最終話「再起」
「異…世界?」
「現実世界とも言ったのさ。現実は現実。お前は一体何を…」
チャド、アルタが衝撃を受ける以前の前提から問う。
しかしソフィーは
「やっぱり…!」
《なんだ。ソフィーには分かってたのか。》
「ギーナって絶対美人だと思ってた!すごい綺麗!!」
《え。》「あら。ありがとう。」
《まいいや。ちょっとごめんな》
ソフィーは明かされたギーナの素顔に喜びを見せる。
その間にカヒリはキャロラインへ近づき、
「……」
《よいしょ。》
砕ける音。
「いあ"あ"あ"あ"っ!?」
返答のお預けを食らうチャドとアルタが目を向けると、カヒリはキャロラインの両手首を握り砕いていた。
カヒリが離れるとキャロラインの両手は支えを失い力も入らず重力に従ってぐったりと垂れる。
その抵抗不可な動作も彼女には激痛で、キャロラインはひたすらカヒリを睨みつけた。
《お前がまた暴走したら困る。殺すなって言われてんだから無力化させるしかないだろ?》
「カヒリ。それ以上はお止め。もう十分なのさ」
《だといいけどな。》
「っ!!!」
再びキャロラインは叫ぶ。
今度は全員の注目を集めたカヒリだが…
《こいつは今更正気に戻ったり考えを改めたりなんかしない。猶予を与えれば俺達にも想像出来ない補正が入って暴れ出す可能性が高い。それから、言ったよな?まだ終わってない。》
「カヒリ…」
《全員、神経限界までピリつかせて警戒しながら聞いてくれ。》
カヒリはキャロラインを蹴り飛ばし話し始める。
《俺達は日本って国から来た。ニホン。分かんないよな。お前達が暮らしてて、みんなで必死に守ったこの世界は"リベンジストーン~7女神の伝説~"っていう、何人かの人間が一緒になって考えて生まれた"物語"の中の世界なんだよ。想像から創造された世界。しかも、この世界はゲームコンピュータREDっていう機械…鉄の塊によって動いてる。分かるぞ、お前らが理解できてないことを俺は分かる。でも聞け。俺達の世界にもな、魔王がいる。俺は例外だけど本物の魔王が何人もいて、何度か人間と争った結果ほとんどが死んだ。んで、ほんの一握りは人間と共存する道を選んだんだ。人間と生きる道を選んだ魔王は知能の高さや魔法を活かして人類の発展に大きく貢献した。こうして俺とギーナが"物語の中"に入ってこられたのもそのおかげだ。》
「でもある時、新しく魔王が生まれたの。死んでいった魔王の中には不死に近い能力を持つ者がいたんだけど、その者の死にきれない魂と戦いで死んでいった残虐な魔王達の魂が交じりあって…生まれた。101の魂を持つ魔王…カナタが。」
《そのカナタはとにかく強かった。殺した魔王達の魂が結集してるもんだから、戦った人間のことを覚えててさ。技や戦術を知られてて完全に対策されて…こっちで言えば、女神級の人間が10人以上束になっても押し負けるくらいだ。》
「それでも人間は諦めなかったわ。そして力関係が逆転した。人間は魔王と違って"成長"が出来るから…。そして魔王カナタは、何度も死んだ。」
《そ。この何度も死んだってのが重要だ。魂を101も持つから、単純に101回殺さなきゃならない。50回くらいまでは食い下がってくれたから殺せたんだけど、ついにあいつはやりやがった。》
「魂を分割して逃走したの。51の魂が51の体を持って。探すのはとても大変で…」
《まあ努力は省くけどさ、見つけられるような道具が発明されたんだ。魔王カナタは魂が減るほど弱体化する。でも増えれば強化される。だから、逃げた先には必ず取り込むのに値する魂が存在する。…で、その強力な魂を探して回って、魔王の分身共を殺して》
