は、お休みのキスをしてから寝た。


  次の日は、1日、休養だったが、ゲン公閣下がドナル中将達とゴロタ達を昼食会に招待してくれた。ゲン公閣下は、見た目50歳位の女性で、ふくよかな身体をしていた。『若いころは、きっと美人だったろうな。』と思ってみていたところ、娘さんが同席してきて、シェルさんによく似た超絶美人だったので、吃驚した。


  シェルさんの髪の色を緑にして、胸をバーンと大きくした感じだ。年を聞くのもどうかと思って黙っていたら、向こうから22歳と言ってきた。え、でもゲン公は、実際の年齢は120歳位だというので、100歳位の時の子供ですか。いや、エルフってと思っていたら、考えていることがばれていたのか、シェルさんにつねられてしまった。痛かった。


  後で聞いたら、娘さんの年齢は65歳だとの事だった。エルフの年齢は本当に分からない。通常のエルフの寿命は、180~200歳位だそうだ。ハイ・エルフの寿命は怖いので聞かないことにした。


  ゴロタの隣は、シェルさんとエーデル姫が座っていたので、ゲン公閣下の娘さんは、残念そうに僕の向かい側に座っていた。


  食事は、普通に美味しかった。特にスノウ・ラビットという魔物のローストは絶品だった。この兎は、姿を消すことが出来るので、捕まえられるのは、足跡が見える雪山のみだそうだ。


  今度、天気が良い時にバルドに捕まえて貰おうと思ったゴロタだった。


  吹雪がひどいので、市内観光はやめて、早々にホテルに戻ることにしたが、シェルさんが買い物をしたいから、先に帰っていてと言った。何か嫌な予感がしたが、先にホテルに帰ることにした。


  1時間位したら、シェルさんが帰って来たが、大きな荷物を持っていた。何かと思ったら、白いユキヤマ・キツネの毛皮のコートだった。このキツネも冬のユキヤマでしか狩ることが出来ない魔物で、白い色は冬限定らしい。値段もそれなりで、聞くのも怖いが、ちなみにお値段を聞いたら、大金貨に近いとしか教えてくれなかった。エーデル姫やクレスタさんも買いたいと言っていたが、期間限定、数量限定で、これが最後の品だったそうだ。シェルさん、その情報、特権を使って入手したでしょう。ノエルが泣き出してしまったので、皆で予約するために、もう一度吹雪の中を出て行った。


  ビラは、『フフフ』と意味深な笑いを浮かべていた。後でシェルさんに聞いたら、自分だけ、別の高級毛皮を注文していたそうで、取り寄せになるので、帰りに貰うことになっているそうだ。ビラ、あなたの『せーらー服』路線はどうなったのですか?


  翌日は、抜けるような青空だった。新雪の中、先頭の橇馬車は苦労しながら進んでいたが、2台目からは、楽に進めているようだった。ゴロタは、見渡す限りの雪原の中で、ビラと一緒に、バルドが捕まえてきたスノウ・ラビットを次々と処理をしてイフちゃんに仕舞って貰っていた。毛皮は、次の店で売ることにした。


  これからは、下りになるので、逆にブレーキを掛けながら降りて行かないと馬を引いてしまいかねない。それはそれで、気の遣う操作だ。あまり、早く降りることもできないらしい。






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  2月3日、公国境の街に到着した。ここは、レント公国とゲン公国の国境境にあるガンマ市だ。午後7時に着いたが、山を下りて来る途中、1台の馬車が暴走滑降して、馬4頭と兵士3名が無くなってしまった。天気は良かったが、僕達の馬車のずっと後ろで発生したので、どうすることもできなかった。死んだ馬は、その場に放置し、遺体だけ他の馬車に乗せて降りて来たのだ。そのため、部隊全部の到着時間が後れてしまった。

のだ。


  街には、部隊全員が宿泊できるだけのホテル、旅館が無いため、将校以外は、市外でキャンプとなる。少し、余裕が出来たので、馬車の中で眠ることもできるが、密閉したテントの中の方が温かいので、余り馬車の中で寝る者はいないそうだ。当然、僕達は、市内で一番上等なホテルに泊まることにした。このホテルには、露店風呂があるので、食事の前に入ることにした。


