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私、この世界を征服します。  作者: イイコワルイコ
5章「世界を守る力」
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第1話「上下関係」




信仰国アグリアス。



宿屋に立ち寄り風呂を借りようとしたカヒリは、口を開く前に店主に風呂に案内された。

それは、不気味に笑う口元を見せたことと、誤魔化しようのない臭いのせいで。



「持ってきたのさ。ここに置いておくのさ…」


風呂場の出入口、アルタがカヒリのために用意した着替えを置く。

彼女は着替えを床に置いてすぐ自身の手に鼻を近づける。

…苦い顔をして、少しだけ震える。危うく白目を剥いて口から泡を吹いて倒れてしまうところだったが、それを耐えるのはさすが女神…というところか。

彼女はこの日、女神史上最悪なトラウマを植え付けられてしまった。

しょうもないと言えばしょうもない内容ではあるが、実際にやられなければ分からない無慈悲な行為。

これならばまだ"指を切り落とされた"だとか"強力な攻撃で腹に穴を開けられた"のような被害の方がよっぽどいい。戦ってきた彼女からすればその程度は何度も経験してきたし、自身の力で治すことも容易だから。


しかし、汚れてしまった手と数秒間の記憶は女神の力を持ってしても…



「初めて負けた…のさ。あんなのが世界を救った英雄になるようなら世も末…いや、今もそれは変わらな」


「お前いつまで男湯の前でぺちゃくちゃ独り言展開するんだよ!ぶつぶつぶつぶつずーっと聞こえてんぞおらぁ!」


驚いたアルタ。そこには着替えを手に持ったカヒリが立っていた。

彼はまだ服を着ていない。なのに、いつもの黒い布は健在。


「女神だろうが誰だろうが正体は明かさねえよ!そうだよ!今この布をチラッと捲ったらお前にまたトラウマが1つ増えるんだからな!分かったら外で待ってろ!」



慌てて宿屋から飛び出る女神。その直後カヒリも宿屋から出てきた。



「なっ、お前…服は」


「着た。早着替え舐めんな。着るだけだしな。」


「……」


カヒリに恨めしい目つきを見せるアルタ。もうその姿に女神を思わせる要素は欠片もなく、ただ胸の内に怒りを抱えた幼女が可愛く睨みつけているだけだった。


「で、この辺に女神がいるんだよな?本当か?ちなみにアラビタはもう回収済みだぞ?」


「お前、女神にもっと敬意を払うべきなのさ…それと、女神は別に移動してはいけないということはない。守り続ける必要があればそうするだけなのさ」


「ふーん。じゃあ別の女神がアグリアスまで移動したってことか。…えーと、"ソフィー"…"アラビタ"…"プロティア"、で…俺が"アルタ"…ギーナ達が"チアン"…チャド達が"モア"…。じゃあ"レスナ"か?一応ハートは王様が強いしな。」


「会うまでは分からないのさ。でも気配は強い。探すのさ」


「はーい。」



カヒリとアルタは観光客のそれと変わらない速度で歩き、女神探しを始めた。

ギーナが見ていたらきっとカヒリには盛大なお仕置きが何度も振る舞われていただろうが、何よりも"女神に女神探しを手伝わせる"というのは…


「とか考えてもな。もうやらせちゃってるし。もう上下関係だけで語れる仲じゃないしな。」


「ちゃんと探すのさ」


カヒリの考えが読めるのか、アルタは注意しつつ彼の腰を背後から殴った。


「分かってるなー。下手に女神パワー使えば俺はその斜め上の返しをするって。」


カヒリは上下関係だけで語れる仲ではないと言っていたが、確かにそこには上下関係があった。



「…っ!」


じゃれていた?2人。しかしアルタが何かに気づき、カヒリの手を掴む。


「どうした。お前急にヒロイン…あ?」


カヒリもそれに気づいた。


世界の危機が迫っているとはいえ、それを知らない人間達は平和な時を過ごしている。

だというのに、2人が足を止めた建物の中から異臭がする。


それと、禍々しい気配。



「アグリアスにはもう変な魔物はいないはずだ。また作られたとかじゃなきゃな。」


「魔物はもっと分かりやすい殺気を漂わせているのさ。こんな禍々しいのは」


「禍々しいのは?」


「お前が相応しい者なのかどうか、試させてもらうのさ。武器を構え」


「俺が戦うのか。ま、いいけど。」


いいけど。に合わせてドアを蹴破るカヒリ。

暗い室内に挨拶もなく入っていく彼の背中を追うようにアルタも入っていく。



「なぁ。これって死臭だよな。くせぇとか言ってる場合じゃないもんな。この空気感を気味悪く変える感じ…」


「外とは違う。なぜここだけこんなに異空間なのか、なぜ気づかれないのか…十分に警戒するのさ」


「警戒な。それはお前にこそお願いしとく。自分の身は守れるか?俺は今お目付け役がいないから必要なら必要なだけ力を使うけど、巻き込まれて女神が死にましたとかマジで洒落にならないからな。」


