第103話 グリンフォレスト連合公国
ワイちゃんと一緒なら、どこにでも行けます。でも、それって冒険にならないような気がします。いよいよエルフの国へ行く事になりました。
男は 未来の王の地位が 約束されていた
約束は神より賜り 民から託された
王たる御印は二つ
その一つは 真紅の血よりも紅き剣
全ての人と獣と妖精を断ち切る力を統べるもの
失われし古代の力を纏いしもの
その一つは 深き海よりも蒼き盾
如何なる力にも 立ち向かう力を統べるもの
恐怖と専制と隷従に抗う 唯一のもの
彼は一人の妖精と出会った
決して結ばれることのない 不毛の出会いであった
全てを捨てて かの妖精の愛を得ようとした
王たる御印の 剣も盾も そして 誰よりも優れたる その黒き角も
彼は愛を得るため 楽園を捨て 死する定めの地上に降り立つ
最愛の者とともに
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(12月22日です。)
僕達は、聖夜の2日前、シェルさんの郷、『グリーン・フォレスト連合公国』に向けて出発した。僕達は、今日まで、毎日、ワイちゃんに乗って遊んでいた。最後には、僕は乗らずに、女性だけで乗って遊んでいるくらいに騎乗が上手になっていた。
念話が出来ないシェルさん達は、手綱の操作で飛行していた。上昇は、手綱を引き、下降は、手綱を下に下ろす。加速は鐙をトントンと踏み、減速は、鐙を押し下げる。簡単だ。今日の皆の格好は、昨日出来上がってきた飛行服姿だ。アースカラーの飛行服はお払い箱だ。新品なのに、ほとんど練習にしか着ていない。勿体無いが、僕は何も言えなかった。
飛行服の色は、全員、違っている。シェルさんは赤、エーデル姫はピンク、ノエルは黄色、ビラはライムグリーン、クレスタさんは黒を選んだ。どこかで、ゴレ●ジャーを見たんですか?ビラは、胸にコマちゃんをしまえるように、胸の空間を大きくしてもらっている。驚いた事に、イフちゃんも飛行服姿に変身していた。まあ、そう見えるだけで、実態は服も含めてスピリットなのだが。
市外に出て、いつもの場所で、ワイちゃんに『黒龍』になって貰い、シェルさんと僕の二人きりで騎乗する。今日は、晴天、飛行日和だ。イフちゃんは、お留守番だ。約300m位上昇してから、進路を東南東に取る。ドンドン加速する。僕は、前面に『シールド』を張った。これで、風を避けるだけでなく、寒さも感じなくなる。ワイちゃんが、最高速度になる。これ以上加速すると、不味い事になるらしい。何か、衝撃波が地上に落ちるとか言っていた。
2時間程で、公国の上空に到着する。下は、深い森だ。森の中にひときわ大きな大樹があった。あれがシェルさんの父親である大公の居城らしい。手前の、森が開けている場所に着陸する。
僕達が、ワイちゃんから降りると、弓を構えたエルフ兵に囲まれた。シェルさんが、飛行眼鏡とヘルメットを外すと、皆がビックリしていた。
「シェルナブール王女!」
「お姫様!」
「おてんば姫!」
「天然姫!」
「残念姫!」
え?シェルさん、ひどい言われ方が混じってますよ。兵士さん達が、弓を下ろして、警戒を解くと、僕は、イフちゃんを呼んだ。
『もう、いいよ。イフちゃん』
ベルの剣が光り、僕の目の前に、イフちゃんと手を繋いだ皆が現れた。兵士達は、もう、驚き過ぎて何も言えなくなっていた。
クレスタさんが、『黒龍』姿のワイちゃんの周りを土魔法で囲んだ。ワイちゃんが、中で女の子の姿になって、着替えをした。ついでに、シェルさんが、我慢できなくて用を足していた。
僕達は、イースト・フォレストランド大公国の公都メープル市に入って行った。エルフの街は、人間の街と違い、大樹の枝の間に家がはめ込まれているようだった。どうやら、樹の精霊からエネルギーを貰って、生活基盤にしているらしい。真冬だというのに、街全体がほんわか温かく感じるのも、そのせいだろう。
『大公』、つまりシェルのお父さんの居城は、周辺で一番大きな大樹の周りを、囲むように建てられた2階建の屋敷だ。入口の大きな玄関ドアの前に、大勢の人達が並んでいた。その中でも、ひときわ大きなイケメン男性で王族のマントを着ているのが大公閣下ペニンシュラ・シルフィード・アスコット3世だろう。隣の女性は、母上君のアンナシュラ・サラ・アスコット大公夫人だ。シェルさんもきれいだが、母上君も超絶美人だ。
その隣で、大きなタオルで涙を拭いている中年の女性は、シェルさんが良く言う『婆や』だろう。もっと、高齢かと思ったら、どう見ても40歳位にしか見えない。まあ、エルフ族の年齢は、見た目では分からないというが、本当に皆、若く見える。大公閣下は20代後半、母上君は10代でも通りそうだ。怖い国だと僕は思った。
シェルさんと、ご両親、婆やの涙の対面が終わったら、全員で、屋敷の中に入り、謁見の間のようなところに案内された。謁見の間かなと思うと、玉座があるだけで、その前の広い場所に長テーブルとソファが並べられており、どうも応接間として使っているみたいだ。そういえば、玉座も古びて、あまり使われていない様子だ。
改めて、全員が自己紹介をする。勿論、僕のことはシェルさんが紹介してくれた。大公閣下の側には、偉そうな人たちが並んでいたが、名前と顔が一致しない。というか、皆同じ顔に見える。肌の色、耳の形、顔の輪郭、目の形など区別できる方がおかしいと思う位に似ている。違いは、髪の色、体形が太めか細めか、それと立った時の身長差位で見分けなければならない。僕にはとても無理だった。
