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私、この世界を征服します。  作者: イイコワルイコ
4章「世界を壊す力」
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第11話「王の秘密」



硬直していたのは考えていたから。

どうしてこの男は、この人間は、この王様は、子供相手に真剣な眼差しなのか。

どうして、子供の背丈よりも長い剣をこちらに向けるのか。


どうして、戦わなければいけないのか。



成長を願い努力するばかりの子供相手に、1歩ずつ距離を詰める。

剣先は地面から離れ、首から顎の辺りを容易く斬れる高さへ持ち上げられた。



「………っ!」


クロアは剣先が自身の首に触れる寸前でようやく動いた。

飛び退くついでにレイゼンの足下に威嚇射撃。

一瞬の時間を稼いで、狩人として鍛えられた広い視野でどうするべきか思案する。

相手は近接武器ではあるが、長剣なので攻撃範囲は意外と広い。

高い木の枝の上に乗り、木々の間を逃げ回りながら機会を伺うべきか。


戦うとはいっても相手は国王だ。

嫌いな人間だとしても。



「仕方あるまい」


太い木の幹を蹴りつけて簡単に木を上ったクロア。

弓を主に扱う狩人ならば獲物から距離を置きたいだろうと国王はそれを見逃す。

しかし、長剣だけは常にクロアを指し示すように向けていた。



「………」


クロアの思考は再び戦闘から離れた。

それは、この戦闘自体が罠なのではないか…ということだ。

なぜ国王と戦わなければいけない。

もし、国王に怪我を負わせたらどうなる?

そうなれば国民は皆、クロア…と母親をどう思うだろうか。

ハートに居られなくなって追い出されるのでは?

だとしたら、これはわざと怪我をするための罠…



「来ないのか。…そうか」


剣はクロアに向けられたまま。

レイゼンは力を溜めはじめた。

彼の体を、剣を包むように微弱な風が吹く。

付近の木々の葉が揺れ、攻撃の前触れを知らせる。



「神罰」


その場で行う回転斬り。

少しの間があってから、小さな金属音。

そして



「うぅ…!?」


クロアが隠れている木も含めて、周囲の木々が斬り倒された。

倒れた木が別の木に寄りかかり、その重さで木が倒れるとまた別の木へ…連鎖は止まらない。

長剣の攻撃範囲から逃れることが難しくなった。


というよりも、バランスを失い落下して地面を転がったクロア。

運悪く、その体が行き着いて止まったのはレイゼンの足下だった。



「っ!」


「次はどうする」


レイゼンは転がってきたクロアの横腹を蹴り上げる。

程よく距離を作り長剣を振り上げ…


「ふっ」


これには堪らずクロアは矢を放った。

狙うのは



「な…」


振り上げたレイゼンの手…ではなく長剣の持ち手。

国王の体に傷をつけることなく、絶妙な場所を攻撃して


「ふっ」


追撃。クロアの矢はレイゼンの体には一切触れず長剣だけを仕留める。

1度目では衝撃で攻撃を阻止し、2度目の衝撃で


「くっ…!?」


レイゼンの手から長剣が離れる。

鋭く寸分の狂いもないクロアの矢による衝撃がレイゼンの手を痺れさせる。


生まれた隙。


レイゼンを続けて攻めるか。

長剣を拾えない位置に動かすか。

このまま母親の待つ家まで急いで逃げ帰るか。


最も"安全"なのはこの場から離れること、つまり逃げ帰ること。



「逃げるか?狩人としてその選択は正しいのかどうか考えたか?」


怯んだレイゼンは、痺れた両手に悶えながらもクロアの思考を制する。

それは逃げられることが彼にとって都合の悪い展開であると露呈した瞬間でもあった。



「王様。…僕が王様に怪我をさせたら、ハートの皆は僕を嫌いになります。お母さんは僕を守るために辛い思いをします。…王様がどう言ってもそうなります。…だから、僕は王様を傷つけない。…僕が嫌いなんですか?…ハートから追い出そうとしてますか?…リーファン達みたいに…」


