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私、この世界を征服します。  作者: イイコワルイコ
5章「世界を守る力」
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第6話「バルディン」




「………」



喉が、乾いてる。

体の中が空っぽ。

耳鳴りがする。

何度も何度も、指が跳ねてる。

私は今、寝てるの?

それとも起きてるの?

何も見えない。


あ、そうだ、私、死ん


《起きる。起きるんだよ》


顔が、冷た…い


《持ってる。持ってるんだよ》


…目を閉じていたんだと今気がついた。

でも瞼が重くてまだ開けられない。


《君と同じで寂しい。寂しいんだよ。待ってるんだよ》


2人に声をかけられてる。男の人と女の人に。同時に話しかけられてる。


もう一度、顔が冷たくなってく。

顔の部分だけが寒い。


でも、そろそろ、目が開けられる。



「………」



ゆっくりと、暗闇から解放…されなかった。

目は確かに開けたはずなのに、まだ暗い。

でもその代わりに私を見下ろす存在には気づいた。


暗闇の中で宝石のように輝く虹色の羽根。ゆっくりと、そして時々素早く動く。

光に包まれた白銀の肌…眩しく思うけど、輪郭が柔らかいのが分かる。

2つの大きな目。真っ黒で…目を合わせたくない。

人間に似てる形をしているけど、違う。

顔も体も、人間かと見間違うけど、違う。

怖い。でも、でも、自然と手が伸びてしまう。


これはきっと、子供が絵本で見る、



「…妖…精」


《おはよう。おはようなんだよ》


1人の妖精。

伸ばした手を優しく握ってくれた。

私の目に映るよりも妖精の手はもっと細いみたいだ。


《もう大丈夫。誰も君を襲ったりしない。襲わないよ》


妖精には歯がないみたい。でも、違和感はない。

手をゆっくり引っ張られて、私は起き上がった。


「死んでない…」


何度も大丈夫と言われながら立ち上がった。

不安定ですぐ倒れそうになるけど、妖精が支えてくれる。

小さな口が何度も大丈夫と言ってくれる。



「大丈夫…」


《そう、大丈夫。大丈夫なんだよ。歩いて。君の願いを叶えるんだ。叶えるんだよ》


「願い…?」


《お母さんは待ってる。待ってるんだよ》


「っ…!…うぅっ!?」


大事なことを思い出した。

それと同時に、目が痛くなった。

泣くのをずっと堪えてたわけじゃないのに。

涙が目玉から吹き出そうな感覚がして。

でも、目を手で押さえてもこれは止められ


「あぁっ!?いやぁ!いやああっ!……」


続けて私が吐き出した悲鳴は自分の声なのに耳が痛くなった。

声がただの音に変わって、私の"聞く力"を破壊してしまった。

無音になっても私は叫び続けてる。

目が飛び出てしまいそうだから。こぼれ落ちてしまいそうだから上を向いて必死に押さえていないと


《…ぶ……うぶ…いじ……だ…ょう……だい…》


少しずつ、聞く力が戻ってきた。

妖精の声が聞こえる。


《大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫》


「…………うん」


大丈夫。大丈夫になった。

もう、"だいじょうぶ"が何なのか分からないけど、そう。大丈夫だ。


目も落ち着いた。


妖精は変わらず私を支えていて、でも暗闇じゃなくなった。

ここはどこ?


………あ。



「…ハイド、シーク」


魔物の屋敷だ。そうだ。

その魔物は私達の目の前で仰向けで倒れてる。


「私は…ハイドシークに…聞きたいことが」


《もういい。いいんだよ。お母さんが待ってる》


「え、…うん」


妖精に引っ張られる形で移動した。

屋敷を出るのに随分時間がかかった気がする。


でも外に出る頃には支えられなくても歩けるようになった。



「…騒がしい」


この音は聞き覚えがある。

戦場のそれだ。

走る音、武器がぶつかる音、殴り合う音、痛みを伝える音、勝ちを喜ぶ音、負けを悲しむ音、死を迎える音。

ゴルゴラで聞いた音。



「バルディン」


私はその音がよりうるさい方へ歩き出した。

妖精はついてきてくれる。




/////////////now loading......





