【裏】第7話「やるべきこと」
信仰の国。アグリアス。
この国はなんていうか…優しい国だ。
裕福な人間はメドルーナに行くし、戦う力がある人間もメドルーナに行くしでこの国には武力も資金力もほぼほぼ無い。
その代わり、国が民を平等に扱う。
アグリアスの国民になるだけで、衣食住の全てが与えられるんだってさ。
必要最低限の…とはいえすげえよ。
その後も何にもしなくても飢えを凌げる程度には国が食べさせてくれるんだとか。
まあそんだけ尽くしてくれるんなら、ヒンマみたいな国王じゃなくても皆ついていくよな。
「で、俺は女神様をスルーしたってわけだ。」
信仰の国で最も信仰に値する存在に俺は助けられた。
なのに、俺は目覚めてすぐ喉の乾きでグチグチ言って。
その間に女神は十字架だけ残して消えた。
それから強制的に休まされて2日。
俺はこっそりこの建物の屋根裏部屋とかトイレとか探したけど、まあ女神は姿を現さなかった。
「やべ、誤字った。」
ギーナは今お風呂タイムだ。
俺とは違って考え事がある時は長風呂になる。
俺はというと、こうやって紙に思うことを書き連ねたり頭の中で延々と自問自答したり…
…メドルーナで俺達は聖騎士バルディンに負けた。
情報通というか、ちょっと訳知りな俺達でも勝てなかった。
この世界は色々と違う。
正史…みたいなものと。
なぜバルディンはメドルーナにいた?
なぜあの屋敷を襲撃した?
なぜあんなに強かった?
なぜ必要な情報を得る寸前でそれが起きた?
気になることだらけだ。
紙相手だからいくらでもぶっちゃけるけど、バルディンは特別な鎧のおかげで遠近どちらも防御力は高い。
あの翠の鎧は単純に珍しいんじゃなくて、昔に魔法使いの妻を持つ鍛治職人が鎧に防御魔法を練り込むことに成功したっていうシンプルな奇跡で生まれた防具だ。
たまたま出来ただけで、量産は出来なかった。
だからバルディンが着てるあれは争いの種になったわけだ。
…じゃなくて。
鎧は特別。でもバルディン自体はそこまでじゃないんだよ。
ただ、体がデカい。2〜3mはある身長っていざ戦うとなるとプレッシャーもすごい。
身長だけじゃなくて手とか足も大きい。それがあるから片手に槍を複数持ったり出来るんだけどさ。
でも不思議と馬に乗ってる姿は普通なんだよ。そんな大きく見えないの。
何でだろうか?そりゃあほら、足が長いんだよ。
スラッとしてんだよ。
ああもう書いてたらムカついてきた!なんで勝てなかったんだ!
あの鎧は連続攻撃には弱い。初撃に対して防御魔法が働いて衝撃を無効化する。再発までは最低30秒はかかる。
俺はあの時、膝蹴りしながら見えない速度で両手でガンガン殴ってた。
本来なら鎧がボコボコになって割れる予定だった。
なのに全部無効化されたし。
次は本気出すからな。
こっちにもプライドってもんがあるんだ。
俺が負けていい女は妻だけ。
「ふう。スッキリしたわ。お待たせ。」
「お、おう…」
「うふふ。今更裸なんて見飽きたでしょう?」
「んなわけあるか!刺激が強い!服!ほら!」
「まだ濡れてるの。拭いてくれるかしら。」
「……そう来たか…!!」
風呂上がりのギーナの体を優しく拭いてやるカヒリ。
「カヒリ。あのね。私、」
「俺は何があっても味方だ。俺が同じ立場でもそうする。というか、今更俺が何が良い何が悪いなんて説教するわけないじゃん。よくよく考えたら俺以上の大悪党いないぜ?死刑何回分の悪さしてんのって話だよ?」
「またそうやって…」
「覚悟はしてたんだろ?人を死なせてしまったとしても。」
「そうね…でもやっぱり落ち込むわ。その分お風呂も長引いちゃったの。」
