第8話「黒い涙」
「"再燃"だから、火に関係するんじゃね?蝋燭とか松明とか、マッチとか?」
「これだと思ったら手に持って、心を清らかにして女神様に祈りで呼びかけるの。やってみて。」
「おっけ。」
カヒリはギーナに教わった通りに近くにあった蝋燭を手に取った。
そして無言で祈ること数秒…
「女神出ねえ。」
「ふふっ。きっとそれじゃないのよ。」
「修道女の格好してたならその服も関係あるのか?悪い癖だな…可能性は片っ端から潰してくタイプだからいっつも解決が遅れる。こういう事するやつって絶対最後の方の選択肢で正解引くんだよな。」
「でも地下はそんなに広くないから大丈夫よ。それにみんながいるもの。」
「みんなか…」
一方、リーファンとソフィーは女神探しを休憩していた。
「すまない。情けないよ。弱くなってしまったのだろうか」
「いいから。神父様のベッドで休んでて」
神父の自室と思しき部屋、リーファンをベッドに寝かせたソフィーは部屋の中を探す。
神父の手帳、棚にある本、こちらもカヒリと同じように見える物全てを調べていく。
「俺は怯えていたんだ。あの時…」
ソフィーに語りかけるように…というより、思い出しながらひとり言を呟くようにリーファンが話す。
「教会に現れたゼグエグに。攻撃して、取り逃がして、母国での記憶が強く引っかかった。…虫を極端に嫌う子供が俺に言ったんだ。言葉が通じるかとか見た目が可愛いかとかそういう問題じゃない。なんて言えばいいか分からないけど、これは当たり前のことなんだ。…きっとその子は本能に刷り込まれてると言いたかったんだ。俺がゼグエグに感じたそれは、きっと同じだ」
「…私も虫は嫌い。子供の時は蝶々が好きだったけど、初めて捕まえた時に観察したら顔とか体とか気持ち悪かった。大泣きしたよ。ひらひら羽根を動かして飛んでるの見てると綺麗に思えたのに。あ、今は飛んでるの見ても気持ち悪いよ?」
「ソフィー。君は頼りないように見えて、周りに安心感を与えている」
「え?何、突然」
「いや。君もまた、女神の1人…そう思えてね」
「嬉しくないよ全然!目を差し出さなきゃいけないとか聞かされてるのに!」
「ふふっ…その時は俺が別の方法を考えるよ」
「……うーん、リーファン。この部屋には無さそう。他の部屋見てくるけど、このまま寝ててよ」
「ああ、分かった」
ソフィーが部屋から出ると、カヒリ、ギーナ、チャドの3人が集まっていた。
「あれ?どうしたの?」
「ソフィー嬢、見つかったかぃ?」
「ううん。特に何も」
「もう他の部屋は全て探したわ。地下に無いとなると、いよいよ手詰まりね。」
「実は上とか?それか手持ちの女神呼んで声かけてもらう?」
「カヒリ。」
「ですよねー。」
「リーファンはベッドあったから休ませてる。その間に私達で上も調べようよ」
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「相変わらずこの教会はステンドグラスだけは綺麗だよな。他国には無いし、これこそ国宝だと思うんだけどな。」
「カヒリ。ちゃんと探して。」
「手と足は動かしてないけどちゃんと目が動いてるから。な。」
カヒリはステンドグラスに夢中。
ギーナとチャドはいくつも並ぶ長椅子を丁寧に調べる。
ソフィーは空間の真ん中に立ち、ゆっくりとその場で回転しながら全体を見ていた。
「あなたを…愛します…神に等しいあなたを…」
続けて天井を見上げながら、小さく声を漏らす。
「これから先の苦難も…幸福も…あなたと分け合うことでしょう…」
小さな声は音階を確かに刻み、ひとつの歌になっていた。
「いつか授かる我が子…私の幸せを伝えたい…」
「老いては産まれ…繰り返す…人の生業よ…」
歌い終えて、ソフィーの視線もカヒリと同じくステンドグラスへ。
そこには最後に見た時と変わらないそれがある。
青の空に緑の大地。
そして中心には白い布を纏った赤い髪の女性。
女性は空を見上げて黒い涙を流している。
「ねえカヒリ」
ソフィーはカヒリの隣に立った。
「ん?どした?」
「このステンドグラス、プロティア様のことを描いてるのかな」
「そうなんじゃないの?っても、この構図何なんだろうなとは思うけどな。」
「何で泣いてるんだろうね」
「…だな。」
言われて気づく。
ステンドグラスに描かれている女神らしきそれは、一粒の黒い涙を流している。
どうして泣いているのか。
なぜ、黒い涙なのか。
「もう、2人して…早く見つけないと先に進めないのよ?」
ギーナが2人の肩に手を置いたところで
「あった」「見つけた」
カヒリとソフィーが同時に言葉を発した。
それに反応してチャドが駆け寄る。
「見つけた?って…どこ…?」
ギーナが問うと、
「再燃のプロティア。私が聞いた話では、愛する人が病気で急死するのを避けるために自分の命を差し出した人がいた。おかげでその人はすごく健康で長生きしてるけど、その人も愛する人を失ってるから長生きしてる分とても辛くて悲しい思いをしてた。…プロティアはそういう人達のために泣いてるんだよ」
ソフィーが語ったのは花屋で老婆から聞いた話。
神だからこそ起こせる奇跡の御業。
そして、その奇跡によって生まれる副産物的な悲劇。
プロティアはそれを理解し、泣いている。
「ステンドグラスの黒い涙。あれが答えだ。神が代わりに背負った"悲しみ"を人が再び手にして、苦しむんじゃなくて糧とする。そのままだろ?再起する…再燃…」
