第3話「与えられた選択肢」
ロガドガ山の攻略。
それ以外に道がなかったから3人は進むことを決めた。
舐めてかかったわけではないが、ここまでの道のりだけで人生丸々1回分ほどのスリルを味わった。
何故ならこれはただの登山ではなく、自分達を喰らおうとする魔物達との常時戦闘状態付きだからだ。
戦力で言えば。チャド、リーファン、ソフィーの順に強い。
身軽さで言えば。ソフィー、リーファン、チャド。
体力ならば。リーファン、チャド、ソフィー。
そんな個々の能力や特徴はこの山では無意味だ。
求められるのは、生存するための力。
それは単純な腕力かもしれないし、逃走するための脚力かもしれない。
もしくは襲い来る全てを無に還すほどの魔力。
運命に身を任せるように動き続けた3人は偶然にも女神の1人、"許しのアルタ"と遭遇し、短い時間ながらもロガドガ山ではありえない"安全"を与えられた。
「こ、こんなの…嘘みたい」
チャドが目覚めると、アルタはリーファンに施したのと同じようにソフィー達にも"許し"を与え、空腹と疲労を忘れさせた。
「体がスッキリしたねぃ…女神様のこれは魔法…?」
「魔法だと人間にも使える事になるから違うのさ」
変わらず、チャドを囲んでの会話。
彼が目覚める直前までアルタとリーファンは1つの問題を抱えていた。
それは一旦中断されたが、リーファンとしてはやはり聞く必要がある。
世界各地に散る女神達の話が嘘ではなく本物だと確信した…その場合、
「若者。お前は違うのさ。それはもう」
「分かっています。それでも魔国は存在する。きっと魔王もそこに。俺の使命ではないとしても、それを手伝うことは出来るはずです」
「前置きしておくが、そこの大男も違うのさ。帰るのを勧めただろう?お止め。お前達が魔国に行くことは出来ないのさ」
「……アルタ様。オイラはメドルーナでも女神様に会いました。施しのチアン様にねぃ」
チャドは話を逸らした。
「おぉ、チアンか。元気にしていたか?」
「宿で身を売る商売をしていましたが…いや、もしかしてあれは」
「そう。借り物の姿さ。さぞ魅力のない女だったろう?」
「自分からは声をかけず、周りの男も避けていましたねぃ…でもオイラには美しく見えました」
「まさか女神を買ったのか、大男」
「……ある意味、そうなりますかねぃ」
久しぶりの会話。しかも話題は他の女神。
アルタは楽しそうに話を聞いている。
そんな中、浮かない顔をしているのは
「あ、あの…」
ソフィーだ。
「さっき、言ってましたよね。…女神の力を集めるのが選ばれし者の役目の1つって。選ばれし者っていうのは…」
故郷のミフィーリアでは、それなりに大切に育てられた。
大人達はソフィーの本来の役目を知っていたのだろうか。
遺伝したと教えられた、この左目を、いつかその選ばれし者とやらに差し出さねばならないことを。
「勇者とも呼ばれる。特別な才を生まれ持った人間なのさ。だがそれも本人次第。才能があっても育てなくては意味がない。力をつけても悪用しては意味がない。それこそ、どこかで飲んだくれている男がその選ばれし者の可能性だってあるさ」
「そ、それって。誰にも負けないような正義の味方…?」
「ん?心当たりでも?」
ソフィーはチャドとリーファンを交互に見て目を合わせ頷くと
「…2人。もし、選ばれし者に性別も関係あるとしても」
「いや、関係ないのさ」
「じゃあ、2人。今はどこにいるんだろう…でも、あの2人なら絶対誰にも負けないです」
「…あぁ、あの2人だねぃ?」
チャドが理解すると
「カヒリとギーナか。なるほど」
リーファンも同じ考えに至った。
「そのカヒリとギーナというのは誰なのさ全員納得の強さのようだが」
「カヒリは同じ人間とは思えないほどの神速だねぃ。1度軽く手合わせしてもらったことがあったけど…あのラビッグルにも余裕で当てられる速さの攻撃を簡単に避けられたのはびっくりしたねぃ…」
「ラビッグル!?あれだけ素早い魔物を引き合いに出すのか…あれを仕留められるのはハートでもそう多くないのに」
「何その…ラビ?」
