第10話「王の戯れ」
「てか無人だしな。」
カヒリ達は一旦別行動中のソフィー達と合流し、再度城を訪れた。
警備を警戒したチャド達を落ち着かせながら、カヒリは乾いた笑いを交えつつ城の門を軽々と開け放っていく。
「浮かない顔ね。」
ギーナはソフィー達の表情が暗いことを心配する。
「キャル…辛いよね」
「実の父の死も、民からの扱いも、似た立場の人間として耐え難い」
「2人は知ってたのかぃ?」
「んー、いや。キングエルにはちょこちょこ顔出してたけど、別にモブ共と話すことなかったしな。」
「カヒリはそう言ってるけど、私は少しだけ知ってたわ。だから、前と今じゃあの子に対する気持ちが違う。力になってあげたくなってしまう。」
「それにしても…国王の死で城が無人に?後継者は…あぁ、そうか」
「そ。キャルがいないから王族の血が絶えた。とはいえだけどな。探せばキングエルには他にも権力者がいるかもしれないし、そんだけマクシミリアンを嫌ってたなら俺がこの国を良くしてやる!って名乗りを上げるやつが出てきてもいい。てかブラウンどこいった?」
「放置された城。かつての勇者の…今…」
「リーファン。なあリーファン。これに関しては結構な例外だと思うぞ?これって受け取り方の問題だろ。力不足でも、不測の事態でも、何らかの理由でマクシミリアン達は魔王を倒せなかった。結果、交渉したのか女神がやってくれたのか知らんけど世界を半分こしてさ。お前らが生まれてそこまで育つだけの時間は稼げてんだよ。自分達が勝てなくても、次世代のお前らに賭けることが出来たんだ。世界の危機だってのにこれってすごい事だぞ?詳細はまあ本人にしか分かんないから実はちゃんと噂通りのクズかもしれないけど、褒め称えられていい人間であることは確かだ。」
「カヒリ…」
「着いたわ。私達に突きつけられた次の問題はこれ。」
到着した果樹園。
リンゴの木。
国王、マクシミリアン・ストーンの墓。
「墓荒らし…!?」
「何が困るってさ、容疑者の心当たりってそりゃもうめっちゃ多いわけよ。なんせ人類の恥呼ばわりしてる人間がこの国だけでさあ、どんだけいるのよって。」
「まさか、カヒリはキングエルの国民が埋葬された国王を掘り返したと思ってるのかぃ?」
「それこそ、酒場に飾って酒のつまみにしてるかもよ?」
「さすがに言い過ぎよ。何れにしても悪意のある人間によるものよね。死んだ人間に利用価値を見い出せる人物とか…」
「何その捻じ曲がったネクロマンサー。」
「ネクロマンサー?」
「あー…えー…なんつーのかな。メドルーナでさ、富豪の屋敷を巡ってる時に何かの本で見たんだよ。死者に魂を与えて蘇らせる者…的な?」
カヒリは慌てて自分をフォローした。
すぐ隣で静かに膨らみ爆発寸前だったギーナの"ツッコミ"は形にならずに済んだ。
「気味が悪いねぃ…死者が蘇るのなら、人間は実質的に不死になったことになるからねぃ」
「でも実際そうなっていない。空想上の存在か、そのネクロマンサーとやらになるには相当な無理があるということか」
「ねぇ。私達はどうしたらいいの?死んだ王様を探すの?女神様を探すの?」
「じゃあまずは城の中探そうぜ?もしかしたら…だけど、国王が自分に蘇生魔法とか使ってたりするかもしんないし?」
「勇者なら…仲間の協力次第では有り得るかもしれない」
「リーファン結構冗談通じないタイプ?」
全員が城の中へ。
無人であり、中は明るくもない。
最近までしっかり手入れはされていたようで埃などは目立たないが…
「王の間にとりあえず行くじゃん?そこ調べたら次は…5人だけど全部の部屋はキツいよな。」
「何でもない部屋にこそ秘密を隠している可能性はなくもないけど、まずは関係の深い部屋を調べるべきね。マクシミリアン王がキャルを大切に思っていたのなら、彼女の部屋に何かあるかもしれないわ。」
「ん、思ったけどさ。キングエルで寝泊まりするのここでよくね?俺達一応"使い"だしさ、人いないなら別に迷惑かけることもないし。」
