第1話「侵攻、そして開戦」
「今さら力をもったいぶるような真似はしないのさ!!」
先行するカヒリとギーナ。
その後ろでアルタが叫ぶと、ソフィー、レイゼン、クロアの名を呼び
「今は許す!疲労を忘れ、限界を忘れ、恐怖を忘れるのさ!」
「随分と人間に優しいな」
「お前も"前回"は砂糖を直接口に流し込むより人間に甘ーい女神だったのさ」
「ふん」
「クロア、大丈夫!?」
ソフィーはクロアに手を伸ばす。
アルタの力により"通常"な体を持つ3人は永遠に走り続けることが可能になっている。
が、ハート出身とはいえクロアの体そのものはまだ幼いのだ。
木々など地形を利用することも出来ずただ走り続けるだけのこの状況で彼はソフィーよりも走る速度が遅かった。
クロアはソフィーの手を握ると、彼女は自分の前の方へとクロアを引っ張った。
「あの2人は女神の力を使っているのか!?こんなに強い風を巻き起こしているのに味方には何も悪影響がない!」
「カヒリ達は特別なんです!さあ、走って!」
ソフィー、クロア、レイゼンは後列で走る。
その少し前をアルタとレスナが走る。
正面突破で油断ならない状況だが、女神2人は人間達には分からないように会話をしていた。
「半分パニック、少しだけ冷静。頭の中は7割くらい埋まってる。こういう頭真っ白になりそうな場面っていつぶりだよ!なあ!」
「どうするの!風で魔物を吹き飛ばすのも悪くないけど半分はこっちを追いかけてくるわ!後ろのみんなを危険に晒してしまう!」
「いや、この風が俺達の勢いを加速させる!どうしてもってんならみんなを頼む!10秒あればいい!」
「分かったわ!10秒よ!」
カヒリが真上に高く飛び離脱。
ギーナは瞬間に風をさらに強める。
「風魔法は嗜む程度なんだから!」
カヒリが抜けても風量は同等、むしろさらに増したようだった。
一行に魔物を一切寄せ付けないよう気を配りながら
「1…2…3…4…5…6…7…8…」
彼の言った通り数を数えていく。
残り2秒。その時
「吹っ飛べえええええええ!!」
後方から強烈な光が発生した。
直後ギーナの隣では何事もなくカヒリが並走していた。
「10秒!だろ!」
「どれくらい倒したの!」
「数える暇はなかった!でも魔国やべぇよ!魔物の繁殖力が!」
「聞くだけ無駄な数なのね…」
「大丈夫!このスピードなら俺が後2発撃てば!この先に何か街的なのが見えたから!そしたら魔物を片付けるのに集中出来る!それまでの辛抱だ!」
一行は走って、走って、走って、走った。
全く変わらない景色。
黒い空、焦げ茶の荒地、ほぼ全方位から迫るも風で吹き飛ばされる魔物達。
終わりがあるかどうかは関係ない。
後戻りする選択肢なんて存在しない。
/////////////now loading......
「よし!建物がある!魔物の国にもこういう拠点があったんだな…」
一行は広い荒地を走り抜けた。
正確な移動距離は不明だが、
「馬に3日、休まず無理をさせても抜けるのは不可能だったろう」
レイゼンが感覚で感想を述べた。
どうやらあの強風は魔物を退けながらも一行の追い風になって移動の補助にもなっていたようだった。
「ソフィー、お前はこっちなのさ。女神3人で固まっておくのさ」
「はい…あの、ありがとうございます。ロガドガ山の時と同じ。ずっと走れた」
「お前が本当に女神なのか疑いたくなるな。体は弱く、力も使わない。おまけにアルタの力に甘えるなど…」
「どの女神にも理解は出来ないのさ。"人間の真実を知るため"に仮の姿ではなく人間そのものに転生したと考えるしか」
「何も分からなくて…ごめんなさい。でも、」
「全員集合!」
カヒリが呼ぶ。
呼ばれてそのまま建物に入る。
中はというと、
「あー、ギーナ。水出して適当に洗い流してくれるか。」
「ええ、そうね。」
ギーナが水魔法を使い、床の血を流していく。
部屋の隅には形を保てなくなった肉片がいくつも転がっていた。
「なんか人間と同じ服着てたけど、俺達を見てすぐ襲ってきたし遠慮なく殺した。魔物臭も付いてるし、ここをしばらく拠点にしようかと思う。」
「拠点か。魔国に攻め込んだのはお前達が魔王を」
「殺すよ。それは任せろ。でもな、キャロラインを探しに来たのもあるんだよ。あいつがどこにいるのか調べる時間もほしい。でもお前達はダメな。俺とギーナが探してくるから。」
「その間、私とアルタに人間達のお守りをしろと」
「単純にここから出なきゃいい。外は魔物が我が物顔で歩いてんだから…というか好奇心旺盛な馬鹿はこの場にいないだろ?俺を除いて。」
「よく分かってるのさ」
「何かあったらとにかく空に向かって合図を送って。すぐに戻ってくるわ。」