「残りの魂は4つ。その全てが、この世界のように読む人を楽しませるような物語の世界の中。私達は手分けしてそれぞれの世界に入ることになったわ。」
《この世界は本当はこんなに厳しい歴史を歩んだりしない。もっと前向きで、"魔王家族"なんてクソ展開も存在しない。魔王カナタは魂を取り込むためにこの世界をエラーさせた。…あぁ、なんて言うのかな。お前達が知らない内に世界を征服して作り替えてたみたいな。》
「私達がこの世界に来た目的は、魔王カナタの魂を探し出して殺すため…そして、その目的を果たすために出来ることならキャロライン達の旅を足止めしておきたかったの。キャロラインは物語の最重要人物だから、彼女が旅をするのは私達には都合が悪くて…」
《…アルタは理解してやりたいけど諦めるから許せって顔してる。チャドは考えてるふりして実際は思考停止。ソフィーは…頭爆発しそうなくらい考えてんな。今はいないけどレスナなら分かるのかな。あいつ切れ者だし。》
「長話をしてごめんなさい。でも、魔王カナタによってねじ曲げられた世界史は打ち砕かれたわ。ここからはあなた達に協力してほしい。こんなに長引く予定じゃなかったから、きっとこの世界にいる魔王カナタが最後の魂…本体よ。」
「要はお前達の探す敵を殺すのに協力しろってことなのさ?ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ言わずに最初からそう言えばいいのさ」
《って、思うじゃん?まあその時になったら分かるよ。話聞いてなかったらお前らは俺達を殺しにかかるだろうから。》
「…戦えばいいんだねぃ?…それなら」
《悪ぃな。でも魔王カナタは今までの比じゃないぜ?》
「顔が熱いよ…」
「熱いというか真っ赤だわ。ごめんなさい。難しい話をして。」
「ううん…で、で、えっと…その魔王はどこ?」
全員が何となくその場で見回す。
自分達以外には、痛みに顔を歪めてカヒリを睨み続けるキャロラインと、死んだように動かないクロアのみ。
「クロアはこのアルタの力で死にはしないのさ。でも故郷に連れ帰るまではそっとしておくべきなのさ」
「キャルは…キャルだよ?」
《魔国でお前らが見た不思議な建造物あったろ。いくつも。城より高い真っ直ぐ伸びた鉄の建物…ビルとか、敷かれた鉄の棒に沿って高速で動き回る鉄の蛇…電車…ああいうのは魔王カナタが俺達の世界で見たものをこの世界に創り出したものなんだよ。それが魔国にあるってことは》
「魔王カナタも魔国にいる…」
《はず。》
「待つのさ。ということは、この広大な魔国の土地でその逃げ隠れる魔王を探す…?」
「5人。まあ最初は2人で探す予定だったし、魔国にいることも分かってるし、効率は上がってる。」
「キャロラインはもう何も出来ない。クロアも動けないわ。2人はここに置いていきましょう。」
「魔王の城を拠点にするとかいよいよやべえ。」
「はぁ…魔国を探し回るのさ…」
「アルタ様。カヒリは移動速度が速い。オイラも少しは速い。それにギーナは炎鳥を呼び出して空から探すことも出来る。想像よりは楽なはずだねぃ」
「だといいが…」
「ねぇ、カヒリも人間なんだよね?あの布被ってた時からその見た目なの?」
《いや。お前とアルタが"女神の両目"を使って見た通り、大量のゼグエグを殺す時にこの姿になった。それまでは人間の見た目だったぞ?…やめろ、期待すんな。ワクワクすんな。俺べつに美形じゃないんだよ。ギーナみたいな美形じゃないんだよ。》
「でも見てみたい」
「うふふ。」
ソフィー、アルタ、チャドは2人の話を完全に理解は出来なかった。
それでも、まだ2人にはやらなければいけない事があって、そのために自分達の力が必要だということは分かった。
