第10話「折れた刃」
「リーフストーム…王族にのみ伝承される秘伝の技。真の力を見せようじゃないか」
レイゼンが竜巻に力を加えるように手を向ける。
向けられた左手からは特に何かが出ている様子はないが、
「風が強くなってんな…」
それだけ言ってカヒリはあえてその竜巻に突っ込んでいく。
葉と共に風に巻き込まれ、宙に浮きかけるが…
「万扇…!!」
カヒリが両手を広げると竜巻は爆散してしまった。
「なんっ…」
「だと?良いリアクションだな。葉が強風のおかげで刃物みたいに鋭くなってんのか。つまり並の人間の体なら竜巻に触れた途端に刻まれてく…似たような技術が後々家庭で使われるんだぜ?野菜とか果物、氷まで刃を高速回転させて細かく刻んでくれる調理器具が…おっと、脱線したな。」
「いいだろう。ならばこの剣、国宝の力を受けてみよ!」
「やなこった。」
レイゼンの大きな体は、踏み込みひとつから規格外なものになっていた。
簡単に距離を詰めて下から振り上げるように剣を動かし、
「よっ」
自分の顎の高さまで振り上げられたのを見て後ろへ下がるカヒリ。
しかし、レイゼンの剣は振り上げる途中で急停止し
「甘い」
振り上げから突きに変わった。
長剣の攻撃範囲を見越して縦の動きを予想し回避に動いたカヒリ。
急展開される突きという横の動きには対応しきれず
「おいおい!?」
どうにか体を反らしてみるも、長剣はカヒリの腹部を切り裂く。
身に纏う黒い布には裂け目。その隙間からは赤いものが見える。
「カヒリ!?」
攻撃を受けたカヒリにギーナが心配の色が強い声をかける。それを黙って見つめるレスナ。
「…さすがに最強武器なだけあるよな。切れ味抜群…。ギーナ、防御魔法。アルタ、ソフィー…お前達はそいつらが変なことしないようにしっかり見てろ。とりあえず味方全員、俺がいいって言うまで俺のことを見るな。」
「それよりも先に回復しないと」
「大丈夫だ。な。防御魔法頼む。」
ギーナは自分達を囲うように炎を展開する。炎はすぐに球体になり
「皆カヒリの言う通りにして。」
少し暗い声でギーナが指示を出す。
ソフィーとアルタがカヒリに背を向ける…がどうにも気になる様子。
しかし敵対関係であるレスナ達はカヒリのことを睨むように注目した。
「なるほど、お前も男だな。仲間に死に様を見せないように」
「んなわけないだろ。閲覧注意だから見て欲しくないだけだ。」
「カヒリと言ったか?ふん、お前に勝ち目があるとでも?」
「分かるよー。力を持ったやつは過信して自分の力に溺れるもんだよな。誰にでも訪れる通過点だ。そこで立ち直れるかどうかで主人公の適正度が分かる。ま、それはそれとして。ハンデやるよ。1回だけお前の攻撃を受けてやる。」
「……?」
突然の申し出に言葉に詰まるレイゼン。
「聞こえたろ。必殺技でも最終奥義でもなんでも、1回だけ受けてやる。どうする?調子ぶっこいて油断してる敵を楽してぶっ殺すチャンスだぞ?」
「正気か?」
「フェアに戦うわけないだろ。」
「…後悔しても遅いぞ」
2人の会話を聞くソフィーとレスナはずっと話しかけていた。
「カヒリ!カヒリ!なぜだ!なぜあの男は仲間の声を聞こうとしない!?」
「ギーナ!カヒリのこと止めないと!」
「無駄よ。この防御炎壁は音も遮断するの。」
「心配じゃないの!?」
「心配に決まってるわ。でも、それ以上に彼を信じてるの。」
ギーナが自身の左手を見つめる。
彼女の薬指には輝く指輪…とは別に、
「大丈夫。ね。」
薬指の根元から真紅の模様が浮かび上がっていた。
その間にレイゼンは剣を振り上げ力を溜めていた。
「受けきれるか…この力を」
「せいぜい体が切断されるくらいだろ?そういうビビらせる目的の確認いらないから集中しろよ。待ってんだから。」
切られた腹を擦りながらレイゼンの攻撃を待つカヒリ。
「……深緑の加護よ、我が地を邪悪から守るために力を授けよ。裁きの女神よ、敵を討つために聖なる力を授けよ。ハートに眠る全て魂よ、この剣に…」
レイゼンの足下の土が緑色に染まり、その緑がレイゼンの足へ移る。
染み渡るようにレイゼンの体を"緑"が登っていく…と、彼の瞳も同じように染まった。
「お前が私に許したその一撃、そのたったの一撃がお前の命運を…行くぞ」
「待ってました。」
