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私、この世界を征服します。  作者: イイコワルイコ
3章「女神の伝説」
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【裏】第6話「解放」




「規格外すぎるだろ!ふ、ふざけんな!」



マリタの屋敷。


ゼグエグのことを知る機会は、突然の訪問者により奪われてしまった。

しかも、その男は。



「カヒリ!」


「…に、逃げ…」



書斎の出入口を大きな体で塞ぐ。

扉の枠からはみ出た首から上はカヒリ達には見えていない。


即突破を狙って飛び膝蹴りをしたカヒリだったが、あっさりと無効化された。

しかも、なぜか鎧から膝が離れない。

翠の鎧は彼の膝を受け止めると衝撃を殺すだけでなく、粘着性のある質感でくっついてしまった。


「鳥黐か…っ!?」


しかし鎧に何か加工された様子はない。

男は膝が離れないカヒリの首に左手を伸ばす。

鉄に守られた太い指が迫り…どうすることも出来ないまま掴まれる。


「ば」


"ば"は言葉になることもなくその場で途絶える。



「ごめんなさい。私がしつこく手加減するように強制したから、大事な場面でこんなことに…。」


ギーナの声は震えていた。しかしそれは少しだけ意味が違った。


「私も、やる時はやらないとダメよね。」


直後、部屋の出入口付近が爆破される。

それをやったのは他の誰でもない彼女で。


「すぐに返してもらうわ!」


壁が無くなったことで"訪問者"の頭部までスッキリ見えるようになった。

彼の顔もまた、防具により守られていて素顔を見ることは出来ないが。


「今は邪魔ね。」


ギーナは自身を包む黒い布を剥ぎ取ってしまった。


「私は炎を統べる者。今ここに、不死鳥の力を!」



((ブレイズ・メイル))


詠唱により現れた虹色の炎は黒い布の代わりにギーナを包む。

そのまま鎧の形になると、


「燃やし尽くしてあげるわ。」



ギーナは両手から炎を垂れ流して、その男…聖騎士バルディンに向かっていった。





/////////////now loading......






この日、メドルーナで大きな騒ぎがあった。

富裕層が暮らしている区域で大規模な火災が起きたのだ。

気づいた時にはすでに遅く、炎は燃え移りあっという間に10以上の家を燃やした。


鎮火を急いだものの、どうにもしつこいその炎はその日の夜遅くまで存在を主張してメドルーナを赤く照らし続けた。



どうにか炎が落ち着くと、すぐに生存者の捜索が始まった。


死人は何人も出ていた。


黒焦げになった人間が3人。

形を留めていない黒焦げの破片も見つかった。

唯一すぐに身元が判明したのは、顔の下半分がざっくり裂けていたマリタだった。


鎮火や捜索で命を落とした者もいた。

以降、メドルーナの国王は最近起きた問題をひとまとめにして、"娯楽大国"の姿を変えるほどの厳重な警戒を指示した。


国に住む人間は生まれて間もない赤ん坊から先が短い年寄りまで入念に調べられ、全ての建物に調べが入る。


そうして明るみに出るのは、メドルーナの闇。

宿で"飼われる"女達。武力を行使して悪を働く男達。魔物の加工肉や奴隷の少年少女を売る闇商人。

挙げればキリがないそれらを国王はもちろん許さなかった。



…結果、異常なほど安全を追い求めた国王は、数日でメドルーナを全く別の国に変えてしまった。



変わってしまってからというもの、"娯楽大国メドルーナ"は別の名で呼ばれている。




/////////////now loading......




後日、アグリアス。



「"信じる"しかない。諦めないわ。絶対。大丈夫だから。ね。」



「何の用だ…」


礼拝堂。

地下から上がってくるのは、国民を信仰により支配しようとしていたヒンマ国王だ。


"ライヴァンの使い"の訪問により顔を出した彼だったが、その使いの正体を見て顔を歪める。


「また私に」


「いいえ。ヒンマ国王。…あなたにお願いがあって来ました。」


「ほう…」


黒い布で身を隠す女性…彼女は国王の前で跪き、続ける。



「あなたは長く生きている。それは信仰の力…」


「そうだともそうだとも。信仰により体は守られ、病魔など寄り付くことはありえない」


「私にも、その信仰の力を…」


「以前とは態度が違うな。分かりやすい。都合が悪くなるとそうやって態度を変える、お前の醜い魂が露出しているぞ。お前は違う…そうか、もう1人同じ格好をした男がいた。さては」


