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私、この世界を征服します。  作者: イイコワルイコ
5章「世界を守る力」
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第5話「神のメッセージ」





痛い。

痛いって言葉は体だけじゃなくて心にも使う。

今の私は…両方。




ハイドシークは話しをすると言ってそのまま私を殴りつけた。

大きな腕で。

何も出来ないまま、気づいたら全身が壁に打ちつけられて、床に落ちた。




《その服、首飾り、誰の物に手を出したか分かってるんだロ?》




潰れたかと思った。

体が紙みたいに薄っぺらくなったかと。

痛い。痛いよ。口の中が。鉄みたいな変な味がして、中で何かが舌に触れてる。壁にぶつかった時に破片が口に入ったのかな…。ぐちゃぐちゃ。




《どうやってここに入ってきたんだロ?黙ってないでさっきみたいに話せ、小娘》




頭に伝わる振動。

ハイドシークが1歩踏み出す度に揺れが伝わってくる。

やめて。お願い。その振動で頭が割れてしまいそう。




《安心しロ。綺麗に洗ったらまた洞窟の中に放り込んでやるんだロ》




顔の向きを変えることが出来ない。

でも、赤い塊が私の目の前にそびえ立ってるのが分かる。




《もう動かないロ。魔物の国で盗みを働く人間…暴れる人間…なんかおかしいんだロ…》




眠くなってきた。顔も、体も、まだ死ぬほど痛いのに。

雑巾絞りの雑巾みたいに体中の"生"が失われていく。

あぁ…そっか。そういうことなんだ。

これが、死ぬってことなんだ。

私が、この痛みや苦しみを置き去りにして眠ってしまったら。私の体から温もりが完全に失われてしまったら。

それが、死ぬってことなんだ。



…結局、私って何がしたかったんだろう。

何のために生まれたんだろう。



ごめんなさい。お母さん。




《まぁいいロ。……ロ?…ロ…!?》




力を。生きる力を垂れ流してる。

床に広がっていく私の温もりを、取り戻すことは出来ない。

黙って大人しく、死ぬ



《なんだロ!やめロ!》




……おやすみなさい、さよなら、私の大嫌いな世界。



私が諦めた時、ツンと甘い匂いがした。…気がした。





/////////////now loading......