ついに十分に力が溜まったレイゼン。
全身に緑色の光を纏い、長剣はその光が刃の延長を手伝う形となっていた。
ハートに存在する多数の大木の背を超える長さにまで延長された長剣。
「今お前に振り下ろすはハートの魂!受けてみよ……神葉剣…!!」
荒ぶる風が鳴き、刃の葉が舞い散る。
ハートに存在する全ての自然がカヒリに怒りを向けて襲いかかる。
それは紛れもなくレイゼンの出せる最大威力の攻撃。
「安心して土に還れ。お前の魂を我が地は歓迎しよう」
振り下ろしながらレイゼンがカヒリに別れを告げる。
神葉剣と名付けられたとてつもなく刃の延びた長剣がゆっくりと空気ごと切り裂きながら、ついに、カヒリの頭部から
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キングエル。
絶対安静のまま回復を待つリーファンとチャド。
この日、ようやく全快を医者に認められた。
「何日ぶりだろうねぃ…元気にはなったけど体が鈍ってるねぃ」
「ありがたいことに世話役の女性から噂話が毎日聞けた。俺達がいなくても城では大勢の男達が金品を探し回っている。俺達は女神探しに集中する方がいいかもしれない。アルタ様の時のように女神様が力を貸してくれれば」
「そうすればブラウンと再戦する事になっても同じ展開にはならないだろうねぃ。よし、そうしよう」
あれから数日。
リーファン達の嘘に騙された大勢の人間が城へ向かった。
何人かは身内の争いなどで怪我をしたようだが、魔物が発見された様子はなく。
しかし数人が城からそれなりの金品を持ち帰ったことが話題になり、隠された財宝を探すついでに城内の金になりそうな物を持って帰ることが流行になりつつあった。
食事を済ませ、準備を整え、チャドとリーファンは女神探しを始めることにした。
「でも、もう何日も経つ。俺達をキングエルに残したカヒリ達は今どうしているのか…」
「向こうも苦戦してるのかもしれないねぃ。ロガドガ山でのことは偶然起きたことだしねぃ」
「手がかりは…特にない。キングエルはそれなりに広大な土地だ。どう探す?」
「城にはいないと思うねぃ。じゃなきゃブラウンが姿を現すはずがないからねぃ。あんな禍々しいのは…」
「簡単にたどり着くことが出来ない場所、という考え方は正しいだろうか。だとすれば…やはり俺は城が気になってしまうが…」
「オイラがメドルーナでチアン様を見つけた時は誰でも通れる場所に居たからねぃ。色々考えてしまうと逆に見つけにくくなるのかもねぃ」
「…そうだな。では、体を動かすとしよう。ハイドシークの森には魔物が棲む。戦って勘を取り戻そう」
「そうだねぃ」
まっすぐ森へ向かう2人。
到着して足を踏み入れてすぐ、リーファンが慌てて森の外へ出た。
「……っ」
「リーファン?どうしたんだぃ?」
「チャド。君は気づかないか?」
「うん?」
もう一度リーファンが森へ足を踏み入れる。
が、少し進んだ場所にいるチャドの元へ戻ることが出来ずすぐに森から出てしまう。
「リーファン。まだ魔物も見つかってないのに…、もしかして怖いのかぃ?」
「………チャド」
「大丈夫。オイラがいるからねぃ。2人で戦えば魔物相手に負けるようなことは」
「違う。この感覚、なぜ分からないんだ」
「何のことか分からないねぃ。直接言えない内容なのかぃ?」
「………奥にいる。……"何か"が」
リーファンの声の震え。
深刻な問題なのだとチャドがようやく気づいて、改めて気配を探る。
リーファンの言う通りに森の奥へと視線を動かして。
「提案しておいてどうかと思うが、ここは退いて何人か護衛を雇ってから戻ってきてもいいと考えているよ」
「ハートで培った野生の勘のようなものなのかねぃ…」
「………っ、来る…!」
リーファンが1歩下がり、逃げ腰になりながら慌てて剣を構えた。
それを見てチャドも自慢の斧を構える。
その時、森の奥から小さな光が。
「薄暗い森の中から突然虹色の光が…」
「虹色といえば…だとしてもこんなに殺意丸出しなわけないねぃ」
チャドは虹色の光の正体はギーナなのでは?と口に出すか考えてみるがすぐに却下した。
「…甘い香り…!チャド!」
「分からないけど何が来ても戦うことに変わりはないからねぃ!」
2人の前に姿を現したのは。
