第7話「技、不発」
「勝利に導け!クリスティーン!!」
リーファンの身軽な動きから繰り出される長剣の一振り一振りは素早く空を切った。
「縦振りは悪くないけどまあ当たらないか。無力化が理想だけど国宝へし折ったらハートの人間全員敵に回すよなこれ!」
神剣クリスティーンの攻撃を軽々と回避する。
「さすがは盗賊。武器を持たないのは手癖が悪いからだろう。残念だけど盗られるような物は何も」
「そもそも盗賊じゃねえよ!」
リーファンと謎の男の戦闘は互いに様子見で始まった。
浅い会話で誤魔化しを入れ、隙を見つけて素早く攻撃を入れる。
リーファンは爽やかな汗をかきながら長剣を振るうが、謎の男は回避ばかり。
と思いきや、突然しゃがんで回転蹴りを放ち足払いを狙う。
口で相手を騙し、手足で真実を語り合う2人。
「ふっ…」
「普通の攻撃じゃ効かないわよ?降参してくれたらお姉さん嬉しい。」
「……っ……!………ふっ…」
一方で、謎の女に対して集中を切らすクロア。
顔は見えていないが聞こえる声だけで異常な魅力を感じる。
ハートでは感じたことのないそれはまだまだ幼いと言えるクロアには少し刺激が…
「あら。」
謎の女がクロアに迫るのを止め、立ち止まると即座に自身を覆うように虹色の炎を展開した。
((リバイヴスラッシュ))
直後。
リーファンが技の名を高らかに宣言し神剣クリスティーンを振った。
耳が痛くなるような鋭い金属音が謎の女の付近で乱発する。
「お前ええっ!それはズルいだろ!俺と戦ってたんじゃないのかよ!」
「くっ…読まれていた…?今のは絶対に不意打ちとして成立していたはず」
「…っ聞いてねえええええ!」
不意打ちに失敗したリーファンがクロアと合流する。
2人は一瞬のアイコンタクトで次の行動に出る。
「なあ、大丈夫か!?」
謎の男が駆け寄ろうとするも
「ダメよ!リバイヴスラッシュなんだから!」
「おっとっと…」
謎の男が足を止める。
謎の女への攻撃は虹色の炎により防御されているが攻撃自体は間を置いて継続する。
それはまるでその場に斬撃が蘇るかのように…新鮮で力の乗ったそれが何度も何度も金属音を鳴らす。
「私は大丈夫!それよりも!」
「これはちょっとアレだぞ!約束の範囲超えちゃうけど許してくれよな!正当防衛だから!過剰にはしないから!リーファンとクソガキだし!」
謎の男が向き直ると、リーファンは剣を引いて何やら溜めの動作を見せる。
クロアはというと右手に3本の矢を持ち…
「てかあいつ誰だよ!弓使いの子供!?聞いたことねえから!」
「…ふっ…」
一瞬で3本を番えて放った。
それらは謎の男から絶妙に狙いが外れている。
それを見切った謎の男はあえてその場から動かない。
「ドヤ。ま、子供だもんな。狙いがズレることも」
「ふっ…」
続けて放たれた3本の矢。
謎の男は首を傾げて今度はそれらを
「ほい。」
手刀で叩き落とした。
「…え…」
「ビックリか?俺からしたら止まって見えるしこれくらいちょろい。それにお前の攻撃は多分トリッキーなタイプで今のはガチな攻撃でもありつつ、リーファンの溜めの時間稼ぎなんだろ?」
決闘でも見せたクロアの技。跳ね撃ち。
それを簡単に見抜かれ、真の狙いまでバレていたとあってクロアはわかりやすく動じてしまう。
「十分だ…クロア、下がって…」
リーファンが構える神剣クリスティーンに緑色の光が宿る。
クロアがリーファンの背後に回り、いつでも攻撃出来るように矢に手をかけたところで
「盗賊よ。お前が戦うのはハートの王子であり守り手であり、勇者である。今こそ見舞おう…この奥義…」
ゆっくり息を吐き、体の奥底から湧き上がるように声を上げるリーファン。
「これ、はあぁぁぁぁぁああっ…!!って声を上げきったらマジでガチなやつ来るよな。じゃあそろそろ。」
謎の男は仕方なさそうに両手を前に出した。
「俺としては剣同士の対決は久しぶりなんだよね。…行くぜ?」