核心に迫るクロア。

一応弓は構え、いつでも攻撃出来るように牽制をしながら。



「そうか。賢いな。他の子供達よりずっと。…ハートには悪事を働いた者に対して、どのように対応するか知っているか」


少し考えてからクロアは首を横に振る。


「だろうな。国を出ればすぐに境界がある。魔物の危険を知りながら人間同士が争うなど愚かだ」


「……境界線…もしかして」


「過去にはやった。罪人の体を縛り魔物の前に転がしておく…しかしそれは魔物に餌をやるということだ。敵に育てと言っているようなもの…すぐに考えを改めて中止した。…世界中で最も自然と共存し愛される強き我が国、ハート。この国では罪人に…我々王族が対応することになっている」


「罪人…」


「他国から逃げてきた悪人、我が国を裏切った者達…皆、王族が対処すべき罪人だ。…が、裏切り者はほとんどいなかった…この前までは。リーファンはあの時に死ぬべきだった。国のために。…お前達は…いや、もういい」


手の痺れが治まり長剣を拾おうとする。


「ふっ」


が、クロアがそれを許さない。

長剣に触れる寸前で矢が飛び、地面の小石を弾き、小石はレイゼンの手にぶつかる。


「っ…生きて我が国から出られるだけでどれだけの情けが」


「んっ!」


再び小石を弾いてレイゼンの手にぶつける。


「リーファンは…死ぬべきじゃない…!皆に優しいリーファンは…」


先の国王の言葉がクロアに火をつけた。

少しだけ息を荒くしながらクロアは次の矢を


「んっ!!!」


「つぁ…!」


再び小石を弾いた。が、今度はレイゼンの額に命中した。


「リーファンは…!」


赤く染まる額。

レイゼンは後悔した。

自分が敵対したこの子供は、



「リーファンに…!この国の王様になってほしい…!」


ただの子供ではない。



「んっ!!!」


「がぁっ……」


レイゼンは咄嗟に顔の前に左手を突き出した。

瞬間、その左手を貫き眼前に迫る矢の先。

鋭く削られたそれが、今にも眼球に触れてしまいそうで。


そっと目を閉じ、左手を遠ざける。


今の一瞬で死にかけたことを再確認し、続けて貫かれた左手の激痛を認識した。



「くぅ……クロア…!」


気づけばそこにもうクロアの姿はなかった。




/////////////now loading......





「だあああ!見つかんねえ!売ったら高そうな宝石しかねえ!」


苛つくカヒリ。


「でも…誰もこの中に入ってないんだね。悪いことだけど、誰も泥棒しようとか考えなかったのかな」


ソフィーがなんとなく発した。

それに反応して


「そうなると民が国王の墓を荒らしたとは考えにくくなる。果樹園にはリンゴもあるし、より裕福な生活が出来ると考えれば死体よりも先に目をつけるはずだ」


「金目の物なんてどうでもいいんだろ。それぐらい恨んでるってこと。リーファン、お前まだまだ甘っちょろいなー。」


探すのをやめたカヒリ。


「死者を蘇らせる…そっちの可能性を俺は考えているよ」


「はぁ?正気かお前!」


「カヒリ。マクシミリアン王はかつて勇者だった。そう呼ばれるだけの力が彼には備わっていた。…ということは、彼を蘇らせる…それは大きな戦力を得たことにならないか?」


「………まあ、…そうな。心当たりあるわ。めっちゃあるわ。え、マクシミリアンてどんだけ強いんだろ。」


途端に不安がるカヒリ。

ギーナも手を止めて


「弱気にならないの。ね?」


黒い布に隠されたカヒリの頬を撫でる。



「ねえ、どうして2人は顔を見せないの?見られたくない傷があるとか?」


「…恥ずかしいんだろうねぃ。もうこの部屋には何もなさそうだし、休憩の時間かぃ?」


部屋は広い。狭い部屋なんてこの城には無い。

口には出さないが、全員がこの城の中を探し回ることに否定的な気持ちになっていた。



「……そうね、近い例えをするなら…。女神様はなぜ私達に本当の姿を見せてくれないのかしら?どうして人間の姿を借りているの?…私達は神ではないけれど、そういうことよ。」