メドルーナ。


宿から出てきたカヒリ、ギーナ、ソフィー、アルタの4人。



「なあアルタ。俺が言うのもどうかと思うけど、信じてるぞ。」


「全く世話の焼ける人間…と言いたいところだが、こればっかりは仕方ないのさ。お前達がこの"許しのアルタ"を信じるのならば、それに応えるのが神ってものさ」


「…ギーナ。お願いだから次は私に火をつけないでね…」


「大丈夫よ。次はカヒリもいる。アルタ様もいる。逃げる必要がないもの。」




4人はもう一度裏路地へ向かう。

ギーナ達の考えるチアンと会うための"条件"の答えがカヒリで正しければ違う展開になるかもしれない。

もし、人間の敵になってしまっていた場合でも女神アルタがいれば対抗出来る。



「チアンが敵になっていたら、ある意味で最も厄介なのさ。今のうちに2人ずつ手を繋ぐのさ」


「手を繋ぐ?…ああ、専用容姿変化で俺達の誰かに」「カヒリ。」


「お前、チアンの力を知ってるのさ。…」


カヒリがスラスラと口を滑らせようとするのをギーナが阻止する。

アルタはそれを1度怪しく思うが、追求するのは止めた。


「知っているならカヒリとソフィー、ギーナはほら」


2組になりそれぞれ手を繋ぐ。


「カヒリ。チアン様は空間を弄れる力も持ってるわ。もしもの時は逃げるのも一苦労よ。」


「おっけ。追手は最悪消し飛ばす。」



路地裏に到着する。


カヒリ達が前を歩き、そのすぐ後ろをアルタ達が歩く。



薄暗い路地裏。道の脇に隠れるように立っているのは


「お兄さん、私と」



声をかけるのは生活困難な浮浪者と見間違える容姿の女。

これが以前なら宿の前で華やかな格好をして同じように男に声をかけていたはずなのだから驚きである。


それを無視したカヒリ。するとまた別のところから


「男前の殿方。何でもしますからどうか」



顔の隅々まで汚れている。どれだけの期間、風呂に入れていないのか。



「カヒリ…」「いいから。まっすぐ前見てろ。」


次々に声をかけてくる女達に不安になるソフィー。

カヒリはもちろんそれらを無視して先へ。


「カヒリ。チャドの話、覚えてる?自分から売ってこない、相応しくないような格好なのが正解よ。」


「ここに居ればな。…でも奥に進むほど万が一の時は戦闘以外の選択肢がなくなる。いつでも照らせるようにしてくれ。」


カヒリはギーナに炎で暗がりを照らせるように魔法の発動を準備させる。

それはそのままこの後の展開を読めたと暗示していて。



「面白い。どいつもこいつも全員カヒリにしか興味がないのさ。…おっと」


アルタが謎の関心を見せる。と。




一行の前には曲がり角。と、その角の影に隠れてモソモソと忙しく動く人影。



「あー…18禁だな。ソフィー。目閉じとけ。聞こえても知らないふりしろ。いざって時指示できねえから」


「う、うん…」



乱れた呼吸の音が2つ。人影から聞こえてくる艶めいた女の声と、苦しそうに声を絞り出す男の声。



「ソフィーはなんでそんな生娘になったのさ?何も知らないまっさらな生き方でもしたかったのか?」


「な、何のことか分からないよ…」


「ん、カヒリ。その奥に感じるのさ」


「女神か。ギーナ。」



角を曲がると奥はいよいよ真っ暗だ。

どんな光も届かない。

それは、おかしい。つまり、この路地裏は元々隠れるために細工がされている。


「それ。」


ギーナが空いている手から炎を出す。

4人の上に舞い上がった炎は薄く大きく広がり暗闇を照らしていく。


「ミニテンペストってところね。」


「もっと早くそうしてくれたらいいのに」


「ソフィー。前だけ見てるのさ。向こうはもうこっちを見ている。神から目をそらしてはいけないのさ」



カヒリが足を止めると全員が立ち止まった。



「そこにいるんだろ?…"施しのチアン"。」



炎が影を暴いていく。

路地裏に強制的に光が生まれ、通路の行き止まりが見えた。

そしてそこに立つのは



「私を呼びましたか…?」




「…あ、なんか思ったのと違う。」


顎までの長さの鮮やかな水色の髪。

この世界では珍しく焦げ茶に焼けた肌。

胸元がギリギリ隠れる程度にはだけている派手な服。

少々…特殊ではあるが、それは以前のメドルーナで見かけるような宿娘の格好だった。



「なぁ、あれって着物だよな?え?あるの?てか全体的にキラッキラしてるけど。ラメ的な?」


「カヒリ。油断しないの。」


「実はめちゃくちゃ可愛いみたいなさ。日焼けしてふざけた格好してチャラいアピールしてるけどみたいなさ。分かる?あの感じだとソフィーと同い年くらいだな」


「カヒリ…何か気持ち悪い」


「え…。」


ソフィーに引かれたカヒリが改めて向き直る。


「…ギーナの言う通り、この場に相応しくないのが正解だったのさ」




「あなたは…アルタ。それに、ソフィーも。」




「話せる状態でよかったのさ。血迷って襲ってきたら神同士の争いになる」


アルタとギーナが前に出る。


向かい合う女神2人。視線が重なり、互いに目で牽制する。



「どうしましたか?」


「朗報なのさ。ここにいる人間は女神が待ち焦がれる勇ある者なのさ」


「そうですか」


「チアン。お前の力もこの人間達に」「なりません」



ここまでは丁寧で優しい声だったチアンだったが、アルタに対して少し態度を変えた。



「…なりません?そう言ったのさ?」


「ええ。そう言いました。私達とは違い、人間の命はとても短い。私達が欠伸をする間にも、この世界では国を治める人間が何度も何度も入れ替わるのです。短命で、欲に素直で、愚かな生き物…それが人間なのですよ、アルタ」


