第7話「異界の愛の形」
《ーーーーーーーーッ!!!!》
「ブレイズ!ブレイズ!」
「燃やしきれない!無限じゃねえか!!」
ギーナは両手から炎弾を放出し続ける。
再放出までの隙は1秒以下…高速かつ高熱のそれは空を飛ぶゼグエグ達を次々に撃ち落としていく。
カヒリは自分達に接近してくる個体を確実に潰していく。
羽根を砕き、細い四肢を砕き、動きを封じて
「お前らが感覚を共有してればいいのにな。でも喜べよ。お前の死の瞬間はお前だけのものだ。」
《キィーーーーーーーッ!!》
ギーナと同様に炎弾を放出。
今の1体を含め山積みになったゼグエグ達は小さな火種をもらって炎上。
断末魔の大合唱を背に、カヒリは途切れることなく迫るゼグエグの対処を続ける。
「カヒリ!時間をちょうだい!」
「ブレイズ…インパクト!!」
ギーナは魔法の溜めを開始、カヒリは自身の両手を燃やして両手で目の前のゼグエグを殴る。
殴った衝撃が空気から伝わり飛び回るゼグエグ達を一瞬怯ませる。
「組み合わせるわよ!タイフーン…エンド!」
ギーナの号令。
両手を空へ掲げると2人を囲うように竜巻が発生。
風力に影響されゼグエグ達が巻き込まれていく。
「ソードエンブレム!」
カヒリが竜巻に向けて発動した魔法。
効果が即座に反映され、竜巻に触れたゼグエグの体が切断される。
「ボルケーノエンブレム!」
ギーナが竜巻に向けて発動した魔法。
竜巻に獄炎の色が付き、切断されたゼグエグはそのまま燃えていく。
「よし…竜巻に吸い込まれてく。俺達の魔力が続けばしばらく自動で殺せる。」
「でも多すぎよ。いくらなんでもこの数は…」
「ゼグエグの巣、というか森?というか国?人間の世界であまり見かけないのはここで延々と繁殖を続けてたからってことだろうな。」
「カヒリ。悪いけど落ちてくる残骸を避けるために魔力を使わないで。その分も惜しいの。」
「……」
触れた者を切り刻み、燃やす竜巻。
ゼグエグ達は2人に近づくことが出来ずに絶命し、分解された体は燃えながら地面に降り注ぐ。
カヒリはギーナと手を繋ぎ、ギーナの魔力が心配になれば自身の魔力でも魔法を支えた。
そして。
「……景色が変わらない。今は一方的に殺せるけど…」
「とんでもない場所に飛ばされたわね…」
2人の周囲には細かい破片に成り代わったゼグエグ達が積み上がっていく。
「塵も積もれば…って言うけどさ。もう合計したら山超えてるよな。…それに」
2人の元気がなくなっていく。
それほどに発生させた竜巻の維持は厳しく、魔力を消費してしまう。
「ごめんなさい…うっ」
カヒリがくだらないことを言っている横で、ギーナが調子を崩す。
膝から崩れた彼女を抱き起こすと、黒い布からちらりと見える口元には血が。
「おい。」
「甘いのが鼻にまとわりついて、代わりに口で呼吸していても甘くて…気持ちが悪いの…」
そのまま噦くギーナにカヒリは背中を撫でてやることしか出来ない。
2人の集中が切れたことにより竜巻は消滅してしまった。
「20分は維持した。大丈夫。もう」
ギーナを励まそうとするカヒリ。
しかし、
《ギィーーーーーーーッ!》
鋭い羽音。
上空からカヒリの元へ真っ直ぐ飛行しそのまま羽根をぶつけて飛び去るゼグエグ。
接触した肩には切り傷が生まれ、一瞬にして鱗粉が擦り込まれていて。
「……大丈夫…あとは…」
《ギィッ!》《キシィッ!》
あれだけ殺したのに。
数えるのが馬鹿らしいほど大量のゼグエグを殺したのに。
竜巻が消えても、空はまだゼグエグ達で埋め尽くされていた。
抵抗することが出来ず、ギーナを屈ませ、覆いかぶさり盾になるカヒリ。
高速で激突し飛び去る…1体ならまだ大したことのない攻撃が、2…3体以上同時に、そして永遠と思えるほど続く。
カヒリの纏う黒い布はズタズタになり、もう姿を隠すという用途では2度と使えないほどになっていた。
露出した肌には次々に切り傷が生まれ、ゼグエグの鱗粉が擦り込まれていく。
「…カヒリ……」
「………」
不調以外にも自身の体に異変を感じ、ギーナがカヒリを気にかける。
しかし返事はない。
代わりに耳に入ってくる音といえば、精神を掻き乱すような羽音と体のぶつかる音。
感覚的に彼が一方的に攻撃されていると分かる。
「カヒリ…私…怖い…」