「ふーん…」


「その布こそ強さの秘密、違うかな?」


「なるほどねぃ、それを取ったらオイラ達より弱い…」


「布1枚でそんなに劇的に変わるか?冷静に考えろよばーか。」


「カヒリは幼稚だな」


「おう、大人ぶってんじゃねえぞ王子かぶれ。」


「失礼だねぃ、リーファンは王族」「うっせえ体デカ男!」


「なんかみんな嫌い…」




「何…?どういうこと?」


わざと…とも考えてしまう。

突然の険悪な雰囲気。


リーファンとチャドが結託しカヒリとギーナを悪く言う。

カヒリはそれに言い返す。


ソフィーはどちらにも嫌悪感を示す。


ギーナ以外の全員が、突然様子がおかしくなった。

口喧嘩が徐々に激しくなる。

それを見ながらギーナは1人、冷静に。




「ねえ皆、どうしたの?」


「余裕だね。魔法で俺達を従えられるからかな」


「魔法に頼るばかりで、体1つで戦う時にはどうせカヒリに頼りっぱなしなんだろうねぃ」


「なんで皆そんなに醜いの…?どうして?」


「お前ら全員表出ろ。な。今ならギリギリ半殺しで許してやる。」



「嫌な空気ね…。味方同士で争いなんて許さないわ。」


ギーナは壁に向けて手を突き出し



「空気を入れ替えましょうか。"外の空気でも吸って"、全員落ち着きなさい。…ブレイズ・インパクト…!」



壁に向かって発動する魔法。

虹色の爆発が巻き起こり、砂煙が発生。

すぐにそれは落ち着くが…代わりに壁には大きな大きな穴が。


王の間から外までは数部屋ある。

ギーナはそれを全て、今の爆発で吹き飛ばしてしまった。


噎せ返る4人。


「さあ、全員深呼吸して。…ね?さもなきゃ次は全員外に追い出すわよ?」


「……じゃあ、外に…!」


意外にもギーナの可愛い脅しにカヒリが賛同する。


カヒリとギーナは3人を連れて城を出た。

果樹園、リンゴの木、マクシミリアン王の墓の前まで戻って。




「けほっけほっ…」


「……すまない。今は罪悪感が心を埋め尽くしているよ」


「何が起きたんだろうねぃ…」



「分からないわ。でも、あの城の中にいて皆がおかしくなった。」


「え、ギーナを除いて?何で?」


「それも分からない。耐性があるのかしら。…きっと、誰も盗みに入らない理由はこれよ。この城には何か秘密があるんだわ。」


「えー…じゃあさ、あれか。気が狂う前に城の中を調べ終えなきゃいけないってこと?何、外と中往復すんの?めんど!すんげえめんど!!」


「………元々このお城はたくさんの人間に守られていたわ。国中の兵がここに集められていた…。それは、民に嫌われている国王を守るため…」


「ん?、まあそうだよな。」


「その国王は…魔王と世界を分け合った…そう言われているのよね。………もしかして。一旦ここから離れましょう。町の人に聞き込みをしたいの。」



ギーナに言われるまま全員が城を離れた。


賑わいのある場所まで戻ると、ギーナはカヒリを連れて聞き込みへ。

ソフィー達は端で休むように言われた。




「んで?何を聞くんだ?」


「国王の悪い噂よ。なるべく全部。特に嘘みたいな噂は聞き逃さないで。」


「お、おう…」



まず声をかけたのは、屋台で魚を売るおばさん。


「国王の悪い噂ぁ?そんなの腐るほどあるよ!城を守ってるのは兵士じゃなくて、あの森!森には魔物がいるんだ。あの人類の恥を守るために魔王が貸した兵だって噂だよ」



次は売りに出す果物の値付をしているおじさん。


「噂ねぇ…キングエルの大きな建物はどれも他国のとは違ってとても頑丈なんだ。それが実は魔王からの贈り物で、その建物を魔物は襲わないようになってるとかそんなのを聞いたかな」



