第3話「大〇〇」
「はぁぁぁぁっ!!!」
振り下ろされる雷。
轟音と白光。
一撃目。
目の前で起きた"落雷"に聴力が鈍りながらも、リーファンは目を離さない。
チャドの放った攻撃を、ブラウンは表情を変えることなく受け止めた。
宙に浮く剣が容易く大斧を弾き返した。
「っ…ふんっ!!」
弾かれた反動を利用して縦振りから横振りへチャドの攻撃は変化する。
縦振りほどの速度はないが、武器の大きさに見合わない速度であることに違いはない。
しかし、ブラウンの対応も変わらない。
その場から1歩も動かず、宙に浮く剣が対応する。
「手応えはあるはずだけど…ねぃっ!!」
ぶつかり合う武器の離れ際、さらに力を込めてブラウンの剣を押し込む。
相当な力を持つ相手が武器を手に持っていれば納得出来なくもないが、この相手はそうではない。
妖しく宙に浮く1本の剣…チャドは目に見えないだけでとんでもない怪力を持つ何かが剣を握っているように感じた。
「悪くない。とはいえ、大将軍はこの程度か?」
次はこちらの番…と直接口には出さないが、ブラウンは手をチャドに向けて
「気に入ると嬉しいが」
拳を握り、人差し指を上に向けて立たせ、指だけを軽く振り下ろす。
それを数回繰り返す。
宙に浮く剣はその"意思"に従い、チャドに向けて何度も刃を振り下ろす。
「やってくれる…ねぃ…!」
斧を横に構えて防御に徹するチャド。
攻撃は確かに防げているが、この先が不安になるほど一振りが重い。
3回ほど防いだところで
「随分と忠実な剣だねぃ…」
チャドは不敵に笑うと斧を縦に構えた。
ブラウンの攻撃はまだ終わっていない。
「賢いようだ」
彼の反応を見て正解と判断し、チャドは振り下ろされる剣を肩で受ける。
まだ買って間もない綺麗な鎧は剣を受けても擦り傷すら残さない。
ブラウンはこのタイミングでついに動く。
地に足が着いていないかのように、滑らかな動きで城の方へと逃げるように。
「遠距離なら斧は届かない、なんて考えてないよねぃ?」
ブラウンの剣は彼の動きに従う。
指を縦に振れば剣もまた縦に振られるのだ。
その"意思"はまだ継続中。チャドに向けて縦に振られるが、動きが分かってしまえば受けることも避けることも容易になる。
チャドは短調な攻撃を避けながら力を溜める。
「チャド、君は行け」
そこへリーファンが割って入り、代わりにブラウンの剣を受け止める。
「オイラが大将軍と呼ばれるのは、戦場に立たずとも多くの敵を撃破出来るからなんだよねぃ…まるでそこに数百、数千の兵がいるかのように…雷を指揮する…リーファン、離れろ」
異様な気配にリーファンが飛び退く。
と、チャドの持つ大斧に落雷。斧は雷を纏い…
「大雷斧、サンダー…ボルトォォ!!!」
振り下ろされる一撃は、先の一撃目とは比較する事が出来ない規模のものだった。
攻撃の動作に巻き込まれる形でブラウンの剣は斧から発せられる雷に打たれ無力化し砕け散った。
そして、振り下ろされたと同時に地を駆ける雷は城の中へ入ったばかりのブラウンへ…城壁ごと破壊され、轟音が響く。
再びの白光と轟音に立ちくらみするリーファンを残し、チャドは歩いて城内へ。
宙に浮く剣を操るような相手だから、最後を確認しておかなければ気が済まない。
「………」
砕けた城壁の残骸を見つめるチャド。
何度も視線を往復させて探すが
「初めて仕留められなかったねぃ…」
逃げきられてしまったことに残念がる。
「うああああああああああああ………っ!!」
そこに背後からリーファンの声。
チャドが振り返ると、リーファンはリンゴの木よりも高く、宙に浮いていた。
その隣には
「ブラウン…!」
首を絞められ抵抗するような動作を見せるリーファンの隣、同じく宙に浮くブラウン。今度は手に杖を持っていた。
黒い柄に、紫色の玉が複数個装飾されている。
「既に気づいているだろうが、お前達が見ていたのは幻だ。私は後ろからお前達が踊らされているのを楽しく見ていた。…まあまあ、だった」
2人に駆け寄り、見上げながらチャドは斧を構える。
「リーファンを離せ」
「さて、お前が今見ているものは本物か?幻か?お前に真実が見えるか…?」
「ぐっ…か…」
苦しむリーファンを見てチャドは力を溜める。
「幻でも何でも関係ない。何度でも、」
攻撃する姿勢を見せたチャドに、ブラウンは表情を変えずに
「そうか。ではやってみろ」
その時、木が折れたような音がした。
聞き間違いではない。なぜなら、リーファンの体がくの字に折れ曲がったからだ。
「リーファ…」
音が消える。
チャドが動揺した隙に、ブラウンは杖を振った。
するとリーファンは荒らされた墓の穴に落下、直後に暗い紫色の炎が上がり、チャドを近づけさせない。
チャドが見回すも、そこにはもうブラウンの姿がなかった。
リーファンを助けるため墓穴へ1歩近づく。近づくが、熱に体が拒否反応を起こしてしまう。
