第3話「決闘」
日の光が強い、今日は特別な1日。
「働き者で可愛いソフィー。お前さんがいなくなるのは寂しいが…今はいい顔をしているな」
屋敷前で主であるマリタと別れの挨拶をするソフィーとチャド。
マリタの財力のおかげで、2人はメドルーナで手に入る中では最高級クラスの装備に身を守られている。
「正直、時間が止まったように感じてたねぃ。どうしようもなくてオイラはずっとここで暮らすんだって考えていたねぃ…」
「でも私はまたここに帰ってくるつもり。故郷のミフィーリアはまだ残ってるけど、私の家はもう無いから。全部終わったらその時はまたここでお世話になりたい」
「そうかそうか。なら、早めにな。年寄りは待たせるもんじゃない。先が短いから」
珍しいマリタの自虐。
再会を約束し、2人は出発した。
国から出るため門を目指す。
そう長くは滞在しなかった。
なのに何年もここで暮らしたような気分で。
変わらず賑やかな雰囲気を最後に堪能して
「止まれ」「あぁ。止まれ」
門番が立ちふさがる。
「…大丈夫ですか?」
ソフィーの質問は自然のこと。
2人いる門番はどちらも両目に包帯、体にも包帯で門番を任せるのには不相応だった。
しかも1人は目を覆う包帯に血が滲んでいる。
「女か、足音からしてもう1人いるだろう」「あぁ、そのはずだ」
見えないなりに他の感覚が研ぎ澄まされて敏感になっているのか、門番は正確にチャドの位置を把握し包帯が巻かれた顔を向ける。
「チャド・サンダーバーグ。この前話したよねぃ?覚えてないかぃ?」
「お前か」「そういえば」
結果通してはもらえたが、やはりあの2人では心配な気もする。
スッキリした気持ちでメドルーナを発つつもりだったソフィーとチャドは互いに苦笑いを浮かべた。
「魔国まではまずハートに行く必要があるねぃ。屋敷でも少し話したけど、ハートに着いたらソフィー嬢には自衛出来る程度には戦い方を学んでもらうからねぃ」
「うん。…私も強くなりたい」
ソフィーがチャドの背負う荷物に目を向ける。
2人分の荷物を運ぶ彼。
その内の1つはソフィーの物ではなく、"彼女"の物。
そしてチャドの荷物にはメドルーナで購入したいくつかの武器がある。
ソフィーの戦闘スタイルを見極めるための武器達だ。
「魔法を使う人間は多くない。だからオイラから指導出来るのにも限界があるねぃ。ただ、見たことがある魔法使いは大体が杖を持っていたような」
「でも杖じゃ魔物の鋭い爪とか牙とか、人間と戦うことになった時も剣とか防げないよね」
「すっかりやる気だねぃ。さ、森が深くなってきた。オイラの前に」
ソフィーのすぐ後ろにチャドが待機する。
この並びなら魔物に襲われても対応しやすい。
森に入ってから2人の口数は減った。
ここまでは、言ってしまえば"流れ"て来てしまった。
その言い表せない何かが無ければ、ソフィーはチャドを恨んだままだった。
もしかすればそれは今も変わらないかもしれないが、2人が協力する今は無かったはずだ。
……そして、2人は森で迷子になった。
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時を同じくして、ハートでも動きがあった。
それは………
「彼は狩人。弱い子供じゃない。認めてよ」
「キャル、もういいですから」
「……」
キャロラインとクロア親子。
3人の前には国王と守り手達。
キャロラインはクロアが他の子供達に弱く見られるのは、狩人なのに夜の狩りに同行させてもらえないのが原因だと考えた。
クロアの実力なら手柄を立てることは容易のはずなのに大人達がクロアを連れていかないから、クロアは"仕事"をすることが出来ず、自信を持つことも出来ない。
それを抗議するために、キャロラインは親子を連れてわざわざ国王に会いに来ていた。
「キャル。お前はクロアに弓を学んでいるとか」
「そうだよ。彼は教えるのも上手」