  しかし、男女混浴だというので、銀貨1枚半を支払って貸切にして貰った。僕が、ゆっくり雪見風呂を楽しみながら入っていたら、女性陣が乱入して来た。何故、スミ少佐まで一緒なのですか?しかも、前を隠してください。前を。恥ずかしいので、早々に上がったゴロタだった。


  ホテルの食事は、宿泊料金込々だったので、それなりの味だった。翌日からは、道は平坦だったが、森が深くなり、それはそれで、大変だった。腹を空かした狼の群れや、冬眠しそこなったグリズリーが、森の陰から急に現れたりするので、その度に、何人かの兵士が犠牲になってしまう。


  出発時には、30台近くあった、馬そりもレント公国の公都に到着する前には、25台位になってしまった。





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  2月6日、漸く、レント公国の公都テック市に到着した。辺境の都市ではあったが、旅行者用の設備は整っていた。これから5日程で、西の森の入り口に着くが、そこには入国管理と監視のための砦があるだけで、実質的に、この都市で旅装を整えなければならないそうだ。


  今日は、もう遅いので、ホテルに泊まり、明日、レント公閣下達と作戦会議をすることになっている。ホテルは、余裕があったので、ダブルが1部屋とシングルを6部屋取った。イフちゃんは、ゴロタと一緒だった。


  食事は、キノコや木の実を中心にした料理で、挽き肉と玉ねぎを混ぜて焼くハンブルグに、キノコたっぷりのソースを掛けた料理は絶品だった。また、木の実を混ぜ込んで焼いたパンも香ばしくて美味しかった。


  夜、イフちゃんは剣の中に戻ったので、一人でゆっくり寝ることが出来た。勿論、アンチ解錠の魔法を掛けておくのを忘れなかった。


  翌日、昼食を食べながらの戦術会議を開催した。以前、旅行者の警護に従事して、全滅寸前になってしまったが、一人だけ帰還出来た兵士から話を聞いた。その兵士は、女性であったが、片腕が無かった。兵士の話は、こうだった。


  森に入って3日目、野営をしていると、何処からか黒い瘴気が漂ってきて部隊の半分以上が、その場で死んだ。外に出てみると、武装した戦士に囲まれていた。どんなに剣で切っても、刺しても、死ななかった。剣の腕も人並み以上で、たちまち部隊は全滅してしまった。


  自分は、右手が障気にやられていたので剣が握れず、戦闘中の仲間の言葉に従って逃げてきた。途中、段々黒くなってきた自分の腕を切り落として、命だけは助かったそうだ。話しながら、その兵士は、ボロボロ涙を流していた。まだ若い兵士だった。美しい兵士だった。


  これからエルフ女性としての長い人生を隻腕で暮らして行かなければならないのだ。ゴロタも、涙が溢れてきた。止まらなかった。レント公閣下やドナルド将軍達は無言だった。ゴロタは、レント公閣下に乳鉢と乳棒を借りた。腕を無くしてから大分経つので上手く行くかどうか分からないが、やれるだけやってみたかった。もう、『蛍の光の花』の在庫も残り少なかったが、僕には、そんなことは関係無かった。


  イフちゃんに、ベルのザックを出して貰った。その中から、必要な薬草を出した。テーブルの上に、乾燥した


  『蛍の光の花』、


  『鬼八つ手の葉』、


  『癒やし草』、


  『銀アロエの葉』、


  『赤ドクダミの実』、


  そして


  『長命草』


  を並べる。すべてを、乳鉢の中に入れて、すり潰す。すり潰された葉の粉末に『錬成』の気を流し込む。


  乳鉢の中が紫色に光始めた。光が強くなる。紫色が白く変化して『錬成』が終了した。鉢の中に、ドロッとした緑色の液体が溜まっている。出来上がりだ。その女性に飲ませてみた。そして、なくなった腕の付け根に、僕の手の平を当て、『復元』の『気』を流し込む。身体の奥の『気』が手の平に集まり、オレンジ色に光る。暫くして、僕のやるべき事は終わった。ひどく疲れた。休みたい。


  兵士の腕が、生えてきた。

敵はレブナント。アンデッドでも上位種です。

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