「……」


国王は、彼女の表情の変化を知ることは出来ないが確信した。


「大切な半身を救うため、信仰に頼るか…」


「はい。」


「……いいだろう。来なさい」


意外にも国王はあっさりと受け入れた。


彼女は地下に案内される。

そう、そこは扉で締め切られた王の部屋。


護衛達を全員地下から追い出してしまった国王は、改めて彼女の事情を聞く。




「それで、ギーナ。お前は何に苦しむ」


「…私と私の彼、カヒリはメドルーナでバルディンと戦いました。」


「バルディン…とな?まさか。あの聖騎士の、か?」


当然の報いだ。と言わんばかりの顔をギーナに見せるヒンマ国王。


「そのバルディンです。彼は物音しか立てなかった。一言も話さなかったし、息遣いだって聞こえなかったわ…」


「それで」


「彼の鎧にカヒリは捕まってしまった。逃げられない彼を助けるために私は全力でバルディンを攻撃した…そう、全力で。でも彼は、彼の鎧は傷もつけられなくて、」


「つまり、そのカヒリは死んだのか?」


「いいえ。…最大威力の炎でようやく鎧から引き剥がすことが出来ました。それからすぐに逃げて…」


「そうか…なるほど。つまりは、"断罪国"メドルーナが探し求める炎の邪悪はお前か、ギーナ」


「え…?」


聞き慣れた言葉と聞き慣れない言葉の組み合わせ。

聞き間違いかともう一度その名を言ってもらうが



「断罪国メドルーナ。一切の罪を許さない地獄のような国だ。悪さをすれば即死刑。実際にしていなくても、紛らわしい者は国を追放され2度と入国することは許されない。それに伴い国の戦力も急上昇した。善人にとっては、ある意味天国のような場所だ…」


ヒンマ国王はここで、ギーナを床に正座させた。



「カヒリは今どうしている」


「この国の宿で安静に…バルディンの攻撃を防げず、更に私の炎魔法まで受けてしまって…目覚めなくて…」


「だが死んではいないと?」


「……ええ。彼は、不死身よ。これまで何度も生死をさまよったけど…。絶対に死ななかったから。」


「お前は国を揺るがすほどの大悪人。それの半身を救うためこの国に逃げ込み信仰の力を求めた。この偉大なる王の力を」


「………」


「ならば」


国王は、いたずらに彼女の黒い布を剥いだ。

ようやく姿を現した彼女の頭部。


「ふん…若く美しい。綺麗な黒髪、…この甘い香りは男を誘っているのか?そして母性を形にしたような瞳は男を甘やかし、やけに艶のある唇は…なるほど。お前はやはり大悪人か」


何やら雲行きが怪しくなってきたのを察したギーナは警戒を顔に出す。


「お前は魂だけでなく、その体もまた汚れて醜くなっている!!」


国王は力強く言い放ち、机を両手で叩いた。


「信仰の力を求めるならば、清めろ。着ているものを脱ぎなさい」


「…聞き間違いかしら」


「淫売な魔女め!その体を清めてやるとも!さあ!さあ!カヒリを救いたければその醜い体を清めろ!」


明らかにこの場で汚れて醜いのはどちらかと聞かれれば、全員がヒンマ国王を指さすだろう。

しかし、ギーナがアグリアス礼拝堂に来たのは信仰に頼るしかないから…というのは事実。

魔法を扱う彼女が自力でカヒリを助けられないのなら、もう縋れるのは目に見えない力だけなのだから。


それで実際に救えるかは分からない。

それでも頼るしかない。




それを分かった上で、ヒンマ国王は信仰と引き換えにギーナの若い体を欲のままに求めた。




仕方なく立ち上がったギーナは、黒い布に手をかける。

布を取って、着ている服まで脱いでしまえば、目の前の息を荒くする男はすぐに襲いかかってくるだろう。

でも、それで彼が救えるのなら。


……と、国王がギーナの思考を読んだつもりになって気分を良くしたその時だった。



「…見つけたわ!!」


ギーナはヒンマ国王の横を通り過ぎて壁にかかる国旗に手をかけた。


そして、勢いよく国旗を引き剥がす。



「お前!何を…!」


国旗を剥がされて露出した壁には、隠されていたように十字架がひとつだけ埋め込まれていた。



「信仰のアラビタ。これは彼女の十字架よね。」


ギーナは十字架を壁から引っこ抜く。

埋め込まれていたせいで傷つき、ボロボロになっているように見えるが。

手で拭ってやると下から曇りひとつ見せない銀の肌が姿を見せた。



「なぜそれを…」


「私の魔法で助けられないのなら、信仰の力に頼るしかないわ。でも、それはあなたへの信仰じゃない。女神様への信仰よ。前に来た時は見つからなかったけど、隠していたのね。」