「………」
ギーナには何も見えない。カヒリのおかげだ。
彼のおかげで、恐怖は激減している。
視界から伝わる絶望を遮断し、代わりに安心感を与える。
しかし、ゼグエグがカヒリと激突するたびに彼が漏らす小さな小さな声。
「…、…、っ、」
その威力が上がっていることと、カヒリの体にも限界が見え始めていることが分かってしまう。
「……カヒリ。前に約束したわよね。片方だけ勝手に死ぬなんて許さない。どいて…」
「嫌だ。」
「あなたが守ってくれても…あなたが死んだ後私は…」
カヒリがこのまま死ねば。
彼の死体の横で、ギーナは1人きりでゼグエグに殺されてしまう。
「でも生きてる間は…出来るなら死んだ後だって守りたいよ…逆の立場でもそうするだろ…」
「…一緒に死にましょう。」
「今まで…何回も死にそうな目にあってさ…その度にどうにか乗り越えてこれたのに…」
「分かってる…でももう無理よ…」
「次目覚めたら俺達もゼグエグになってたりしてな。」
「最後まで冗談言わないで。」
「本当に…終わり…か?」
「あの数よ。…せめてもの救いは、あなたと一緒にいられたこと。」
「………ごめんな。」
「全然。」
ギーナは自身の口元に手を器にして持っていく。
そしてそのまま吐血してしまう。
「俺の自分勝手は共有されちまう。…共鳴の印が悪く働くのはこれで4回目か。」
「それだけあなたが死に近づいてるってこと…。」
「いっつもそうだな。雑魚には強いのに。」
「やめて。世界を救った英雄よ。」
「………」
「ねぇ。」
「お前のことだから、最後はされるがままでも抱き合ったり手繋いだまま死にたいって言いたいんだろ。……」
「そうよ。」
「………………ダメだ。そんなの…許されない。」
ギーナを守るカヒリの体が震え、揺さぶられる。
十分に傷つけたと判断したゼグエグ達は2人に覆いかぶさっていく。
羽音は不快なだけでなく、その音から熱を高めていることも教えてくれる。
彼らにされたように、ゼグエグ達もまた、集合して自分達の体温を高めて2人を熱で殺そうとしていた。
「残してきた仲間達が許さない。…残してきた家族が許さない。…俺達の」
「やめて。」
「俺達の娘が許さない。」
「………でも…っ…こんなのどうやって勝つのよぉっ!!」
「時間くれ。お前1人分の防御魔法ならこれで」
カヒリはギーナに残った魔力を与える。それは彼の体を守るために温存しておいたもの。
魔力が空になっていくと、カヒリは切り裂かれ続けた体の痛みと向き合うことになる。
「いやぁ…!」
「絶対………生きて………やる……だから」
防御魔法を。
なかなか従ってくれず、泣きだすギーナに
「俺を諦めるな!!」
カヒリは声を絞り出して、彼女を突き飛ばした。
「…愛してる。」
彼の枯れそうな呟きを聞いて、ギーナは防御魔法を展開。
自身を守る球体のそれは、好機と迫るゼグエグを寄せ付けない。
しかし代わりに身を晒すカヒリは……
「うぅっ…いやぁ……死なないで…おねっ、おねがぁい!!!」
すぐに大量のゼグエグに飲み込まれ、姿が見えなくなってしまった。
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「………」
カヒリの姿が見えなくなってしばらく。
ギーナは防御魔法の中で衰弱していた。
それは2人の間に結ばれた特殊な契約魔法によるもの。
一方が致死量を超える攻撃を受けると、超えた分がもう一方に分配される…。
最終的には片方が死ねばもう片方も死ぬ。
ギーナが生きているということは、それはそのままカヒリが生存しているという証拠になる。
ギーナは弱々しい呼吸をしながら、左手薬指にくっきりと浮かび上がる真紅の契約魔法の印をただただ見つめていた。
これが消える時、それが2人の最後だ。
嫌でも視界に入ってくるゼグエグはグチャグチャに入り交じり蠢いている。
防御魔法がなければこの中に飲み込まれていたことになるが、それは感想という概念を無くしたくなるほど気持ちが悪く、すぐにでも消えていなくなってしまいたい衝動に駆られる。
「……カヒリ。」
小さな声。
そして、少し迷うようにして。
「………ナギ。」
彼女は言い直した。
そして、ゆっくりと目を閉じて脱力。
