第1話「少女の逃亡」
「失礼致します。キャロライン様。お食事をお持ちしました…もう2日は何も召し上がって」
「要らない」
私に食事を運んできた人間はすぐに黙っていなくなった。
私は。私は。
「キャロライン様」
私は。
「私なりにあなたを心配しての事です。気に入らないのなら私に怒りをぶつけてください」
「消えて…1人にしてよ!!!」
「1人には出来ません。また他国に渡られてはマクシミリアン王が」
部屋の隅に小さく丸まっていたかった。
それを何度も邪魔してくるから腹が立った。
だから立ち上がって、それはそれは貴重らしい花瓶を投げつけた。
鈍い音が2回聞こえた。
「キャル……確かにあなたの怒りは受け取りました」
ブラウンはようやく部屋から出ていった。
私は、キングエルに戻された。
私は、城に閉じ込められた。
私は、部屋に閉じこもることにした。
あくまでも死に方は自分で決める。
蠟燭1本の明るさしかないこの部屋でたくさん考えた。
このまま餓死しようか、とか。
城下町の広場で首吊り自殺しようか、とか。
この城の中で無差別に人を殺してそれから自殺しようか、とか。
どうにかして死ぬほど困らせたかった。
国王を
ブラウンを
でも、もう、城の外へ出ることは許されない。
森へ通じる城壁の穴は塞がれてしまったし、あっという間に補強もされた。
堂々と出ていくことなんて出来ない。
庭に出ることも許されない。
私は、外の空気を吸うことすら許されない。
私は何のために生きているの?
何で生まれたの?
私は何なの?
こんなに荒んだ気持ちになるのなら。
いっそのこと、希望の火が心に灯っていた頃に死んでしまいたかった。
森で狼人間に殺されていてもよかった。
教会で未知の化け物に殺されていてもよかった。
"死にたくない"と思える時に死にたかった。
「不思議。舌を噛むとか、首を切るとか、息を止めるとか…どれも途中で止めてしまうなんて。自殺するって難しい」
怖いのだろうか。
痛いのが嫌なのだろうか。
どうしても力を加減してしまうし、息も苦しくなれば自然と呼吸を再開してしまう。
死ぬことも許されないのなら、尚更苦しく感じる。
完全に安全な場所で、無理やり生かされ続ける。
城を抜け出して、自国から逃亡した自分に与えられたのは究極の罰だった。
今なら。
望んで命を刈り取ってくれる魔物や化け物への評価は逆転するだろう。
蔑み、暴力を働いてくれるキングエルの国民が愛おしくも思えるだろう。
「どれもありえないけど」
何を考えたって、想像で終わる。
「はぁ…ははは」
ふと気づいた。
ここを出ていった時の私は、全力だった。
何だってやり遂げてみせるという強い意志があった。
今、私はそれと似た心境だ。
この命を終わらせるために全力になれそうな気がした。
「また息を止めてみようかな」
その時だった。
「ひゃ」
情けで取り上げられなかったお母さんのペンダント。
それが胸元で突然冷たくなった。
数秒で冷えから痛みに変わって
「うそ…」
文字通り、見える世界が変わった。
暗い部屋が真っ白に。
そして、部屋の外には人の形をした赤い何かが見えた。
…他にも人の形をした赤い何かが動き回っている。
「なに?なに!?どうなってるの!?」
世界はほとんどが白くなって、物を区別する為の黒線、それから
「……………生き物の位置が分かる…」
そういうことだ。
この部屋の前に1人警備が立っている。
廊下を移動するのは掃除をする人間、食事を運ぶ人間、そう。そうなんだ。
「私に行動しろって、お母さんが力を貸してくれたんだ」
きっと。
白と黒と赤に分けられた視界で私はまた旅立つ準備を始めた。
閉じこもったのは自分の部屋ではなく、昔お母さんが使っていた部屋。
今はもう半分物置になりつつある。
だから、だから都合が良い。今は。
◆大きな鞄
この城に物資を運び届ける行商人に使わせる鞄の予備だ。
特別な"皮"で作られてるらしい。
ライヴァンの雨にも負けないほど頑丈な気がする。
私に合うように背負うための帯を直す必要がある。
◆短剣
城を守る兵士のほとんどが槍と盾を持たせられる。
きっとこれは回収された兵士の持ち物なのかも。
握りやすくて振りやすい。
「必要な物はこれから揃えよう」
私は部屋のドアを開けた。
「キ、キャロライン様…!」
連れ戻されてからどれくらいの時間が過ぎたのか分からない。
でも久しぶりに…しかも自分から部屋を出たから驚かれた。
「果物を用意して。とびきり美味しいのを…それから日持ちする食べ物も」
「すすす…すぐに!!」
警備の人間が走っていった。
まだこの視界に慣れてない。
私は確かに人間に話しかけたけど、顔を判別しきれなかった。
おおよその主要な部分だけ下書きが終わった似顔絵。
それがしっくりきた。
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「キャロライン様。果物と」
「言えばよかった。切り分けられてなくて、皮も剥かれてない果物が欲しかったって」
「っ!?申し訳ございません!!すぐに」
「いい。自分で必要な分だけ取りに行く」
「ですがマクシミリアン王の命令でキャロライン様を城の外にお連れするのは」
「………」
慣れてきた。この顔は…
「あなたは子供が3人いるマーシャ」
「は、はい…」
「夫はたしか」
「森で魔物に…」
「人類の恥がお詫びにって雇ったんだよね?それで国民の平均よりも高い収入を約束してもらって子供の面倒まで」
「………」
「お母さんがいなくなったら、子供は寂しくなるね」
私は短剣を取り出して軽く振った…"殺意"を見せた。
「死にたくないなら私を外まで連れ出して」
「…分かりました」
私はマーシャという人質を盾にしながら。
「この部屋に入って」
「はい」
生き物の位置が分かるのを利用して城の中を移動。
部屋に隠れてやり過ごしたりマーシャを利用して人間を誘導しながら
「果樹園に着いた」
私は真っ先にリンゴの木に
「キャロライン様、リンゴの木は」
「文句ある?」
黙らせた。
短剣という小さな"力"で脅した。
それっぽっちの力でも、人間を従わせた。
ただそれだけのことがどういうわけか快感だった。
「きっと役に立つ」
鞄いっぱいにリンゴを詰めた。
"赤い宝石"と言われるほどキングエルのリンゴは貴重な扱いをされている。
何故なのか、商人に聞いたことがある。
「リンゴはキングエルにしか存在しない、この世界で一番美味しい果物だから」
後は、この城を出られればそれでいい。
でもどうやって?