「ふははははは!それでいい!だが足りんぞ!もっとだ!このバルディンを殺す気で来い!!」



そして彼を見つけた。


メドルーナにそっくりな場所で。

たくさんの屋台やお店が壊れてるけど。

道の真ん中で、彼は暴れてる。



飛びかかってくる魔物を右手で殴って。

足を狙う魔物を逆に踏み潰して。

背後を狙う魔物には上半身を回して左肘を当てて。


次々に襲いくる魔物を全て分かってるみたいに倒していく。

それでも魔物は数が減らない。もしかしたら増えてるかもしれない。


相手しきれなくて、バルディンの左腕に魔物が噛みついた。

でも彼は笑った。そして、噛みついた魔物の顔に噛みついた。

肉を噛みちぎって、食べてる。


「あれが、バルディン…」


少し遠くから見てるのに、これ以上近づきたくない。もっと離れたいとも思う。


武器も持たない大男が、終わらない猛攻を受け続けて嬉しそうに戯れてる。


向かっていく魔物達は目が必死だ。殺さなきゃいけないって目をしてる。

…あ、狼人間…もしかして


「そっか。みんな会えたんだね。よかった」


ウォーグ、ウォーガ、バルルグ、バルルガ。

私をこの魔物の国で殺さず、そして食わずに共に暮らしてくれた。

魔物に恩人というのが正しいか分からないけど、良い魔物達"だった"。


みんな、バルディンに殺され死んでしまった。


最初にウォーガが顔を殴り潰された。

次に足に噛みついて爪を立てたバルルグとバルルガが脳天に拳をもらって、拳をもらって、拳をもらって。2人仲良く頭が割れた。

最後にウォーグが短い時間だけどバルディンと組み合った。

互いに手首を掴んで純粋な力比べ…ウォーグは牙を剥き出しにして爪も立てた。爪がくい込んでバルディンの腕から血が出たけど、それを見たバルディンは嬉しそうに笑ってウォーグの手首を握り潰した。

そして左手でウォーグの首を掴んで、右手で腹を何度も殴った。

あまりの威力に腹を腕が貫通しても止めなかった。

もう死んでるのに、バルディンは殴り続けた。

そして、ウォーグの胸に手を入れて、何かを取り出してかぶりついた。




縦に回転しながら斧が飛んでいく。



接近したら勝てないと考えた魔物が武器を投げた。

でも、バルディンはその斧を掴んだ。

攻撃するはずが逆に武器を与えてしまった。

バルディンは止まらない。止まらない。

人間とは思えない力で、魔物達を殺していく。


それを私達は見届けた。



そして、私達だけになった。



「…なあぁ!信じられるか…!こんなに幸せなことがあったか…!?」


バルディンは汚れている。

全身に様々な魔物の返り血を浴びて、何よりも臭く汚れていた。


「覚えているぞ。お前は"大将軍"と共にしていた小娘だ。2人の人間が魔国に…天地の差だな。お前にとっては地獄だろう。いつ殺されるかも分からない」


「バルディン。あなたはどうして魔国にいるか分かる?」


「さあ?しかしそんなことはどうでもいい。理由はどうあれここはこの聖騎士バルディンにとって楽園そのもの!人間が到達出来ない高みで幾度も迫る死をこの手で、足で、体でねじ伏せていく…!!これ以上の幸せはあるか?」


「………」


「死にたくなければお前も魔物の肉を食らうといい。家畜の肉とは違うぞ。咀嚼するだけで体に力が宿る」


「そうなんだ」


私のそうなんだは、魔物の肉を食べると強くなれるということに対してじゃない。

今の発言はバルディンが私達に攻撃しないと言ったのと同じ。


「生きて帰れるかは知らんがな。ふはははは!それとも、この国で共に暮らすか?たったの2人。2人の人間によって魔物の国が滅びる…そしてこの広大な土地を我々で治める…新たな王として。それもまた面白いだろう?」


バルディンの自信は相当だ。

そして周囲を見回して、もう誰も襲ってこないのを確認するとため息をついた。


「今の祭りは楽しかった。それは偽りではない、確かだ。…しかしそれでは足りない。もっと、もっとこの身を危険に晒したい…!命をいつでも失ってしまう状況で、最強の相手と命のやり取りをしたい…」