そのまま仰向けに倒れ、防御魔法が薄れていく。
「愛してるわ。」
諦めたわけではない。
不可抗力だ。
魔力も生きるための活力も尽きてしまった。
だから、せめて。
自分達で慎重に扱ってきたそれを、解放する。
力の無くなった腕をゆっくりと動かし、顔を覆う布をずらす。
どうにか露出した美しい顔は、息苦しさを解消するように呼吸する。
彼女の眼前。
薄れていく防御魔法の隙間に腕を突き刺し、こちらに触れようともがくゼグエグ。
それを何もせず、ただ眺める。
何かが割れるような音がして、防御魔法が消滅。
ゼグエグは、ついに、
《初お披露目ダ。》
爆ぜた。
最小限の衝撃で爆ぜていく。
残骸すら残せず死滅していくゼグエグ達。
《俺ハ、アトズ。》
無限に存在するゼグエグ達が動くことすら許されないまま爆ぜていく。
まるでゼグエグという生き物の存在から否定するように。
簡単に消えていく。周りに積み上がっていた残骸も消えて、あっという間に"大量"で済む数にまで減ってしまった。
《善い者ヲ救う。悪い者モ救ウ…全てを。》
声の主は、
《醜き妖精、ゼグエグ。俺はお前達すらも救おう。》
一瞬だけ光を放った。
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《起きろ。もう終わった。》
体に優しく触れられ、心地よく揺さぶられる。
気がつけば、悪夢は終わっていた。
広大な土地。
どこまでも続く平坦な土。
どこまでも続く青い空。
それだけ。
落ち葉や、大木、…ゼグエグ達はそこには無い。
抱き起こされ、体に戻ってくる感覚。
そして気づく。
「…まだ…私達…死んでない…の?」
《当たり前だろ。俺がお前を死なせるものか。》
「………」
当たり前に彼女と会話する声。
彼女に触れ、彼女を見つめる存在。
…"彼"の髪に手を伸ばす。
「とてもザラザラしてるのね…」
《……》
「目は大きくてくっきり。それに丸くて、可愛い。」
《怖くないか?》
「全然。お人形さんね。あの子と同じ。妬けちゃうわ。」
ザラザラの黒髪。
人形と称される顔立ち、顔のパーツ。
肘や膝はまさに人形と言いたくなるような"骨組み"が感じられ、人間に言うのとは違う本来通りの"白い"肌。
通常の声にとてもひくい声が重なり二重になった彼の声を聞いて
「どうやったの?魔王アトズ。」
《分からない。気づいたら邪魔者はいなくなってた。》
「ふふ。秘密?」
《いや、もうカッコつけるのは終わり。変身は出来たけど攻撃方法も分かんないし、その…人間に戻る方法も…》
「……もう。せっかく良い雰囲気だったのに。」
《ごめん。》
「大丈夫よ。ありがとう。命懸けで守ってくれて。」
《そりゃまあ…》
「ねぇ、カヒリ。あれもあなたが?」
《ん?》
改めて、魔王アトズ…カヒリ。
彼は絶体絶命の時に、その身を魔王と呼ばれるそれに変えて、ゼグエグ達を葬った。
が、変身の方法が分からず"人形"の姿のままいつもの彼の話し方を貫く。
それが妙に面白くて、そして2人が無事生存出来たことに安心して、ギーナは涙を浮かべながら
空に出現した亀裂を指摘した。
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「最初は舐められてると思ったけどねぃ…こんな国だから、正々堂々なんて考えは要らないよねぃ?」
崩れ落ちる大男。声も出さず、身動きもせず、ただその場に沈む。
「魔物が大量にいるわけでもなく、ただ1人。バルディン…」
原因は不明だが、広大な魔国の土地に1人突っ立っていたバルディン。
それを、仲間と合流するべくさまよっていたチャドが発見、警戒しつつも無抵抗と知り、覚醒した自身の力を存分に発揮した結果。
大男は雷に貫かれ沈んだ。
あまりにも簡単な結末に複雑な気持ちになるチャドだったが、突如空に出現した亀裂が油断を許さなかった。
「バルディンを殺したらまた新たな敵が?…でも、何が来ても負ける気はしないねぃ…」
迎撃を試みるべく斧を構える。
が、亀裂から姿を現したのは…
「……炎鳥…!!」
それが味方のものであると知っているチャドは斧を下ろし、大きく手を振った。
/////////////To be continued...