次は子供を怒鳴るおじさん…頭には子供のおやつが乗っている。


「あぁ?んなもん…城の中には抜け道があって、魔物の国と繋がってるとか?ここは境界線から一番遠いだろ?安全だと思わせていつか城の中から向こうの魔物がわんさか湧いて出てくるんじゃないかって噂だ」



他にも数人に話を聞いたが、国王は男好きのはずなのにどうして娘がいるのか…それは誘拐してきたからだ…など悪い噂を求めたこちらも悪いがあまりにも程度の低い噂ばかりだった。



再び全員が集まり、



「お待たせ。」


「何か分かったのかぃ?」


「何か…そうね。ほぼ答えが分かったわ。」


「カヒリも?」


「ソフィー。黙って聞こうな。」


どうやらカヒリはまだのようだ。



「あの城…だけじゃない。キングエルで目立つ建造物や森の数々は、魔王によって齎されたの。和平の証とかそういうものではなくて…いずれ改めて侵略するための布石として。森には魔物がいる…頑丈な建物は魔物が襲わないようになっている…城の中には魔国と通じる道がある。」


「え…」


「そうだぞソフィー。良い反応だ。うん。」


「カヒリ。」


「はい、すいません。」


「とすると、あの城も当然。魔王の手が加わっているわけよね。中に魔国と通じる道があるとしたら、どこかしら魔物にとって心地よい作りにするはず。…例えば王の間とか。」


「俺達が正気じゃなくなったのは、魔国に通じる道が近くにあったから…ということか」


「あくまでも噂よ。でも、魔王が関わってるのは間違いない。城自体に何かしらの作用があるのかも。」


「でもさ、城で仕えてた人間はそうでもなかったよな。」


「……そうね……」


ギーナの考えがブレる。


「いや、そうでもないかもねぃ?」


チャドがフォローする。


「以前は皆普通だった。でも、今は中にいると気が狂ってしまう。前と今じゃ違うことは他にもあるよねぃ?」


「…あ、国王か。」


カヒリの反応にチャドは頷いて続ける。


「国王が死んでしまった。そして墓が荒らされて死体が無くなった。国王が完全に城から離れたんだよねぃ。…国王…勇者が、人間の最後の希望が城から離れたんだよねぃ…」


「マクシミリアン王が"蓋"になってたのか。魔物達が城の中から湧かないようにするための。じゃあ、俺達がおかしくなったのは、本当に魔国に通じてるからだろ。…今の俺達が魔国にうぇーいって突っ込んで行けば、さっきより酷いことになる…よな。」


「マクシミリアン王の病って、そういう事なのかしら。魔国と通じている道を塞ぐ代償として…だとしたら、彼は国王や勇者なんかで肩書きを決められるほどの人じゃないわ。文字通り自分の体で世界を守ろうとしていたことになるんだから。」


「いいかな。…もしかして、マクシミリアン王の死体は……」


「リーファン。リーファン。俺も察してるけど出来たら言わないでくれ…」


「城の中から魔国へ…魔物が運んだということにならないか?」


「うん、だよなぁ。そうなるよなぁ。だとしたら、だとしたらだけどさ。最悪の流れ引いてるよこれ。」



「まだ魔物は出てきていない。今のうちね。…最速で女神探しを終わらせましょう。」


ギーナの出した答えは、他に選択の余地がない唯一の答えだった。





/////////////To be continued...



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