「カヒリ、ギーナ。キャルのことお願い」
カヒリ達が出ていくと、部屋の中は静かになった。
家具は何も無い。部屋の隅には魔物の肉片。
それだけだ。わざわざ建物がある理由も分からない。
「人間になり損なったか」
「人間を食すのは人間の肉を食べれば同じになれると考えているから?レスナ、お前は相変わらず変な考え方なのさ」
「クロアとレイゼンさん…大丈夫?」
ソフィーが2人を気にかける。
若干落ち着かない様子だった。
「我々には難しい環境だ。魔物に囲まれながら落ち着いて待つというのは」
「僕も。…敵の気配を感じたらすぐに体を動かすように学んできたから…耳の先が痺れるよ…」
「敏感だな。ならばいっそ外に出て周囲の魔物を殺してきたらどうだ?」
「レスナ。煽るんじゃないのさ」
「私とお前だけでもこの一帯の魔物を皆殺しに出来るだろう。あの2人はなぜそれをさせず待てと言った。なぜお前もそれを受け入れた?」
「お前みたいのを戦闘狂って言うのさ。人間は考えて行動する。攻め時も、最悪の展開も、死の先も」
「女神様は魔王と戦ったの?今度はカヒリ達がいるし勝てるよね?」
「さあな。ふふ、真実の女神が戦いの記憶を忘れたのか?」
「むぐぐ…クロア、レイゼン。もう少し落ち着くのさ…許す。…お前達の醸し出す独特な殺気は賢い魔物にはすぐに分かるのさ」
「ごめんなさい…」「すまない」
「ねえ。私はなんでみんなと違うの?」
「はぁ。退屈しない女神だ」
「ソフィー、何が聞きたいのさ」
「その…私だけ人間だよね。女神というより。キャルと旅に出るまでは力の正しい使い方も、なぜ使えるのかもちゃんと分かってなかった。周りの人達はただ名前が同じだとか、奇跡的に目の色が違うからお前は特別なんだとか…」
「当然だ。何も知らない人間達に女神が何たるかを語ることは出来ない。その力の詳細も」
「前に人間のために戦った時も、今みたいに少しだけ意見が割れていたのさ。守っても再び立ち上がる者が現れなければ意味がない、何世代か先に必ず勇者が現れる…似ているのさ。今回と同じ、人間を良く思うか悪く思うか…」
「我々を地上に遣わせた神王も、我々に選択する余地を与えたほどだ。人間という存在は不確定なものばかりを抱えている。お前やプロティア、アラビタのように好意的に人間と関わる女神を」
「永遠に理解出来ないのはレスナだけなのさ。でも人間に転生したのはソフィー、お前だけなのさ。そしてその理由もお前にしか分からない。もしかしたら、魔王との戦いの先でお前は答えを見つけるかもしれない」
「うーん…」
「それから、女神の力についても話しておくのさ。なぜ、全て集める必要があるのか…」
「うん、知りたい…!」
「ふん、黙って聞いているお前達は運が良かったな。巷では"女神探し"が流行っているのだろう?」
しかし、クロアとレイゼンにはさっぱりだった。
「神王は人間に伝えたかった。意思を統一しろと。そしてそれは再起であれと。魔王に敗北した勇者達を見て、人間達の出した答えはあまりにも多すぎたのさ。勝つまで戦う、魔物のいない果てまで逃げる、見つからない土地に隠れる、このまま寿命を迎える、贅沢の限りを味わい尽くして死ぬ…正直、あれを見た時は今のレスナの意見にも賛成してしまうくらいなのさ」
「意思を統一し、結束しろ…それを伝えるべく、我々女神を遣わした。7つの力を別々の土地に分けた」
「ただ、それでも人間が素直に従うはずもないのさ。それに、従っては意味がない。だから、神王は他に2つ人間に選択肢を与えた」
「3つ、女神の力を揃えれば人間が自然に滅ぶまで魔物から世界を守ることが出来る。4つ、女神の力を揃えれば人間達が自ら世界を破壊することが出来る」
「現状維持と自殺。そして全て集めれば、世界を変えることが出来るのさ。結束し、意思が統一され、再起することを願うことが出来たその時は」
「この魔物の巣食う汚れた土地を我々の力を得た"最強不敗の人間"が……アルタ」
「外が怪しいのさ」
異様な気配に話を聞かせてくれた女神2人が警戒する。
「3つ…4つ…全て…?…なんだろう、どこかで…聞いたことある…かな…」
ソフィーは思考するので精一杯。
「クロア、レイゼン。お前達をもう少し強くするのさ。念のために」
「やれやれ。私の力か」
レスナが2人の右手首を掴む。
「怒りを鎮めよ、代わりに悲しみ、微笑む敵の顔を思い浮かべよ。怒りとは違う"怒り"を生み出せ。その時、我が裁きのレスナの力は開花する」
右手首に深緑色の模様が浮かび上がった。
「お前達の"器"はもう限界だ。これ以上我々の力を体に含めば即死する」
「僕達、戦う?」
「まだ分からないのさ。ここに隠れてると敵に知られたらその時は。いつでも戦えるように準備しておくのさ」