「ならば…来なさい」
国王が前に出したのは細身の女性。
「弓を使う守り手、ビナだ。彼女と決闘をしなさい。力を示したその時は、お前の言う通りにクロアを優遇する」
「そんな、お待ちください!この子はまだ子供で、それにキャルも」
「いいから。決闘するのは私?クロア?」
「2人まとめて相手したげるわよ」
ビナさんは低くて太い声で私を睨みながら言った。
男の人にも負けないその強い声は、ただの声なのに経験の量を見せつけられた気がした。
ハートでは決闘という風習がある。
私みたいに気に入らないことを主張した時に、それをどうするのかを人間同士が戦って決める。
決闘で妻を奪われたとか家を追い出されたとか信じられないような話を後で聞いた。
決闘をするのは国の中心、決闘する度に専用の簡易的な決闘場が用意される
「ここで戦うんだ…」
広めに四角く場所をとって、四隅に大人2人分くらいの高さの木材を突き立てる。
木と木の間には丈夫な葉を編んで作った縄。
ここから出て外の土に足をつけたら負け。
それ以外に決まりはないみたい。
「狩人の決闘は言い争いのようなものでは済まないぞ。キャル、お前は引かぬのだな」
国王の最後の確認。
「言い出したのは私だから、」
私が続けて言おうとした。
でもそれはクロアに遮られて
「…僕、戦うよ。キャルと一緒に」
私の言おうとしたことを見抜かれてた。
命の取り合いになるなら、クロアは巻き込まないように1対1で戦いたいと提案したかった。
「クロアよ、狩人とはいえお前はまだ若い。決闘の重みは十分に知っているだろう?」
「…はい。…ごめんなさい、お母さん」
クロアのお母さんは泣くのを必死に耐えてた。
止められるなら止めてる。
私の勝手に巻き込まれて1番迷惑してるのはあの人だ。
私は、別に良いことをしてるわけじゃない。
ただ、クロアの扱いが許せなかった。
だから、
「2人とも半人前の子供。今回だけは"生意気言ってごめんなさい"と言えたら命は取らないから覚えておきなさい」
ビナさんは余裕だと考えてる。
広いような狭いような決闘場。
東側に私とクロア。
向かいにビナさん。
3人とも、国王に用意された弓を使う。
矢は10本ずつ。先に無くなれば素手で戦うしかない。
私達がそうなったら、負けは確実かもしれない。
「用意…!」
…始まる。
これは、私の初めての"戦い"。
「はじめ!!」
掛け声と同時にビナさんは縄に足をかけて隅の木材に飛び乗った。
「……」
その間に私は矢を番えて狙いを定めてた。
彼女が矢を取ろうとする頃には
「キャル!」
クロアに横から体当たりされた。
押し倒されながら見えたのは、私の立っていた場所を横切った1本の矢。
「救われたな」
ビナさんは一瞬で攻撃してきた。
ありえない。
クロアに体当たりされるまで、彼女は確かに弓には触れてなかった。
木材に飛び移ってたはずなのに。
「…あまり立ち止まらないでっ」
クロアはすぐに立ち上がって走り出した。
2対1だから、有利だと思ってた。
なのに、今は不利だと思う。
"守らなきゃいけないのが自分以外にもう1人いる"。
これは弱ければ弱いほど痛感する厳しさ。
…今まで私を守ってくれた人達も、1人で戦う分には何も苦労しなかったんだろうなって。
私もクロアも、ビナさんには敵わないと感じてるはず。
2人とも弱いから、余計にこの状況が辛い。
「ふっ」
私も立ち上がってクロアと同じように動き回る。
直線的ではなく、不意に止まったり逆に向かって走ったり突然ゆっくり歩いたり。
魔物や動物には出来ない予測不可能な動きを続けないと簡単に射られてしまうから。
矢の数に限りがあるおかげで、ビナさんも簡単には矢を放ってこない。
そして私を狙う隙を見て、クロアが矢を放った。
「ありがとう」
ビナさんはそう言った。なぜ?
なぜ?
なぜ、放たれた矢を手で掴み取ることが出来るの?
