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私、この世界を征服します。  作者: イイコワルイコ
4章「世界を壊す力」
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第15話「世界を壊す男」




しっかりしろ。



しっかりしろ。



私は最初からしっかりしてる。きっと分かっていないまま、生まれてからすぐ、しっかりしていたはず。

そんな私に《しっかりしろ》?

ふざけてる。

これ以上何をしっかりするの?

私にこれ以上何をしろっていうの?


どうして、赤いだけの塊が偉そうに私にものを言うの?



消えて。消えてよ。


黒に沈んで。


私を苦しめないで。


今の私は、機嫌が悪い。


だから、これ以上、私を、




《しっかりしろ》




「うっ…」


鼻に重くツンとした刺激。

それから、一瞬だけ甘くて臭いのを感じて、奥から鼻の中をサラサラと垂れ下がってくる。


黒の世界に、赤い滴が落ちていく。

私の鼻から赤い液体がダラダラと垂れ流しになってる。


目の前には赤い塊が1つ。


それ以外は全て黒い。真っ黒で、上も下も右も左も分からない。

空も地面も分からない。


それでも、私はまだ機嫌が悪い。




《キャル。しっかりしろ》


嫌だ。


偉そうに。


誰かにも同じように言われてた。

お前は王の娘だ。王族だ。人形で遊ぶな。王女に相応しい生活をしろ。外に出るな。ブラウンと馴れ馴れしく話すな。ブラウンの仕事を手伝うな。ブラウンと…ブラウンと…ブラウンと…


偉そうに命令するくせに、それだけは嫌がった。極端に嫌がって必死に遠ざけようとした。

あなたの嫌がって必死に命令という形の説得をしている姿があまりにも滑稽で…嬉しかった。


あなたがいなければ。いや、あなたとブラウンが逆だったら。


これを聞いたらきっと、またあの時と同じようにあなたは説得してくる。

そうでしょう?



赤い塊が私から離れていく。

右往左往しながら、少しずつ離れていく。


それだけで、あなたが必死なのが分かる。

苦しい?ねぇ、どうなの?


私を苦しめ続けてきたんだから。

私にもよく見せてよ。


あなたが苦しむ姿を。



「…あぅ…う?」


頭がグラグラして、る。

大きな手に頭を掴まれて振り回されてるみたいに。

不快に思って目を閉じた。

右半身に衝撃…体が重い…。もしかしたら、今私が右半身に感じている壁のような冷たいものが地面…


重たい瞼を押し上げたら、黒の世界にぼんやりと色が戻ってきた。



私の視界の右半分は赤い。それは、横たわってる地面が血に染まってるから。

石も踏み砕かれた落ち葉も、木の枝も、土も。全部が血で…これ、私の血だ…。


鼻からずっと血が出てる。横になってからは、口の中にも唾液じゃない液体が溜まっていく。



「…うぉ……ぐ…」



風の音だけが聞こえる。

さっきまで、たくさん魔物がいたはずなのに。

私は1人、残されてしまったのかな。


ふと顔を左に…空の方に向けたら、羽音が聞こえた。



「きれい…」


空が、虹色に染まってた。

さっきまで全てが黒かったのに。

鮮やかで輝いて、私の目を心を惑わしてしまう。



《キャル。キャル》


私の視界に入ってきたのはバルルグ…だった。私を見下ろして、手を差し伸べて。


でも動かない私を彼は無理やり抱き起こした。



《生きているか》


「…?」


《逃げるぞ…このままだと皆殺しだ》



皆殺し?


バルルグは私を抱えた。

ウォーグほどの安心感は無い。それは体格差や精神年齢、単純な筋力の差なのかもしれない。


視点が変わって、私はずっとその場から動いていないことが分かった。

……魔物の商売道具や品物がそのまま置いてあった。


鍋はひっくり返ってるし、捕まっていた人間はいなくなっていたけど。


…そう、そう、そうだ。



「バルルグ。戻って」


《戻らない》


「私のお父さんがいる。あの棺の中に」


バルルグの足が止まった。


「死んでるけど、置いていけない」


《…ガウゥルルル!!》


私を睨んで唸った。

でもそれは拒否じゃなくて。


《ガルルゥ!!》


棺を足で破壊して、白い布に包まれたそれを持ち上げた。

両肩に人間の親子を抱えて、狼人間が走る。


バルルグに運ばれながら、空を見た。見続けた。

ずっと宝石みたいに輝いてる虹色の空を。




/////////////now loading......