静寂でありながら目の前には地獄絵図。この不思議な状況は、チャドが動揺しているからなのだろうか…それとも、これすらも彼の見せる幻なのか。
そして
「お前だけではない…女神の恩恵を受けているのは…」
ブラウンの声が脳内に直接響いた。
するとチャドに聴力が戻ったのか、周りの音が聞こえる。その中でも、目の前から優先しろと主張してくる音が聞こえる。
そう、墓穴に落ちたリーファンを燃やしつくそうとする炎の音が。
「リーファン!!」
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前に来た時より、ずっと臭い。
それは、あの時は匂いなんて気にしてる暇がなかったから。
私の目の前には、城で見るような宝物庫と同じ光景。
《キャル。動かないで待ってて》
ハイドシークの巣…巣というより家。家というより城。
…もしかしたら、ハイドシークが魔王なのかな。
魔物が恐れてるくらいだし、これだけ金や宝石がたくさん集められてるし…
正面からじゃなくて、裏から侵入した。
手伝ってくれたバルルガは見張りがいないか見てくれてる。
この時点で、あの子は約束を果たした。
巣に帰ったらあの子は私のお父さんを食べる。
「………」
今でも変わらない。あいつが憎い。大嫌い。
なのに、どうして。
死んだと知って悲しく思ったんだろう。
どうして。
《キャル。こっち》
体をなるべく小さくするよう言われてバルルガについていく。
明かりはあるけど薄暗い。
通路を進んで、何回か曲がって、また進んで。
《ここは?あるかな、ハイドシークの秘密》
案内された部屋には、人間の物がたくさんあった。
豪華な装飾がされた武器、ドレス、それから兵士が履くようなブーツ。
それから、私の服。
見つけてすぐに着た。
肌を隠すように被さる布の感触が、少し違和感。
《……?》
「…よかった…!」
続けて見つけたのは大切な物。
ペンダント。
発光石もそのまま。
私が身につけると、ペンダントが少し温かくなった。
待ってた、と言われたような
《キャル。キャル》
「なに?」
《これからどうするの?》
バルルガが焦っている気がした。
私にはどうしてか…分かる。
ここはハイドシークの巣。
魔物が恐れる魔物がいる場所。
見つかれば……そうだよね。
「バルルガは逃げて」
《え、でも…》
「私はハイドシークに用があるから。バルルガを巻き込みたくない。ウォーガ達も心配するよ。…もう私は大丈夫。………約束通り、私のお父さんも食べていいから」
バルルガは人間の子供と大差ない。
それでも、きっと本能的な部分で人間の子供より優れてる。
人間の子供よりも、頭も良いんだろうな。
少し考えて、バルルガは私の目をまっすぐ見た。
《逃げる時は、入ったとこから出る。分かった?》
自分は逃げる。でも、私のことも気にしてくれてる。
魔物なりの優しさに少し泣きそうになった。
「うん。ありがとう、バルルガ。元気でね」
《いつも元気》
でも、人間なりの別れの言葉は知らない。
そのまま部屋を出ていったバルルガ。
私は
「…お母さん」
ペンダントを握りしめた。
今度は冷たくなって、握る手が痛くなる。
…これで何度目だろう。
また、世界から色が消えていく。
残されるのは黒と赤だけ。
真っ黒で壁も床も区別がつかない。なのに当たり前に歩けるしぶつかることもない。
そして、私の目には目標が見えてる。
大きな大きな赤い塊。あの魔物の"生"そのもの。
《お前…誰だロ?》
赤い塊の形からして、随分と楽な体勢で座ってる。
《また人間…でもあれよりは弱いだロ》
手らしきものが動いてる。そっか、きっとまたリンゴを食べてるんだ。
《お前1人だロ?願いは?》
「願い…?」
《わざわざここまで来る人間は、自分の命よりも優先したい願いを抱えてるんだロ?家族を救うために借金を返したい。恋人を奪った男を殺したい。生きづらい国に変えた王を殺したい。とにかく金がほしい。…お前も同じだロ?》
「願い…それは私にもある。確かに。でも、私はあなたに聞きたいことがあって来た」
《……ロ?》
「あの日…狼人間が私をリンゴであなたから買った日。あなたは言ってた」
《……ロロロ?あぁ、お前はあの時の女だったんだロ》
「バルディンと私がどうって。全部説明して」
少しの間。多分、ハイドシークはニヤついてる。
《それが、お前の願いだロ…?》
私の胸が…心臓が跳ねてる。
極度の緊張。少しずつ顔を出す吐き気。
立ち上がったそれを前にして、私は武器も持ってない。
《その願いを叶え、ここに契約を成立させるんだロ》
私の見る世界が変わっても、世界の本質は変わらない。
今、私が、これから、相手に、するのは
《話をしてやるんだロ。その後は…》
魔国に棲む大怪物、ハイドシーク…。
/////////////To be continued...