カヒリは飛んだ。
ステンドグラスの目的とする位置目掛けて、腰から短刀を抜いて
「なんかロマンティックじゃんか。好きだぜ俺、そういうの。」
再燃のプロティアの黒い涙をくり抜いた。
着地したカヒリは早速そのガラス片を握り、静かに祈る。
………地下から足音が聞こえる。
「あなたの声、確かに聞こえましたよ。…その覚悟も」
全員が目を向けると、声の主はちょうど地下から姿を現した。
「修道女の姿をした赤髪の女性…!」
全員で地下を調べた。
他には誰もいなかったはずなのに、当然のように地下から現れたその存在。
ギーナが4人の中で一番大きく反応を見せた。
「あなたの中に燃えるその力、それは確かな覚悟。家族を、友人を、仲間達を、世界をも救ってみせるという強い覚悟」
「はは…ちょっと恥ずかしいんだけど。なあ、俺は初女神ってことでいいんだよな。プロティアだろ?」
「ええ。ありがとう…人間よ。再び立ち上がってくれて」
姿を見せた女神、"再燃のプロティア"はカヒリと会話をする。
カヒリに礼を言った後、ソフィー達に向き直ると
「あなた達にも感謝を。そして、助けになると約束しましょう…」
プロティアは全員に1人ずつ、息を吹きかけた。
すると、
「おおう…。」
「ん…。」
「これがプロティア様の力…だねぃ?」
「ううっ…」
全員が身震いする。
続けて
「なんか肌色が変わった?俺男だけどなんとなく美肌になった?」
「そうね、肌に柔らかな赤色が足されて見えるわ。」
4人の体に起きた変化。
「失う悲しみに足を止めないでください。悲しむことが出来るのは、それだけ大切に思っているということ」
「プロティア。これが呼び出すためのアイテムってことでいいのか?」
◆プロティアの黒い涙
ステンドグラスの一部。
カヒリが個人的にとても気に入っている。
プロティアから取り除いた悲しみそのもの。
カヒリがステンドグラスから取った黒いガラス片を掲げる。
それを見てプロティアは頷くと、自らを抱きしめて薄くなり…
「消えたな。あっという間に。」
「強いて言うなら、女神様はもう少し話す時間を設けてほしいわね…。」
「でも、アルタ様は結構話せたと思う。私達のために色々してくれたし」
「プロティア様を見つけた。これは喜ばしいことなんだけどねぃ。2つ気になることがあるんだよねぃ」
「あ?なんだよ。」
「……女神様がオイラ達に何をしてくれたのか。それと、そのご加護は…」
チャドは下を指さす。
「あ!リーファン!」
ソフィーが気づいて急いで地下へと降りていった。
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地下、全員が部屋に集まった。
静かに眠るリーファンを起こさないようにソフィーが調べる。
「…元々肌が赤っぽかったら?」
「いや、リーファン色白だったろ。女神もそんなに物分り悪くないって。」
どうやらリーファンにも効果があったようだった。
「チャド。お前の疑問だけどな。」
ついでに、とカヒリが得意げに語る。
「俺達に起きた変化は肌色が気のせいレベルで赤くなるってものだけどさ、ここがどこだか分かってるか?」
「教会だねぃ」
「バカ。国だよ、バカ。ライヴァンの国宝!」
「……なるほどね。つまり、私達にライヴァンの国宝と同じような加護が与えられたのね?」
「そういうこと。」
「それは…強い雨に」
いまいち理解しきれていないチャド。
「おまっ…!あのな、だから…」
大きな声をグッと堪えてカヒリがチャドを連れ出す。
「…は…、すまない。眠ってしまったようだ」
タイミングよく目覚めたリーファン。
ギーナが眠っている間に起きていたことを説明する。
「そうだったか…勿体ないことをした…」
「大丈夫よ。あなたもちゃんと女神様の加護を得られたから。効果は恐らく、1度だけ即死を免れる…か、特定の力に対して強い耐性を得る…のどちらかね。」
「ライヴァンの国宝と似ている…命を脅かす脅威から守ってくださる…ということか」
「ギーナ。次はどこ行けばいいの?」
「そうね、近いしキングエルかしら。"専愛のモア"がいるはずよ。」
「リーファン、もう少し休む?」
「大丈夫だ。…キャルのこともある。なるべくすぐに向かおう」
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信仰国アグリアス。
この日、国を訪れた1人の若い娘。
「おぉっと、お嬢さん、大丈夫かい?」
娘は顔が痩せこけ、ふらふらと歩いていた。
それを見て男が声をかけて自宅へ連れ帰る。
「おい!今すぐ毛布と食べ物!」
「あなた…!?どうしたの!」
「パパー!おかえ…り…」
妻は子供を別の部屋へ行くよう強く言うと、家中を走り回りすぐに毛布と食べ物を用意した。
「お嬢さん、さ、遠慮なく食べなさい」
「可哀想に…何があったんだ」
娘は震える手でスプーンを持ちスープを口に運ぶ。
心配する夫婦2人に見守られながらゆっくりと食事を続け、出されたものを半分食べ進めたところで
「感謝を…」
「いいんだ。いいんだよ」
「他に必要なものはある?もっと食べる?」
「必要なもの…」
「ああ、何でも言いなさい」
「ここはアグリアス。国王様にお願いすれば民に等しく与えられるはず」
娘は自身の指に輝く指輪を撫でながら言った。
「世界の……、世界の新たな王に相応しい者…」
/////////////To be continued...