木の枝のように細い体、宝石よりも綺麗な虹色の薄い羽根。
そして鼻で呼吸すると強烈な刺激を与える甘い香り。
「ゼグエグ!!」
リーファンは左方向へ飛び込みながら前進し、チャドはその場で斧を振り上げる。
《…見つけた。見つけたんだよ》
2人の前で静止し高速で羽根を動かし浮遊する。
すると左からリーファンが
「はぁぁっ!」
飛び込みながらの一閃。
カヒリほどではないが、人間にしてはとても速い部類の攻撃。
速度の乗った攻撃はゼグエグの羽根の付け根に…しかし、頑丈な岩に剣を振ったように弾き返されてしまう。
「サンダー…ボルトぉぉ!!」
剣を弾かれたリーファンが攻撃範囲から逃れたところでチャドが攻撃する。
雷鳴と共に木々が破壊され、標的となるゼグエグも
《そんなの痛くない。痛くないんだよ》
…破壊、とはいかなかった。
ゼグエグはお返しにと羽根を高速で動かすと、
「チャド!鱗粉だ!」
リーファンは完全に敵に背を向けながらチャドの横を抜けていく。
「逃げるぞ!」
「でも」
「俺達には無理だ!早く!走れ!」
逃げ出してしまうリーファン。
チャドは迷うが、ゼグエグに背を向けないまま逃げることにした。
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人の多い場所まで戻って、息を整える2人。
「リーファン。君らしくないねぃ。なぜ逃げたのか聞かせてもらおうかねぃ」
チャドは苛立ちを見せ、そのままリーファンにぶつける。
それは戦場に立つ人間として、最も許されない行いをしたからだ。
「逃げるしかなかった。君はゼグエグの体の硬さを見なかったのか?あんなに細い体に、俺達の武器はなぜ弾かれた?」
「そんなことで逃げ出したのかぃ?」
「そんなこと…?ああ、そんなことさ…。チャド。君は"あれ"のことをどれだけ知っている。俺はあれのことを調べるために長い時間を要した。…今の俺にはあれをどうにかする力は無いんだ」
「…?」
「薄々気づいていた。ハートから逃げ出し、君達とロガドガ山を登りながら…俺は二度と以前と同じように剣を振ることが出来ないと。街を歩くその辺の人間と変わらないんだ…もう、今の俺は…」
「リーファン」
「ハートで!あの場所で!俺は国王に敗れた!死に瀕して、君達と行動を共にすると決めて…あの時点で俺は…俺は…」
少しの間。リーファンは武器を携えるベルトを外して地面に捨てた。
捨てられた剣、それを見るリーファン。
「力を失った。幼い頃から一生懸命剣を振って会得した技も、魔力を使う秘技も。手に入れた力の全てを失ったんだ…」
「それでも君は王子だし、勇者でもある。それは変わらないはずだねぃ」
「国を追い出された時点で王子でもない。勇者…それも当てはまりはしない。アルタ様も言っていただろう?相応しくないと」
「悲しいねぃ。そんなに弱っちい男に成り下がっていたなんて。ハートで死にそうになっていた君を必死に助けてくれた恩人達に申し訳ないと思わないのかぃ?」
「同じ立場にならなければ理解出来ないさ。…すまない。もう強がって君達と行動を共にするのは耐えられない」
リーファンはチャドに背を向けた。
「魔物相手に怖気付くんだし、仕方ないねぃ。…あの時アルタ様はこうも言っていたねぃ…俺達は戦う運命にはないから、穏やかな暮らしを望んでもいい…誰にも責められやしない」
「誰も人間に残された使命を知らないから…」
「さっきの戦闘でついに心が折れてしまったんだねぃ…。無理強いは出来ない。…リーファン・ハート」
改めて名前を呼ばれ振り向くと、チャドは握手を求めてきた。
「君はもう十分戦った。終わり方は残念だと思うけどねぃ…。それでも十分やった。ここでお別れだねぃ。世界のことはオイラ達に任せて…」
「本当にすまない。……力を失ってからの旅はずっと恐怖に心が支配されていて苦しかったんだ。ゼグエグというより、ブラウンに焼かれた時に俺は限界を迎えた。…商人の馬車に乗せてもらってライヴァンに行くよ。あの国でやり直そうと思う」
握手を交わし、リーファンはそのまま去っていった。
「ならオイラは、森に戻るしかないよねぃ」
リーファンの姿が見えなくなると、チャドは捨てられた剣を拾って歩き出した。
/////////////To be continued...