城の中を知っているカヒリとギーナが先行しソフィー達がついていく。
あっという間に玉座のある王の間へ。
「はい着いたー。」
「とにかく調べて。何でもなさそうな物でもベタベタ触ってみて。」
手がかり探しが始まった。
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ハート。
騒がしい日々が終わり、国王によって"強制的に"平穏が取り戻された。
「行ってきます」
「クロア。気をつけなさい…あなたは」
「分かってるよお母さん。夜には帰ってくるね」
昼時。狩人達が狩りに出るにはまだまだ早い時間。
クロアはこの時間から狩りを始める。
というのも、
「…………」
「…………」
「…………」
以前は自分を可愛がってくれた大人達。
クロアを見下していた他の子供達。
全員が、クロアに対して同じ目を向けるようになった。
監視の目。
国王が命じたそれは、リーファン達を助けた主犯格であるクロアを脅威とするもの。
しかし、まだ子供であるクロアは今後の"教育"でハートに相応しい人間になるかもしれない。
こうして、国中の人間がクロアを監視するようになった。
感情を持たない視線がクロアに痛々しく突き刺さる。
それらをやり過ごし、クロアはこの日も狩りを始めた。
弓の腕はあれから更に成長した。
急成長と言ってもいい。
父親の才を引き継いだのか、今では
「ビッグブー…2匹だけでいいよね」
視界には入っていない獲物を察知し、
「ふ」
構えた弓から矢が放たれるまでの間は一瞬。
つい最近まで息を止めて狙いを定めていたというのに。
獲物の小さな小さな断末魔の呻き声と倒れる音。
見れば、頭部に矢が必中している。
「食べる分は十分だから…」
2匹の獲物を木の下に寄せて、クロアは空を見上げる。
「僕がもっと強くならなくちゃ…」
そして一本の矢を真上に向けて空高く撃つ。
「んん…っ!」
続けて矢を引く…その顔は子供には似合わないほど真剣で力が入っていた。
矢を引き続ける僅かに震える右手。腕全体に血管が浮き出て二の腕には力こぶも見える。
「三日月…撃ち…!」
先に上がった矢を追うように撃った矢は、通常であれば失敗だ。
矢はぐねぐねと軸を失ったようにブレながら飛び、標的には到底当たることはない。
が。
「曲がって…!」
クロアが漏らした言葉通り。放たれた矢は通常とは違う動きを見せる。
空中で軌道を変えて、三日月を思わせる曲線を描きながら先の矢の真ん中に命中した。
しかし、クロアは落下してきた残骸を見て
「もっと鋭く…。その為にはもっと」
もう一度構える。
必要以上に引く力を強くして、右手が震える。
本来ならありえないこの震えこそ
「もう少し…震えて…んんんっ!」
その震えこそが、クロアが新たに生み出そうとしている人間離れした妙技の秘密であった。
再び放った矢が空中で異常な軌道を見せたのを確認したところで
「……誰?」
クロアは声をかけた。
おそらく、自分を監視している人間がいる。
もし魔物が襲いかかってきたとしても別に問題はない。
「…随分と急いでいるな」
「あ…」
姿を見せたのは国で民に見せるのとは違う、私服姿の国王…レイゼン。
"他の誰か"と同じ身軽な服装。
それは国民が量産している服。
大人も子供も着ている馴染みの服。
王冠すら着けていない国王は、クロアの成長ぶりを
「どうしてそんなに急いでいる」
「………」
国王は、国王だ。
ただクロアにとっては、兄のように慕う憧れのリーファンを死の境まで追いやった危険な人物でもある。
「稽古を付けようか」
優しく言った国王の声に身震いするクロア。
「お前の力を見せてほしい。子供は国の宝なのだから」
周りには誰もいない。
近寄る生物もいない。
森の中、力に目覚めはじめたばかりの子供と国を治めるほどの力を持つ大人…
「構えなさい」
国王…としてではなく1人の人間として、レイゼン・ハートはクロア・ルカリスに剣を向けた。
/////////////To be continued...