《ゥガルルルッ!……》


まだ巣には着いてない。

バルルグは足を止めて音を出さないようにしてる。

一緒に生活してきたから分かる。これは気配を消すための動作。

息も止めて、心音も聞こえないようにしてしまう。


ということは、今バルルグは隠れなきゃいけないってこと。


魔物の国だけど、人間と同じように魔物同士でも争いがある。きっと。

だから、今、近くには魔物が恐れる魔物が



「ははははは!ふはははは!どうしたぁ!安全な場所でぬくぬくと育った魔物は!どいつもこいつも生死を賭けた目をしていない!どれも人間の子供のようだ!柔い!柔いぞ貴様らの肉は!武器など要らない!この手で握り潰せるほどに!」



野太い声だった。


それから、いくつかの聞きなれない鳴き声がして、恐らく"それ"に殺された。


バルルグの腰を突っついて"それ"が見たいと声を出さずに言った。

私の口の動きを見て彼は体の向きを変えた。


それから私が頭の向きを変えれば…




虹色の空の下。


そこには戦場があった。


破壊された木々、掘り返したように荒れた土。

散らかる死体…どれも魔物だ。


今も数体の魔物に囲まれて、その中心に"それ"はいた。



血で汚れた翠の鎧を身に着けた大男が。



「ふはははは!来い!来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い!お前達を殺し、国中の魔物を殺し、魔王も殺してやろう!この聖騎士バルディンがこの国を破壊してみせるぞ!ふははは、ふはははは!」




思わず開いた口が塞がらない。

メドルーナに向かう時…以来のはず。

それでも覚えているほど与えられた印象は、"強者"のそれは、相変わらずで。



向かってくる魔物は1度殴るだけで爆発するように頭が飛ぶ、体がひしゃげる。


腕が足りない時は肩を押し上げて当てる。

小さな動きからは想像出来ない力なのか、下から打たれた魔物はふわっと浮いてそのまま気絶して倒れる。

そしたら魔物の頭を踏みつけて砕く。


それを繰り返すだけで、バルディンを囲んでいた魔物達の数がどんどん減っていって。



すぐにその場にいた魔物が全滅した。

武器も持たずに、彼は1人で…どれだけの魔物を殺したんだろう。




「さて…」



「っ…!?」



バルディンは兜を少しだけ外して口元だけ出した。

そして魔物の死体の一部を拾い上げて…



「苦味が強いな」


私よりも当たり前に魔物の肉を食べた。

それから、違う魔物の肉も食べて


「14種…耳が4つある魔物の肉はまあまあだったな。…ふんっ!」


感想を述べてから、力を溜めて地面を殴った。

そしたら、



「あ」


地面は揺れて、バルディンに殴られた部分が爆発した。

砂煙で彼が見えなくなって



「ふはははは!この国を制圧する頃には私は勇者を超える最強の人間になるだろう!」



それが聞こえてから、バルディンは去ってしまったようだった。





/////////////now loading......




