第4話「重大な話」
「ソフィー!走るの!!止まってはいけない!」
2人に時間を気にする暇はない。
空の明るさなど、どうでもいい。
今必要なのは"安全"。
追手から身を隠し、今後も追われることのない安全地帯。
「ギーナ…もう…」
「恨んでもいい。でも、死んでしまえば恨むことも出来ないわ。…ごめんなさい。」
ギーナは走りながら指を鳴らす。すると後方で膝に手を置き息を切らすソフィーの尻に火がついた。
「ひぃっ!?」
「私に追いついたら消してあげる!さあ!走るの!死にものぐるいで!」
ソフィーが背後に視線を送る。
自分の尻を燃やす赤い炎…とは別に、こちらに向かってくるいくつかの人影。
「…っ、待ってよぉ!ギーナ!!」
2人は走り続けた。
ソフィーの体力が無くなれば、ギーナはその度にソフィーの体に火を放ち視覚と痛覚を刺激して疲れを誤魔化した。
それを何度も何度も繰り返し、ようやく裏路地から脱出。
「……表には出てこないのね。…危なかったわ。」
「ゴホッゴホッ…ひどいよ…」
ソフィーの服は燃え焦げていた。火は消えているものの、焦げて破けた服の下…全身に何ヶ所も火傷を負ってしまった。
「ごめんなさい。回復させつつ宿を探しましょう。こんな展開になるなんて思いもしなかったわ。」
ギーナはソフィーの体に優しく触れる。
柔らかな光がソフィーの体に流れ、火傷を癒していく。
「ねぇ、私達なんで追いかけられたの?ギーナがあの時いきなり手を引っ張ってから何も分からないまま走ってたんだけど」
「追いかけてきたのが何者かは分からない。でも、分かっていることもあるわ。あの薄暗い路地裏に女神様は必ずいる。…きっと女神様を守る力が具現化したのが私達を追いかけた人影だったのよ。そして、空間を広げる力も働いていた。私達は路地裏に入ってそこまで歩いてなかったのに、何時間も走り回ってようやく抜け出せるほど広くなっていた…ちょっとした迷路のようにね。」
「…ねぇ、私達は女神の敵って思われたってこと?だから追いかけられたの?」
「どうかしら。…でも、女神様によって力を与える人間を選ぶ方法が違うのかもしれないわ。それか、性別とか…?」
2人は一度口を閉ざし、宿を探した。
女神探しを始めて早々にここまで危険な展開になるとは思わず、安全を求めた。
選んだのは入り口に警備兵が立っている宿。
宿の隣に警備兵の待機所があり、急な対応も可能だ。
2人は宿の注意事項を適当に聞き流し、部屋に入る。
「はぁ…疲れた。もう体は痛くないから火傷は治ったみたいだけど、足が…」
「揉みほぐしてあげるわ。その前に、服がボロボロだから脱いで。汗も流しましょう。少しだけ高い部屋だけど、専用の風呂場があるのはいいわね。」
「え、わ、うん。大丈夫、自分で脱げるから!まっ…ギーナ…!」
ギーナに服を脱がされ風呂場へ入る2人。
そのまま強引に体を洗われて湯船に浸かると、ギーナは一度出てから服を脱いで戻ってきた。
「………それでも顔は隠すんだ…」
首から上、彼女はどこで用意したのか…黒い布を巻いて顔を隠している。
かろうじて目が見えており、黒髪が布から出ている。
「……どこ見たらいいのか分からない」
「ふふ。なら天井でも見ていて。彼もそうするから。」
「…………」
そう言われても、ソフィーはギーナを見ていた。
風呂に入るのに顔を布で覆っている…ということに注目しがちだが、逆に隠されていない体がここで初めて解禁されたということが何よりも衝撃だった。
そしてギーナの裸体は同性のソフィーから見ても…
「…すごい…」
「私の方が少しだけお姉さんだから、それだけよ。あなたも何年かしたら」
「ならないよ!肌がつるつるしてるし…柔らかそうだし…」
そこまで言いかけて、ソフィーは自分の持つものとギーナの持つものを見比べた。
永遠に埋まらない差を感じた気がして。
「胸の大きさなんて関係ないわ。」
ソフィーの隣にギーナが座り、2人で浸かる。
直後、「ひゃっ!」小さな悲鳴がソフィーから発せられるが、湯の中でギーナの手が彼女の足を揉んだのが原因だった。