「……」


アルタは返事をしない。代わりにギーナの手を強く握る。

次にギーナが後ろにいるカヒリに目配せする。


「許しのアルタ。あなたも私達と同じ神なのですから、何がこの世界のためなのか考えてください。1度、無害な生き物を残して有害な生き物を全て取り除く…それが今の私達に出来ること。そうしなければならないのです」


「施しのチアン。つまりはお前も"そっち側"ということなのさ。モアのように…」


「…そうですね。専愛のモアも賛同しています。…あなたがこちらに来れば、そのままソフィーもこちらに。そうしたら5人の女神が集う」


「おい待てそれ聞き捨てならん。」


「はい?」


「アルタとソフィーを勧誘してる事じゃない。2人を足したら5人って言ったな?」


「あ、それって」


カヒリが口を挟む。そしてソフィーも気づく。

今、自分達の"味方"をしている女神はアルタとソフィー、そしてアラビタとプロティアで4人。

チアンの発言に嘘がなければ。


「モアとチアン…それ以外にもう1人、それってつまり」


「アルタ。こちらに来てください。人間にはもう期待出来ません」


「大体分かったのさ…」


「とても残念です」


良い反応を見せないアルタにチアンは意見が割れたと解釈する。


「それでも構いません。すぐに力ずくで分からせますから」


チアンはそう言って自身を抱きしめた。



「待つのさ!チアン!」


「くっそ、」「手を離すな!カヒリ!」


アルタがチアンの逃走を見抜くとカヒリが動こうとする。

が、それを許さないアルタ。


「お前達がどこに行くのか分かっているのさ」


「そうですか。では、お待ちしております」



チアンはその姿を段々薄くして…消えた。



「ここを出る。街に戻るのさ…」


「ふぅ…ったく。」


「チアン様も敵…ということね。」


「うん…だよね…」




/////////////now loading......




街に戻り、軽く食事を済ませる。


「あまりふざけたことは言えないが、人間の食べ物は進化しているのさ。自然の物から遠ざかってはいる…しかし、色々と組み合わせたそれは」


「総合して美味いって言いたいのか。良かったな。」


銀紙で包まれた魚の焼き物。

魚には甘じょっぱいタレが絡み、そのタレの中にはきのこや野菜が見え隠れしている。

銀紙を開き、それらの上からかけられるのは乳を固めたもの。

濃厚な味わいが加わり、食欲をこれでもかと満たしていく。


「お前が何考えてるのか分かったよ。初心者丸出しの脳内食レポおつかれ。いい加減お前も話に混ざれよ。事態は深刻なんだから。」



アルタが思考の世界に入り浸っているのをカヒリが無理やり引き離す。

食事を終えて皿が下げられたテーブルを囲う4人。


「ねえ。モア様の指輪はカヒリが首から下げてる。なのにまだチアン様は自分達の側に数えていたわ。それって、その指輪は意味がないってことじゃないかしら?」


「それは違うのさ。女神の力は確かにこの指輪に備わっている。モアが拒否してもこの指輪を持つ限り一定の助力はされるのさ」


「てか死んでないのか。」


「神は死なない。お前が相手したモアはあくまでも仮の姿。さっきのチアンは実体化した本来の姿。とはいえ、衣服は違うのさ」


「死なないやつと喧嘩すんの?しかも向こう3人?モア、チアン…それから、まだ見つかってなかった"裁きのレスナ"?」


「勘違いしてはいけないのさ。こちらには4人いる」


「…ごめん…私、他の女神みたいには強くない…」


「こっちの強さなんて関係ないだろ。命に限りがある俺達とは違ってお前ら女神は殺し合いしても死なないってことだろ?だとしたら単純に戦闘特化のレスナがいる向こうのが有利じゃねえか!」


「どこまでも女神に詳しいみたいなのさ…」


「裁きのレスナ…他の2人の女神も、今はハートにいるのよね。居場所が分かってるから、1度チャド達を迎えに行くのはどうかしら?」


「…いや、ダメだ。言ったろ。戦力は関係ない。神の喧嘩に混ざれるわけない。…それに、城のこともあるしな。」


「…アルタ様、私達どうしたらいいんですか?」


「………」


黙るアルタ。


「なぁ、お前ここまで来て俺達を見捨てたりしないよな?」


「……」


「そうなったら…数が逆転するわね。」


「え、じゃあアルタ様が諦めたら私達…」


「……」


「マジか?アルタ。」


「……人間は諦めなかった。魔の物に世界を喰い尽くされ、追い詰められても、親しい関係の者を失っても、目から光が失せても、その魂は諦めなかった。だからこそ、女神は…」



