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私、この世界を征服します。  作者: イイコワルイコ
4章「世界を壊す力」
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第6話「居場所」




暗くて冷たい洞窟。


出口を求めるって考えはすぐに捨てた。

それは



《ブヒッ!?なんか臭うぞぉ?》



捕食者の数が多いから。

右に行ったら見つかりそうになって、じゃあって左に行ったら別の捕食者の背中が見えた。

私は静かに移動し続けてる。

でも、捕食者には私の居場所がバレてるのかもしれない。

ずっと胸がうるさいから。




ここが洞窟で良かった。

手頃な大きさの小石を拾って私から遠い場所に向かって投げる。

物音に反応した捕食者は



《ブヒヒィッ!!すぐ行くからなあ!?》



暗闇で行われるこれは、一種の"狩り"なのかもしれない。


「……かり?」


頭の中で小さな男の子の姿が浮かんで消えた。

何かは分からなかったけど、どうしてか生きなければいけない気持ちになった。


今みたいに物音で誤魔化したのはこれで7回目。

もしかしたらそろそろ通用しなくなるかもしれないから、別のやり過ごし方を考えないと。



《オォ。近いな》



別の捕食者がすぐに来てしまった。

今いる場所が分からない。

後ろに戻るか、前に進むかの選択肢。

悲しいことにこの近くには松明がない。

捕食者も暗闇で獲物を探してるはずだと思うけど、



《どれどれ…オォ?》


暗闇に2つ、黄緑色の残光。

見えてるんだ。



《オォ。オォ!女か》



完全に見えてる。

なら私の選択肢は1つしかない。


後ろに逃げ


「っ」


《オォ。女だな》


足を掴まれた。

ふくらはぎに触れたのは柔らかな毛と…肉球かな。

私の足を撫で回して、


「いっ」


引っ張られて無理やり仰向けにされた。


《オォ…》


お腹の下の方で吐息を感じる。

吐かれた息の温かさが悪い気がしなくて、そんな自分が気持ち悪い。



《オォ。1回捕まったな?》


「…え?」


衝撃的だった。

この洞窟の中で目覚めてから、4回。獲物が捕食者に捕まって最後を迎えたのを見て聞いた。


私の認識では、捕まれば最後。確実に死ぬはずだった。

なのに、私はすでに1回…捕まっ…え…



《こんなに泥だらけにされてると、オォ。ロワナーだな》


捕食者は私の体に付いてる泥や土を取ってくれてる?

