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戦士と追放児

 王都は平原の中央部に位置し、周辺の見晴らしが良い。

 裏を返せば、大都市である王都は離れた場所からも見ることができる。


 ピッケル一行は遠目に王都を確認できる場所まで戻ってきた。

 ピッケルが『浮遊モード』でリヤカーを引っ張れば、今日の夕方には着くだろう。

 一行が街道を進んでいると、唐突にピッケルが浮遊モードを解除し、引っ張っていたリヤカーを止めて振り返った。


「ミランさん。あの『金剛壁』って魔法はどの程度の時間維持出来ますか?」

「なんだピッケル、藪から棒に⋯⋯そうだな、通常なら二分を一日二回、一日一回の単発にする代わりに、効果時間を優先するなら、三分で一回ってとこだ」

「そうですか。では俺が合図したら、その三分で一回の奴をお願いします」

「ん? どういうことだ?」

「前から来る二人組が、ちょっと気になって」

「二人組?」


 ピッケルの言葉にミランは目を細め、手を額にかざして遠くを見た。


 街道は見晴らしが良く、かなり先まで見ることができたが誰も確認できない。


「⋯⋯どのくらい先にいるんだ?」

「今のペースなら、三十分くらいですれ違うと思います」

「それって結構な距離だよな⋯⋯お前の目どうなってるんだよ⋯⋯」

「ま、ピッケルの言うことだし、見間違いって事はないと思うわよ」


 ミネルバの言葉を受けても、ミランは半信半疑だった。


「で、見えるとして、そいつ等の何が気になるんだ?」

「ひとりは人間とは思えないほど顔色が悪く、歩き方がどこか不自然です。もう一人は見た目は普通ですが、同じく歩き方が異様です」

「異様⋯⋯って?」

「綺麗すぎるというか、隙が無さ過ぎるというか⋯⋯上手く言えませんが、とにかくお願いします」

「まあ、わかった」

「すみません、何もなければ良いですけどね」


 ピッケルは竜語を使用し、リヤカーを再度浮遊モードにして駆ける。

 しばらくしてミランにもその二人組が遠目に見え始めた頃、リヤカーは再度接地し、ピッケルは通常のリヤカー同様に引っ張る。

 今回以外も、他人とすれ違う際にはそうしているのでそれ自体に違和感はないが⋯⋯。

 さらに近づき、大声なら普通に届くあたりになると、ミランにもその二人組が異様な事が観察できるようになった。


 確かにひとりは顔色が悪い。

 頭に布を巻いているので一見わかりにくいが、青白い顔にさらに黄疸が出ている。

 そして、街道がまるで柔らかいと錯覚するほどに、体を必要以上に上下に揺らしながら歩いている。


 もうひとりは剣士然とした男だ。

 軽鎧を身につけ、腰に剣を差している。

 剣は細身のシミターだろうか? やや湾曲した鞘だ。

 つばの広い帽子に、目を隠すような仮面がついているため、顔ははっきりとしない。

 ピッケルが指摘した歩き方だが、最初は違和感がなかった。

 しかし見続けると、確かに異様だ。

 隣の男と対照的とも言えるほど、揺れない。

 いや、揺れなすぎる。


 滑るように歩く、という表現がピッタリとはまる、そんな歩き方だ。


 そのまま、二人組がこちらへとやってくる。

 声をかければ普通に届く距離で、二人組のうち顔色が悪い男が誰何してきた。


「⋯⋯スッー、オ前、ピッケル・ヴォルス、カ?」


 吐く息と、発語が混ざって聞き取りにくい声だ。

 男の質問に答える前に、ミネルバが言った。


「まず、アナタから名乗ったら?」

「スッー、俺ハ、ユガ族ノ戦士、クルーウッパス」

「おい、名乗るのかよ⋯⋯」


 隣の男が呆れたように呟くと、クルーウッパスと自己紹介した男は、隣の男へと向き直って言った。


「スッー、ユガノ戦士ハ、殺ス相手ニ名乗ル。オ前モ名乗レ、ケプラマイト」

「おおい!? 俺の名前までバラすなよ!? 正体隠してる意味ねぇだろうが!」

「戦士ノ誉レハ、名乗リカラダ」

「俺は戦士じゃねぇ! そもそも俺はお目付役だ、あんなバケモンと戦う気はねぇぞ!」

「あのさ、仲間割れなら、邪魔だからどいてくれる?」


 ミネルバが注意すると、クルーウッパスが頭を下げながら言った。


「スッー、スマナイ、ユガ族ノ男ハ、話スノガ上手クナイ、コノ男ヲ名乗ラセラレナカッタ」

「もー、ダメじゃない。じゃあやり直しってことで一旦帰って」

「スッー、ワカッタ」

「わかるなぁああああ!」


 ケプラマイトが叫ぶ中、ガンツが聞いた。


「ケプラマイトって⋯⋯ケプラマイト・スレイヤーか?」

「ほら、俺は有名人なんだよ! お前のせいで正体バレちまっただろうが!」


 ケプラマイトがクルーウッパスへと文句を言っている中、ミネルバがガンツに聞いた。


「⋯⋯有名なの?」

「ああ。剣聖一家、スレイヤー家の追放児だ」

「おい、そこの二人」


 ビシッと指を差しつつ、ケプラマイトが割り込んできた。


「追放じゃねぇ、あんな家こっちから出ていったんだ、まどろっこしいからな」

「そうなの?」

「ああ、奴らは剣に『精神性』とか『理念』だとかくだらねぇものを持ち込むのが好きだった、剣なんて所詮、人を斬る道具だ。斬る相手をどう斬るか考えりゃあ⋯⋯って、なんでこんな話しなきゃならねぇんだ!」

「知らないわよ」

「おい、クルーウッパス! 俺の名前は奴らにとっくに知れ渡ってる! 戦士の誉れとしては充分だろうが!」

「スッー、ソウダナ」


 クルーウッパスが同意する。

 するとそれまで静かにしていたピッケルが、ミランを見ながら言った。


「『金剛壁』をお願いします」

「わかった。でも、何でだ?」


 ピッケルは真剣な表情を浮かべながら言った。


「みんなをかばいながら、戦える相手じゃ無さそうです」


 その表情に気圧される物を感じ、ミランは金剛壁の詠唱を開始した。


 


 すみませんちょっと短いですが、昨日に続き連日更新と言うことでご容赦を⋯⋯!

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是非こちらもご一読を!

俺は何度でもお前を追放する ~ハズレスキルがこのあと覚醒して、最強になるんだよね? 一方で俺は没落してひどい最期を迎えるんだよね? 知ってるよ、でもパーティーを出て行ってくれないか~

その他の連載作品もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ピッケルの視界よりも前から待ち伏せか何かしていたと。 できるな二人組
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