第10話「私、この世界を征服します」
《驚いたか?サプライズ…っと、これはあんまり好きじゃないや。》
「行くわよ。」
「遠慮はいらないんだよねぃ?」
城に乗り込んで来るまでは分かる。
しかし、城の中を進むのはそう簡単ではない。
というより、都合の悪い部分だけ聞かれてしまった。
というより、というより、というより、
「っ!」
気が動転したキャロライン。
玉座で待機する母親、ナタリアに向かって歩を進める3人の余裕ある姿を見て
「ふっ…」
攻撃。
《ん?》
しかしカヒリが簡単に打ち払う。
「ふっ…!」
《弓の動作で見えない魔弾を飛ばしてんのか。悪趣味で高威力なんだろうけど。》
「カヒリがこうなったら何をしても無駄よ。」
「オイラにはまだカヒリの"それ"が分からないんだけどねぃ」
まだまだ余裕の3人に向かって走っていく。
接近しながらキャロラインが考えるのは、この中で誰が一番"柔らかい"かということ。
「うううっ!」
「っと、キャル嬢」
チャドに駆け寄り拳を胸に叩きつける。
彼の着る鎧に弾かれて、何度か挑戦するも痛いのは自身の拳の方で。
攻撃には無反応だったが痛みに顔を歪ませるキャロラインを見て
「止めるんだ。無駄だからねぃ」
「あ"ぁッ!!」
鉄に負けて皮が擦りむける。それでも攻撃を継続した結果、キャロラインの手が自身の血で染まっていく。
「無駄よ。」《イカれてんな。》
カヒリとギーナが引き離そうと近づくと
「大丈夫。オイラに任せてほしいねぃ」
チャドはそれを拒否。
声を荒らげて無意味な攻撃を続けるキャロラインの両頬を包むように両手で押さえ、
「キャル嬢」
「あ"ぅ"ぅぅぅぅ…」
「やっぱり。キャル嬢は操られてるねぃ。こんな獣みたいな声で、手がボロボロになってもずっと殴るのを止めない。正気なわけないよねぃ」
《そうか?》
「可能性はあるわ。だとしたら、魔王ナタリアを殺せば元に戻るはず。」
《罠臭いけど?》
「オイラはキャル嬢と長い間一緒に旅してきたからねぃ。目を見れば分かる」
「ぎぃあ"ッ!!」
キャロラインはチャドの手から逃れようと暴れる。
それはカヒリの言う"イカれた"ような雰囲気で。
これこそ、キャロラインがパニックになりながら思いついた策なのだ。
敵対関係なのは魔王に操られているから…それに信憑性を持たせるために、わざわざ乱暴な演技をする。
精神面に問題があると思わせるため。手を犠牲にし、痛みをなるべく無視し、出したことのない汚い声まで使って喉を痛める。
やはりカヒリには通じないのか疑ってくるが、ギーナは中立。
そして狙い通りチャドはキャロラインの嘘を信じた。
暴れて振り回していた腕を下ろし、呼吸を乱し、チャドを見つめる。
そして、キャロラインは目に涙を浮かべながら
「……たすけて…」
瞬間、チャドの目が見開き視線はナタリアの方へ。
その目からは怒りを感じられた。
《マジか…》
「最悪ね。キャロラインを騙して操るなんて。」
「許さない」
「あ、あ、ぅ…」
続けて頭を掻き、もがき苦しむ様を見せて
「…たすけて…!チャドぉ…!」
さらに情に訴える。
本人はここまで上手くいくとまでは予想していなかったが、3人はキャロラインに同情。
そのままチャドに抱きついて演技を続行する。
喉を鳴らし、獣のように
「お"ま"え達をぉ"っ!殺すっ!!」
「大丈夫だからねぃ。すぐに助ける」
「最初から全力でいくわよ。」
《よし、お前キャロラインそのまま押さえてろ。》
ギーナが炎弾を飛ばし、カヒリが再び歩き出す。
ナタリアは黒い刃を延ばして迎え撃つ。
その光景を横目に、チャドはキャロラインを戦闘に巻き込まないように少しずつ離れていく。
「ソフィー嬢…女神様があんなことになるなんて、魔王はどれだけ…クロア…!」
床に雑に転がっていたクロア。