「いっ…」
それを立ち止まって見てしまった。
でもそれは一瞬のこと。
ビナさんが飛んできた矢を掴み取ったのを見てしまっただけのこと。
なのに、私は左肩に痛みを感じてる。
無意識に右手で痛い部分を探って押さえてしまう。
そこにはちょうど指1本が埋まるような深い傷があった。
右手には自分の血が付いてる。
「どうした」
どうしたも何も、見ての通りだ。
クロアも私に気を取られてしまうと彼まで危ない。
だから私は
「ふっ」
「え」
クロアは私を見てなかった。
「ちっ」
ビナさんに向けて2本の矢を放っていた。
時間差で飛ぶ矢なら、1本は掴み取れても…
結果、ビナさんは木材から飛び降りることで回避した。
それを読んでいたのか、クロアはビナさんの着地点に合わせてさらに1本。
「んう"っ!」
ビナさんは避けられないと分かってわざと左腕を差し出して防いだ。
矢が貫通した左腕がとても痛々しい。
……それを見て、私の中の何かが"外れた"気がした。
「そっか」
「…キャル!」
ビナさんに駆け寄る。
彼女は直線的に走ってくる私に向けて急いで弓を構える。
でも、大丈夫。
私を狙うってことは
「ふっ」
「くっ…!」
クロアは攻撃する余裕が生まれる。
そうなるとビナさんは攻撃を避けなきゃいけない。
そこに私が更に駆け寄るとどうなる?
彼女は、私からも逃げなきゃならなくなる。
もしくは、私をどうにかして
「このぉ!」
読み通りだった。
弓を振り回して私に攻撃してきた。
私の足を止めて、また走り出してクロアを警戒する。
私は背にある矢の束を筒ごとクロアに向けて転がした。
これでクロアは矢の残りを気にしなくて済む。
私はビナさんを追い詰める、それでいて囮にもなる。
…これでいい。
「自ら武器を捨てるか…」
「お願いします!もう止めてください!このままでは…!」
戦況を見守る国王。そしてその王に対し地に頭をつけて懇願するクロアの母。
「決闘始めたら最後、止められはしない。分かっているだろ。それにクロアは男だ。お前こそクロアの覚悟を踏みにじるつもりか?」
それを聞いてはっとする母親の目からはまだ涙が流れ続ける。
愛する我が子の無事のために決闘を止めさせるのは当然の考えだ。
しかし、それが同時にクロアの自尊心に悪影響を及ぼしてしまう。
大切に思うばかりでそんなことには気づかなかった。
「愛するならば声を出せ。クロアが強くあり続けられるように祈れ。信じろ」
「あ"ぁ"っ!?」
会話の最中、聞こえた声に国王とクロアの母が反応し、目撃する。
決闘場の真ん中、右足を射抜かれてしまったキャロラインの姿を。
「キャル!!!」
「てぁっ!」
負傷した左腕を気にすることなく戦い続けるビナは、先ほどやって見せた矢の掴み取りからの高速カウンター射撃で再びクロアの矢をキャロラインに放った。
痛みで怯む彼女と、それに衝撃を受けるクロア。
2人の動きが止まったのをいいことに、ビナはキャロラインに急接近し胸に回し蹴りを食らわせた。
キャロラインは吹っ飛び、隅の木材に頭をぶつけて倒れてしまった。
「そんな…!キャル!お願いします、彼女はもう戦えません!」
クロアの母親が国王に再び中止を呼びかけるが聞いてもらえない。
「…キャル…」
「さて、ここからは私とお前の決闘だ」
左腕を貫通した矢。それを無理やり引き抜くとビナは改めてどちらが有利なのかを目で訴えた。
"守り手"とされるほど戦ってきた彼女の気迫に、クロアは額の汗を拭って応える。
大人に対して10歳ほどの子供がどこまで戦えるというのか。
走ってかく乱など出来るはずもない。
"的"が1つになってしまったことで、攻撃する機会も激減してしまった。
「降参するか?」
ビナの言葉に、クロアはゆっくりと弓を構えることで返事とする。
「それでこそ、狩人」
「…キャル…僕、強くなって…守るから」
/////////////To be continued...




