理不尽
悪役って、悪を演じているとき、どんな気持ちなんだろ。
って思って書いていたのに、途中から意味が分からなくなった。
悪役。悪者。悪魔。悪質。悪意。悪行。
良いじゃない。私がその役を、全うしてやる。
私はいじめっ子だ。クラスメイトの女子の上靴をゴミ箱に入れ、靴箱には呪いの手紙を何枚も仕込み、机の上に油性ペンで罵ってノートをカッターで切り裂く。どこからどう見ても、正真正銘、余すところなくまるで漫画のいじめ役だった。私にはそういう役が適役だった。
いじめをする理由はする人の数だけあると思うのだが、私の場合はただの『暇つぶし』というのが正しい。
『暇つぶし』でクラスメイトをいじめるのは、理不尽だろう。それは酷い。何たることだ。情けない。心が弱い。それ以外に生きがいを見つけることができないのか。
そんな言葉を甘んじて受けとめよう。そうだ。私は理不尽だ。理不尽の塊だ。酷く酷くて、言葉にできない。何たることとは、何たることなのか。情けが無くて情け無い。心はまるで蚤の心臓。少し撫でればすぐにつぶれる。生きがいなんてものはなく、ただ生きるために生きている。
いじめていたクラスメイトは、誰だろう、あまりよく思い出せないが、可愛らしい女の子だったという事を覚えている。どちらかと言えば男らしい私とは正反対で、いつもスカートやワンピースを穿いていた。いやけれど、別に女の子らしくて可愛かったからなんていう理由ではない。前述したとおり、ただの『暇つぶし』だったのだ。
そこから何を勘違いしたのやら、他の女子が私の周りに集まってきた。ちょっとおかしいよ。止めなよ、○○(私がいじめていた子の名前)ちゃんが可哀そうだよ。なんて正論を言いに来たのではない。私とは別にその子をいじめ始めたのだ。
本人たちは『私と一緒に』のつもりだろうが。私に逆らえば仕返しが来ると思ったのだろうか。そんな事なんてするはずがないのに。集団心理をこれほどまで恐ろしいと思ったことは、この後一度しかない。彼女たちは独自のルールの中で正義を作り上げ、それを精神的な支えとして寄ってたかっていじめた。
ただ私は、彼女たちが邪魔だった。ただただ邪魔な存在でしかなかった。暇つぶしに他人が介入してくることがどれだけ面倒臭いのかは、分かる人にしか分からないだろう。
所詮、いじめなんてものはすぐにばれる。
内部告発だった。私の邪魔をしてきた誰かが、とうとう私の『暇つぶし』を根本的にぶち壊そうとしてきたのだ。ふざけるんじゃない。今まで私とは全く別の場所で別の意図でいじめてきたくせに、最後の最後で私の責任転嫁してきた。
だって、あの子がリーダー格として行っていたから。逆らったらいじめられると思ったら怖くて。
何を言っている。
私はあなた達にそんな事を強制した覚えはない。そんな雰囲気を匂わせた覚えもない。そもそも、あなた達そのものの覚えすらない。
これは、世間一般で言う友情なのか? 違う。違う違う。こんなものは何でもない。ただの白々しい茶番劇だ。
私がやっていた事が発覚してすぐ、両親が学校に呼ばれた。この両親がまた、良心の塊のような人で、自分たちの実の子が『こんなこと』をする何て思ってもいなかっただろう。ただただ良心の任せるままに正義という盾を高潔な剣を私に振った。絶対悪として私はまず両親から見放された。私の事情を聞く事もなく、けれど聞く意味もないのだろうけれど、それでも私の言い分には一切耳を傾けなかった。
きっとそれから。その時から。彼らは私に愛情を注がなくなった。まあ、当たり前と言えば当たり前なのだろうか。むしろ今まで注いだ愛情を返せとばかりに私を罵った。
彼らの場合。
それは単なる暇つぶしではなく、己のプライドを守るための行動だろう。確かに大事だ。私の動機とは比べ物にならないくらいを立派だ。
本当に、本当に立派。
いじめを働いた私が、今度はいじめられる番となった。
私がいじめていた奴が、私をいじめ。
私とは別にいじめをしていた奴が、私をからかい。
教師は、私を無視し。
両親は、私を突き放した。
うんうん、なるほど。悪役として、堕ちた私。堕ちに堕ちて、底なし沼の底に付かんと言う勢いで。
本当、最高。
「愛情なんて、空々しい。
友情なんて、白々しい。
温情なんて、寒々しい。
感情なんて、痛々しい。
人情なんて、禍々しい」
こんな世界は。
私が悪役として生きる、こんな世界は。
こんなこんなこんなこんなこんなこんなこんな世界に!
こんな世界に、居てたまるか。
堕ちて、落ちぶれて、それでも落ち着くことなんてなくて。
落ち付くことなんてなくて。底なし沼の、底はなくて。底に付かなくて。
落ち着かない?
落ち付かない?
だったら、もうお終いだ。
こんな、意味のない、意義のない、意思のない世界に、オチを付けてやる。
さあ、さあ皆さん! ご照覧。
これで満足ですか。