第8話「真実の女神」
「いいか、こう…向かってくるだろ?」
メドルーナを離れハートへ向かうカヒリ、ギーナ、ソフィー、アルタ。
その道中の森でソフィーを一人前にするとカヒリが言い出し、アルタを敵に見立てて指導を始める。
カヒリがアルタに走るよう言うと、アルタは渋々といった様子で
「行くのさーーー…」
ただ子供が元気に走ってくる。という光景。
「これで、向こうが武器を持ってたり盾を構えてたりもするわけだ。背は気にすんな、小さくても大きくてもやる事は変わんないから。見とけよ?」
カヒリの右足は地面を滑りながら後ろへ、
「迎撃に失敗したらすぐ逃げられるようにしとくんだ。利き足を下げとくのがいい。そしたら、」
ソフィーの唯一使える魔法攻撃を真似るように向かってくるアルタに手を向けると
「直撃してくれりゃあいいが、まあ基本は足だ。卑怯だと言われても足だ。足やられたら攻撃も防御も一気に質が下がるんだよ。実体験だからこれ。」
魔法の代わりに即座に足下の小石を投げた。
「なっ!?」
が、小石の速度がおかしい。
カヒリの手を離れた次の瞬間にはアルタの踏み出そうとした足の着地点の土を激しく抉っていた。
「当たったら、相手の反応を見て追撃か離脱かを判断しろ。ソフィーなら離脱がいいか。これを繰り返す。相手を誘って、逃げ回りながら、ビームな。これをヒットアンドアウェイと言います。」
「……カヒリ、アルタ様が」
「おう?」
「お前…女神相手に随分と…」
「なんだよ。当ててないだろ?犠牲になったのは土だし、ソフィーだって魔法使ったらこんなもんだろ?」
「小石よりは強い……って自信持って言えない」
「投げただけで小石を弾丸に変えるカヒリが特殊なのよ。じゃあ、アルタ様はソフィーの隣に。私がソフィー役でカヒリと戦って見せるわね。」
ギーナも指導に加わる。
空に異変が起きた以上、いよいよ急ぐ必要性が目に見えているわけだが、カヒリ達はソフィーの育成はこの時間しか機会がない…と考えた。
「ソフィー。お前の経緯は聞いた。小さな村で育ったからこそ、お前は良い意味で恵まれなかったのさ。そしてそれが今となっては。戦を知らないことが不幸に繋がるなんて思ってもみなかったのさ」
「…でも、私が頑張らないと…迷惑だもんね」
ミフィーリアは平和だった。
ライヴァンとゴルゴラの間にあるおかげで、誰も武器を持つ必要がない。
そこで育ったソフィーは、女神の力を持っていてもそれの詳しい使い方などは誰にも教えてもらえなかった。
「私が出す水をあなたの魔法だと思ってね。じゃあカヒリが言ってた立ち回りを見せるわ。」
「何回か見せるぞ。敵にも色んな速さの奴がいるし、魔物なら四足歩行だっているしな。」
昼と夜が一瞬で変わり続ける今、人間達の時間の概念が捻じ曲がっていく。
カヒリ達はソフィーのために時間をかける。しかし、かけすぎない。
ソフィーは自身の身に宿る左目の力を存分に発揮し、ギーナの立ち回りとカヒリの立ち回りを記憶していく。
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「ありがとう。…あとは体がその通りに動くかどうか…」
「練習は十分やったよ。体内時計で2時間くらいだけどな。ある意味エキスパートな俺達に教わったんだしお前はもうそこらの兵士より強いはずだ。」
「それに、もうハートに到着するわ。いきなり本番になるから心配だけど、私が援護するから安心して。」
「お前達、ソフィーが女神として覚醒したら二度とそんな口を利くことなんて出来ないのさ」
「むしろその方がいいな。」
「こら。ソフィーを緊張させないで。」
ハートに到着すれば、そこには人間と敵対することを選んだ女神達が待っている。
戦闘になることは必至だ。
そこにか弱いままのソフィーを連れて行くのは自分達にもソフィー自身にも不利に繋がる。
そんなことは全員が分かっていた。全員が。
ハートへ続く森は、整備されていた。
一部の木々が狩られ、綺麗な道が作られている。
これはハート側に変化が起きた証拠。
4人が見据える道の先には、広がって待ち構える数人の人影。
「守り手か狩人か。どっちもか?というか女神って人間も操れたっけ?あ、もしかしてあれか?やっぱり一部の選ばれた選民は生かしておきます的な。」
「女神は人間に従うように命令したりしないのさ。人間が勝手に従ったり従わなかったりする。今回の場合は、滅ぼされるのが怖くて勝手に従ってるのさ」
「なるほどな。いじめられるのが怖いから一緒にいじめる側になったと。」
「残念ね。そういう立ち位置って結局最後は」