行動不能のキャロラインとクロアを残して、5人は城の外へ出るべく歩き出す…。
その時。
5人の背後を足音が駆けていく。
最初に振り返ったのはアルタ。彼女が見たものは
「…クロア…?」
満身創痍で意識がないはずのクロアだった。
魔国でのこれまでの疲れや負傷が嘘のように元気な姿で走る彼は、一直線にキャロラインの元へ。
アルタの声に反応し振り返った4人。
その時にはクロアはキャロラインに触れていた。
《おい、あいつなんで動けるんだよ。》
「今は死にはしない。でも痛みは感じるはずだから指1本動かすのも難しいはずなのさ!」
「キャルに何してるんだろう…」
「キャル嬢!」
「…まさか、…そのまさかなのね。」
キャロラインに話しかけ、使い物にならない両手首に触れるクロア。
突如クロアから溢れだした黒い光が手首に流れ込み…
《癒してやがる!チャド!行くぞ!》
「分かった!」
カヒリとチャドが高速で接近。
ソフィーとアルタが走って戻り、
「ブレイズ・ワイルド。」
ギーナが魔法を発動するため魔力を溜める。
「キャロライン。まだ諦めちゃいけない。僕達でやり直そう。今の君は特別な存在だ。女神だって殺せる」
クロアはキャロラインの手首に触れて自身の体から溢れる黒い光を流し込む。
「…クロア…手首が痛くなくなってく…どういうこと?」
「君を守る。僕の口癖みたいなもの…ね」
《残剣!デュエット!》
そこへ2本の剣を浮遊させながらカヒリが戻ってきた。
「ハートの時みたいにまた一緒に戦おう。そして、今度は絶対に勝とう」
「………分かった」
キャロラインが承諾した時、既にカヒリの剣が振られ…クロアの首を狙っていた。
しかし
「遅かったな」
剣は首に触れるとそのまま消失した。
《ちっ…》
「カヒリ。今度こそ殺す」
剣の振り抜き動作中のカヒリにキャロラインが右手を向ける。
手のひらからはクロアが出すのと同じ黒い光が…
「極淵光」《やっべ》
瞬間、黒い光線が発射される。
未知数の攻撃を、カヒリは両膝の関節を崩して回避した。
《パペット流回避術。エグいだろ?》
至近距離での光線発射にも対応してしまうカヒリにキャロラインは目を丸くする。
「跳ね撃ち」
続けてクロアが両手からキャロラインと同様の黒い光線を放つ。
左右に別れて飛ぶ光線は途中で折れ曲がるように進路を変えて走っているソフィーとアルタへ。
「サンダーボルトォ!!」
「チャド!」
2人の前に立ち、体に雷を宿し光線を受ける。
ソフィーは思わず声を上げてしまうがチャドは無傷。
光線はチャドを守る雷に打ち消されてしまった。
「効かないねぃ…!魔国に来てからずっと、何も怖くないし負ける気もしないんだよねぃ」
「ほらソフィー、感動してないでさっさと行くのさ!」
「うん!」
「誰も来るなぁっ!!」
叫ぶキャロラインとクロアが同じ方向へ走る。
走りながら2人は光線を撃ち、カヒリとチャドの接近に釘を刺す。
「キャロライン・ストーン。お前の体が疲れることを"許す"。すぐに疲れが溜まり、息が切れ、その場に倒れることを"許す"」
少し離れた位置からアルタが告げた。
「あっ……はっ…はぁ…はぁっ…うぅ…」
するとキャロラインは言われた通りにすぐに疲弊し転んで倒れてしまった。
「キャロライン…!」
「ごめんクロア…せめて…クロアは…逃げて…」
「いや。僕は逃げないよ。君がいるから」
「え」
ここで全員が動くのを止めた。
それは、クロアがキャロラインの首に手をかけたからで。
「カヒリ?ギーナ?さあ、降伏しろ。さもなくば"プレイヤー"を殺す。どうなるか分かるな?」
《最低だなお前。んでやっぱりお前が魔王カナタなのか。》
