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冒険者ってなんだ?

 大量に積まれた荷物の重みにより、リヤカーは街道に深いわだちを刻む。

 引いているのは馬や牛ではなく、一人の青年だ。

 青年は牛馬ですら立ち往生してしまいそうな、荷物を満載するリヤカーを、事もなげに引っ張りながら歩いていた。


「だいぶ進んだなぁ」


 己の足跡を確認するため、青年は後ろを振り返った。

 はるか遠くに、青年が日々の生活で見慣れた、実家の裏にある山が見える。

 いつもは見上げても一瞥では全景が見えないその山も、今はすべて視界に入る。

 前を向くと、どんどんと小さくなる山とは対照的に、青年の歩みとともにその姿を大きくしていく町が見える。

 目的地となる町を見ながら、青年は数日前に父に頼まれたことを思い出す。


「ピッケル、この農作物を売って金に換えて、肥料と土壌浄化草の種を買ってきてくれ。ついでにその金の一部を小遣いにして、王都を見学してきてもいいぞ。まぁ嫁さんでも探して来い」


 今までは農作物を王都に卸に行くのは父の仕事だった。

 だが、ピッケルが実家の周囲しか知らないことを少し心配した父が、今年で十八歳となり成人したことをきっかけに、王都に行くのは任せる、と言ってきたのだ。


「よし、休憩おわり!」


 はやく王都に行って色々と見てみたい。

 湧き上がる好奇心を抑えられず、今まで歩いていたピッケルは、リヤカーを引っ張って走り出した。

_________


 しばらくして王都についたピッケルは、門をくぐり市場へと向かった。

 すれ違う人々が大量の荷物と、それを引くピッケルをみて、いったんはぎょっとした表情を浮かべるが⋯⋯


 ああ、魔法で重量を操作しているんだな。

 ああ、リヤカーに魔力での駆動アシスト機能がついているのだろう。


 と各々が勝手に心の中で予想し、自らを納得させていた。

 多少、好奇の目に晒されつつも、それ以上に、初めて目にする町並に、己の好奇心を満たしていた。


 その後しばらくして、ピッケルは喧噪と怒号の舞う市場の中で立ちすくんでいた。


「もってけ! 二十ゴートだ!」

「はぁ? こんなの十六ゴートもありゃ買えるだろ!」


 店と客の激しいやり取りが耳に飛び込んでくる。


「人とお店の数が凄いなぁ」


 ピッケルは改めてきょろきょろとまわりを観察した。

 値札を掲げた店は少なく、ほとんどの店には値札がない。

 先ほどのように、値段を交渉するのが主流なのだろう。


(うまくやれるだろうか)


 と心配になった。

 交渉どころか、父や母以外に、人と話したことなどなかったからだ。

 とはいえここに突っ立っていても仕方がない、と思い、農作物の取り扱いをしている店を見つけ、己を鼓舞するように「よし!」と呟いてから、店主へと話しかけた。


「すみません、ちょっといいですか?」

「あーん? 今忙しいんだけどな」


 遠慮がちに話しかけたピッケルに対して、男は高圧的に返事をした。

 その態度に、すこしひるんだ気持になるが、今度は声に出すことなく心の中で気合いを入れ、さらに言葉を続けた。


「これ、買い取って欲しいんですが」


 よし、ちゃんと言えたぞ!

 

 表情には出さず、内心で喜んでいると⋯⋯。

 ピッケルの指さすリヤカーの荷物を一瞥した男は、嘆息しながら返事をした。


「二百で買い取ってやるよ、置いてけ」

「え⋯⋯」


 父には、五百ゴート以下では売るな、と言われている。それは肥料や土壌浄化草の種の購入予定金額を下回ってしまうからだ。


「今市場では、ものがだぶついていてな。あとその果物、マスカレードメロンだけどな、足が早い果物だから、どこから来たかは知らんが、持って帰ってる間に腐っちまうんじゃねえか」


 もっともらしい事を言いながら、男は内心でくっくっく、と笑った。

 海千山千の男は、着ている服や雰囲気から、ピッケルがあまり物を知らない田舎者だとすぐに気が付いた。

 なのでまず高圧的に返事をし、買い叩くといった、純粋そうな人間相手にいつも行っている、成功体験の多い交渉の基本を行った。

 すると青年は目に見えて狼狽している。

 もうひと押しだと感じた男は、相手の商品の弱点を指摘し、心を折る。

 ここまでの悪徳なやり方をするものはこの市場にもあまりいない。


 が、ピッケルはたまたまそんな男に声を掛けてしまったのだ。


 父の言いつけと、男の話す道理の板挟みで葛藤するピッケルだったが⋯⋯


「まぁ嫌ならいいよ、帰んな帰んな、その代わり二度と来るんじゃねえぞ」


 男の突き放したもの言いにピッケルは慌てて


「に、二百でお願いします!」


 と、思わず返事をしてしまった。

 男はそれまでの態度をやや軟化させ、安心させるような笑顔を浮かべながら


「ああ、あとでガタガタ言わないでくれよ、わざわざ遠くから来たみたいだし、可哀想だから、これだって利益度外視で、頑張って提示した金額なんだぜ」

「あ、ありがとうございます」


 ピッケルの気が変わる前に、と男が急いでお金を用意し始めると⋯⋯


「待ちなさい!」


 市場を切り裂くような、迫力ある声が聞こえてピッケルが振り向くと、腰に剣を差し、革鎧を身に着けた一人の女が仁王立ちしていた。

 その女性をみて、ピッケルは少し動悸が早くなった気がした。


(綺麗な人だなぁ)