「あ、気持ちいい…」
「よかった。私とカヒリはいつもお風呂に入りながら考え事をしてるの。リラックスしながら考えると、いつもより色んなことを考えられるのよ…それじゃあ、さっきのこと。メドルーナにいる女神、"施しのチアン"のことを考えましょう。」
「…うん」
「女神様について今のところ確かな事なんて何一つないけれど、大体は見つけさえすればよかったわね。会えさえすれば、女神様の力を授かることが出来る…何かしらの物を受け取る形で。」
「そうだね…。あと、女神様が認める選ばれし者じゃないと力を授かることが出来なくて…」
「それが明らかになったのが"許しのアルタ"よね。彼女があなたとリーファンとチャドにそう話した。」
「うん…それで、カヒリとギーナ。2人が会うと女神様は力を授けてくれたよね」
「…プロティア様とアラビタ様からは女神に関係する物を探し出したことで力を授かることが出来た。それから…アルタ様はロガドガ山にいて、ズルしないで登ってきた人間にしか会わないってことだったわよね?やっぱり女神様によって条件が設定されてると考えるべきね…」
「条件?…あ…そ、そこ…気持ちいい」
「ふくらはぎね。…たしかチャドは簡単にチアン様に会うことが出来たのよね。宿の前で男の人に声をかけている宿娘の1人だったとか。でも私達は会うことが出来なかった。だとしたら、チアン様から力を授かるには…」
「そっか。男の人で、強い…カヒリじゃないとだめってことなんだ!」
「そうね。少なくとも男性が会いに行くというのは間違ってないと思うわ。だから私達は」
「カヒリが来るの待つ?」
「ええ。ゆっくりしましょう。ふふ…えいっ」
「ギーナ!?どこ触って」
「顔真っ赤よ?のぼせたのかしら。」
「ねぇ!聞いてる!?」
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長風呂。
途中でギーナが多少ふざけたとはいえ、ソフィーの疲労は大きく回復した。
体も温まり、湯気を出しながら風呂場から出てくる2人。
「なげえよ!」
「キャーーーーーーーっ!!」
タオルを巻いただけの2人を部屋で迎えたのはカヒリだった。
驚いたソフィーが慌てて風呂場に戻り風呂桶を取ってくると全力で投げつけた。
「ふごっ!」
桶は見事カヒリの顎に命中した。
2人が服を着て戻ってきたところで改めて。
「なげえよ!多分いつもより長めだよ!」
「カヒリ、いつからいたの?」
「お前が胸の大きさに絶望してギーナに軽く慰めてもらったとこ。」
「ふふ。」
「ちょっとそこ動かないでね…」
ソフィーはカヒリに手を向ける。
「へいへい。魔法なんてやめとけ。というか静かにな。」
カヒリが指差した。ベッドには幼女が寝かされている。
「あ…」
「カヒリは優しいから、多分生活に困ってる女の子を見捨てておけなかったのね。まだこんなに小さいのに…可哀想。」
「いや、女神だけど。」
ギーナが目を丸くしてソフィーに確認する。黙って頷く彼女の反応を見て改めて
「アルタ様なの?」
「おう。正真正銘の女神。」
「思ったより…でもなんでそんな姿を」
「さあな。可愛がられたいんじゃね?」
「…でも、まって。女神様に力を授かるんじゃなくてそのまま連れてきたの?どうして?」
「いやまあ、目を差し出すわけでしょ?怖いんじゃねえかって考えるのが普通なんだけどさ?」
「いい加減にするのさ。こっちはただ立ち向かう意思のある人間の戦いを見届けたいと思っただけさ。なぜ女神が目を差し出すのを怖がる必要がある?神だぞ?」
「というわけで、なんか神っぽい感じはゼロなんだよな。ちょいと生意気で親近感あるっていう結構人間寄りな女神様なわけよ。」
「寝てなかったんだ…」
「ソフィー。…見違えたな。女の顔をしているのさ」
「え?」
「ふふ。初めましてアルタ様。」
「お前がカヒリの伴侶か。なるほど、魔力が溢れすぎて使い道を失っているようなのさ」
