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農閑期の英雄~騙されてSクラス冒険者になった農家の青年、実は最強でした~  作者: 長谷川凸蔵
零章 農閑期の英雄・前奏曲 悪い神様と女剣士
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神様、ギルドマスターに感心される


 書類を記入し、その後登録を終えた二人は、そのまま【栄冠】へと滞在することを許された。


「とりあえず、野宿生活脱出だわ!」

「え、若い女性が、危ないですね」


 普段どんな暮らしをしているのか思わず心配になる、そんな会話をしながら、二人はマスターから食事をご馳走になり、卓を囲んでいた。

 メロンだけではやはり足りなかったのか、ミネバはすさまじい勢いで食事をかきこんだ。

 すぐに皿がからっぽになると同時に、ミネバは皿をマスターへと突き出した。


「ギーラン、お代わり!」

「⋯⋯もうねぇよ、あとこんなオンボロギルドだけど、一応マスターって呼べ」


 ギーランの言葉に「えー」と不満の声を上げながら


「もしかしたら、お代わりくれたら口説けちゃうかも、よ?」


 妖艶な笑みを浮かべながら、からかうように、ミネバは囁いた。


「ちっ、その手は食わねーよ。

 そして俺はこれを食う」


 そう言ってギーランは、取られないようにするためか、慌てて自分の皿に残っていた腸詰を自分の口に放り込む。

 そんな様子を見ていたピオレが、自身の皿をすっとミネバの方へと寄せた。


「よかったらこれを。

 あ、下心は一切ありませんので、ご安心を」

「え、いいの? あなたには貰ってばかりで、なんか悪いわ」

「いえ、私とても小食なので」


 神であるピオレは、食事はほとんど必要ない。

 大気や日の光といったもので、充分活動に必要なエネルギーは賄える。

 だから食べ物は、どちらかと言えば、嗜好品、としての意味合いが強い。

 そんな嗜好品の中でも、メロンはそれなりに気に入った食べ物だが、なければないで気にしない。

 むしろ、何か特定のものへの過度な執着は、堕落の始まりだ。


「ほんとに? 無理してない?」


 当然ピオレのそんな事情など知る由もないミネバは、何度も確認する。


「ええ、無理なんかしていません。

 それに食べ物も、元は尊い命です。

 であれば、おいしく召し上がる方が食べるべきでしょう。

 食べているときのあなたは、とても幸せそうで、微笑ましいです」

「⋯⋯ありがとう、じゃあ、遠慮なく」


 そう言ってから、本当にうれしそうに食べるミネバを見ながらギーランは⋯⋯


 やっぱ、プロのヒモは違うな、流石だ、徹底している。

 

 と謎の感心をして、ピオレへの評価を少し上げていた。




__________



 そんな大歓迎だった翌日。

 マスター用の机に座ったギーランの第一声は


「あんたら、出ていってくれ」


 といったものだった。

 最初、言っている意味が分からず、ピオレとミネバは顔を見合わせたが、次第に言葉が浸透し、まずはミネバが食って掛かるように机の上に手を置いて話し始めた。


「昨日の話、なんだったの!?

 大歓迎みたいに言ってたじゃない!」


 彼女のそんな言葉に、ばつの悪そうな表情を浮かべて、ギーランは説明し始めた。


「いや、言い方悪かったな。

 来てもらってすぐで申し訳ないが、実は、ギルドをたたもうと思う。

 俺は冒険者として、引退する。

 あんたが来てくれたおかげで、これから盛り上がる、と思ったんだけどな」


 そんな突然の引退宣言に、再びピオレとミネバが顔を合わせたあと、今度はピオレが疑問を口にした。


「その意思が固いのなら、当然尊重しますが。

 なにかそう決意させるようなことでもあったんですか?」


 ピオレの言葉に、ギーランは少し迷ったような表情を見せてから考え、しばらくしてから一枚の書類を二人へと差し出した。


「原因は、これだ」


 机の上に投げ出された書類を、ミネバが拾い上げ、二人でのぞき込む。

 そこに書いてあったのは、有志を募るものだった。

 町の近くで黒竜の目撃情報があり、その情報収集と、可能ならば討伐を目的とした、有志冒険者の派遣の決定、というものだった。

 黒竜は大陸に数種類生息するドラゴンの中でも最上位の強さと言われ、個体差はあれど中には人語を理解し、神のごとき力を振る舞う事もあるという。


「この書類は、朝一叩き起こされて押し付けられたものだ。

 しかもこれは未確認だが、どうやらこいつ⋯⋯しゃべったらしい。

 それが本当なら、何人で行こうと、無駄だ。

 そんな仕事に、申し込む冒険者なんているわけがねぇ。

 むしろ、こんなところにいちゃあ、危なくてしょうがないってもんだ。

 この町はもうだめだ、アンタらも早く逃げな」


 そんなギーランの警告に対して、しばらくあごに手をあてて考えていたミネバだったが⋯⋯


 やがて考えがまとまったのか、自分の気持ちを口にしはじめた。


「ふーん。

 伝説の災厄、そのさらに最上位ってわけね。

 ⋯⋯面白そうじゃない!」


 先ほどまでのギーランに対する怒りはとっくに引っ込めて、ミネバは目を輝かせるようにして声を上げる。

 そんなミネバの様子を見て、ギーランは心の中で叫んだ。

 

 だから黙ってたんだよ! そんなこと言いだしかねないと思って!