「やめてやれ。それを見てざまあみろって言うまでが」「来るのさ」
アルタがソフィーの隣へ移動し後衛に。
カヒリとギーナが前に出たところで、人影が動き出す。
「ソフィー。お前は確かに弱かった。でも、見込みの無いやつに戦い方を教えたりしないもんだぜ?自信持て。死にたくないって、強くありたいって、誰かを守りたいって…その気持ちだけで全身を満たせ。失敗したって俺達がいる。」
「うふふ。もしかしたら、私達だけで終わらせてしまうかもしれないけど。」
ふざけた調子から真剣な声に変わるカヒリ。
その隣で両手に炎を持ち不敵な笑みを浮かべるギーナ。
雰囲気が変わった2人。
「レスナ様の名のもとに!お前達を裁かせてもらう!!」
「覚悟ぉぉぉ!!」
向かってくる2人の人間をカヒリが蹴り飛ばす。
後続の人間達に向けてギーナが炎を飛ばす。
何の迷いもない連携、そして
「やっぱり混合だな。守り手は起き上がるぞ。アルタ!ソフィー!」
炎に怯みこちらに来れないのが狩人。
カヒリに蹴り飛ばされた2人は守り手。
分かりやすい彼らに対し、ギーナが強く出る。
炎球を何度も放ち森を焼いていく。
ギーナが後続の足止めをすると、カヒリは立ち上がった守り手の1人に
「悪いな。死なせた方が楽にしてやれるんだけど、そうもいかないだろ。」
そう言って手足を手刀で砕いた。
悶え苦しむところにさらに蹴りを追加し気絶させる。
「……たったの4人。我々には難しくても女神様なら」
「その4人の内2人が女神なんだけどな。ソフィー。お前に試練を与える。そいつを1人でぶっ倒せ。どうしてもって時はアルタが助けてくれる。俺とギーナはそれまで休憩な。」
「え…」
立ち上がりソフィーを睨む男。
右手に持つ剣は刃が湾曲しており、所々刃に色が付いている。
「毒剣使いってとこか。」
「毒…」
ソフィーが恐る恐る身構えると、
「ふっ。守り手に機会を与えたことを後悔させてやる」
男は剣を振りかざし飛び上がる。
木の上まで飛び、枝から枝へ飛び移り、ソフィーを惑わす。
「ふぅ…だ、ダイブ…だよね。……っ…」
ソフィーは目を閉じ、守り手の男を目で追わない。
「…はっ…!」
男は枝から高く飛び、ソフィーの真上へ。
剣を下向きに構えてそのまま落下する。
「正義を追求せし光、」
((ホーリーグレイヴ))
ソフィーの魔法攻撃は真上に迫る守り手の男ではなく、誰もいない横方向に放たれた。
これまでの魔法とは違い、カヒリの言う"ビーム"になっていた。
薄黄色の極太の光線はソフィーが望む限り彼女の手元から放たれ続ける。
そして、ソフィーはその場から数歩後ろへ下がる。
すると、守り手の男の着地点にはソフィーではなく彼女の放つ光線が…
「くっ…!?」
飛んでしまっては逃げ場がない。
男はそのまま光線に直撃する形で落下した。
光線は男の体を捉えるとその威力を発揮する。
刃物が突き刺さるような音が途切れることなく発生し、
「ごめんなさい…でも、私は…私は…!」
ソフィーがついに覚悟を決めると光線が収縮、光線の中から姿を見せた男の体は焼け爛れていた。
「この世界を、守りたい…っ」
続けて爆発。男はその体を四方八方に撒き散らし絶命した。
「……その…なんだ、思ったより火力…高くね?」
「まさか、あの短時間で急成長したのかしら。」
「…これが、私…」
誰よりも目を大きく見開き驚くのはソフィー自身だった。
この守り手の男は、カヒリが数百とも言えるほどに見せた"アプローチ"の内の1つを披露してしまった。
"木の上から飛びかかる"、ソフィーはその手法に対する立ち回りをいくつも記憶している。
反応が遅れたと思わせて直前で回避し継続する攻撃を代わりに置いておく。
というギーナのとっておきの立ち回りを見事成功させた。
「守り手。今の人間は本気でお前を殺す気だったのさ。それでもお前がやったことは、数歩動いて魔法を撃っただけ。ソフィー。お前は女神の力に目覚めつつあるのさ。もう守られる必要はない」
「アルタ様…」
「ようし。ソフィーがいい感じなら、もう始めるとしようぜ。向こうはウズウズしてるみたいだし。」
「炎のおかげで向こうからはこっちがよく見えていないわ。先制するわよ。」
ギーナがソフィーに手で促す。それは、森を焼く炎の壁を貫き向こう側にいる敵に攻撃する…ということ。
「やるのさ。"真実の女神"、ソフィー」
「…うん…!」
狙う場所はカヒリとギーナが示す。
2人の間を先ほどの光線で撃ち抜けばいい。
「正義を追求せし光…」
((ホーリーグレイヴ))
「うわっ」「んっ」
しかし放たれた光線はさらに太くなっていた。カヒリとギーナが思わず飛び退く。