アルタは椅子の上に立ち、続けてテーブルの上に立つ。



「お前達の覚悟を、信念を、魂を見せるのさ。勇ある者としてレスナ達に無理やりにでも認めさせろ。カヒリ、お前がこの許しのアルタにそうしたように」



「……アルタ。」



「分かってくれたのさ?そしたらもうそんなしょぼくれた顔をやめ」「行儀悪いぞ。」



「は?」


「だから、行儀悪いって。テーブルの上に立つなよ。みんな見てるし。店員も睨みつけてるぞ?ついでに子供を正しく教育出来てないって俺達まで悪く見られる。早く下りろ。」


「いや、今はそういう」


「下りろ。下りなさい。」


「……」


「アルタ。下りなさい。じゃないとしばらくおやつ抜きと外出禁止!」


「なっ!?」


カヒリが何を言っているのかは分からないが、何とも言えない圧を感じてアルタはテーブルから下りた。

椅子に座りなおすとカヒリにしばらく睨まれるが、店員らが落ち着くとカヒリもそれを緩めた。



「はぁ。キャロラインがピンチだっつってんのにな。俺達は茶番する余裕まで見せちゃってさ。」


「本筋の制限時間に関係なく時を過ごしてしまう…あるあるね。」


「何の話?ねぇ、カヒリ。ギーナ」


「いいの。ソフィー、もう気持ちは固まったわね?」


「行くぞ。ハートに。さっきのチアンの感じからして、"黒幕"は裁きのレスナだ。レスナに認めさせられれば俺達の勝ち。」


「お前達…」


「アルタ。お前は人間側の女神の代表として全力で力を貸してくれ。」


「……分かったのさ」


「ふふ。久しぶりね、勝てる見込みのない敵に立ち向かうのって。」


「私達大丈夫なのかな…」


「大丈夫だ。それにさ、ソフィーとアルタの2人が揃ってるってことは両目が揃ったってことだろ?」


「それ何?」


「"真実の左目"、"免罪の右目"。あー、言っていいやつ?」


「用語っぽいのは避けてね。」


「えぇ…。ソフィーは遠くまで見ることが出来て、色んなものを人より覚えることが出来て、ビームが撃てる。」


「び、びーむ?」


「アルタは好きなだけ相手を弱らせることが出来て、物事を忘れさせたりすることが出来る。ビームは撃てない。」


「ギーナ、びーむって?」


「あまり関係ない2つの目が揃うと、」


「……うん」


ソフィーはびーむとやらが何なのか説明を求めるのを諦めた。


「どんなに遠くにいる相手でも見透かして神の力を行使出来る。つまり、ビームが撃てる。」


「ごめん、何にも分からない」


「…ギーナ。俺には無理だ。もう少しかっこいい言葉使いたい。」


「うふふ。じゃあ早速向かいましょう……あら?」



カヒリ達だけでなく、その場にいた人間全員がそれに気づいた。



「な、なぁ。そう言えば…なんだけど。アルタさん、俺達がメドルーナに着いたのって昼だっけ?朝だっけ?はたまた夜だったっけ?」


「…カヒリ、ごちゃごちゃ言わずにさっさとハートに行くのさ」




メドルーナの空…、おそらく、全ての国の空。


この世界の空が、突如明るくなり、暗くなった。




「…イライラするよなこれ。ふざけて明かりのオンオフをカチカチカチカチ切り替えて遊ぶ子供の悪戯みたいなやつ。」


「その悪戯っ子はハートにいるレスナよね、きっと。」



明るくなっては暗くなる。

時間が高速で流れて朝と夜を一瞬で繰り返すような空を見上げる人間達。


それは、初めて"神"が人間に告げた警告。



そしてそれは、神が直接言葉にせず自分達が人間の敵になったことを知らせた。





/////////////To be continued...


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