柔らかくて力のこもってる感触、なるべく傷つけないようにしてるけど時々擦れて怖い爪らしき感触。


「…ろ、ロワナーって…何?」


どんなに慌てても、焦っても、恐怖しても、私には明日は来ない。

だから、うるさい胸を押さえながらどうにか聞いた。


《オォ。ロワナーは…臭い。だから土や泥で自分の臭さを消してる。中途半端に大きい。…オォ。そうだな、人間が分かる言葉なら、》



《ハゲデブ。オォ》



「それは、魔物…?」


《同じにされなくない。オォ…でも人間ではない》


捕食者は私の質問に答えながら私の体をきれいにしようとする。

お腹の泥も取れた。

胸にも触れられて、きれいにしながら弄ばれた…気がした。


《オォ。オマエ、悲しくないのか。もう、死ぬのを待つだけか》


「…それしかない。でも、捕食者に…ロワナー?に捕まったのにまだ生きてたのは何で?あなたは私を食べるんでしょう?そのために土や泥を落として」


《オォ?》


グッと顔と顔を突き合わせた気がする。

今、目の前に捕食者の顔がある。

吐息が口に、鼻にかかる。

獣臭い。


「んっ!?」


温かいのが唇と鼻に触れた。直後に残された湿りからして、顔を舐められた。


《珍しく可愛い女だ。オォ。売られたのか》


「売られ…た?」


自分の状況なんて分からない。

思い出す時間もなかった。

私は私だけど何者か分かってない。


《獲物には必ず理由がある。オォ…》


また顔を舐められた。

続けて、体全体に柔らかい毛が触れて、少しだけ重みを感じた。

乗っかられた。


《ロワナーがオマエを喰わなかったのは、可愛いからだ。分かるか》


捕食者の体重を感じて、目覚めた時のことを思い出した。

同じように…いや、もっと体重をかけられていた。

今と同じように吐息を顔で感じていた。

目覚めたあの時、私はロワナーに…



「っう」


《オォ?》


「離れて…吐きたい」


捕食者は素直に離れてくれた。

解放されて、私は四つん這いになって地面にぶちまけた。

気持ち悪くて、気持ち悪くて、気持ち悪くて、気持ち悪くて、気持ち悪くて、気持ち悪くて、気持ち悪くて、気持ち悪くて、気持ち悪くて、気持ち悪くて、気持ち悪くて


何度も何度も体内を急上昇して口から出てくる。

吐けるだけの液体が私の口から出てくる。

地面についた両手が液体の温度を感じる。熱い。


《オォ…》


捕食者は私の尻を撫でてる。

私には知識はない。経験もなかった。さっきまでは。

それでも、きっと、"喰われる"ことよりも残酷な気がして。


何もかもが気持ち悪い。気持ち悪い。



「…お願い…私はもう、汚れたくない」


《オォ。狼人間は土や泥で臭さを消したりしない》


「そうじゃない…お願いだから、せめて殺してからにして。もう、嫌だ」


《………》


捕食者が狼人間であることがさり気なく分かった。

今更どうでもいい。


私の頭の中は、好き放題されるなら先に殺してほしいってことでいっぱいだから。


《…オマエ。もう1回顔をよく見せろ》


お腹を両側から掴まれて無理やり起こされた。

立ち膝状態にされて、捕食者が私の顔を見えるように移動して。


《………》


黄緑色の目が私を見ている。


しばらくじっと見つめてから、私は無言で引っ張られた。


「痛い…歩けない。四つん這いでじゃないと…足が」


引っ張られながらその狼人間に訴えたら、抱き抱えられた。

形としては、お姫様抱っこだ。


暗闇の中を運ばれた。

何度か曲がって、松明の下に連れてこられた。



私を地面に下ろして見下ろす、狼人間。

私の体に付いてた泥が少し体毛に付いて汚れてた。


《オマエ…、お前の声を知っている》


狼人間はより人間っぽく話した。学んで中途半端に人間の言葉を話せるのではなく、元から当たり前に使っていたように。


《…忘れたか》


「……会ったことあるの?」


私からすれば魔物を区別なんて出来ない。

皆そうだと思う。本当に同じ姿だから。

きっと、個体によって違いがあるのかもと思うけど。


《リンゴ。お前にもらった。森で。アクトリオ平原まで案内した》


「……………」


思い出した。


2度目だ。


ライヴァンにブラウンが来て、宿屋で新しい人生をと考えていた私を見つけて連れ戻して。

それからもう1回城を出た後のこと。


森の中でリンゴを齧ってたら…そう、あの時、確かに狼人間に道案内を頼んだ。

リンゴをお礼に。



「…あなたは確か森から出られないって」


《だから、…オォ。別人になっていた》


狼人間であることを思えば"オォ"なんて鳴き声だか唸り声だか分からないそれは確かに違和感があった。


「…そっか。でも、なんか安心した。私のことを知ってる…人じゃなくて魔物だけど。ねぇ、リンゴはもう無いけど…なるべく優しく殺して…?」


《お前は、ここでは死なない。死なせない》


「リンゴのお礼?あぁ…食べたり殺したりしないけど…ってこと?」


私の体を"使う"ってことか。



《もうすぐで時間だ。"引き分け"にする》


「引き…え?」


また抱き抱えられた。

それから、狼人間は洞窟の中を動き回った。

さっきまでの私みたいに他の捕食者に会わないように。

暗闇でも見えてるから、私より確実に逃げ続けて。


《出るぞ》


そのまま、私は




/////////////now loading......





