第11話「在るべき姿」
《世界征服だ?…こいつ誰よりも魔王寄りの台詞を…》
「どうするの!?ふざけないで!」
《足止められたからなんだよ。俺もギーナもチャドも中距離、遠距離の攻撃が使えるだろ。キャロラインを》
「キャル嬢を殺してはいけない!」
《はぁ?お前この状況で》
「黙って」
キャロラインが一言。その一言だけで3人は静かになった。
それは彼女の発言に加わった"圧"によるもの。
足が自由に動かせなくなり移動が出来なくなった…しかし、キャロライン自体はそこまで大きな脅威にはならない。…と考えたカヒリだったが、
《…なかなか本気だな。》
「今からあなた達は"彼女"と同じ運命。よく見てて」
キャロラインは弓を構えて狙いを定める。
標的は
「レスナ様…!」
「レスナを殺せば。チャド、あなたは不思議な力は使えない……はっ」
今度は黒い水から形作られた弓から、黒い水が形成する矢が放たれる。
誰にも防ぐことは出来ず矢は黒い刃から解放され床に横たわるレスナの足に命中。
…すると、レスナの肌に黒い水が侵食。
脈が、肌が、汚されていく。
全身に染み渡ると、レスナの体は音もなく溶けはじめた。
《斬新。爆破とか消失とか燃焼とか…今回なら氷結かと思った。溶けるの?融解?》
「この黒い水、何か決まった属性があるわけじゃないわ。」
(彼女の考えた効果が反映されてる。恐らく女神を殺すと考えた結果が溶けるってことよ。)
考えを小声で話すのは、万が一にキャロラインが自分で気づいていない場合を想定してのこと。
ギーナがそう考えたのは、射撃したキャロラインがレスナの体が溶けるのを見て想像していたのとは違うような反応をしたからだ。
「レ、レスナ様…」
とはいえ、効果は確実。
レスナの体は短時間で溶け消え、床の黒い水と同化してしまった。
残された衣服や所持品も持ち主を追うように溶けてしまう。
「カヒリ、ギーナ。ありえないくらい強い2人でも、死ねるね。でも先に…チャド」
結果を見届けてキャロラインが次の標的に選んだのはチャド。
「無理な話だとは思ったけど、あなたはずっと私とソフィーを気にかけてたよね」
語り始めるキャロライン。
カヒリが不思議がるが、この行為にはもちろん理由があった。
「もし私達が何も問題なくメドルーナからハートに行って、エンヅォルトまで来てたらどうなってたんだろうね。カヒリ達が言ってたみたいにすぐ死んでたかも。あなたは弱くないけど、そこまで強くもなかった…さっきまでは」
《趣味悪いな。お喋りしてる間に足から黒い水が体を登ってきて腕まで凍らせるとか。回りくどいぞ。…まぁ徹底ぶりは評価するけど。》
「あなたに何があったの?どうして魔法を?」
「…あれは魔法じゃないねぃ」
《無視か。そうか。貧乳め。》
目の前で悪口まで言っても無視されるカヒリ。
続行されるキャロラインとチャドの会話。
ギーナは1人、周囲を気にしていた。
/////////////now loading......
ライヴァン。
「考えるより先に体が動く。小枝をへし折るように簡単に魔物を殺せる。これも女神様の力…!」
リーファンは国内を縦横無尽に駆け回る。
羽が生えて飛んでいるかのように体は軽く、疲労は一切感じられない。
彼1人の活躍でライヴァン内での勢力は逆転。
その隙に兵士達が閉門することに成功し、ライヴァンは守られた。
「す、すごいよあんた!」「あなたがいなければ私達は…」
「お前の腕っぷし、流石だ!」「ライヴァンの英雄だ!」
「「英雄!英雄!」」
避難場所の城内ではリーファンを讃えて国民達が声を上げる。
それを背にしてリーファンは残った国内の魔物を探すため走り出した。
門こそ閉めたが、空を飛ぶ魔物も少なくない。
中には飛行する魔物の足に掴まって侵入を試みる魔物もいる。
まだまだ油断は禁物、と自分に言い聞かせ
「逃げ遅れた者はいないか!居たら声をかけてくれ!俺が城まで護送する!」
声に反応し姿を現すのは侵入してからしばらく身を隠して様子を伺っていた魔物達。
影に潜み、逃げ遅れた人間を数人襲った後らしい。
四足歩行ではなく二足歩行が可能な魔物は皆手に武器を持っていた。
「襲った兵士から奪ったのか…!」
《それだけじゃない。人間よりも上手く使える》
4体。同時にリーファンに攻撃を仕掛ける。
真っ直ぐ手斧を投げる体の大きい魔物。
姿勢を低くして足元を狙う短剣を握る魔物。
槍を少し高めに投げる腕の長い魔物。
真っ先にリーファンに接近し滑り込み、下から剣を突き出す魔物。
どの攻撃も狙いが違う。それはどれを対処するか選べば他の攻撃は処理出来ないということになる。
完全に避けるのは不可能。