シェルさんが、僕を連れてきた訳を説明する。さすがに、僕を見て、こんな子供と結婚なんてと思うのも、無理はないだろうと思う。でも、シェルさんもきっと子供なので、大丈夫かなとも思う僕だった。具体的にどこが子供かは、言えないが。黙って聞いていた大公閣下が、口を開いた。
「ゴロタ殿、そちは今、幾つになられる。」
僕は、下を向きながら、小さな声で、
「16」
初めて、声を出した。
「ほら、ゴロタ君は見た目がちっちゃいだけで。」
「シェルは黙っとれ。儂が、ゴロタ殿に聞いているのじゃ。」
僕は、泣きたくなってきたが、今、泣くわけには行かないとグッと我慢をした。
「して、そちのご両親は、今、どちらに?」
「いなくなった。」
2回目の発言だった。
「ふむ、そちのご両親は人間族か?」
黙って首を振る。大公閣下は、隣のアンナシュラさんと何やら相談していた。母上君は、ひとしきり頷いてから、
「ゴロタさん、あなたの素性について調べたいことがあります。あなたとシェルだけで、この上の『おばば様』に会っていただきます。よろしいですね。勿論、私達も立ち会います。」
何か、面倒なことになってきたような気がする。でも、シェルさんが僕をジッと見ているので、断る訳にもいかず、大きく首を縦に振った。
謁見の間から大分奥に行ったところに、上に上がって行く階段があった。それを登って行ったのだが、何段登ったのか分からない位、登った先に、その部屋はあった。木製の分厚いドアを開けると、黒いマントと頭巾のお婆さんがいた。この人は、確実にお婆さんだ。見た目がお婆さんだし。
このお婆さんは、目の黒い所が白くなっており、きっと何も見えないのだろうと思った。しかし、立ち居振る舞いが見えているようだったので、きっと『探査』等のスキルで感じているのだろうと思う。
「おお、これはこれは大公閣下殿。おや、これはシェル姫、久しいのう。息災か?」
「おや、おや、これは珍しい者を連れてきたのう。どれ、もそっと近くに寄るが良い。」
この怖いお婆さんは、僕を手招きして呼んだ。僕は、嫌だったので少しずつ、下がり始めた。しかし、シェルさんが背中を押して『前に出ろ。』という合図をした。
いやだけど仕方がないので、前に出たら、いきなり右手を掴まれた。そのお婆さんは、僕の右手をさすりながら、
「ふむ、ふむ。なるほど。なるほど。」
と言って、僕を椅子に座らせた。奥の方から、ギルドに置いてある能力測定機に似た機械を出してきた。僕の手を、その機会に翳すと、青白く光って、画面が現れた。
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【ユニーク情報】
名前:僕 (ゴーレシア・ロード・オブ・タイタン)
種族:古の伝承による全てを統べる種族
生年月日:王国歴2005年9月3日(16歳)
性別:男
父の種族:魔族
母の種族:妖精シルフ族
職業:全能の王にして世界を救う者×、冒険者:ランクSSS
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【能力情報】
レベル 25(12UP )
体力 7000(1900UP )
魔力 13000( 700UP)
スキル 9000(1500UP)
攻撃力 10000(2500UP)
防御力 13000(2800UP)
俊敏性 9900(2300UP)
魔法適性 すべて
固有スキル
【威嚇】【念話】【持久】【跳躍】【瞬動】
【探知】【遠見】【暗視】【嗅覚】
【聴覚】【熱感知】
【雷撃】【火炎】【氷結】【錬成】
【召喚】【治癒】【復元】【飛翔】
【??】【??】【??】【??】
【??】【??】【??】【??】
習得魔術 すべて
習得武技 【斬撃】【絶通】【絶断】
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大公閣下、母上君そしてシェルさん。全員が、口を開けて、しばらく喋ることが出来なかった。お婆さんは、お付きの者に表示内容を聞いていた。聴きながら、お婆さんは、ワナワナ震えており、このまま遠い世界に行ってしまうのではないかと思うほどだった。シェルさんが口を開いた。
「ちょっと、何これ? 『古の伝承による全てを統べる種族』って、こんな種族がいるなんて聞いたことないわよ。そりゃ、伝説の勇者かも知れないと思っていたけど。ゴロタ君、この種族って、何人いるのよ?」
そんなこと、聞かれたってわかる訳ないじゃないですか。大公閣下も口を開いた。
「ゴロタ殿、そなたは『全能の王にして世界を救う者』になる資格を持っているようじゃな。まだ、バツ印がついている。という事は、伝承の紅き剣か、蒼き盾のどちらかを持っておられるのか?」
大公閣下、いつの間にか敬語になってます。僕は、立ち上がって、左手に紅き剣を出現させた。それほど熱を注いでいないので、うっすらとではあったが。
「おお、まさしく。伝承のみに伝えられる『紅き剣』に間違いない。という事は、蒼き盾を手に入れれば、伝承が現実となるのか。ふむ。」
「あ、わかりました。その剣はしまって下さい。」
大公閣下は、そう言って、シェルさんの方を向いて尋ねた。
「ところでシェルよ。ゴロタ殿は、先ほどから殆ど口をきいておらぬが、もしかしてコミュ障か?」
あ、ばれた。
「ええ、その辺は、後でゆっくり説明するから。もう、下に降りましょう。まだ、心臓がドキドキしているわ。ちょっと、ショックが大きすぎるわ。」
それは、誰もが同じ思いであった。僕以外は。
え、遂にゴロタの正体がばれてしまいました。種族が長くて覚えきれません。これから再掲した際に、少し違っても笑って許してください。