「クロアが魔王?…誰も分からなかったよね…それに、ハートの人達も騙してたってこと?」
「とっくにこの体の主は喰った。満たされはしなかったが、体はそこそこ…」
「カヒリ!魔王は元から魔国にいたはずじゃなかったのさ!?」
《…いや、期間がある。ナタリアが魔王になってからしばらくは魔国にいて"異物"を創造した。そしてキャロラインが動き始めたのを見てクロアに成りすましたんだろ。…そもそもこの世界にゼグエグなんて魔物はいなかったしな。》
「大人しく死んでくれると思ったが…よくぞ生き残った。魔王を自称するお前は他の人間より遥かに強かったが…今となってはその魂、喰うのに値する》
《おいおい、目が真っ赤だぜ?本性だだ漏れだな。》
「クロア…?何して…」
「キャロライン。君はこの"ゲーム"の"プレイヤー"だ。君を殺せば、世界は君が最後に眠った時まで巻き戻る…》
「どうなって…」
《あんだけ悪に染まってたキャロラインがドン引きしてんぞ?》
「降伏しろ。そしてカヒリ…お前の魂を差し出せ》
本来のクロアの声に低い男性の声が入り混じる。
不気味なクロアの声と発言内容にキャロラインは
「へ、変…クロア、なんか変だよ…」
「何も違わない。お前と出会ったその時から、》
「あ…クロア・ルカリス。お前が死ぬことを"許す"」
「がふ》
緊張感溢れる場で、アルタが思い出したように告げた。
クロアを生かすために無理やり使った女神の力。
それにより今もこうして魔王カナタが活動出来るのだとしたら、それを解除すれば。
キャロラインの首から手が離れ、クロアはそのまま床に倒れた。
恐る恐るカヒリが彼の体に触れるが目覚める気配がない。
「…やったのかぃ?」
「カヒリ…どう?」
チャドとソフィーが問う。
《…念のためだ。ちょっと見苦しいことするけど、お前ら…目を離すなよ。》
カヒリは1本の剣を出現させ、
《ふぅ…サクッと。》
クロアの心臓目掛けて一突き。
《抜いてからの》
軽い一振り…クロアの首が胴体から離れて床を転がる。
「う、うわああああ!」
《ビビんなよキャロライン。》
「………」
事情を知らなければ、悪魔の人形が1人の子供を殺しただけの絵面。
しかし、
《ふぅううううん!》
《出たああああああああああああっ!!そいつを攻撃しろおおおおおお!》
クロアの胴体、首の切り口から白い煙のような何かが出てくると、それは人の形になって走り出した。
カヒリの反応からして
「あ、あれが魔王の魂…なのさ?」
「すごく足が速いよ…」
《いいから攻撃しろ!なんでもいいから!靴投げるとかでもいいから!》
カヒリがカナタの魂を追いかけ回し、チャドもそれに参加する。
2対1の追いかけっこは、挟み撃ちや誘導が出来るカヒリ達が有利で。
「えいっ!」
さらにソフィーの光線がカナタの魂を追い詰める。
《まだだ!我はこんなところで終わる魔王ではない!》
カヒリとチャドの連携を抜けて、カナタの魂はこの場から脱するべく階段の方へ…。
「おまたせ。」
階段にたどり着いた瞬間、ギーナの魔法が効果を発揮。
ほんの一瞬、たったの一回。
床から天井まで虹色の炎が燃え盛り、カナタの魂を燃やした。
「…ごめんなさい。実はかなり魔力が枯渇していて…」
《いや。十分だ。終わった。》
「…終わった…んだねぃ」
「今度こそ、今度こそなのさ」
ソフィーはキャロラインに手を差し出し、立たせてやった。
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玉座に座り、ごっこ遊びをするソフィーとチャド。
「えっと…くるしゅうない!顔を上げよー!」
「…はっ。…ソフィー嬢、気分はどうだぃ?」
