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私、この世界を征服します。  作者: イイコワルイコ
3章「女神の伝説」
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第6話「遺品」




音も無くクロアとリーファンの前に立ったキャロライン。

ぶらぶらと体を揺らして力のない眼差しで2人を交互に見つめる。



「キャル…」


「この状況は判断が難しい。それでも今の彼女には人間の言葉は通じないだろう…クロア、……今だ」


リーファンの合図で2人はキャロラインから別々の方向に離れる。


リーファンは左、クロアは右。

ハートの人間ならではの身体能力の高さを活かしてクロアは木に登り葉や枝で自身の姿を隠した。

リーファンはというと、クロアほど過剰な反応はせず程々に離れて立ち止まった。


キャロラインは今にも倒れそうなふらつき方でどうにかリーファンの立つ方向に向き直る。



「ゼグエグはとにかく情報が少ない。せいぜい"見間違いかもしれないが目撃した"くらいの情報しか得られない。それほど個体数が少ない種族か、姿を隠す方法があるのか…とにかく、それがキャルの前に最低でも2度現れている。どう考えても異常だ。…キャルにはゼグエグを惹きつけてしまう何かが…っ!」



大人しいキャルを前に、リーファンは考える。

考えて、考えて、何かにたどり着きそうになって。


そのタイミングでキャロラインは地に手をつけ、四足歩行でリーファンに駆けていく。


「はは…」


リーファンは思わず笑った。

あまりにも慣れた動きで獣のように向かってくるキャロラインが面白くなってしまった。


今にも牙を剥いて吠えそうな彼女にどう対応するべきか。


まずは距離を保ち逃げ回って疲労させようか。


リーファンがキャルにわざとらしい隙を見せて待つと



「ふっ」



キャロラインのすぐ目の前の土が大きく跳ねる。

それは隠れたクロアが矢の代わりに木の実を弓で放ったものだった。


きっとクロアにも考えがある。


察したリーファンはクロアが狙いやすくなるように阻害物の少ない場所へキャロラインを誘導する。



3人とも声は出さない。


無言の戦闘に人間らしさは感じられず、しかし獣よりは頭脳的で。



いつの間にか木から降りていたクロアはリーファンがキャロラインと"戯れている"間にせっせと周りの物を組み合わせて罠を作成した。


クロアが罠を設置したのを見届けてからリーファンは腰にぶら下げていた小袋から小瓶を取り出した。

そしてその中身を地面に導火線のようにぶちまけていく。



「きっと今の君なら好むだろう。生命力の高い"生き物"の血油は」


ダラダラと垂れ流すとそれを辿るようにキャロラインもついてくる。


時に匂いを嗅ぎ、時に舐め取りながら。



そしていよいよ罠に



「っ!!!」


驚きで声を出すキャロライン。

罠の上に手を置いたタイミングでクロアが仕掛けを引くと、丈夫でしなやかな蔓が彼女の両手首を地面に縛り付ける。


じたばたともがくが体勢が悪いのか全く力が入らないようで、しばらくしてキャロラインは四つん這いのまま大人しくなった。



「子供の頃、父上に夜更かしを怒られたことがあったよ。子供が夜遅くまで起きていると悪魔に取り憑かれると。ハートに住む子供達は狩人であれば夜遅くまで狩りに出かけているというのに…分かりやすい嘘が腹立たしかった。でも…これは」


「キャルじゃないみたいだけど、キャル…だよね…だから…なるべく…」


「傷つけないように。優しいな、クロアは」


「キャルのおかげで…僕…僕…」




((ブレイズ・アロー))



落ち着きを取り戻したリーファンとクロアの間を何かが抜けていった。


反応が遅れた2人は慌ててその場から飛び退く。

残されたキャロラインはというと、両手を縛り付ける罠が燃やされていて。



「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!!」


眼前で植物の罠を燃やす虹色の炎に悶え苦しみ狂ったように声を上げる。


「なんだこの炎は…!!」


リーファンが虹色の炎に気を取られる。




「なんだもクソもあるか!」


そこに姿を現したのは黒い布で身を包む…


「…待って、様子がおかしいわ。」


声からして男女の2人組。



「…だれ…?」


弱々しい問い方。しかし、その手には既に狙いを定めた弓が。



「あなたがクロアね?うふふ…可愛い。」


それを無視して女性らしき人物がクロアに近づく。



「素顔を隠すのは盗賊だから。と考えても問題ないかな?舐めない方がいい…相手を間違えたら」


「はいはい。誰かと思えばリーファンかよ。お前国宝持ち逃げして旅するとかさぁ。何、親父嫌いなん?」


「……神が振るったといわれる神剣クリスティーンを知っている…?それにこの剣だとなぜ…」


「まあな、すげえだろ?」



「きゃっ!」


可愛いらしい小さな悲鳴。


「………っ!」


クロアが矢を放ったようだ。

しかしそれは虹色の炎が盾のように出現したことで防がれてしまった。



「おいこのガキ!女相手にそんな殺傷力高めな武器で…こんのぉぉ」


「大丈夫だから!とにかく」


「ふっ」


「よそ見をしてはいけない。戦いの初歩だよ、盗賊!」



この時しかない。と言わんばかりにクロアとリーファンが仕掛ける。


クロアは再び矢を放ち前を向いたまま後ろへ走る。

リーファンは指摘されたハートの国宝、神剣クリスティーンを振るう。



突如始まった4人の戦闘。


そしてそのど真ん中に置き去りにされた様子のおかしいキャロライン。


キャロラインはその場で座り込み、黒い布の2人を観察していた。





/////////////now loading......