ならば。
「以前の俺なら肉を切らせて対応しただろう。だが今は違う!」
燃虹のティアー。虹色の剣を瞬時に振るう。
ほぼ縦回転と言っていい横回転斬りは剣を持つ魔物と飛んできた手斧を1度に処理。
さらに弾いた手斧は槍を投げた魔物に命中し、剣を持つ魔物の血が飛び短剣を持つ魔物の目にかかる。
回転斬りの終わり際に飛んできた槍を体を反らして回避。槍は手斧を投げた魔物に命中した。
そして目を押さえて悶える短剣を持つ魔物を一刀両断。
「今の俺に不可能はない」
どうしようもなくなり武器を持たない魔物達が一斉に襲いかかる。
しかしどの魔物もリーファンに掠ることも出来ず絶命する。
「簡単だ…この感覚、カヒリのそれに似ているのかもしれない。…心に余裕が生まれ、ふざけたことを言いたくなる。そしてどこかで強者を求め、自分の力をもっと発揮したいと…いや、俺は違う。油断はしない。全力で敵を討つ!」
魔物を殺せば殺すほど、リーファンの覚悟が研ぎ澄まされ、それは手に握る燃虹のティアーにも影響する。
リーファンと虹色の剣は互いに力を増幅し、もう彼らの敵など
《キ、キキ、》
「……っ………」
剣を手にして初めてリーファンは一歩引いた。
一目で分かる。それが他の魔物と違うことが。
嫌な記憶が蘇り、リーファンの顔を歪める。
土に細い手足を突き刺すようにしてこちらへ近づいてくる。
《キ…死ね、ね、キキ…》
人間の言葉を話し、漂わせる不気味さと強烈な甘い臭い。
鼻に刺激臭が伝わりそれが何なのかを完全に認識し、リーファンはさらにもう一歩下がった。
「ゼグエグ…!…羽根を失ったか」
ゆっくり迫るゼグエグ。しかし鮮やかな色をした薄くて鋭い羽根は見当たらない。
羽根が付いていた形跡はある。ということは
「何らかの攻撃を受けて……、…あれは?」
木の枝のように細い体。
その所々に傷を見つけた。
いつもなら気にしないが、今回は気にする必要がある。
「あの切り口は。三日月型の…そして傷跡には消えることのない緑の……はっ…!」
よりによって。
リーファンの前に現れた負傷したゼグエグ。
羽根を失った原因は他の誰でもなく自分だ。
過去にキャロラインと訪れたライヴァンの教会で遭遇し、リバイヴスラッシュを見舞った。
結果としては逃げられたものの、継続する斬撃により羽根を失いライヴァンで身を隠していたというのか。
あの時のゼグエグと再び。
「お前には良い思い出がない。お前のおかげで俺は、剣も捨てたくらいだ」
キングエルでのゼグエグとの遭遇を思い出す。
チャドとの別れもとても心苦しいものだった。
《キキ…》
「改めて、断ち切る!……リバイヴスラッシュ!」
虹色の剣から放たれる斬撃。
乱れ舞う金属音と虹色の細い三日月。
それはリーファンが修行して初めて覚えた技の最終系。
ゼグエグの細い体は斬撃に弾かれ続け、ついに節々が弾け飛ぶ。
手足が無くなり、体が動かなくなると見えなかった頭が姿を現した。
「お前を殺して…俺は過去を乗り越えて勇者になる。……ハートに伝わる奥義…!受けてみろ!」
両手で剣を握り振り上げる。
失ったはずの力がそこには当然のように存在し、深緑色の光がリーファンを包む。
「絶、神葉剣!!」
振り下ろされる虹色の剣。
そこから飛ぶ深緑色の斬撃は、地面を割りながらゼグエグへと突き進む。
「いけええええぇぇぇっ!!」
リーファンの気持ちが声になり、斬撃が強化。
速度が上がり、巨大化。羽根も手足も失ったゼグエグにはどうすることも出来ず。
《キ、》
小さな小さな断末魔を残して、存在すら失ってしまった。
「ふぅ…。チャド達に会いたくなった」
言葉に出来ない感情。
しかし余韻に浸る暇はない。
案の定空から魔物の鳴き声が聞こえ、見上げれば群れが飛んできている。
「翼があればいいのか?あの大きな胴体を支えて飛べるなんて」
体の作りに文句を言っている場合ではない。
「誰か!逃げ遅れた者はいないか!」
戦闘前にもう一度だけ確認する。
「…助けて…お母さんが…」
恐る恐る家から出てきた子供。
可愛らしい子供用のドレスの裾には血が付いている。
「分かった。急ごう」
室内には床に倒れる母親の姿。
近くには瀕死の魔物。
家に侵入され、子供を守りながら戦っていたようだった。
リーファンは母親を抱き上げ、子供についてくるよう言って外へ。
しかし運悪く空から侵入した魔物達は彼らの近くに降り立った。
《ウーーーーイーーーーィィイ!!》
「くっ…」
戦うことは出来る。
今のリーファンになら、空に逃げる相手でも苦労せず勝つことが出来るだろう。
しかし、そんなことをしていては助けようとしている母娘はどうなる?