「女神は死なない。好きにすればいいさ」


2人は上の階に続く階段の前で足を止めた。

ここから先はいよいよ外から入る日の光も届かない。

暗闇に潜んで待ち受けているであろう存在を目前に


「なあ、俺をビビらせなくていいのか?今こそ上下関係を元に戻すチャンスだぜ?怖いのなら私が先に行く。お前は私についてくればよい。とか言ってさ?」


「構わん。行くのさ」


「んじゃ、遠慮なく……プリズム・ピラー。」



カヒリは軽いノリのまま、詠唱した。

てっきり階段を上がっていくとばかり思っていたアルタは、足を踏み出す代わりに聞きなれない言葉を並べたカヒリに驚きを隠せない。


直後、暗い室内に度を超えた"輝き"が溢れかえった。


「カ………!!?」


カヒリの名を呼ぶつもりが、アルタは咄嗟に身を守ることに注力する。

彼は暗闇を照らす光を放ったのではない。これは攻撃だったのだ。

宝石のような"輝き"が、恐らくこの建物の全てを満たしていく。

そしてその"輝き"は、生ある者に対してのみ力を発揮するのだ。



「ォオォォォォオオオアアアァァァアアア!!!」




「ビンゴだな。魔物っていうより悪霊に取り憑かれた人間みたいな超低音ボイス。信仰国でこれだろ?やべえな。あれか、実は地下墓地があったり1日だけ全ての霊が解放されたりとか」


「カヒリ!来るのさ!」


「分かってるって。」


騒々しい音と共に階段が揺れる。

そして上からそれはやってきた。



「うぎゃあああっ!リアルなブリッジ四足&首捻りぃぃぃぃ!?」


余裕ぶっていたカヒリが叫ぶ。

和らいできた輝きにより明るくなった室内、姿を現した禍々しい気配を漂わせていた存在は


「カヒリ!女神なのさ!そいつから女神の気配を感じる!」


「ふざけんな!こんなもん理不尽無差別殺人兵器ってあだ名くれてやってもいいレベルで悪霊だろうが!どう見積もっても悪霊だろうが!」


腹が天を向いている。

階段を降りる手足は"正しい方向"を向いている。

顔はこちらに対して正位置。

肌は灰色、目と口が黒。やけに長い乱れた黒髪。


そんな何かが、カヒリを真っ黒な目で捕捉すると高速で階段を降りて



「オオォォォォォォ」


「いやあああああああおばけえええええええええああああああ!!」


カヒリ目掛けて飛びかかる。

カヒリはというと、一瞬アルタの方へ目を向けて助けを求める…が、アルタは身を守るためにきっちりと距離をとって離れていた。


「うそ…」


絶望したカヒリがそう漏らすと、彼は床に押し倒された。


「む、むり…マジでむり…ああああ!おばけにマウント取られた…終わった!死ぬ!首締められてあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"とか低音ボイスで聞かされながら死ぬ!」