左手は開いたまま。右手は何かを握ったようにして左手から離していく。
それは左手で持った鞘から右手で剣を抜くような…
「掟破りの速さ、ご馳走してやる。」
瞬きすら長いと言えるほどの短い時間が過ぎて。
リーファンは奥義を披露することなく尻もちをついてしまった。
神剣クリスティーンは手を離れ近くの木に深々と突き刺さる。
攻撃態勢だったクロアは発生した風圧に負け、その場で留まるのが精一杯だった。
「んーっ!弱すぎ。俺のは技名ヒミツな。言うまでもない。」
リーファンが敗北したことで、謎の女への攻撃も止んだ。
彼女は謎の男の隣に立ってから、黒い布に付けていた"証"をリーファンに見せる。
「私達、キングエルとライヴァンで公式に雇われてるの。本当は戦うつもりなんてなかったけど、あなたの目を見たら説得は無理そうだったから。」
「……"国の使い"だったなんて…それに」
「1人は魔法使い。魔法は貴重な存在だもんな。おまけに王子で守り手で勇者なお前は武器無しの俺にあっさり負けちゃうし。」
「………」
「クロア。私達はキャルよ。」
謎の女は2人にそのままやり取りを任せることにして、クロアと共に放置されたままのキャロラインの様子を見ることにした。
足を抱えて小さくなっているキャロラインは、今にも爪を噛みそうだった。
単純に、彼女から漂う雰囲気が精神的に異常だと知らせている。
「酷い臭いね…」
「ゼグエグ…の…鱗粉…甘い匂いがする…」
「物知りね。ありがとう…でも私には彼女を治せそうにないわね。」
心配そうにキャルを見つめ、頭を撫でるクロア。
鼻を襲う甘い刺激臭にも負けず優しく優しく撫でて
「キャル…守るから…」
「ふふ。素敵ね。」
そこに誤解が解けて状況を整理したリーファン達が戻る。
「なるほど。それで彼女がギーナか」
「そ。言っとくけど彼女は俺だけのなんだからな?紳士系のキャラ気取るやつは大体こういう時に挨拶ついでに手の甲とかにチュッチュしやがるから本当にもうぶっ飛ばしたくなる。」
「君を怒らせるのはそのまま死に繋がる。さすがに馬鹿な真似はしないよ。…そもそも、挨拶で手の甲に口づけをするというのは…」
「軽くだけどな?あー、でもこっちにそういう文化なさそうで良かった。安心安心。うん。」
「知らないままにしておこう」
妙に気の合う様子を見せる。
クロアを交えて改めて謎の男女は名乗った。
「つーわけで、俺はカヒリ。んで」
「私はギーナよ。基本的に敵じゃないから安心してね。」
「基本的にというと?」
リーファンの問いにカヒリが右手の人差し指を立てて
「俺達にとって都合悪いやつは敵。」
シンプルな回答をする。
「私達はキングエルとライヴァンの国王からキャルを探すように言われて来たの。リーファン、あなたならライヴァンの国王からの"アレ"、知ってると思うけど」
「……キャロライン・ストーン王女の死、だね。確かに知っていた。だけど生きてる。彼女は変わってしまったようだけど…」
「それからハートの国王、というよりあなたのお母さんからも頼まれてるわ。大切な息子を連れ戻してほしいって。私達からしたら、探していたキャルも見つかって一石二鳥ってところね。でもクロア、あなたはこの後どうするつもりだったの?」
「…どう…どうって…キャルを…」
若干話についていけていないクロア。
「この先は境界線よ。魔物の国エンヅォルトへの境目。不安定なキャルを守りながら、人間が立ち入れない場所へ足を踏み入れてしまったら。」
「死ぬよりキツいだろうな。控えめに言って地獄。」
「うう…」
「それでも行いは立派だ。クロアを叱るのは母親に任せるとして、今は」
リーファンのおかげで、話はもう一度キャロラインへ。
「ん。このままキングエルまで連れ帰って今にも死にそうな国王に無事を知らせて顔見せてやらないとな。」
「でもこんな状態のキャルを連れて戻ったら騒ぎになりそうね。」