「ななな、なんっ…お前はメドルーナが探し求める大悪人だぞ!分かっているのか!」


「そうね。……そうよね。私は犯罪者。人の命を奪ってしまったかもしれない。」


「分かっているならその十字架を寄越せ!」


手を伸ばす国王。しかしギーナはそれを避けた。


「でもそれならそれで構わないわ。これまでだってたくさんの命を奪ってきたんだから。私は自分の罪を理解して一生背負う。許してもらうためじゃなくて、未来の悪から皆を守るために。私が責任を持つの。」


左手に十字架を持ったギーナは、右手を国王に向ける。


「でもね、悪人なのは変わらない。そんな私の顔を見てしまった。居場所も知ってしまった。あなたは私にとって都合の悪い存在なの。」


右手から虹色の炎が溢れる。



「っ!!ま、待て…やめろ!これ以上」


「あら。都合が悪くなると態度を変えるのね。あなたの醜い魂が丸見えよ…とは言っても最初からだったけれど。うふふ。」


「国王だぞ…!私を殺したら、お前もカヒリも」


「大丈夫。」


ふっ…と右手に息を吹きかけると、炎がそのままの勢いで国王を焼いた。

すぐに床に倒れてのたうち回るが炎はしつこくまとわりつく。





「私達、この世界の人間じゃないもの。」





国王が最後に聞いたのは、甘く囁くような衝撃の告白だった。



/////////////now loading......




宿に戻ったギーナ。


部屋で寝かされているカヒリの側で床に跪くと片方は彼の手を握り、もう片方は十字架を握りしめた。



「お願い…あの本の内容が確かなら、どこかで私の声を聞いているはず…信仰のアラビタ様…あなたの力を…」



祈り。


目を閉じて女神の名を何度も呼ぶギーナ。

違和感に気づいて目を開くと、銀の十字架が震えていた。


そして、



「あなたの声、確かに聞こえましたよ」


カヒリを挟んでベッドの反対側、最初からそこに立っていたような風で彼女はいた。


床につくほどの長い白髪、疑うことを知らないような強い眼差し。

ついさっき外で見かけた…ようなどこにでもいそうな服装の彼女は、それでも確かにその偉大な存在だった。



「あなたが…女神…アラビタ…」


「……彼は苦しんでいます。魂を縛り付けられているのですね。よく私を探してくれました」


必要以上の会話はしない。

出現した信仰の女神、アラビタは早速カヒリの胸に手を置くと


「この者を解き放て」


((ソウルリリース))



拳を思いきり振り下ろして殴りつけたような衝撃がカヒリの体を揺らす。

そして彼の口が開くと、中から真っ黒な物体が出てきた。


「そ、それは…?」


「ゼグエグの粘液です。人の血に混じるとこのように色を変えて中に住み着き、魂を奪おうとする。…彼はとても強いのですね。ゼグエグから魂を守り抜いたのですから」


アラビタはカヒリの口からそれを一気に引き抜く。

直後


「ゔぉぉぉえええええっ!!」


カヒリは盛大に嘔吐く形で復活した。



それを見てアラビタはギーナに微笑む。

そして手に持ったゼグエグの粘液とやらを握りつぶすとそれは蒸発するように消えてなくなった。



「…カヒリ。」


「ん〜…水。うがいしたい。」



カヒリはまだアラビタに気づいていない。

自分の中の不快感で精一杯なのだ。



「その十字架はあなたが。それを必要な方に渡してくださいね」


その隙にギーナに十字架の扱いを任せたアラビタはその存在を薄く…薄く…薄くして、すぐにいなくなった。



「…まだ、ありがとうの言葉も言えてないのに…」


「ねぇ…水〜…」



ギーナは、確かに、女神の力を目の当たりにした。




/////////////To be continued...?




次回から新章入ります。

お楽しみに。

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