「ラビッグル。全体的に黒くて、足が異常に発達していてね。飛び跳ねて動き回る…言葉だと簡単だけど、いざ相手にすると…」
「あっちこっちって飛び回って、刃物みたいな羽で体中を切られるんだよねぃ。どことなく兎に似てるってことで、刃兎と呼ばれることもあるねぃ」
リーファンの説明を途中からチャドが引き継ぐ。
「それに、カヒリは速さだけじゃない。恐れを知らないような戦い方をするね。クロアの放った矢を手刀で叩き落とすくらいだし」
「カヒリについては何となく分かったのさ。度胸があって人間らしくない速さ。見てみたい気もする」
「もう1人のギーナはね、魔法が使えるんです。炎が一瞬で…それから」
「その炎を盾にすることも出来る…あと」
「炎鳥を呼び出すことも出来るねぃ…そうそう」
3人が次々にギーナの魔法を目を輝かせながら説明しようとする。
「もういい。もういいのさ。分かったのさ。…お止め!!」
アルタが片目を閉じ、3人を右目で睨む。
「ふぉぉ…」
チャドがぐったり倒れる。
リーファンはどうにか堪えるが両手を地面についたまま。
ソフィーはフラフラと揺れている。
「許しのアルタ。授けし力は"許し"と"忘却"…その効果はもう思い知ったはずなのさ」
3人が謝ると、改めてアルタは伝えた。
「お前達は選ばれし者ではないのさ。ソフィー、お前に関してはどちらかと言えばこちら側。その身を捧げ選ばれし者に力を与える立場なのさ」
「はい…」
「お前達はその者ではない。だから選ぶことが出来る。戦う運命にはないのさ。今からでもどこかで穏やかな暮らしを望んでもいい。誰にも責められやしない。何せ誰も知らない。この歪んだ世界で人間に残された宿命を」
3人は口を閉ざした。
少しの間があって、アルタはため息混じりに
「もし、お前達がその宿命を少しでも担いたいと考えるのなら。選ばれし者を探したらいいのさ。見つけ出したら、そしたら次は女神を探せ。その時にもう1度、ここに」
「もう1度…」
「もう1度さ。さっきギーナという魔法使いは炎鳥を呼び出せると言ったが、"ここ"に来たければ下から登ってこい」
リーファンが目を大きく見開く。
簡単な説明だった。
何かしたくてうずうずしているのであれば、恐らくそうであるカヒリ達を探し出せ。
もし見つけたのなら、"ズル"をせずに女神達を探し出せ。
居場所が分かっても、女神の定めた方法でなければ会うことは出来ない…
「この山を離れるまでは力を貸すことを"許す"。その後はお前達の好きにするといいさ」
アルタは再びその右目の力を使った。
一見すると何も変化は起きていないようだが、
「後で分かるのさ」
そう言ってアルタは立ち上がり、別れも言わず洞窟へ向かって歩き出す。
「あ、女神様!助けてくれてありがとうございました!」
「……」
「アルタ様…」
ソフィーがアルタの後ろ姿に感謝の気持ちをぶつける。
チャドは黙って一礼。
リーファンは少し惜しいような顔をして見送る。
「そうだそうだ。若者!」
ふと、アルタが振り返ってリーファンを右手人差し指で指さす…と。
「こっちだって、お前のことはどうでもいい!」
3人は口をポカンと開いて反応に困った。
「でも、いつかまた会いに来るといいさ」
子供らしい。可愛らしい再会を望む別れの言葉だった。
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空腹も喉の乾きも全身の疲れも一切感じない。
ソフィー達はロガドガ山を全力で駆け抜ける。
面白いくらいに走れる。躓いても平気だ。
山の頂上まではあっという間だった。
リーファンの予想は当たり、登るほど魔物との遭遇は少なくなっていた。
しかし、頂上には少し問題があった。
「………」
「………」
「………」
問題その1、頂上だけに降り積もる雪。
寒い季節になればハート近辺では雪は見られる。
しかし、1歩踏み込むとそのまま膝まで簡単に飲み込もうとする雪にはハート出身のリーファンでさえお手上げだった。
問題その2、こちらはその1のせいで余計に大事になってしまった。
頂上には、先客がいたのだ。