「楽しい…!ね。キャル!」
隣に座るキャロラインは脱力して2人を見守っている。
「全く…何者かと思えば、確かに。この世界の人間じゃないと言われれば納得出来るのさ。それに、女神のことにやたら詳しかったり…」
《女神を出し抜くのってすごくね?》
「もう。アルタ様を怒らせたら私達でも敵わないのよ?」
《でも俺とアルタはこういう関係だから。な。》
「……悔しいけどその通り…なのさ。何が面白くてこんな生意気な人間と…」
《でも居心地が?》
「うるさいのさ!」
戦いは終わり、しばしの余韻。
緊迫した空気は無くなり、全員が平和を感じたところで
「ん?…城が…崩れ」
チャドが変化を目にする。
城の壁が剥がれるように落ちて、粒子になって消えていく。
《いや、大丈夫。大丈夫だから。全員このまま。》
「何を言ってるのさ!早く脱出しないと!」
「違うの。みんな聞いて。これから、魔国も人間の国も…この世界全てが崩壊する。」
ギーナの発言を聞いてふざけていたソフィー達が慌てて会話に混ざった。
「どういうこと!?世界は救われたんだよね!?」
「…まさか、実はカヒリとギーナが世界を滅ぼすとか」
《うわ、キャロライン。それは撤回しろ。命かけてお前達の世界を救ったんだぞ俺達は。》
「さっき話した通り、この世界は物語の世界なの。正しい世界に戻ろうとしてるから、今の間違った世界が崩壊しているということよ。」
《そ。何もかも全部元に戻る。キャロライン、お前は家族とおまけにブラウン付きでまた仲良くキングエルで暮らせる。ソフィーはミフィーリアで死んだはずの村民と暮らせるし、チャドはゴルゴラで大将軍やってるよ。…アルタはロガドガ山の祠に戻る。死んだはずのやつらも復活して、女神がまた世界の平和を保って…。》
カヒリの話を聞いてキャロラインの目に希望が灯る。
《そうだ。それでいいんだよ。ワクワクしとけ。平和な世界で楽しく生きろ。もう悲しい運命なんて辿らないから。》
「…ブラウンの、"独りの幸せ"は?」
《何それって感じ。》
「そうこうしている内に…ほ、本当にこのままで大丈夫なのさ!?」
壁が無くなり、外が見えるかと思えばそこには何も無い。
ただの黒だけが存在した。
少しずつ全員が立つ床も消えていき、あっという間に…世界に存在するのはカヒリ、ギーナ、キャロライン、ソフィー、チャド、アルタのみとなった。
「ふふ。神の意思は人間に伝わった。これから起きることは"再起"よ。」
《またの名を再起動…てか、リセットな。》
「ま、またこんな時にお前達は…へ、変なことを言っているのさ!」
《ビビんなよアルタ。女神だろ?…お前がこんなに可愛らしいキャラだって知れて良かったよ。こないだまで俺はモア推しだったからな。今じゃお前が一番お気に入りだ。》
「この雰囲気。カヒリ達は元の世界に…ということだよねぃ」
「そうね。…長いような短いような。あっという間。…チャドもありがとう。」
《…あいつらはそっとしとこうか。行こう》
「ええ。」
カヒリとギーナが後ろを向くと、2人は白い光に包まれていく。
「ま、待つのさ!」
《っは。なんだよ。寂しいのか?どこまで可愛い女神なんだよお前。》
「……お前達、お前達の本当の名は…」
《……特別だぞ?……ナギ。》
「…ヒカリ。」
「なるほどねぃ…」
「うふふ。私の案なの。」
「ナギ。ヒカリ。…お前達が無事に帰り、死ぬまで神々に愛されることを"許す"」
《っは!その魔法が現実でも効くか、楽しみだな。》
カヒリ…改めナギのその言葉を最後に、2人は粒子になって消えてしまった。
残された者達の中で誰よりもアルタが寂しそうな表情を見せた。
すると、アルタも同様に白い光に包まれる。