「カヒリがいつも守ってくれるの。」
仰向けで目を閉じたままで会話をするアルタ。
挨拶を済ませたところで手足を広げてベッドの大きさを満喫している。
「なあ、もしかして神なのにベッドのふかふか具合に感動してないか?」
「していない。これだけの寝具を使っていれば人間の体はだらけてしまうだろうなとガッカリしているのさ」
「へぇ…?」
「何さ」
「素直じゃねえんだよこいつ。可愛いよな。俺達の周りにこういうのいなかったじゃん?」
「そうね。ふふ。」
「お、お前…立場を」
「分かってる分かってる。アルタ様はふかふかのベッドでそのまま疲れを癒しててくれ。」
「……ねぇ、なんでカヒリは私達がここにいるって分かったの?分かっても宿の前には警備兵が」
「あ?俺とギーナは互いにどこにいるかを把握出来る。どうやってってのは企業秘密だけどな。んで、どう宿に入ったのかっていうと。俺とギーナは国王からもらえる使いの証を持ってるからだな。大体の宿が無料になるし、高級な宿でもかなり割り引かれるし。まあ便利だな。」
「カヒリ」
「あ、そうそう。真面目な話をしなくちゃな。これを見てくれ」
カヒリは首からかけていた指輪を見せる。
「こいつは"専愛のモア"のアイテムな。俺が持ってるってのもビックリだろうけどさ。他にもヤバいことがいくつかある。」
「…いいわ。話して。」
「アルタをゲットして下山する時にハートを通るのはやめとこって思ってさ。アグリアスから回ってきたんだけど、モアはそのアグリアスにいたんだよ。まさか過ぎるよな。しかも、アルタが言うには」
「女神は動けない訳じゃない。その土地を守る必要が無いと思えばどこへだって行けるのさ」
「そういうこと。しかもだ。しかもなんだよ。キングエルからアグリアスに移動しててただでさえ発見が遅れる可能性があったのに、しかもなんだよ。女神モアはな、俺達に襲いかかってきた。人間の敵になってたんだよ。」
「…どういうことなの?アルタ様。」
「守る必要が無いと思えばどこへだって行ける。それと同じなのさ。人間に守る価値が無い…そう考えてしまった女神は逆に人間を滅ぼす側に回ることもあるのさ。これまで多くの人間を死なせた病や災害は考えを変えた神により起きたもの…ということさ。残念なことだが、モアは短い時間の間に人間に見切りをつけてしまったのさ」
「めっちゃ悪霊だったんだぞ!あ"あ"あ"って!超低音ボイスで!俺達より先に何人も殺してたみたいだし!」
「モアの体から指輪を取り出したが、モアの怒りで指輪は黒くなっていたのさ」
「…おばけ…、分かったよ。んで、アルタが指輪を浄化してくれた。言っちまえば、アルタが生身でついてきてくれなかったら俺はモアの指輪に呪われて死んでたかもしれない。」
「そうなの…。ありがとうございます。アルタ様。」
「本当は他にも言っておきたいことがあるのさ…でも言わないでおく」
「ね、ねぇ、ギーナ…」
一通り話を聞いたところでソフィーが焦った顔でギーナを呼ぶ。
2人が体験した路地裏での出来事…それをカヒリ達の体験したアグリアスでの出来事に重ねる。
「アルタ様。女神様が人間を滅ぼす側に回ってしまった場合、何か見分ける方法はありますか?」
「見分けるもなにも、襲ってきたらそれがそのまま答えなのさ」
ソフィーとギーナが互いに向き合い黙る。
それを見たカヒリは
「なあ、もしかして、」
嫌な予感がする。それはカヒリだけではなくアルタも同感で、満喫していたベッドから上半身を起こして本格的に会話に加わる。
「間違いじゃなければ…。私達は襲われたわ。恐らくチアン様に。」
「そいつは実に面倒な…マジか…」
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キングエル。
宿で医者に体を診てもらっているチャドとリーファン。
2人は先の戦闘で酷く特殊な火傷を負っていた。
それは、患部が黒くなり腐敗臭がするもの。医者の見立てでは通常の火傷と同じように治るとのことだが…