「お兄ちゃん…雨…」
「雨…?」
子供に言われて気づく雨の匂い。
そしてライヴァンの国宝はどういうものか、それが不定期に効力を失うと何が起きるのか。
それを思い出して。
「ここから近いのは…教会!走って!」
魔物達から逃走。
背を向けて、リーファンは大人の女性を1人抱き抱えて走る。
そのすぐ横を子供が懸命に走り、彼らを魔物達が追いかける。
雲行きが怪しくなり、地面にはいくつもの小さな変化が。
雨だ。雨が降り始めた。
これは普通の雨ではない。国宝による護りが無ければ、雨が止むまで国民は外出を禁止して暮らすほどに"威力"のある雨だ。
「もう少し!飛び込め!」
じりじりと距離を詰められるもなんとか教会まで逃げ切り、子供を急かす。
子供が先に到着し大きな扉を叩くと、中から神父が出てきて状況を知る。
慌てて子供を中に入れ、リーファン達が入れるくらいに扉を開いて
「急ぎなさい!さあ早く!」
「間に合えっ」
《ウィィィィイイイイ!!!》
翼を広げてリーファンに飛びつこうとする魔物。
間一髪。どうにか先に教会に入ると、中にいた兵士達により扉はすぐに閉められた。
魔物達は扉に激突、さらに体当たりを繰り返し突破しようとするが
《イ"イ"イ"イ"イ"イ"ッ!!》
雨に打たれ、叫ぶ。
「危なかった。でも」
この雨も恐らくは女神プロティアによるものだ。
母娘を助けるために武器が振れないリーファンに変わって、雨を降らせた。
教会に逃げ込んだ今、雨が止むまでは誰も外に出ることはないだろう。
そして屋内に逃げ込めない魔物達はこの雨で確実に死ぬ。
今度こそ、ライヴァンは完全に
「守られた…!」
「…ありがとう!お兄ちゃん」
助けた子供にお礼を言われ、リーファンは誇らしい気持ちになり、ようやく体を休めた。
いつの間にか燃虹のティアーは彼の側から消えていた。
/////////////now loading......
《ええい!性格ブス!貧乳!結局のところ貧乳!》
カヒリの叫びは変わらず無視されたまま。
「チャド。さよなら」
ようやく話し終えたのかキャロラインは弓を構えてチャドを狙う。
《いくら圧倒的有利でも長話すぎるだろ!これ分じゃなくて時間レベルだからな!》
「そんなに急いでるなら次に死なせてあげる」
《あ、やっと俺と話す気になった?》
力を溜め、チャドの頭へ。
キャロラインが矢から手を離そうとしたその時。
《ふぅうあ"あ"あ"あ"あ"っ!!!》
ナタリアが叫ぶ。
「お母さん!!」
気を取られてキャロラインは攻撃を中断。
弓を捨てて母親の元へ。
《あぐ、う?あ、いっ?》
体に刺さった9本の剣が原因ならばずっと叫んでいたはず。
ではナタリアは何が原因で…キャロラインが考えていると
《キャロ…ら…?》
魔王ナタリアに変化が起きる。
体の大きさ、骨格、肌色…様々な体の要素が人間らしいものに変わっていく。
それはカヒリが魔王になったのと逆の現象。
《おい、あれ、まさか…》
「人間に戻ってるわ…」
魔王として着ていた衣服はともかく、体は完全に人間に戻ったナタリア。
一旦目を閉じてから再び開いて見せた目からは邪悪さを感じられず、むしろ
「優しい目をしているねぃ」
「お母さん…?」
「……キャロライ、ン」
「本当に?お母さんなの?」
自然と涙が零れるキャロライン。
忘れ去ってしまいそうだった母親の顔が、正しい姿で、改めて記憶に刻まれる。
「ごめ、…さい…」
「お母さん!」
「結局…かぞ…んないっしょには…」
「……」
「でも…すれないで…お父さ…たしも…あなたを…」
「うぅ…」
途切れながらもナタリアはキャロラインに想いを伝える。
どんな姿に変わろうとも、娘を愛する気持ちは変わらないと。