だが意識はない。そして体には
「……子供の体になんてことを…酷すぎるねぃ…」
キャロラインから離れ、彼女に背を向けて屈み、クロアの様子を見るチャド。
振り返れば、カヒリとギーナはナタリアに夢中。
この瞬間、チャドは完全に無防備で。
「チャド」
「ん?」
後ろから呼びかけ、彼が振り返るのと同時に両手は彼の首へ。
彼が立った状態なら絶対に届かない。しかし、クロアを見つけて晒してしまった。
柔らかい人間の肌を。
「死んで?」
予備動作を省略し、女神の体にやったのと同じようにチャドの首を吹き飛ばす。
即死は確実。そしてナタリアの力で蘇生させて味方に引き入れる。
ついでに、この光景をカヒリ達に見せれば動揺も誘える。
力を込め、かつての仲間の首を
「効かないねぃ」
「え?」
吹き飛ばす直前、チャドの口から出た言葉。
キャロラインは攻撃を実行するが、
「うっ!?」
チャドの首は吹き飛ばない。
それどころかキャロラインの両腕には深緑色の雷が走っていく。
「"裁き"の雷。残念だけど、キャル嬢の嘘は分かっていたんだよねぃ」
「や、やめ、あ」
深緑色の雷…裁きの雷と言われるそれは、キャロラインの体内に染み込んで効果を発揮した。
全身に強烈な痺れが生まれ、体が動かせなくなる。
そして未体験の激痛が頻繁に体内に巻き起こる。
「まるで雷に撃たれるみたい…だよねぃ?」
この痛みがチャドの言う通りのものだとしたら。
キャロラインは自分に痛覚があることを初めて悔やんだ。
そして即死しない自分を恨みもした。
魔国で暮らしていくために、母親に魔法をかけてもらった。
母親からの愛情だ。
体は特殊な形で強化され、寿命は生きることに飽きるほど延長され、痛みには防具が要らないほど強くなった。
それが裏目に出てしまう。
「裁きのレスナ…女神様の力を得たハートの国王から受け継いだ力がオイラの力と混ざったんだよねぃ。きっと邪悪な護りは通用しない」
「ぅあああああああああああああっ!!!!」
キャロラインの叫び。
それに反応したのはナタリアだった。
《…!》
《おいおい。よそ見してる場合か?》
その隙にカヒリが急接近。
浮遊する剣の1本を手に取り斬り掛かる。
《1人》
《あ?》
魔王ナタリアの言葉を聞き逃さなかった。
しかし斬撃は腹部から青黒い血を噴き出させることに成功する。
「リピアス!」
そこへギーナの魔法。
斬られたナタリアの体の全く同じ部分に、全く同じ攻撃が繰り返される。
《ッッッッーーーッーッッ!!》
言葉にはならない声を発し苦しむナタリア。
《一気に終わらせる。》
カヒリは手に持つ剣をナタリアに突き刺し、続けて浮遊する他の剣を手に取っては突き刺していく。
《コイツらが全部刺さったら、お前にどんな魔法がかかっていようと絶対に死ぬ。エンドレス・エンド・ソードからは逃れられないぜ。》
《…2人》
《は?》
10本の内4本がナタリアに突き刺さる。
途中で聞こえた言葉が引っかかるが、
《何を企んでいようと先に全部刺せば終わりだ。》
5、6、7。
さらに3本の剣が加わり、ナタリアは絶叫。
ギーナは耳を塞ぐために魔法を中断してしまう。
《っせええええなああああこのくそおおおお!》
カヒリは対抗するように叫びながらもう1本剣を刺した。
《あと2本!》
《蘇れ》
《あ?》
何事かと見回すカヒリ。
すると、何も無い場所に白い布が大量に現れて広がり、球体を形作る。
球体の中で何かが光ったかと思うと、中から剣が突き出る。
「俺の妻に何してくれやがる」
中から姿を現したのは
《マクシミリアン!?しかも若い…勇者時代か!》
「よくご存知で!」
《この包帯ぐるぐる巻きミイラめ!》
白い布を体に巻き付けた状態で出現したマクシミリアンは剣を振りかぶりカヒリに飛びかかる。
