第9話「再燃する光」
「…さようなら、ソフィー」
トン…そんな軽い衝撃。
いつの間にか雑音は消えて、無音の世界。
こんなもんなんだ。とソフィーは知った。
簡単に、死んでしまうのだと。
何度も聞かされた女神は死なないという情報。
7人も強力な力を持つ女神がいて、なぜ魔王が今まで存在していたのか。
それが分かった気がした。
情報は間違いだった。
死なない"はず"だったのだ。
戦いを中断したのは、死なないはずの女神を殺せる力が魔王側にはあったからだ。
実際、魔国での戦闘でも一部の敵にはソフィーの光線が効かなかった。
女神だけでは絶対に勝てないと分かっていたから長い年月をかけて次の勇者を待っていたのだ。
しかし、今回は中途半端に女神と子供1人で戦うことになってしまった。
勝ちを急いだ結果、このような結果になってしまった。
もしやり直せたなら。
もし、最初からやり直せたなら。
きっと、キャロラインが魔国を目指すのを反対しただろう。
彼女が魔王の娘だと知っていたら、
魔王である母親が娘を取り戻したから、
ああ、
一瞬で様々な考えが脳内を埋め尽くす。
どれもこれも、"あの時こうしていれば"、"別の選択をしていれば"という叶わない願いばかり。
仕方なく現実を見れば、ソフィーの視界はもう床で埋まっていた。
胸に穴が空いたような寂しさを抱えて…否、実際に穴は空いているのだ。
動きを封じられ、女神の力も使えず、肉体が死ぬ。
そうなれば女神でも本当に死んでしまう。
何も出来ないまま、感覚がゆっくりと薄れていく中…会話が聞こえた。
「お母さん。お父さんを戻して」
《……》
「どうして出来ないの!私のお願いなんでも聞いてくれるんだよねぇ!?違うの!?お母さんなんでしょう!?」
《……》
「…え?女神?もう終わったんじゃないの?」
《……》
「全員殺せばいいの?そしたらお父さんは…」
《……》
「分かった。私が世界を征服する。女神を殺して、世界の王になる。魔物達を人間の世界に行かせて。魔国で過ごしてたから分かる。魔物は人間が大好物なんだって。頭が悪い子と、人間の言葉が話せる賢い子を一緒にして部隊を作って」
《……》
「大丈夫だよ。カヒリもギーナもチャドも女神達も…強い人はみんなこの国にいる。今人間の国を守れる強い人はいないんだから」
知らせる術はない。
なのに知ってしまった。
これ以上ない悲しみがソフィーにとどめを刺し、彼女は静かに涙を流した。
「人間の国を攻めれば姿を隠してる女神達もすぐに姿を現すよ。そしたら殺そう」
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キングエル、ゴルゴラ、ハート。
魔国から直接通じる土地に多くの魔物が出現した。
今のゴルゴラには人間がいない。
なので魔物達はこの国を拠点にすることにした。
そのまま通じるロガドガ山からも魔物達が下山し合流。
あっという間に強大な勢力になった。
ハートでは守り手と狩人が無効化された境界付近で魔物達を迎え撃っていた。
しかし、これまでの"控えめ"な数とは違い人間の総人口を簡単に超えるほどの大群に押され、国で暮らす非戦闘員の民が魔物達の食い物にされてしまう。
そしてキングエル。
"マクシミリアン王の死の呪い"、"王女キャロラインの呪い"、とにかく王族による復讐だという報せがすぐにライヴァンまで届けられ、援軍が来るまで力自慢の男達や城を警護していた元兵士達が戦うことになった。
しかしハイドシークの森から出現する魔物達は圧倒的に強く、魔物の数を減らすどころかキングエルはすぐに壊滅状態に。
続けてライヴァン、メドルーナ、アグリアスが標的にされ、魔物達が進軍していく。
……そして、ライヴァンでは。
「境界付近、そしてキングエルから大量の魔物が…そうか…」
報せを聞いたリーファン。
戦うことをやめて穏やかな暮らしを選択した彼に訪れた悲報。
恐らく彼だけが事情をよく分かっている。
だからこそ、この展開を迎えてしまったことに深く恐怖した。
「魔国で敗れたのか。…皆…」
共に旅をした仲間達、共に戦った仲間達。
魔国へ向かった彼らが敗北し、事実上…人間の敗北が決定。
これからこの国に攻めてくる魔物達と戦うのは、悪あがきでしかない。
子供を抱えて走る母親。馬車に雑に荷物を積む父親。
彼らはどこへ逃げるつもりだろうか。
もう、安全な場所なんてどこにもないというのに。
「強いて言うなら、聖なる場所に行くべきかな。きっと魂は守られるはず」
リーファンは逃げ惑う人間達の波に逆らい、教会へ向かった。
いつの日か、キャロラインとやって来た教会。
ゼグエグという恐ろしい魔物と初めて遭遇した教会。
まだ自分には勇者として、選ばれし者として戦うという運命が待っていると信じていたあの頃。
回想することで近づく死を実感し無性に悲しくなる。