「子供と老いた男か」
「だとしてもお前が守ったハートの人間なのさ。お前と同じように強くあろうとする意思を持っている」
「あ!思い出した!」
ソフィーが記憶の引き出しを漁り終えたのと同時に、外から爆発する音と振動が伝わる。
「レイゼン、扉の前に。クロア、お前はレイゼンの体の隙間から撃て」
レスナに従い位置につく。
「メドルーナだよ!キャル達と初めてメドルーナに行った時に占い師の人に言われた!」
「ソフィー、今は呑気に話をしている場合じゃないのさ」
「あの声…そっか…チアン様はあの時から私達に伝えてたんだね…」
「お前何を」
再び爆発が外から伝わると、扉の取っ手が動く。
逃げ込みたくてしかたない何者かが取っ手を荒っぽく動かし、ついに
《クソ!なんなん》
「ふっ」
逃げ込んできた魔物の頭部をクロアが撃ち抜く。
続けて入ろうとしていた魔物がそれを目撃し
《人間だ!ここにも人間がいるぞ!!隠れて…》
「はぁっ!」
レイゼンが胴体を真っ二つに切断する。
「カヒリ兄ちゃん達、上手くいかなかったのかな」
「ここで籠城するか?それともあの2人と合流するか?」
「どちらも苦しい選択だ。レイゼン、剣士はお前1人だ。隣でお前を守ってくれる友はいないぞ」
「レスナ様。ハートの王として、勇者と共に旅をした英雄の血を引く者として、1人で戦うことに恐れなど!」
「ごたごた言ってる暇ないのさ!外!外に出るのさ!」
アルタが急かす。
それもそのはず、床下から地面を掘り上げて魔物がここに逃げ込んできたのだ。
《あ?お前達は》
細長い頭を晒し人間の存在に驚く魔物。
しかし言い切る前に光線がその存在を消し飛ばしてしまう。
「えへへ…」
すっきりした顔をしたソフィーだった。
「いいから全員外に出るのさーーー!!!」
/////////////now loading......
「意味分かんねぇ…」
「こんなことってあるの…?偶然なわけ…」
ソフィー達が拠点から離れる事を決めた頃。
カヒリとギーナは足を止め、思考も停止していた。
ギーナの右手に溜められていた魔法は消失する。
「ここまでのとは違う。石や木材で作られた建物じゃない。完全にコンクリートだ。ビルだ!窓ガラスだ!電飾だ!…それに、これって線路だよな…」
「………そうね…」
《いたぞ!あそこだ!》
《オレ様についてこい!あいつらの足を引きちぎってやる!》
「カヒリ!」
「悪い、燃やしてくれ。」
「ブレイズ…!!」
カヒリは目にする建造物から目を離せない。
ギーナは言われるままに追手の魔物に手を向けると、瞬間に大爆発が起きた。
「どうせ人間の世界にはいないだろうとは考えてたけどさ。まさか"人間の世界"のものをこっちで再現するのかよ…」
「まだまだ来るわ!キャルはどこにいるの!?」
「………キャルはもういい。」
「え?」
「終わらせよう。アイツはここに居る。」
「でも」
「ソフィー達が何とかする。俺達が騒いだから魔物達もこっちの対応で必死になってるだろ。女神も全部揃えたんだし。俺達は俺達の本来の目的を果たそう。」
「……なら急ぎましょう。もしあの子達が力不足でキャルを助けられなかったら…」
「サーチ。」
「…サーチ。」
そこへ、斧が2本。
カヒリ達の頭を狙うように縦回転で飛来する。
それをカヒリが手で払い除ける…と。
"彼"は着地した。
「おう、お前との再戦も魔国だと思ってたぜ?…バルディン。」
「もう!こんな時に!」
《大聖魔将、バルディン…》
「声変わりか?声が2重になってるあたり、人間辞めたな?」
カヒリが戦う姿勢を見せると、バルディンは
《うンンンンン!!!!》
自らの首に手を回し、背中の辺りに手を差し込んだ。
そして、ゆっくりと…力強く。それを引き抜く。
「…はは、まさかお前の武器とか言わないよな。それ、剣でも槍でもなく…背骨だろ?」
体から強引に引き抜かれ血に染まる大きな骨。
彼の体だからこそ武器になり得る大きさの骨。
そしてそれを引き抜いても、バルディンは顔色ひとつ変えない。
「とんでもねえ化け物だな…おい」
《強キ者…お前と戦う事ハ、我が喜び…》
「背骨抜き取って当たり前に構えるなよ…てか…なんで何ともないんだ…やめろその嬉しそうな顔…それとっくにドM通り越してるぞ。」
「本当に戦うの!?」
「悪い。どこ行っても負けたまんまは嫌なんだよ。…俺が誰だか…1番分かってるだろ?」
ギーナは諦めて背を向ける。
バルディンのことはカヒリに任せ、代わりに自分達を追ってきた魔物の大群に
「全く男の子ってみんなそういうので燃えちゃうんだから!!」
怒りを魔法に変えてぶつけた。
/////////////To be continued...