「何を言ってる!反撃しろ!」


「おばけ相手にどうしろってんだよ殺せねえんだぞもう死んでんだからああああああ!!」


カヒリが並べた言葉通りにそれは彼の首に手をかける。

そして望み通りに低音過ぎる声色で彼に死を望む。


「あ…詰んだ…」


「おい、カヒリ!カヒリ!」


「…だって…無理…」


「…仕方ない。今回だけだぞ!カヒリ!お前が恐怖を忘れることを許す!」


「死ぬのはお前だ定番な格好で襲いかかってきやがって。」


アルタの助力。すぐにカヒリの反応が代わり、首を絞める手を握り…


「潰してやる。」


水分を含んだ破裂音。

カヒリが軽く投げ捨てたそれはアルタの足下へと転がる。

それは圧倒的怪力により握り潰され千切れた手だった。


アルタが次にカヒリに目を向けると、既に決着はついていた。


どこにも無かった"剣"が、その存在を脳天から突き刺していた。



「カヒリ…お前、その武器は」


「魔法だ。好きなように形成して出せる。んな事より、こいつから女神の気配を感じるって本当か?」


「ふざけていなければ…」


「聞いてるか?」


ふざけた態度さえ無ければ、カヒリは世界を救う人間に相応しい。

アルタの中でそんな評価が下される。


「あ、ああ。聞いてるのさ。…」



床に正座させられ、頭から剣が突き刺さっている。


「これ、まさか女神そのものとかじゃないよな?」


「人間の姿を保てなくなる、ということはまずないのさ。でも…」


「でも?」


「ここは信仰を大切にする国。この女神に対して間違った信仰を捧げた人間がいたとしたら。話は別なのさ」


「人間襲うの?定番な格好のおばけになって?」


「お前の言う定番は知らない。だがそういうことなのさ。女神は人間のために力を使っている。守ってやっているのさ」


「なのに人間が守ってやるのに値しないような低俗っぷりをアピールしたら、いくら神でもブチギレるぞ?ってことか。お前も似たようなもんだしな。」


「一緒にするんじゃない。女神の中では寛容な方なのさ」


「服の代わりのボロボロの白い布きれが気持ち悪いな…」


「カヒリ。この肉体のどこかに女神の証があるはずなのさ。お前達に必要な"物"が」


「え、俺が探すの?おばけのボディチェックすんの?正気の沙汰じゃないよ?やるけども。」


恐怖の概念を忘れてしまったカヒリは言葉では嫌がりつつも簡単に実行する。

生身の人間ならば即死状態のそれの体を片っ端から触りながら、身に付けているものがないか調べる。



「こいつ女だったんだな。まあ女神だし…あ?あ?これ?これじゃないか?」


カヒリは1本だけ膨れた指に着目する。

そこには黒ずんだ指輪。



「…それなのさ。"専愛のモア"、彼女の指輪なのさ」


「…ひどく黒く汚れてますけど?貴金属を闇落ちさせてますけど?」


抜き取った指輪に息を吹きかけ服に擦り付けて磨いてみるカヒリ。

しかし綺麗になる様子はなく、じろじろと指輪を眺め、何となく左手の適当な指に合わせようと…


「お止め」


「ん?」


「お止め。それ以上は。今それを身に着けたらお前は間違いなく死ぬのさ。モアは人間に失望した。その姿はともかく、モアは人間を守るのをやめて代わりに殺すことにしたのさ。今その指輪には人間を滅ぼすための呪いがかかってる。こっちに渡すのさ」





/////////////now loading......





アグリアスを離れ、メドルーナへ向かう2人。



「お疲れ、アルタ。ゆっくり休め。」



カヒリはギーナと約束していたから、本来ならばすぐにメドルーナに駆けつけたい。

しかし、彼はそうはせずにゆっくり歩いている。

ぐったりした女神アルタをおんぶしながら。


カヒリの首には磨かれて銀色に輝く指輪が。


「言ってみれば女神vs女神だもんな。…ん、待てよ?アルタがモアの力に屈してたら……。」



カヒリから黒ずんだ指輪を受け取ったアルタは、その指輪を浄化した。

しかしそれは簡単なことではなく、しばらくの間その場でアルタは床の上を転がりながら悶え苦しむこととなった。

どうにか終えた頃には、指輪は新品のような輝きを放っていた。

それを受け取ったカヒリは指輪に適当な糸を通し首にかけた。





「構わん。カヒリ、急ぐのさ…」


弱々しく声をかけるアルタ。


「弱ってる幼女に何言われても従わねえよ。メドルーナでちゃんとした宿確保したら寝かせるから、それまで俺の背中で休めよ。な。」


「……」


「なんだ?幼女だし疲れたから眠いのか?子守唄でも」


「なに、上下関係が元に戻ったと思ったのさ」


「ははは。何言ってんだよ…。」


「お前に恐怖心を返すのさ」


「…………。」



「お前は愚かだが、可愛く、強く、なぜか愛おしい。…相応しいのさ」



黙るカヒリ。そんな彼の頬を後ろから優しく撫でると


「メドルーナに着いたら起こすのさ」


アルタは少しだけ眠った。




「………。うぃっす…」



こうして、アルタとカヒリの上下関係は正しい状態に戻り固定された。





/////////////To be continued...


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