リンゴの木の上で考えていた。
下ではマーシャが不審な動き。
誰かが来ないことを祈ってるのはリンゴに近づいてはいけないという決まりがあるから。
見つかればマーシャは…
そうだ。
「マーシャがリンゴの木に近づいたぞーーー!!リンゴを隠れて売るつもりだーーー!!」
「キャロライン様!?」
私が大声で叫んですぐに人が集まった。
見つかって連れていかれることになったマーシャは木の上に隠れている私を睨みつけていたけど、その行為はリンゴを狙っているという嘘を更に信じ込ませることになってしまった。
騒ぎによって果樹園付近の警備が手薄になった。
「きっと城壁のどこかが崩せるかもしれない」
城壁に隙間を作るのが上手くいかなければ。
その時は鞄に詰めたリンゴを利用しよう。
上手に騒ぎを起こせば警備が手薄になるのだから。
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「ふふっ。あはははは!」
自然に声を出して笑った。
私が出入りしていた城壁の穴は確かに塞がれていた。
でも、補強はされていなかった。
連れ戻された直後の私へのブラウンの発言は嘘だ。つまりはマクシミリアン王の嘘だ。
城壁はまたしても簡単に破られた。
それも国王の娘によって。
これを笑わずにいられない。
短剣で岩の隙間を削り、思いきり蹴飛ばす。
これを繰り返すだけで私が通れるだけの穴が生まれた。
「キャロライン!!」
「え?」
まさかここでその声を聞くなんて。
「やめとけ。頼むから…どうにかしてお前が安全に外を歩けるようにするから。それまで」
「それって何年かかるの?何十年?」
「そんなのいきなり聞かれても」
「人類の恥…」
童話で魔法使いのおじいさんが使うような太い木の杖に両手をかけて身体を支えてる。
息が荒くて、足は震えて…ううん…全身震えてる。
頭上に輝く王冠が相当重いとか?
「ごっほ…ぶっ!!」
地面に何かを吐いた。
「今のお前は何にも信じないだろうけど聞いてくれ。この血は演技じゃない。」
あぁ、血なんだ。それ。
「俺は病気なんだ。詳しくは言えないけど、一生治らない。俺…1人で歩くことだって…げほっ!があっ!?」
全部がわざとらしい。
勇者って言うのも嘘なのかもしれない。
味方を騙し討ちして、魔王に提案したんじゃないのか?
世界を分け合いませんか?…と。
「なんで笑ってる…!!どうして…ここまでしても信じてもらえないんだ…っ…俺がここまで歩くのにどれだけの負担が…ぁっ!う"ぉっ」
「また血を吐いてるの?ゲーゲーやってさ」
「っ!?」
「マクシミリアン様!!!」
人間…兵士かな。2人走ってきた。
さらに遠くからぞろぞろと…すぐに大勢がこのクズのために集まる。
「…キャロライン?なあお前、まさかな…」
自分の心配を中断した人類の恥。
「嘘だって言ってくれ…」
「マクシミリアン様!そのお姿は…」
「松明を寄越せっ!」
「うわああああああっ!!!?」
私の視界に突然、白黒赤の色とは別の"痛み"が加わった。
「ふざけんなよぉ…なんでお前…」
コイツに向けられた松明から何かが飛んだのだろうか。
兵士が吐血した国王を心配してる隙に私は
「待て!キャロライン!!」
逃げた。
「お前もかよぉ…なんでなんだよぉぉ…!!ブラウン!!!ブラウン!!!」
「はぁ…はぁ…ただ今到着しました」
「キャロラインが…俺の娘が…火を向けたら…苦しんだ…」
「……。全員元の配置に戻りなさい!国王は私が!」
「ブラウン…どうすればいいんだよ…なんで…」
「マクシミリアン王。今は一旦中に」
「頼むよ…俺はどうでもいいからさぁ…」
「どうでもよくありません」
「なぁ…俺はどうすればよかったんだ…いつだって最善を尽くしてきたのにさぁ」
「寝室まで運んだ後すぐに私が探しに行きますから」
「今度は連れ戻せない…分かってるよなぁ」
「………」
「ちくしょう……ちくしょう…ちくしょう……」
/////////////To be continued...