バルルグのおかげで、何とか戻ってこれた。


巣にはウォーガとバルルガ。



「ウォーグは?」


《戻っていない。はぐれた》


バルルグは少し暗い顔をしてる。

バルルガは持ち帰ってきた私のお父さんに興味津々で。



《…これ人間だよね!もしかして買ってきてくれたの!?》


バルルグは首を横に振った。


「これは私のお父さん…死んでるけど、キングエルって国の王様だった。商人みたいな魔物が持ってた」


《そんなことはいい。お前達、血の匂いがする。何があったんだい》


ウォーガは察した。

でも、私が血まみれなのを見れば分かるよね。



《よくある"喧嘩"とは違う。キャルにはまだ魔物を殺す力は無い》


《…魔王様の…》



バルルグがそれだけ言うと、ウォーガはバルルガにこの場から離れさせた。

魔物も聞かれたくない話題があるとそうするんだね。



《どれだけ死んだ?》


《買い物にきたのはほとんど。逃げて戻ったらキャルしかいなかった》


《そうかい…》


「何の話?」


《魔王様の怒りに触れると、空からあいつらが飛んでくる》


《甘い匂いがしたら、隠れないといけない》


《逃げそこなったら、後は死ぬだけ…》



ウォーガとバルルグが確認するように交代で説明する。



《魔王を守る"子供達"。…ゼグエグさ》



「ゼグエグ?」


《知らない方がいい。そのまま死ねれば幸せだよ》



そこにバルルガが戻ってきた。


《ベラネラが来た!》


《ベラネラ!?》


バルルグが驚いてるけど、私には



《ベラネラは耳が4つあって紫色の魔物だよ。耳が良くて足が速いから、何かあった時にベラネラが話を持ってくる》


《で、ベラネラは何て言ってた?》


《ハイドシークの親分が若い魔物を集めてるって!何か人間を殺したら"天使の翼"をくれるって言ってた》


《ゥガゥルルルルウ!!》


話を聞いてすぐ、バルルグは唸りながら走っていった。



「だめ。全然分からない。どうしたの?」


《あのハイドシークが金品を払うほど殺したい人間がいるんだよ。キャル、あんたは洞窟でウォーグに助けられたあとにハイドシークと取引したんだろ?ウォーグに買われたから無事にここまで来られた。あの洞窟はあくまでも遊びにしか使われない。洞窟の外で殺せってハイドシークが言うのは、本気で殺したい時だけ。厄介な人間がいるんだよ》


「厄介な…」



そんなの、バルディンしかいない。

魔物を一撃で"壊して"、その肉を食べてたんだから。

バルディンは、魔国ではありえない存在。

普通魔国には弱い人間しかいないのに、彼は強い。強すぎる。



「それで…"天使の翼"?」


《ハイドシークの寝床に飾られてるよ。それがあれば"人間になれる"とかなんとか。魔王様にもらったみたいだけどね。噂しか知らない》


「……ねぇ、ウォーガはバルルグのこと、どう思う?大切?」


《どうしたんだい》


「バルルグは死ぬ。今から追いかけて止めないと…バルディンに殺される」



それを聞いて、ウォーガとバルルガの様子が変わった。

巣にお父さんの死体を隠して、2人の狼人間に連れられてバルルグを追いかけることにした。


威嚇する犬…なんて言ったら可愛いけど、ウォーガ達狼人間のそれは可愛くはない。

歯茎までむき出しにして、牙を見せつけてる。


怒ってる。




私を背に乗せたウォーガが走る。

振り落とされないようにふさふさの毛を掴むけど、暴れるように走るからやっぱり落ちそう。


私がふらつくと隣を走るバルルガが体当たりして私の姿勢を戻してくれる。



しばらくして、明かりが見えた。



メドルーナのような賑わいの…違う。


ゴルゴラのような戦場の音が聞こえた。




金属のぶつかる音、力強く土を蹴る音、魔物の鳴き声、…バルディンの笑い声。



市場のような場所について、ウォーガは私を降ろした。

バルルガを私の護衛にして走っていってしまった。



《キャル。怖い?》


「…分からない」


あえて言うなら、今の状況に慣れつつある自分が怖い。

魔物の国で、魔物と関わって。

本当ならとっくに殺されてるはずなのに、どういうわけか一緒に生活して。


私は人間。だけど、…だけど、人間の世界では別に居場所なんて無かったのかも。

どこにいても同じ。

寂しさも楽しさも何もかも。

ライヴァンの宿で人生をやり直したって、この国でやり直したって…同じ。



だから



《さっさと行くんだロ!!》




声が聞こえて、バルルガは私を引っ張った。

建物の影に隠れて、


《ハイドシーク。見つからない方がいい》




《あの人間をさっさと殺すんだロ!首を持ってくるんだロ!》



ウォーグが私を買った時の魔物。

自分の大きさに合わないリンゴをちまちまと味わっていた魔物。


……私を商品にした魔物。


ということは。



「バルルガ。ハイドシークはどこに行くの?」


《多分巣に戻る…》


「見つからないようにしてついて行きたい」


《え?なんで!》


「あの魔物が秘密を知ってる」



ハイドシークの商品になっていたのなら、私がいつの間にか魔国にいたのもハイドシークが関わってくる。

ということは、あの魔物の所有物の中にはまだ私の服とかがあるかもしれない。


…大切な物も。




「協力して。そしたら…何かお願いを叶えてあげる」


《んー……じゃあ、》



少し考えたバルルガは見返りを思いついた。




《キャルのお父さん、食べたい》





/////////////To be continued...



次回から新章突入です。

引き続きよろしくお願いします。

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