「うわ、ふわわわ…」
「アルタ様、大丈夫かぃ?」
「…だ、大丈夫なのさ。むしろ…暖かくて…安心するのさ」
「アルタ」
「ソフィー…」
「記憶が戻ってからは短かったね…世界が元に戻ったら、また会えるのかな私達」
「…それは神のみぞ知るのさ」
アルタもまた、粒子になって消えてしまった。
「うん…この感じ、次はオイラみたいだねぃ」
何かを感じ取ると、チャドも光に包まれる。
「チャド…!」
「オイラが旅に同行するって決まった時、あんなに嫌そうだったのにねぃ」
「もうそんなことないよ…!…大好きだよ!」
「それが聞けて何より…約束は」
チャドはキャロラインに微笑んだ。
「……っ、ありがとう…」
耐えられなくなってキャロラインが口を開く…が、チャドはもういなかった。
「チャド…」
「ねぇ、キャル」
「…何?」
「辛いこともいっぱいあったけど、楽しかったね」
「…そう思うの?どうして?」
「だって、みんなに出会えたから、世界は救われたんだよ?あの時、キャルと出会えたから。私は今もこうして笑える。大好きな人と」
「……ソフィー」
「ありがとうね。キャル。女神としてじゃなくて、普通の女の子として…へへ」
「私も、私もソフィーに会えて…良かった」
「うん!」
「また、…また会えるよね!?私達!」
「絶対。そしたら、また世界を一緒に」
「約束する!絶対に!…あ」
ソフィーもいなくなった。
床も天井も何も無い空間に、私は1人。
独り?ううん。違う。1人。
絶対に忘れない。良いことも悪いことも。
私は、忘れない。
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「ん…ん~…っ!いったっ!?」
何してるんだろ、私。
起きてすぐベッドから落ちるなんて。
口の周りが気持ち悪い。
見れば私の枕には染みがある。
「よだれ……」
その染みを見つめながら、私は頭のどこかで何かを思い出そうとしてる。
大切なこと…それか、よだれで枕を濡らすほどの夢の内容…?
「夢…か、そうだよね」
だとしたら、相当すごい夢だ。
確か今キングエルには有名な物語作家が来ているはずだから、お父さんに頼んで本にしてもらおう。
「…まず顔洗って着替えなきゃ」
ちょっと申し訳ないけど、部屋のことは彼に任せる。
きっとドアを開けて呼べばすぐに
「ブラウ…」「はい。キャロライン様」
「もう、キャルでいいって。ごめんなさい、枕が汚れちゃって」
「お気になさらず。お任せ下さい。もう朝食の用意が出来ていますよ。"お2人"も待っておられます」
「うん、ありがとう。すぐに着替えなきゃ」
ブラウンは出来る執事長だ。
言われなくても何でもしてくれるし、言ったら言ったで何でもしてくれる。
頼もしいし優しい。
ただの世話係でいいのかな…。
「良い匂い…!ちょっと甘いから、蜜がたっぷりかかった焼き菓子もあるのかな」
部屋の扉を開けると、お父さんとお母さんが座って待ってた。
「おはようキャル。よく寝れたか?」
「キャロライン。今日も可愛いわね」
「おはよう。お父さん、お母さん」
席に座って、何となく。
「ねぇ、今日変な夢見なかった?」
「夢か?」
「うん。すごく長いの…本に出来ちゃうくらい」
「……」「……」
そしたら2人は顔を見合わせて
「どうだろうな。でもブラウンが起こしに来た時、やっと起きれたなあ~って気持ちだったぞ」
「お母さんも。覚えてないけど、きっと夢を見ていたんだと思う…ずっとお父さんの足を掴んでたらしいから」
「ブラウンが言うには鷲掴みだったらしい。何と間違えたんだろうな!」
「えー?何と間違えたのお母さん!」
「分からないわよー」
楽しい朝食の時間。