 ギーランの不安は的中した。

 ミネバなら、そう言いそうな気が、どこかしていた。

 だからこそ、この書類の事を告げることは、彼女たちに死の宣告を与えるような気がして言い淀んでいたのだ。

 

 説得は難しいだろう、俺には。

 だからできそうなやつに、委ねる。

 ギーランはピオレの方を向いて、説得させるように説き伏せようとした。


「おい、ヒモレ」

「ピオレ、です」

「なんでもいいや、お前ミネバのヒモなんだろ?

 自分の女殺したくなかったら、止めな。 

 確かに彼女はすさまじい腕だが、相手はそんなレベルじゃない」

「ふむ⋯⋯」


 ピオレは、彼女の能力と、言葉を操るレベルの黒竜との戦いを思い浮かべる。

 確かに、ギーランの言う通り、普通に戦えば彼女は死ぬだろう。

 だがそれは、ギーランが思っているほどあっさりとしたものではない。


 彼女は黒竜と戦いうる力を有してる。

 それが、ピオレの見立てだ。

 だが、今のままでは、足りない。


「まぁ、とりあえず彼女のしたいようにさせます、私は何もせず、ついていくだけですから」

「ちっ⋯⋯ああ、そうかよ。

 ならもう知らねぇ、俺は止めたからな?

 死んでも恨むなよ? じゃな」


 ギーランはそう言って、話を打ち切ろうとしたが⋯⋯

 突然ミネバが、握りこぶしを手のひらにぽん、と乗せてつぶやいた。


「ねぇ、こうしましょう? このギルド、譲ってよ。

 どうせ畳むんなら、いいでしょ?

 で、もし黒竜退治なんてできたら、あなたに報奨金の一部をあげるわ。

 無所属だと、私たちもただ働きになっちゃうし、いいでしょ?

 これからまたギルド探しても、そこが解散! とかなったら無駄足だもの」


 考えてもいなかったミネバからの提案。

 ギーランは少し頭の中で整理した。

 どうせ、潰すつもりのこのギルドだ、くれてやっても惜しくない、むしろ彼ら以外こんなところ誰も欲しがらないだろう。

 可能性は限りなく低いが、もし、万が一、黒竜の退治なんてものに成功すれば、討伐報酬は言うまでもなく、その素材だけでも大金が入る。

 悪くない話だ。

 このギルドには愛着はある、だが、裏を返せばこのギルドには愛着くらいしかない。

 それが金を生む可能性を僅かとはいえ有したのだから、そこに向かうべきだ。

 男なら即決、何かを判断するならそう決めている。

 ギーランの決断は、その信条通り、早かった。


「よし、いいだろう。

 譲ってやる、ただし、今回の報酬は折半、その契約書は書いてもらうぞ?」

「強欲ねぇ、でもいいわ、それで。

 あなたがいなかったら、こんな楽しそうな話、舞い込んでこなかったんだもの」

「じゃあ、決まりだ。

 書類を用意する、本来代替わりなんて、一日でどうこうなる話じゃないが、今は今回の任務に行政側も喉から手が出るほど、参加する人間を欲してる。

 それを条件に説き伏せてくるよ」


 そう言ってさっそくギーランが準備に取り掛かろうとすると⋯⋯


「まって、ギルドをせっかく貰うんだから、ついでに名前を変えたいわ。

 だってここ、なんの栄冠もないんでしょ? どうせ」


 そんなミネバの言葉に、ギーランは顔をしかめながら


「おいおい、そりゃあ勘弁してくれよ。

 この名前には、愛着があるんだ」


 と抵抗した。

 ミネバはそんな言葉に、あきれたような表現をうかべつつ、妥協案を提案した。


「つぶそうとしといてよく言うわ、なら栄の字は残して【栄光】。

 これならいいでしょ?

 幸先のよい名前だし、ね?」

「あーもう、わかったわかった。それもついでに申請してくるよ」


 そう言って出かけたギーランの背を見送ったあと


「なんか、あなたに会ってから楽しくなってきたわ」

「それはどうも。わたしもです」


 ミネバとピオレは、二人でそんな会話を交わした。



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― 新着の感想 ―
[一言] >やっぱ、プロのヒモは違うな ワシもプロを目指そうかな? >流石だ、徹底している。 と思ったけど、徹底できないのでやーめたw
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