私1人じゃ絶対に逃げきれなかった。

私1人じゃ絶対に出られなかった。



狼人間に抱き抱えられながら、私は洞窟の外に出た。

外には火がいくつも見えた。

その火の周りにたくさんの魔物がいて。

私達を見ながら大笑いしていた。



《ぎゃーーーっはっは!時間切れだばーか!》

《惜しかったなァ!》

《狼人間は体内時計狂ってんノカァ!?》

《中で喰っちまえばよかったのに!》


ヤジが飛ぶ。


そんな魔物達の群衆を掻き分けて、ものすごく大きい魔物が来た。

その魔物が横を通ると、笑ってた魔物達が静かになって1歩下がる。


…偉い魔物なのかな。



《時間切れだ。ワシの洞窟での賭け事のルールは分かっているだロ?》


足も腕も胴体も全てが太くて大きい。

頭には毛が無くて頭皮に切り傷みたいなのがある。

…もしかして。



「ロワナー?」



《バ、バカ!親分をロワナー呼ばわりするなんてあの人間正気か!?》

《死んだな。捻じ切れて死ぬのに賭ける》

《なら俺は叩き潰される方に賭ける》


魔物達の言葉が正しければ、違う。



《ロワナー…?》



《親分!やっちゃってくれ!人間を殺してくれえ!》

魔物達が盛り上がる。


狼人間は私を抱き抱えたまま。



《ルール通り。オォ…引き分けだ。コイツは"買う"》


《そうか、ワシから買うってことは、分かるだロ?70000ゴールド》




《親分から獲物を買うつもりか!あいつ本気か!?》

《70000!!?》



私の値段。

7万ゴールド。



《買おう》



それでも狼人間は引かなかった。

私と狼人間と、その親分とやらはそこから離れた。



移動した先は大きな屋敷。

たくさんの松明の火で照らされてる。

金、金、金。全てが金で出来てる建物を初めて見た。

ここはどこなんだろう。

人間の国?もしかして、ゴルゴラが魔物に占拠されてからこうなったとか?


…ゴルゴラ?あれ、そうか。私。



《さて、お前が70000ゴールド払えるのか気になるところだロ》


玉座でくつろぐ親分。


狼人間は私を床に置いた。


「ねぇ、私、全部思い出した…」


《黙っていろ。お前は商品だ》



狼人間は洞窟から離れる時に何かを拾い上げてた。

それは服だった。上着だ。

そういえばここまで見てきた魔物達も何かしら服を身につけていた気がする。


その上着から、狼人間は1つ、リンゴを取り出した。



《ほほぉう…なるほど。それはリンゴだロ。ワシの大好物だロ》


《店でも売っているな。これよりも出来の悪いのが1個160000ゴールドで》


リンゴが、16万ゴールド…。

人間もリンゴを1つの富として扱ってるけど、魔物もそうだったんだ。



《…いいだロ。そのリンゴとその娘を交換だロ》


《よし》


狼人間が投げ渡したリンゴを受け取った親分とやらは、宝石を眺めるようにリンゴを見ていた。

自然と笑顔になって、口の端から唾液が垂れて。


《その娘のどこが気に入ったロ?》


狼人間が私を"持って帰ろうと"したところでリンゴを齧りながら親分が聞いてきた。


《引き分けなのが悔しい、それだけだ。連れ帰って仲間と食べる》


《そうかそうか。生き残った人間で最強と言われたあのバルディンがワシの土地に迷い込んだ時は驚いたが、その女を奪ってよかったロ。こんなに美味いリンゴを喰えるんだから》


「…っ」


本当は質問したかった。

でも、狼人間はその後すぐ逃げるように屋敷を出た。




/////////////now loading......