でも、やっぱり長い夢を見ていたっていうのは本当だと思って。
ご飯の後、お父さんが城に住ませてる占い師に話を聞いてもらった。
「…どう?何か分かる?」
占い師の名前はモア。指輪をしているから結婚はしてると思うんだけど、聞いても教えてくれない。
困り事や悩み事を聞けば、どうしたらいいのか教えてくれるのに。
「…申し訳ありません。私からは何も」
「え…そっか」
「しかし、助言を」
「うん。何?」
「世界には様々な人間がいます。中には占い師よりも妖しい魔術を使う者もいるでしょう…。きっとそういう人間の中には、夢の中での記憶について詳しい者もいるかもしれません」
「魔術…」
「私からは」
「ありがとう」
それからすぐに、私は王の間に行く前のお父さんと2人きりで話した。
2人きりで話す時は、きまって私が何かお願いをする時。
「お父さん。お願い」
「お願いってもなぁ…世界を旅して夢に詳しい魔術を使う…なんだっけ?」
「占い師より妖しい魔術を使う者もいるってこと」
「お、おう…でもお前は王の娘だ。単純に野蛮な賊に狙われる危険だって」
「お願い。お願い。お願い」
「……どうしても?」
ここまで来たら私の勝ち。
最後の一押しに苦笑いを見せればいい。
「分かったよ。お母さんには内緒。それから、ブラウンと兵を付ける。これは譲らないからな」
「ありがとう」
すぐに準備をした。
旅をするんだから、動きやすい服を。
ドレスじゃなくて、行商人みたいな格好かな。
護身用に綺麗な短剣をもらった。腰に携えておくけど、正直使い方は分からない。
そして一番大切なもの。ペンダント。
ついてる宝石が綺麗で、見てると安心する。
城を出てすぐ、キングエルの民達は
「キャロライン様!お出かけですか?お腹が空いたらぜひうちのお店に!」
「今日もお洒落ですねええ!ドレス以外のお洋服も何でもお似合いでしょう!」
「キャロラインさま!こんにちはー!」
お店の人、若い男の人、子供も。
皆が私に笑いかけて楽しく話しかけてくれる。
「うぇーい!股間に当たったら20点なー!」
町の影でああしていじめを働く悪い子には
「こらっ!」
「うわ、キャロライン様…」
「いじめちゃ駄目。その子に謝って」
「は、はい!…ごめんなさい」
こうしてキングエルの平和に貢献する。
ここまでは私のよくある毎日の出来事。
でも、これからは違う。
キングエルを出て、平原を抜けて、ライヴァンへ。
でもブラウンがしつこいから、この国で何日か過ごした。
宿の主人とその妻はとても人が良くて泊まってて楽しかった。
王族だからって特別なとこに泊まろうとするブラウンを説得するのは大変だったけど。
それから、キングエルにはない大きな教会に行った。
大きなステンドグラスがずっと見てられるくらい綺麗で、女神様が描かれているんだとか。
でも、何日もいると観光も飽きちゃう。
それに私は観光じゃなくて旅がしたい。
だから。
「皆が寝ちゃった夜中に。そーっと」
宿屋を出た。
夜中でもいくつかお店がやってるのは、お酒を飲んで盛り上がりたい人達のためだ。
お店の前を通ったら、忘れ物を見つけた。
雨風の中歩くために被る大きな布…これを被れば、顔とかを隠して出歩ける。
「…借りるね」
布を被って門へ向かうと、門番はあっさり通してくれた。
守ってくれる人が1人もいない。
1人きりの
「…旅…!」
でも夜だし、1人だし。
怖くて楽しむ余裕はなくて。
ライヴァンを出てまっすぐ走った。
どこかに着くまでまっすぐ…
「あれ…はぁ、は…はぁ…はぁ…」
看板がある。
「ようこそ、ミフィーリアへ…」
「こんな時間にお客さん?旅の人?」
「た、旅の人です!」