「そういえば今回は本当に長風呂だったな。」
「アラビタの十字架は手に入れたわ。それに、ソフィーの左目だって本物よ。」
「やるべき事は決まってるんだよな…」
キャルはバルディンに連れ去られた。
取り返しに行くのが最優先とも思うけど、どこへ行ったのかも分かんないし。
「キャルを連れ去ったということは、彼女に関係する問題が伏せられてる。私はずっとこれを考えてたの。もしかして、なんだけど。」
「仮説?」
「タイミングから察するに、バルディンもゼグエグに関わってると思うの。」
「それって…マジ?」
「私が考えたのはバルディンにも大切な人がいて、その人がキャルと同じ状態だとか。もしくはキャルの状態が何者かにとって好都合で、それを知ったバルディンが」
「バルディンがどうやってキャルの状態を知るんだ?接触してないし見られてもないだろ?」
「どこかからメドルーナまで私達を尾行してたなんて言わないわ。理由は分からないけど、きっとバルディンはしばらくメドルーナに滞在してたのよ。滞在するとなれば、寝る場所が必要になる。力があるからお金は要らないわ、脅して宿か富裕層の屋敷を奪って…そうなれば自然と世話役も。」
「世話役か…屋敷でも宿でも、世話役プラス護衛役もいるしな。本人じゃなくてそいつらが様子のおかしいキャルを見かけてチクったってことか。」
「………ねえ。」
カヒリがギーナに服を着せている途中、ギーナが閃いた。
「ゼグエグは複数いるのよね。」
「確かに。マリタの爺ちゃんに話聞いてる時、ゼグエグの説明でヤツらって…ん?待て待て。」
「どうしたの?」
「いや、関係とか目的とか。丸分かりじゃね?」
あの時聞いたのはこうだった。
"妖精ゼグエグ。子供が喜ぶような可愛らしいそれではなく、残虐な魔王の"使い"の名。ヤツらは魔王の願いを叶えるために何でもする。自然の姿に身を隠し、生き物の首を刈り取り、金品を運ぶ…"
「魔王の使いなんだろ?んで、キャルはゼグエグと同化した。てことは、ゼグエグは好きなやつを選んで同化出来るわけで。それがもしあのミニ巨人のバルディンだとしても。」
「………」
「ゼグエグ同士の助け合いがあるかは知らない。でも、魔王の使いってことなら、ゼグエグはキャルを」
「キャルはマクシミリアン王の娘よ。なぜ今なのかは分からないけど、勇者の子孫だと分かったから連れ去ったのだとしたら。」
「のんびり出来ないな。準備してくれ。俺はまとめる。」
俺達の答えはこうだ。
・キャルと同じく、バルディンもゼグエグと同化してる。
・本来なら必要なかったけど、キャルが俺達によって拘束されたから仕方なく。
・同化バルディンはキャルを連れ去った。それはもしかしたら魔王のため。
・なら魔王の目的はどうせ勇者の血筋を滅することだ。自らの手で葬り2度と人間が抗えないようにするのかもしれない。
・人間側に立ち向かう術が無くなったら、改めて魔王は境界線を越えて世界を征服する…。きっと。
「どっちみち今のバルディンはクソ強い。1人でも魔国に突っ込めるだろ。」
「ゼグエグと同化しているとしたら、恐らく私達と同じようにはならないでしょうね。」
魔国エンヅォルトはつま先ちょっとだけ踏み込んだだけでも視界を持ってかれる。
マジで視界ジャックされる。
全部真っ白で何にも分かんなくなる。
つまり、俺達は正攻法でやるしかない。
「あと5?せめて半分集まっててほしいよな。」
「仕方ないわ。確かリーファンも当てはまるのよね?」
「ん。だから、人探しは不要。俺達がやるべきなのは」
「女神探し…ね。難易度が高そう。」
「…だよな。」
/////////////now loading......