「妖精ゼグエグは目撃談すら希少な魔物。それがキャルの前に何度も姿を現しているのはおかしい。これを」
リーファンはカヒリ達に手帳を見せた。
「なんだこれ。胴体と羽根だけ?てか細っ。」
「やっぱりカヒリは見たことないのね。」
「うん?ギーナさん?」
おやおや、まさか。そんなカヒリの分かりやすい反応に応じるように
「アグリアスだったわ。キャルの痕跡を辿っていたら同じのに襲われたの。…って、これ話したはずよね?」
「バレた?まあまあ。リーファンとクロアは初めて聞くわけだし。」
「待ってほしい。戦闘をした…ということかな。ゼグエグと」
「だとしたら一方的な戦闘ね。燃やして、おしまい。多分ゼグエグっていう魔物は火に弱いのよ。ハートの守り手や狩人達は手製の武器を使うけど火は武器にしないもの。だから勝てなかった。」
「…いや、私がライヴァンで戦った時は」
「神剣だからだろそれ。良かったな逆に。普通の剣だったら殺されてたぞ?」
「待って。そのゼグエグは確かハートを襲った後キャルと同化したのよね…!?」
「…そういえばキャル、焚き火…嫌がってた…」
「火が苦手なのは引き継いでるっぽいな。火近づけまくったら嫌がって分離すんじゃね?」
「しなかったら。彼女はそのまま燃えて苦しんでしまう」
「そしたら我らがギーナさんが消火しますよ、ええ。とりあえずやってみようぜ。な。」
このままでは帰れない。
ということで、キャロラインを元に戻すべく4人の試行錯誤が始まった。
カヒリはゼグエグの嫌がることをして同化したキャロラインの体から引き剥がす考え。
ギーナはカヒリに従いつつ、そもそも同化とは?というところから考える。
リーファンはあくまでもキャロラインの体を最優先し、カヒリの案をなるべく却下しつつせめてやり過ぎないようにと抑え…
クロアは合間にキャルの頭を撫でたり軽く抱きしめたりした。
クロアの時だけ、場の空気がほっこりした。
/////////////now loading......
メドルーナ。
武装した兵を大量に連れて入国したのは、見慣れない者だった。
彼は武力を行使して、"家"を手に入れた。
彼は武力を行使して、"女"と"酒"と"飯"を手に入れた。
「さて。戦う必要がなくなった。となれば"普通"の人間と同様に暮らすしかあるまい」
ベッドの上、伸ばした足を重ねる。
くつろぎの空間で似合わない金属音がするのは、彼がベッドの上でも翠の鎧を脱がないからで。
ベッドの脇に立てかけられた槍を見て、彼はため息をついた。
「誰も彼も目を合わせれば逃げていく。槍を振るう相手はもうこの世には…魔物を除いてはいないだろう」
裕福な人間が集まるこの国で、上から数えた方が早いほどの大きさの屋敷。
この屋敷の外は従えた兵によって守られる。
そして、屋敷の中で唯一くつろぐのは彼1人。
「昔の私が今の私を見れば泣くだろう。しかし、時代は変わる。必要がなくなれば武器も鎧も…役立たずだな」
部屋の外、花瓶が割れた音がした。
原因は間違いなく、奴隷のように働かせている女。
掃除をさせていたはずが自身で仕事を増やしてしまったようだ。
「無能」
ベッドでくつろいだまま、槍を1本取る。
閉められた部屋の外に向かって先を向けると
「罰だ」
直後、悲鳴。
「ふっ…ははははははは!戦場で死ぬとばかり考えていたが、これからは余生を楽に暮らすのも良かろう!」
大きく笑う彼の声を、屋敷の外壁に張り付いて聞くひとつの存在。
《強い人間……探してる…"ママ"…!!》
探し求めていたものを見つけ、興奮して透明な羽根を高速でばたつかせる…すると羽根が色を含んで煌めいた。
そして羽根の活動によって発生した風に乗って、粉のようなものが舞う。
《"ママ"…!"ママ"…!見つけた…バルディン…!》
ゴルゴラの聖騎士と呼ばれた男の元に、不穏な影が迫っていた。
/////////////To be continued...