「ふふ。私はソフィー。ようこそ」
「あ、私はキャロラ…キャル。旅の人…」
「キャル。そっか、良い名前だね。せっかく来てくれたところで悪いんだけど、これ運ぶの手伝ってくれる?村の子供たちが明日お祭りを開くんだけど、準備は人任せで…」
「うん、いいよ。全然」
友達…はあまり多くない。
キングエルでも仲良い人はいっぱいいるけど、どうしても私が王族だってことで遠慮してしまうみたいで。
でも、ソフィーとはすぐに仲良くなれた。
夜中に一緒に干し草を運んだり、台座を運んだり。
お祭りの準備を手伝いながら話をしていたらどんどん仲良くなって。
「え!?じゃあ、キャルはもしかしたら夢を見たかもしれないから、夢に詳しい人を探すために旅をしてるの?」
「うん!」
「1人で?」
「あぁ…うん」
「危なくない?」
「割と平気…かな」
「へへ。ねぇ、もういいでしょ?私に嘘ついてもすぐ分かるよ」
「え?」
「私、なんか人の嘘とか分かるんだよね。それに1回見たことも忘れないし」
「すごい…」
「キャル、1人じゃないでしょ」
「…ライヴァンからは1人で来たよ?」
「そっかー!…でも、いいなぁ。旅か。憧れるなぁ」
「そうでしょ?女の子だと余計だよね。冒険って男の子だけのものじゃないし」
「うん、分かる」
「…ソフィー」
「なに、キャル」
「一緒に行く?」
「え…?もう、からかわないでよ」
「ううん。本気。どう?2人で」
「……支度してくる…!」
半分冗談で言ったけど、でもソフィーは来てくれると思ってた。
……でも、戻ってきたソフィーはお爺さんを連れてた。
「心配せんでいい。見送るだけじゃい」
お爺さんは村の出口まで一緒に来てくれて、ゴルゴラまでの大まかな道のりも教えてくれた。
「おお、そうじゃそうじゃ。これを持っていきなさい」
「ありがとう村長」
「あ、村長さんだったんだ」
村長がソフィーに渡したのは…鏡?
「それは真実の鏡。この村の伝統工芸品じゃい。しかし、女神様の道具として昔から伝わるものじゃ、大切にしなさい。お金に困ったら、売りなさい」
「…ありがとう村長さん」
「行ってきます!」
村長さんに見送られて、私はソフィーと一緒に旅を始めた。
1人だと心細いけど、ソフィーが一緒になってから全然そんなことなくて。
2人で迎えた朝日は思い出深いかも。
「ねぇキャル。朝ごはん食べよ!」
「うん、いいよ」
休憩。
ゴルゴラまでの道は分かりやすい。
岩で出来た自然の大通りみたい。
その端に座って、ソフィーが持ってきてくれた食べ物を2人で。
「あ、さっきの鏡」
「気になる?はいどうぞ」
真実の鏡。
特に…普通の鏡みたいだけど。
「どうしたの?鏡初めて見たとか?」
「ううん。でも、何が真実?」
「もう…いいから食べよ?」
私が鏡に映る自分を見ているところに、ソフィーが覗き込んできた。
そしたら、ただの鏡のはずなのに…
「…鏡が…」
「これ…何が映って…え、あれ私?」
「奥にいるの私?どういうこと?」
そこに映っていたのは、何かと戦ってる私達。
知らない人達と協力して、…
「私、弓使ってる」
「私なんて手から何か出てるよ!?キャル、この鏡…」
「……分からない」
でも、分からないと言いながら私はゴルゴラの方の空を見た。
空の遠くに、もしかしたら、もしかしたら。
大きな大きな、炎の鳥が飛んでるんじゃないかって気がして。
THE END…….
これにて、本編終了です!
期間が飛び飛びになったりしましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました!
また新しくお話を書くことがあれば、そちらもぜひよろしくお願いします!