森を、さらには炎をも焼きながら延びていく真実の光。
遠くから聞こえる多くの声がその威力を物語る。
「や、やった!」
喜ぶソフィーだった。が。
「マジか…」
燃え盛る炎…それを割りながら歩いてくる3つの影。
「人間に任せていられないということなの…さ…?」
「あれ?」
……3つの影…からさらに1つ影が増えた。
「おい待て。女神が"挨拶"に来るのは分かるけどなんで4人?は?誰か裏切った?」
「そんなこと…アルタ様。どういうことなの?女神が」
「よく見るのさ。あれは…あれは…」
4人の前に姿を現す4人。
それぞれが自身の名を呼びながら立ち止まっていく。
「"専愛の女神"モア」
桃色の短髪で長身。服装も含めて男性的な容姿。
両手の指全てに銀色に輝く指輪を着けている。
一度だけ深く頷いてからソフィーの前に立ち止まる。
「"施しの女神"チアン」
水色の長髪に焼けた肌、派手な服装。
さらに、薄く透けている羽衣を上から羽織っている。
首を傾げながらギーナの前に立ち止まる。
「"裁きの女神"レスナ」
ハートの木々を思わせる緑色の髪は綺麗に編まれてまとまっている。
肌は青白く、目つきは鋭く、顔色が悪い。
いかにも"神"らしい白いドレス。
左手には黒い杖。紫色の玉がいくつも埋め込まれている。
視線を外さず睨みつけながらカヒリの前に立ち止まる。
「"女神の使徒"クロア」
白髪と花の冠。レスナとお揃いの白い布で作られた身軽な服。
左手には銀の弓を持っている。
アルタの前に立ち止まり、ゆっくりと瞬きをした。
「最後待て。うん、待て。一旦待て。」
カヒリがいつもの調子で場の雰囲気を崩そうとする。
「アルタ。ソフィー。そして、アラビタにプロティア。考えを改めろ。女神同士で争う必要はない…人間は不要、ただそれだけだ」
レスナは流されずアルタに声をかける。
「モアやチアンはともかく、お前はどうして人間を見捨てることにしたのさ。ハートの人間は神を失望させるような存在とは程遠いように思うが」
「"現状維持"。…ハートの王レイゼンの決断だ。あの男は我々女神に守られ安全な内に歳をとり楽に死のうとしている。勇者と共に生きたパラジー・ハートの子孫とは思えない出来損ないだ」
「お前はどの女神よりも人間を見てきたみたいなのさ。それも相当偏った目で。…変わらないのさ。それでも。ここにいるカヒリ達は、我々女神に期待させてくれる」
「やれやれ…お前は山にいたから生温い思考になってしまったようだな」
緩く首を横に振りながらレスナはアルタに残念そうに言う。
「ここに来た時点で争いは避けられない。それは分かっていたのさ」
「うん、もういい。もういいんだよその女神の牽制合戦。俺も喋りたい。そこのクロアだけツッコミ無しで進行するのは無理だ。な。いいだろ?」
カヒリが割って入る。
「お前人間じゃん、というかお前どっちかっていうと"こっち側"だろ?は?何してんの?」
「……ハートの…守り手…」
「あー、ボケてやがる。」
「女神には人を操る力があるってことよね。普段はそうする必要がないってだけ。」
「てかさ、お前らきっちり俺達の目の前に立ちやがって…。いかにもこの後1人ずつ戦いますみたいな構図作ってさ?」
「ふざけたことを。戦いはしない。"分からせる"だけだ」
「おう、黒幕のレスナさんは黙れ。」
「"真実の女神"。こちらに来なさい。その人間達と居たら、堕落してしまう」
モアがソフィーに手を伸ばす。しかし、差し出された手をソフィーは取らない。
「堕落?…そうかもね。カヒリもギーナもすっごく強いから、甘えちゃう。チャドは守ってくれるって約束したし、リーファンは優しい。キャルのために動きたいけど、結局みんなを頼っちゃう。そのままだったらキャルのことも助けられないし私も弱いまま。…堕落だよね。でも、みんなはそんなんじゃない。私を大切にしてくれるけど、甘やかしたりしない。私に強くなってほしいと"願って"くれる。…私は、その願いに応えたい。これからは女神として…」
「困りましたね。人間にしては強すぎます。身も心も」
断わられてモアの代わりにチアンが残念がる。
「人間。お前達が相手にするのは神だ。その意味が」
「レスナ。俺さっきなんて言った?」
「……?」
「黙れって言ったんだよ。…っは!どうせヤるんだろ!俺からすれば"全力"で戦えるだけマシだ!」
「カヒリ。」
「ギーナ。手加減すんな。腐っても神だからな。」
「そうか。戦うというのなら、望み通りに」
/////////////To be continued...