私は狼人間に持ち帰られた。


メドルーナみたいに賑やかな街を抜けて、深い紫色の夜空を見上げながらたどり着いた先は、森の中にポツンとある草木を編んで作られた家のような狼人間の巣だった。


そこには言ってたとおりに3人、狼人間の仲間がいて。



《おおお!あんた!活きのいい人間の女を!》

《人間!?人間!!本当だ!すげえ!》

《食べたーーい!人間!》



「…本当に食べるの?」


《お前達、離れろ。この女は食べていい人間じゃない》


《ええーー!?》


仲間の中でも背が小さい、子供?の狼人間ががっかりしてる。


《魔王様と同じ目をしている。つまりは》


《あんたまたとんでもないのを…》


狼人間の仲間…というより、家族?

あんたと呼ぶ奥さんに、成熟した子供が1人と、まだまだこれからな子供が1人。


…ん、待って。


「今なんて?」


《あの時森で会った時に、お前は魔王様と同じ目をしていた。…今も》


「…魔王様?」


魔王様と同じ目?何?どういうこと?

よく分からない決めつけを記憶が否定したところで、私は


「違う。違うよ。私は、キャロライン。キャロライン・ストーン…。人類の恥の娘…」


《ねえ!違うって!食べようよー!》

《やめな。食べるなって言われたんだから》

《あんた?どういうことなのか…》


《間違っていない。……とにかく手を出すな》



それから、私は狼人間に世話をされた。


まず、体を洗われた。

体毛と肉球がどこか気持ちよくて、巣の裏の水場で隅々まで洗われた。

でも途中で


《ロワナーに付けられただろうから、しっかり洗え》


そう言われて嫌な気分になった。




体をきれいにした後は、食事…だけど。



「これって」


《魔物の肉だ。クロキバの肉は人間にとっては鶏肉に近い。これ以外は口に合わない》


「…でも…生…?」


《人間ってのは面倒だな!魔物の肉も食えない焼かなきゃ食えない体も自分で洗えない!》

《うるさい》


子供2人が険悪な雰囲気。

私を食べたがってた小さな子供が特に私に対して敵意がある。



《我慢しろ》


私を助けてくれた狼人間は、お父さんみたいに思えた。

少し素っ気ないようで、しっかり見てくれている。

そう、森でリンゴをあげたのを覚えてくれてたみたいに。


「ウォーグ」


《なんだそれは》


「…あなたの名前。無いんでしょ?お前、あんた…そういう風にしか呼びあってないから。人間の言葉を話せるほど賢くても、元々魔物だから名前は持たない。あるのは人間が勝手に名付けた種族名だけ。…だから、あなたはウォーグ。私が勝手にそう呼ぶ」


《……好きにしろ》


《名前?名前ってなーに!?ねえ!》

《うるさいな》


《女。あんたら人間はみんな名前ってのがあんのか?》


「女じゃなくて、キャロライン。キャルでもいい。…あるよ。みんなに名前が付いてる。産んだ親とか関係の深い人が大切に名前を付けてあげるんだよ…」


私の名前を付けたのは…誰なんだろう。


《そうかい。で、キャル。そこまで言うなら"みんな"に名前をくれよ》


奥さんっぽい狼人間が、そう言った。

ウォーグと同じように名前を付けてくれと。


《襲わない代わりに、名前を寄越せ》


成熟してる子供が要求してきた。



「分かった」


私を助けてくれた狼人間はウォーグ。


その仲間達…

奥さんっぽい狼人間にはウォーガ。

成熟した子供にはバルルグ。

もう1人の子供にはバルルガ。


性別と、大人か子供かで分けて付けた。



名前をもらって、ウォーガ達はなんか嬉しそうだった。



食事は…我慢して生肉を食べた。



私は、全裸で、狼人間…魔物と生活している。

ありえないことだ。

考えもしなかったし、今も信じられない。

でも、反抗して逃げ出したところで相手は狼人間。

他にも魔物がたくさんいたし、私に逃げ場はない。


従うしかない。



「…ところで、ウォーグ。ここはどこなの?ゴルゴラ?さっき賑やかなとこ通ってたけど…もしかしてメドルーナ?まさか私の知らない間に人間の世界って」


《ここはエンヅォルトだ》



目覚めてからというもの、私は何度衝撃的な事実を知らされたんだろう。





/////////////To be continued...


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