宿を出て、次の目的地へ出発するカヒリとギーナ。
その2人を空から見下ろし、彼方へ音もなく飛んでいく"何か"。
もうすぐ日が暮れる。
"何か"は、あっという間にメドルーナ上空を通過して勢いそのままにハート上空も越える。
そして空高くまでその効果を主張する境界線を、当然のように通過した。
次の瞬間、まだ明るかったはずの世界が昼夜逆転。
空は漆黒に染まり"何か"の存在も空に完全に隠れてしまった。
ちょうど、その真下……。
《ほらほら安いぜー!足音が消える革靴!人間を必ず殺す毒!なんでもあるぜー!ほら、そこの目ん玉でけえブロリスカも買ってけ!》
《んあ?…悪かねえな。これあるだけ寄越せ》
《おおお!?子供の指揚げか!全部お買い上げええ!820ゴールド!》
そこには、メドルーナとそう変わらない景色があった。
賑やかで終わる気配のない商人達の声。
ついつい店に寄って金を落としてしまう客。
《だあ?お前さっきは820ゴールドって言っただろうが!》
《聞き間違いだぜ?ここをどこだと思ってる?騒がしくて当たり前だぜ?》
《ふざけやがって!》
会計は子供の指揚げ20本で820ゴールド。
そう聞いたブロリスカは釣りの出ないちょうどの金額を支払うが、店主は金を受け取るタイミングで1020ゴールドだとふっかけたのだ。
それに怒ったブロリスカは商品の並ぶ台を叩き割り、店主に詰め寄る。
《820だろうが》
《おおっと…ブロリスカのくせして商人に乱暴はよくないぜ?さっきも言ったが、ここをどこだと思ってる?》
《ああ?》
店主はニヤニヤと笑う。
それを怪しく思うが、視界の端に広がる大きな影に気づくと
《商人に手出したら…そうなるぜ?…あっした!》
店主が手を振ると、客だったはずのそれは空高くぶっ飛んで…汚れた液体になって地面に降り注いだ。
《親分!ありがとうございますぜ!》
《一つ目の緑の屑を片付けただけだロ。客には相応しくないだロ。手持ちは870ゴールド。お前の上乗せ分は払えなかったロ》
《そうだったんですぜ!?親分がいなかったら…はぁ…》
《客を見る目がないお前にも責任があるだロ》
《え"》
メドルーナと酷似してはいるが、日々の争いの数は比にならない。
この市場を管理する"親分"は、店主の首を掴み連れていく。
《親分!許してほしいぜ!売り上げはある!あるぜ!上納金をいつもより増やしてもいいぜ!だから》
《ここをどこだと思ってるロ。ワシの土地だロ》
《ひっ…》
店主は、"親分"に雑巾絞りの感覚で絞り殺された。
瞬圧の怪力で骨格も何もかも形そのものが破綻している。
残骸を抱えて親分は再び歩き出した。
この市場は、眠らない。
/////////////now loading......
「結局はみたいなとこあるよな。」
日が沈んで、カヒリとギーナはライヴァンへと戻ってきた。
「でもどうする?女神探しっても…祠とか無いし。」
「そうね、私達は意外と重宝されているし国王からの信頼も厚くなる頃じゃないかしら。」
まっすぐ城に戻った。
早速国王と話をしようとした2人だったが、珍しく国王は留守にしていた。
「国王め、タイミング悪いなぁ…んー、キングエル?」
「確かに急ぐけど…」
用意された城内の一部屋で次の行動を相談する2人。
予想が当たっているのだとしたら、のんびりはしていられない。
寝ずに動き続けるのが大前提でそれでも間に合わない可能性がある。
「カヒリ。国王が留守なら、私達で勝手に探すのはどう?」
「え?」
「ヒンマ国王は十字架を自分の部屋に隠していた。理由の善悪は抜きにしても、女神の力を隠す国王は少なくないかもしれないわ。…でもそれはもし国王が持っていたらの話になるわね。」
「再燃のプロティア…だよな、ライヴァンは。…あのさ、本気でさ、もう一回女神呼べない?女神なら他の女神のこう気配的な?分かると思うんだけど。」
「…無理ね。試してはいけない。こういうのって、自力で探し出すのが相場よ。友達なら教えてくれるだろうみたいな考えは間違っていないけれど、もし軽い理由で呼び出して女神様が非協力的になってしまったら大変だわ。」
「よし、全力で探そう!」
2人は一旦部屋で休むことにした。
これは言ってみれば"アリバイ"だ。
夜遅く。城内も静かになり、警備兵も立ちながらうとうとし始める頃。
お馴染みの黒い布で身を隠しながら、2人は部屋を抜け出した。
/////////////To be continued...?