到着した教会には既に何人かが逃げ込んで祈りを捧げていた。
ステンドグラスの鮮やかさに気を取られ、続けて神父の声が聞こえてくる。
きっと最後の瞬間まで神父は祈り続けるのだろう。
「…俺も祈ろう」
前方、神父のすぐ近くの長椅子に座り、祈りの言葉に耳を傾ける。
ステンドグラスを見上げ、訪れる未来を知りながら
「神よ、人間を愛する女神よ、守りたまえ。弱き魂を、聖なる愛で守りたまえ。そして」
"立ち上がるのです"
「……」
言葉に詰まる。
祈りは中断され、リーファンは周りを見回す。
"その魂を燃やすのです"
誰も彼に話しかけていない。
では、誰の声が聞こえるのか。
"再び剣を持ち、人々に希望の火を灯すのです"
「"再燃の女神"…!」
その時、悲鳴が聞こえた。
その時、教会の中に侵入する殺意を感じた。
その時、ステンドグラスが砕け散った。
彼は周りを気にせずステンドグラスの破片を漁った。
誰に教えられたわけでもないのに、何かを探すように…そして、
「……!」
見つけた。
拾い上げたそれは、虹色の剣。
ステンドグラスの破片が形作る、まさに神の遺物。
「…プロティア様………!あなたは…俺を…選んでくださった……」
それはすなわち、ロガドガ山に登って以降心の中に燻っていた"選ばれし者ではない"という事実が否定されたということ。
今、この瞬間、再燃の女神プロティアは、リーファンを選んだ。
リーファンは剣を強く握り、涙を流した。
"私はまだ戻れません"
"あなたが国を守るのです"
頭の中に響くのは女神プロティアの言葉。
その言葉は折れてしまった彼の心を熱し、新たな剣へと打ち直した。
「燃虹のティアー」
その手に握る虹色の剣に名を与える。
すると剣は彼の声に応えるように鮮やかな光を放つ。
「…戦う。勇者として…!」
覚悟を決め、飛びかかってきた魔物を一刀両断。
教会に侵入してきた魔物達を簡単に斬り捨てていく。
数秒で魔物は片付いた。しかし生存者は少ない。
それでも生存者達の目はリーファンの期待通りだった。
希望を持っている。戦う彼の姿を見て、まだ終わらないと信じている。
リーファンは教会の外へ出ると、短時間で魔物達を斬り、逃げる民を助けていった。
ライヴァンだけは戦況が変わり、人間の世界で最後の国となった。
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「ね、簡単でしょ?あっという間に人間の世界なんて征服出来る」
キャロラインの元へ駆けてきたのは狼人間。
戦況を報告し、命令を伝える…伝達役だ。
「あなた達は賢くて強い。人間には魔物の考えなんて分からない。だからそのままでいい。でも、メドルーナは優先して。あの国には色んな国から人間が集まってるから。それから、常に魔物達の数を意識して。少ない部隊は合流するの。分かった?」
《分かっタ》
狼人間を見送り、キャロラインは母親の元へ。
優しく抱きしめてもらいながら
「ねぇ。そこの3人の女神はどうするの?」
《力を奪う》
「そんなこと出来たんだ。…どうやればいい?」
《もう少し…時間が要る》
「そっか。でも、みんな喋れないし動けないし大丈夫だよね」
《……》
「え?…多分カヒリ達だと思うよ。でもこの城まで来られるかな…それに、城の中だって」
《……》
「それ…本当?」
キャロラインは母親から離れる。
「任せて。味方のふりして殺してくる」
何を聞かされたのか、キャロラインは深刻な顔をして歩き出す…が。
《なぁるほどなぁー!味方のふりして殺しにくるのかー!》
部屋に通じる階段から聞こえる声。足音。
母親が剣を向け、黒い刃を延長し攻撃するが、虹色の炎が盾となり防がれる。
「残念ね。とっても」
「っ…、ふっ!」
慌ててキャロラインも攻撃。
女神の体をも簡単に破壊する威力のそれは
「もっと急ぐべきだったねぃ…英雄は遅れてやってくるっていうのは実際は格好悪いよねぃ」
《そう言うなよ。今回はたまたまだろうが。》
雷を纏う斧が簡単に防いでしまった。
「でも、本当にもっと急ぐべきだったわ。女神達が…」
「ソフィー嬢…!」
《ちょっ、やめて…直接責めてないけどじわじわくる》
階段を上がり姿を見せた3人。
斧を担ぐチャド。全身に炎を纏うギーナ。そして…
「だ、誰……!」
《キャロライン、忘れたか?俺だよ俺。泣く子も黙る英雄魔王アトズこと、カヒリさんだ。》
「ま…おう…」
《おうよ。んじゃあ早速本題。そこの魔王…ナタリア・ストーンを殺させてもらう》
自分の周囲に10本の剣を浮遊させる、大きな人形…魔王アトズと名乗るカヒリ。
指名した魔王ナタリアと睨み合い、右人差し指を向けて
《何もかも救ってやる。だから安心して逝きやがれ!》
声高らかに宣言し、新たな戦いの幕が上がった。
/////////////To be continued...