 母親以外に女など見たことの無いピッケルだったが、父が王都土産としていつも買ってきてくれる本の挿絵に描かれた、美しいお姫様のようだ、と思った。

 特にその意志の強そうな瞳に、ピッケルは釘付けとなった。

 その美しさに見とれ、半ば呆けているピッケルを差し置いて、女性は店主に掴み掛らんばかりの勢いで話し始めた。


「これだけ大量の農作物が、二百なわけないでしょ! 持っていくところにもっていけば、捨て値でも八百は下らないわ!」


 店主は女性のあまりの剣幕にすこしたじろぎながらも、女性の言葉に言い返した。


「いや、でも小僧がこれで納得してるんなら、横からごちゃごちゃ言われる筋合いは⋯⋯」

「限度があるでしょ! 限度が! こんなおのぼりさんを騙すようなみっともない真似、よしなさい!」

 

 実はピッケルの父の想定では、どんなに安く売っても七百は下らないと思っていた。

 だが、ピッケルにとっては初めてのことだし、多少買い叩かれるのもしょうがないと思っていたのだ。

 なので五百というのは、相当甘々のラインとなる。

 ピッケルはやすやすとそのラインを下回っていたわけだが。

 ともかく女性は、店主に一通り怒声を浴びせたあと、くるりとピッケルの方を振り向いた。


「あなた、自分が作ったものに、自信や、愛情、ないの?」


 女性に見とれてしまい、二人のやりとりをあまり聞いていなかったピッケルは、自分に話しかけられた事に気がついて、慌てて返事をした。


「も、もちろんあります、手間暇、愛情を丹精込めた、自信の作物です!」

「だったら、安売りするのはおよしなさい! あなたの作った作物が可哀想よ!」

「は、はい」

「いいお店紹介してあげるから、こんなやつ相手にしないでついてきなさい」


 ピッケルの返事を待たず、女はくるりと振り向いてすたすたと歩きだした。

 しばらく女の背後を見つめたピッケルは、ふと店主を見て⋯⋯


「やっぱり二百はなしで!」

「お、おい!」

 

 店主の制止を無視して、リアカーを引っ張りながら女を追いかけた。


_____


 女性のおかげで、農作物は結局千ゴートで売れた。

 店主との交渉も、女性が行ってくれた。


「はい、これが売れた分のお金よ」


 ポンと渡された、見たこともない大金に、ピッケルは受け取る手がやや震えた。

 とはいえ、彼は金など使ったことはないのだが、大事なもの、ということだけはわかっていた。

 農作物はすべて売ったと思っていたが、なぜかマスカレードメロンがひとつリヤカーに残っていた。


「あれ、メロンが一つ残ってるな」


 ピッケルが首を傾けていると、女性はひょいとメロンと持ち上げた。


「これ、私が貰うわ。いいでしょ?」

「⋯⋯えっ?」


 これだけの大金を手に入れたのに、お礼はメロン一個でいいのか? とピッケルが考えていると⋯⋯


「なによ、ダメなの?」


 不服そうに、女が頬を膨らませた。


「いや、全然、全然いいけど! そんなので良ければ」

「ありがとう! これ大好物なの。高いからめったに食べれないし、すごくおいしそうだから、さっきの店でも目をつけてたんだー! やったー」


 嬉しそうに女は破顔しながら、物騒にもナイフを抜いた。

 いくら世間知らずとはいえ、街中でナイフを抜くというのがよくないことくらいはわかるピッケルの焦りは無視して、女は器用にナイフでメロンをさばき始めた。

 リヤカーの荷台でメロンを切り分けたあと、一つを食べる。

 すると女性はしばらく固まったあと⋯⋯。


「おいしっ! なにこれ! 今までのものとは別格すぎる! 止まらない止められなーい!」


 そういってあっというまにやや大きいメロンを完食した。

 手についた果汁を名残惜しそうに舐める女の仕草をみて、少しドキリとしながら、ピッケルは自分が作ったメロンをおいしそうに食べる女性にさらに好感度が上がる。

 指についた自分の唾液を鎧にごしごしと擦り付けながら、やがて女はピッケルの方を向いて


「ねぇ、また今度このメロンご馳走してくれない? 次はちゃんとお金払うから、さ」


 と、目を輝かせて言った。


「あ、うん、次の収穫まで一年かかるけど、それで良ければ」

「くぅう、一年か、先だなぁ、あ、遅くなったけど私ミネルバ。あなたは?」

「ピッケルだよ」

「ピッケルね。私冒険者ギルド【鳶鷹】のギルドマスターをしているの。メロンができたら訪ねてきてね」

「うん、持っていくよ。いろいろありがとう」

「じゃあねー。もう騙されないようにね! あなたを見て話しかける奴は、全員騙そうとしてる、くらいの気持ちでいなきゃダメよ」

「うん、わかった」 


 頷いて返事したピッケルだったが、実は騙されたという認識はなかった。

 ミネルバに見とれていたせいで、二人のやりとりをあまり聞いていなかった事もあり、最初の店の店主は店主で、誠実な値付けをしたと思っていたのだ。


 ただ女性が自分の為を思ってアドバイスしてくれたのはわかったので、素直に返事をした。


「うん、よろしい。じゃあメロン頼んだわよ!」


 再度念を押してから、振り向いて去っていくミネルバの背中を見ながら⋯⋯


「冒険者ギルド、か⋯⋯」


 とつぶやいたあと。


「って、冒険者って、なんだ?」


 ピッケルは初めて聞く単語に、首を傾げていた。


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