それは、蜷を巻いた龍だった。
鋼色の鱗、大きな翼、鋭い返しの棘が見える尻尾、大人の背丈ほどある手足…
これまでチャドやリーファンが相手にしてきた"魔物"とは違う。
物語に登場する程度の実在はしないはずの空想上の生き物。
巨大なそれを目の前に3人は、自然と無口になって、出来るだけ音を立てないように移動する。
この龍は眠っているのだろうか、ただ休んでいるだけなのだろうか。
もし、目を開けてこちらを見つけてしまったら。
戦闘になれば間違いなく勝ち目のない大きさだ。
そして、ただでさえ無理な相手なのに足場は悪い。
深い雪に体を翻弄されながらこの龍と戦い、せめてどうにか生き残る…それはどう考えても不可能で。
「あ」
漏らした声。
ソフィーが踏み込んだ部分は相当雪が深かったようで、胸元のあたりまでずっぽりと埋まってしまった。
「ソフィー!」
「リーファン…」
思わず声を上げてしまうリーファン。
静かにするよう必死な顔で促すチャド。
……………龍は動かない。
今のうちにとリーファンが急いでソフィーの手を掴む。
少し遅れてチャドもソフィーの腕を掴むと、2人で息を合わせて
「ふっ」「はっ」
「うわっ」
雪から引き抜いた。
そして3人は揃って龍へと目を向ける。
………龍は動かない。
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女神の力を借りても。まだ危険があった。
どうにか危険地帯を抜けた3人は続けてゴルゴラ側へ下山する。
上から襲ってくる魔物はおらず、下から登ってきた魔物をチャドが適当に斧で対処し、時々飛んできた魔物をソフィーが魔法で撃ち落とした。
女神と遭遇してから、半日ほど。
「ロ、ロガドガ山…そこまでじゃない!?」
群青色の岩達が少なくなり、茶色の地面や岩が見える。
「越えたのか…」
リーファンは驚きを隠せない。
「待ってほしいねぃ」
さっさと進もうとするソフィーとリーファンをチャドが止める。
「女神様は"この山を離れるまで"って言ってたねぃ。明らかに地面の色が違うし、そっち側に1歩でも進めば与えてもらった力は」
それはつまり。
「もしかして、こっちの茶色のとこ立った瞬間に、お腹が空いて、喉が乾いて、すごく疲れるってこと?」
「場合によっては死んでしまわないだろうか…?」
「アルタ様はこうも言っていたねぃ。授けし力は許しと忘却。オイラ達は今、空腹や疲れを忘れているだけなんだよねぃ。だから、ここで休む。ほとんど平地だし女神様の力も働くから誰か1人が見張るだけでもいいはずだねぃ。十分な睡眠さえとれれば疲れは軽減出来るねぃ」
「しかしゴルゴラは…」
「なら、ライヴァンの方向?」
「ゴルゴラが敗れた時点で道は塞ぐはずだねぃ」
「いや、カヒリとギーナの会話を少し聞いた。聞き間違いでなければカヒリはライヴァンからゴルゴラへ向かい、ロガドガ山を1人で抜けたとか」
リーファンが思い出しながら語った内容を聞いていた2人。
話し終えて改めてリーファンを含めた3人は、カヒリの異常さに気づかされた。
「ね、ねぇ…そういえば、バルディン?ってほら」
ソフィーがチャドに聞く。
それはメドルーナに向かう途中、バルディンに遭遇した時のことだった。
彼はゴルゴラの国王を逃がすために守りながらロガドガ山を越えたと語っていた。
「確かあの人もロガドガ山…」
「護衛したというゴルゴラの国王については、ハートで墓を見つけたねぃ…」
「うーん」
ふと、考えるソフィーの脳内に浮かぶ選ばれし者の候補。
その候補となるための"絶対条件"として、強さを知るのにこのロガドガ山は適しているのではないか。
この山を1人で越えることが出来るのであれば素質は十分なのでは?
「あ、でもそしたらバルディンも候補になっちゃう。それは嫌だなぁ」
「ソフィー嬢?」
「ううん」
「休もうか。まずは俺が見張りをしよう」
なんだかんだありつつも、常人には成せないことをした3人はロガドガ山の土地のギリギリの場所で休むことにした。
/////////////To be continued...