「妖精」


《そろそろ行く。行くんだよ》


「バルディンを最強の魔物がいる所に…"魔王"がいる場所に案内して」


「お前、その魔物とどういう関係だ」


「妖精は妖精だよ」


《連れて行く?》


「はっ…。ははははははは…!それが出来るのか、その魔物に。自ら王に"死"を捧げようというのか」


「出来るんでしょ?案内して」



バルディンは、確かに強い。本当に強いから、誰にも、何にも負けないと思う。

だから私は考えた。

バルディンと一緒に魔王に会いに行く。

この国の王…世界の半分を治める王なら、私のお母さんがどこにいるか分かるはず。

もし魔王が私達を殺そうとしても、バルディンがいれば…。

守ってくれなくても、彼が暴れれば自然と魔物達はバルディンを優先する。

それが今の戦闘で分かった。



《分かった。行く。行くんだよ》



妖精が先頭。次に私。そこから少し離れてバルディン。


不思議な組み合わせの3人が、"死の溜まり場"を後にした。




/////////////now loading......




魔国には見慣れない物ばかりが存在してる。

魔王のいる場所に連れていってもらう間、私とバルディンはずっと首を動かしてたくさんのものを見た。


人間の国にあるものよりずっと大きくて頑丈な建物がいくつもあって。

たくさんの建物が並んで作られた街の中を、大きくて長い…鉄で出来た蛇が走り回っていて。

空を信じられない大きさの怪鳥が轟音を鳴らして行き交う。

それから、それから。

街にはたくさんの色があった。

眩しい光に色がついていて、それが点滅したりずっと照らしていたり。

文字に見えるものもあったけど読めそうになかった。

魔物も文字を使うということにはあまり驚かなかった。目に飛び込んでくる様々な"未知"の方がすごすぎるから。



そうしているうちに、この国で最も大きい建物が見えた。


「あれが魔国エンヅォルトの城…」


「どれもこれも、魔王が創り出したものか」



空まで…ううん。空を突き破ってるように見える。

そこに存在する城。


こんな場所まで来ないと魔王に会えなかったんだ。



「……」


私の後ろではしゃいでるバルディン。

私は何となく静かになった。



《着いた。着いたんだよ》



人間の国にある立派な城が全部おもちゃに思えてしまう。

大きな大きな入り口を通過して、私達は城に入った。



《ついてくる。ついてくるんだよ》


妖精に導かれて進む。

城の中は真っ黒だった。

床も壁も分からなくて、ふわっと浮いてる気分で。

不安定だけど、前をゆっくり飛ぶ妖精の輝きを頼りに1歩ずつ進む。



「もう少し。もう少しでこの国を我が手に…」




しばらく進むと、真っ黒な場所に、突然赤い絨毯が現れた。

真っ直ぐ一直線に存在する絨毯を辿れば、


「この先にいるのか。魔王が…!!」


ここでバルディンが私と妖精を抜かして先頭へ。


どんどん歩いていってしまう。



私が小走りになっても追いつけない速さでバルディンが最初にたどり着いた。






「立派な国を創りあげたようだな。魔王よ」



やっと追いついた頃にはバルディンが話しかけてた。


私達の目の前には、向きが逆の玉座。


私達に背を向ける形で、そこに魔王が座ってる…のかな。




《人間…何年ぶりだろうか…》


人間の声に限りなく近い。

少し不安定だけど、女の人の声だ。

言葉のひとつひとつが震えて聞こえる。



「待ちわびたか?ならば喜ぶがいい。この、聖騎士バルディンがお前の見る最後の人間となる」



バルディンはさっきの戦闘で手に入れた斧を握り直した。



《残念だが、そうでもない。そして、我はお前の顔を見ることもない》


「何を。……」


バルディンはそのまま倒れた。

その場に倒れて、口から泡を…



《聖騎士…その程度か》




「あ、あ、…あ…」



失敗した。


私の頭の中に、それだけが浮かんだ。


思ったようにいかなくて。

考えていたよりもずっとひどい。



《連れてきた。連れてきたんだよ》



妖精が魔王に話しかけた。止めればよかった。

突然怖くなって、逃げ出したくて。



《連れてきたんだよ。ママ》



《そうか。偉いぞ…》



魔王が褒めると、妖精の羽根の輝きが増した。


……ママ?



妖精の…ママ?





/////////////To be continued...


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