しかし、最後まで言い切ることは出来ずナタリアは目を閉じて静かになってしまった。
「魔王から人間に戻った。ということは、カヒリの剣のダメージを耐える力が無くなってしまったのね…だから、」
《でも何でだ?突然発狂して人間に戻る?え?》
「それは魔王を支える存在が消え去ったからなのさ」
「アル…ソフィー嬢?」
会話に加わるのは互いに体を支えて立ち上がるアルタとソフィー。
「やられちゃったけど、倒れてる間にチアンが助けてくれたみたい。…でも魔王の力がすごくて、すぐには全部治らなくて」
「残されたのがたまたまソフィーとこの許しのアルタとは。おかげで今更に」
《両目が揃ったか!》
「お前はこんな時でも…ってその姿は何なのさ!」
《実は俺も魔王なんだよ。正義側だけどな!》
「もうお前は放っておくのさ…キリがない…」
「アルタと協力したら色んなものが見えたんだよ。どこか遠くでカヒリ達がゼグエグと戦ってるのとか」
《おう。何千何万…もっとだな。死ぬ寸前までピンチだったけど全部殺した。》
「それから、リーファン。リーファンがね、どこかでゼグエグを1体…」
「リーファンが…!ライヴァンで静かに暮らすって別れたはず」
「じゃあ、私達が大量に殺した後…リーファンが殺したのがゼグエグの最後の1体だったって言いたいの?」
《ゼグエグが魔王の支え…つまりライフか。随分大量に抱え込んでやがったな。》
「それから、ゼグエグがキャルに話しかけてるのも見えたよ。お母さんに会いたくないかって聞いてた」
「つまり、大分前からその娘が旅を始めた理由は魔王である母親と再会するためなのさ。それを知ってか知らずか…」
「あぅ」
「ソフィー。しっかりするのさ」
ソフィーが体勢を崩すと、アルタもつられてしまう。
2人が床に倒れるのと同時に
「うあああああっ!!!!」
今度はキャロラインが発狂した。
手を伸ばすと床に捨てられた弓が彼女の手に戻るために飛ぶ。
「全員殺してやる!殺してやる!殺してやる!!」
怒りのままに弓を構えるが、狙いはカヒリ…ギーナ…チャド…ソフィー…アルタ…定まることはなく転々としてしまう。
「死ねえええっ!!!」
まともに狙わず、さらに力任せに矢を放とうとした結果キャロラインは足をくじいてバランスを失った。
しかし矢は放たれた。
………場は静まる。
恐る恐るカヒリが状況を確認すると、味方は全員無事なようだった。
では矢はどこへ?
矢の行方を探すと
「………」
呆然とするキャロラインの視線の先に見つかった。
矢は弱りきっていたマクシミリアンの体に刺さっていた。
そして、彼の体に黒い矢の効果が発動し…肉体が溶けていく。
キャロラインはそれを黙って見ていた。
怒り乱れての誤射。
あまりに悲惨な光景に、カヒリはいつもの調子で茶化すことも出来ない。
マクシミリアンが溶けて無くなるとカヒリ、ギーナ、チャドを拘束していた氷も溶けた。
自由になった5人。そしてキャロライン。
「…悲しい終わり方だけど、魔王はいなくなったんだよねぃ?…ということは、世界は」
チャドが念のためと仲間達に確認する。
しかし、
《いや。残念だけどまだ平和は戻ってない。黒幕がいるんだ。》
「黒幕?」
「ええ。黒幕よ。ここまで来たらいよいよ話すべきよね。」
「話すって何のことなのさ?」
《すんごい大事なことだ。理解に苦しむと思う。でも飲み込んでくれ。……俺達はこの世界の人間じゃない。丁寧に言えば"異世界"から来たんだ。》
人形の姿をしたカヒリだが、なぜか真剣な表情をしているのだと全員が分かった。
そして彼の隣に立ったギーナがこれまでその身を隠していた黒い布に手をかけて、床に脱ぎ捨てた。
《俺達流に言えば"現実世界"から来たんだ。》
/////////////To be continued...