カヒリは仕方なくナタリアから離れ、浮遊する剣の1本を手に取り下から振り上げて剣同士を激突させた。
「化け物が…」
《それはお前とお前の妻もだろうが。お前は死人で妻は魔王だぞ?》
「いいや、勇者と魔王だ。最強の夫婦だ」
《へぇ?》
「最強の夫婦は私達よ。異論は認めないわ!」
ギーナが虹色の炎を鞭のように伸ばしてマクシミリアンに振る。
「ナタリア!」
《滅べ!人間!》
しかし炎の鞭は魔王ナタリアの黒い刃に切断される。
そしてナタリアは空いた片手で自分の体に刺さる剣を抜こうと試みるが抜ける気配すらない。
《言ったろ?俺も魔王なんだよ。しかもお前なんかよりよっぽど最悪なアイデアを大量に持ってる。その剣な、"特注品"なんだぜ?》
「なら!」
「っ、カヒリ!」
カヒリに対抗すべくマクシミリアンはギーナに狙いを定めた。
体に巻き付く白い布がギーナへ伸び、左手首を縛る。
《燃やせ!》
「っ!ダメ!魔法が使えない!」
「互いに大切な女性を囚われた。男同士、正々堂々決着をつけようじゃないか」
《俺ならその布ぶち切れるぞ?》
「やめておけ。これがただの布だと思うか?」
《……あと少しだってのに…》
「互いに剣は1本。魔法は無し。降参も無しだ」
《勝手にどうぞ。ま、お前が降参するふりをしてもバレバレだろうけど。》
「こっちの台詞だ」
マクシミリアンは自身からギーナに伸びる布を斬った。
斬られた布はギーナの手元で伸縮し両手首を縛ってしまう。
「必ず勝つ。俺は勇者だ」
《勇者対魔王の図にしたいんだろうけど、残念ながら俺も勇者なんだよなぁ…》
「器じゃない。嘘だな」
《っは!後悔しても遅いからな。》
カヒリとマクシミリアンの激突。
2人が剣を交える頃、
「………、……、………」
キャロラインは白目になり意識を失いかけていた。
「でも簡単に殺すことは出来ないねぃ…ここに来るまで何度もカヒリに強く言われたのにねぃ…何を言われても見せられても、城の中にいるのは敵だって。…キャル嬢さえも………、…?」
カヒリの戦いを見守りながら、視界の端で動く何かに気づく。
それは
「…ソフィー嬢?」
うつ伏せに倒れるソフィー…の左手の指。
キャロラインから目を離さないように気をつけながらチャドはソフィーに近寄る。
「ソフィー嬢。無事なのかぃ?」
「………」
返事はない。
「ソフィー嬢」
確かに動くのを確認した左手に触れる…と
"キャルを殺さないで"
頭に浮かぶように聞こえてくる。
「……これは…ソフィー嬢なのかぃ?」
"キャルを殺しちゃだめ"
「何か知ってるのかぃ?…それなら教えてほしい」
"お願い"
そこで声は届かなくなってしまった。
理由は不明だが、ソフィーはキャロラインを殺すことに反対した。
それを聞いたチャドは。
「ソフィー嬢は女神様でもある。…だとしたらやっぱり何か理由があるんだろうねぃ…でも」
いざという時は。
キャロラインを殺せば、魔王ナタリアやマクシミリアンは必ず悪い反応を見せるはず。
もしかしたら、目の前で娘を失ったことで戦意喪失するかもしれない。
だから、いざという時には。
そう決めて、思い出したようにキャロラインへ視線を戻す…と。
「な…」
追い詰められた状態のキャロラインを力無く抱くクロア。
言葉にせずとも、クロアの考えがチャドには伝わった。
「…キャル嬢は殺さない……」
チャドがキャロラインの事で迷っているその時、
《な?言ったろ。》
「くっ…」
カヒリとマクシミリアンの戦いに決着がついた。
何度も剣を重ねる内にマクシミリアンの剣が劣化、それを見抜いたカヒリが剣の脆い部分を的確に打つと、マクシミリアンの剣が砕けてしまった。
《剣は1本、魔法無し、降参無しだよな。触れてはいないから、厳密に言えばお前は素手で俺に挑むことが出来る。でも力の差が分からないわけじゃないだろ?腐っても勇者なんだし。》