キングエル。


誰の帰りも待てずに、永遠の旅に出発してしまった1人の王。



閉ざされた目。


ようやく苦しみから解放されたのか、最期の時に比べたら幸せに見えるほど安らかな顔をしている。



"眠りにつく"のを隣で見届けたのは、雇われて間もない雑用係の娘だった。


国中から嫌われているが、そのかわり国王に忠誠を誓って働く者にはとても裕福な生活が約束される。

"稼ぎ"が目当てで自ら志願した彼女はキャロラインと同じくらいの年齢で、生前の国王にもすぐに仕事を任されるほど気に入られていた。


といっても、撒き散らされた国王の糞尿や血などの掃除ばかりだったが。


言ってみれば"汚物"の"汚物"を処理させられていたわけだが、いざその人が命尽きる瞬間に立ち会うと…娘の中には国王への嫌悪は無くなっていた。


代わりに、知られざるこの人間の想いを垣間見て優しくて可哀想な人だと思った。




ブラウンが指揮する中、ひっそりと自慢の庭で行われた葬儀。


特別な"リンゴ"の木の下に眠る王を城で働く人間達が全員集まり囲む。


不思議なことに、彼に向けられた最後の言葉達は"人類の恥"には似合わない優しさと悲しみでいっぱいの別れの言葉だった。



全てが終わり、1人墓の前に残るのは雑用係の娘。

彼に最後の最後まで握られていた手を墓石に添えて、泣いていた。



そこに、ひとつだけ。


リンゴが落ちて転がった。


彼女の足下で止まった。



「これは…」


リンゴ。

キングエルの王族に多大な貢献をすると貰えるというこの世界で最も価値のある果物。


その価値は小さな頃から知ることになる。


貧相な家庭に育った者はもれなくだ。


毎年、数ヶ月に1度はそのリンゴを盗もうと企む者が現れるからだ。


城に盗みに入っては警備に見つかり帰らぬ人となる。


それだけの危険を犯してもなお、何が何でも取って帰りたいと言われるこのリンゴは、食べる物ではなく大金そのもので。



「私に…くださるのですか…?」


もちろん返事はない。


しかし、持って帰ろうにも見つかる危険を考えると足が竦む。



「どうすれば…」


家族の元へ持ち帰りたい。でも死にたくない。


国王が亡くなったことで雑用係の仕事も失うだろう。

稼ぎのいい仕事を失えばまた節約の度を超えた生活に戻ってしまう。


娘は勇気を出して懐にリンゴを隠した。



「そこのあなた…」



声がした。


女性の声だ。


ようやく決断してすぐ、見つかってしまった。


娘はすぐにリンゴを取り出し



「こ、こ、これは、違うんです!落ちていたのを拾って……」


気づけば、声の主が見当たらない。


その場で何回転もして見回すが人影は……



「私は、寝室に囚われています…」



「え?」



寝室。

それならば国王のために何度も足を運んだ部屋だ。

日に何度も何度も掃除をした部屋だ。


その部屋に囚われている?女性が?


そもそも、どうやってここまで声を



「そのリンゴと共に、私も連れ出して…」



「し、寝室です…か?え、どういう」



「待っています…」




気づけばとても静かだ。


娘は謎の声に従うことにした。


どこからどのように声をかけてきたのか知りたくなったのと、"リンゴと共に連れ出してほしい"という発言が気になった。


リンゴを持ち出すことを許してくれた。

もしかすれば、リンゴを持ち帰る手助けをしてくれるかもしれないと考えた。




リンゴを懐に隠し、城内に戻る。


娘はやりすぎなほど慎重に移動をするが不思議と誰もおらず、寝室まで簡単に行くことができた。



マクシミリアン・ストーン。


嫌われ者の国王が使っていた。


ここで、彼は死んだ。



死後、この部屋を掃除したのも自分だ。


初めて人の死に関わって、恐怖と悲しみで顔を歪めながらいつも通りにやった…はずだった。



整えられたベッドの上に、何か落ちている。



「これは、国王様の…?」


装飾は全くされていない、素朴な指輪。


娘が手に取ると再び声がした。



「私に力を貸してください…」


「え?どこ?…どこに」


「左手の薬指に…指輪を…」


指輪は弱く光を放った…ように見えた。


娘は恐る恐る指輪を指定された指に…はめた。


指輪は自分の指にぴったりだった。

この指に合わせて作ったのではないかと怖くなるほどに。



そして、娘は



「ありがとうございます。私が必要な人の下へ…。そしたら返しますから」



そう言い残して、城を去った。




/////////////To be continued...


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