どちらも全身に包帯を巻かれながら、天井を見つめて会話をする。
「すまない。情けないよ。ハートの王になろうとしていた人間が、すぐ近くにいた敵に気づけないなんて。俺のせいで君にまで重症を負わせてしまって」
「気にしなくていいねぃ。仲間だからこそ助け合うんだからねぃ。それに、気づかなかったのはオイラも同じ…」
顔の半分が黒くなっているチャド。
彼はリーファンを助けるため妖しい炎の中へ突っ込んでいった。
結果、全身の7割近くを火傷した。
一方、リーファンはというと右腕が全て、左腕は肩から肘にかけて火傷していた。
他には両足に部分的に、そして腹部に大きく。
「どちらも絶対安静です。治るまでは動いてはなりませんよ」
医者の言葉にため息をつくチャド。
「困ったねぃ…城の秘密を知る前にこんなことに。女神様も見つかってないのにねぃ…」
「……チャド。そういえば、俺達は鍛冶師の仕事ぶりに驚いていたね。この国は魔国から最も離れているのにこんなに優れた武具を作ることが出来るのか…って」
「そうだねぃ…」
「もしかしたら、この国にも優れた戦士や兵士がいるのかもしれない」
「城を守っていた兵士達がまさにそれかもねぃ…」
「そして、国王は嫌われている。とても。…チャド、俺の考えていることが分かるかい?」
「…いや、何にも」
リーファンは診察を終えて道具の片付けをしている医者に話した。
「知っているか?キングエルの城には隠された財宝があると。城の中のどこかに、隠し部屋があって…財宝を守る番がいるそうだ。それを討伐すれば、豪遊したり、誰にでも配ったり、投げ捨てたりしても持て余すほどの富が得られるとか」
「…すると、2人はその財宝を守る番に返り討ちにされたと?」
「いいや。俺達は事故でね。燭台を倒してしまって服に火が移ってしまったのさ。馬鹿なことをしたよ。もう少しでたどり着きそうだったというのに」
「え…で、ですがさっきこちらの方が…戦ってどうのって」
「そんな恥ずかしい理由でこんな大火傷、そりゃあ嘘もつきたくなるよねぃ」
「…そ、そうですか」
「はぁ。俺達は治るまでは動けないなんて…運が悪いよな。こうしている間に噂を知った誰かが城に行って財宝を手に入れてしまったら」
「そうだよねぃ…困るねぃ…オイラ達が手に入れるはずの財宝が…。キングエルの国王の悪い噂を信じて、魔物と戦闘になった場合に備えて装備も整えたっていうのにねぃ」
「ああ。俺達は最高の装備で、準備は万全だった。もし同じように装備を揃えて、更には大人数で」
「リーファン。リーファン。もう十分みたいだねぃ」
「ありがとう。話を合わせてくれて」
絶対安静の2人がついた大嘘。
話の途中でいなくなった医者は、必ず城に向かうだろう。
キングエルの優秀な鍛冶師が用意した装備を手に入れた力自慢の男達を雇って。
そして、きっと城の中を大人数でくまなく探してくれる。
城の中から発動しなければならない魔法陣を見つけたのだから、恐らく城の中から魔物が湧いてくることはないはず。
しかし、それはブラウンが現れたことで怪しくなってしまった。
彼がすでに魔法陣を起動していたとすれば、今後魔国から魔物がやってくるかもしれない。
そうなった時、財宝に目が眩んだ人間達がいれば。
財宝の番をしていると勘違いされた魔物達は欲に溺れた人間達によって討伐されるはず。
もし、城の中に滞在したことによって仲違いが発生してしまったり、出現した魔物に全滅させられたとしても…
不審な動きをした医者の動向を調べた他の人間達が同じように城へ向かってくれるはず。
「なかなかやるねぃ、リーファン」
「偶然さ」
これで城の問題は解決出来たと言える。
とはいえ、女神探しは断念しなくてはならない。
仕方ないことだが、この点だけは今は諦めるしかない。
「大丈夫。カヒリ達が何とかしてくれるはずだねぃ」
2人は火傷の痛みにそろそろ耐えられなくなったのか眠ることにした。
/////////////To be continued...