「……それでも戦う。最後の最後まで結果は分からない」
《なぁ。お前が魔王と世界を分け合ったのって、魔王がまさか自分の妻だとは思わなかったからだろ?》
「突然何を…」
《世界を脅かす魔王をぶっ殺す!って仲間達と旅に出て、いざ魔王と決戦って時にあれ?ナタリアじゃね?ってなったんだろ?メドルーナでそれっぽい本読んだんだよ。勇者達が魔王に全く手も足も出なくて勝てなくて女神がどうのこうのってさ。…違うよなあれ。お前と魔王がグルになって無理やり引き分けにしたんだろ?そんで勇者の仲間達は魔王が呪い殺した…口封じだよな。》
「…お前」
《それがこの結果だ。お前が躊躇って間違った選択をしたから、ああしてキャロラインまで巻き込んで…見てみ?白目だしもうすぐ口から泡吹くぞ?》
「や、やめろ…」
《家族ぐるみの魔国生活計画もこれで終わりだ。俺は遠慮しない。慈悲なんて期待すんなよ?ナタリアよりよっぽど魔王だぞ?9!》
《ッオぉ!?》
ナタリアの体に9本目の剣が突き刺さる。
マクシミリアンは膝から崩れ落ち、
「…だめだ。やめてくれ。負けは認める。頼む…妻と娘は…」
《へぇ。お前降参無しって自分で言ったくせにさ。なんだよそれ。だっせぇ。お前の甘さが招いたことだ。改めて死んで後悔しとけ。》
最後の1本をカヒリがナタリアに向けて投げる。
これが刺さればナタリアは剣の効果により死ぬことになるが
「だめだ!ナタリアーーーーっ!!」
マクシミリアンが飛び込み間に入る。
《あぁくそ。そう来たか。》
剣はナタリアには届かずマクシミリアンの胸を貫く。
と同時にギーナの手首を縛る布は消失した。
「カヒリ。」
《大丈夫か?》
「…剣を抜いたら?」
《いや、あれ1回刺さったら俺でも抜けない仕様なんだよね…》
「じゃあ…失敗?」
《いや、普通に殺そう。特殊勝利じゃなくて、普通に。》
「あ!キャル嬢!」
魔王ナタリア、そしてマクシミリアンを追い詰めた。
いよいよとどめを刺すというところで、チャドの慌てた声が聞こえてくる。
何事かと見れば、今の今まで行動不能状態だったキャロラインが走ってきている。
そして弱りきって動かない両親の状態を見て…
「……出会って間もない頃も私の邪魔をした。覚えてる?」
《あ?邪魔したっけか?》
「覚えてないんだ。……そっか」
「様子が変だわ。」
「突然目覚めて走り出したんだよねぃ!……今度は一体…」
チャドが追いついたところで、キャロラインに変化が起きる。
首から下げる宝石を握り、じっとカヒリ達を睨む。
するとその場に冷気が生まれ、
「私はこの国、エンヅォルトの王。勇者のお父さんと魔王のお母さんの娘…」
レスナとアルタの体を貫き拘束していた黒い刃が消失。
キャロラインの足元に魔法陣が出現する。
「分からず屋で一方的で醜いあなた達が憎い。表面上は優しいふりして結局は気に入らない相手を平気で殺すあなた達が恐ろしい」
魔法陣から黒い水が溢れ、床を広がっていく。
床一面が黒い鏡のようになり様々な物を反射して映す。
「私達がこうしている間にも、人間の国には魔物達が戦争を仕掛けてる。ハートもキングエルも、今頃全部の国が魔物達に支配されてる。…だとしたら、残すはあなた達だけ」
キャロラインは目を閉じる。
「っ、あ、足が!」
「床が凍ってるんだわ!」
《は?溶かせ!》
「ブレイズ!……効いてない…」
床に広がった黒い水が凍り、3人の足が床に氷漬けにされてしまう。
「そう、後はあなた達だけ。だから、あなた達を殺して」
キャロラインの手から黒い水が溢れ、水は弓の形になり固まった。
「私、この世界を征服します」
宣言し、改めて目を開いたキャロライン。
彼女の目は黒一色に染まっていた。
/////////////To be continued...




