【裏】第3話「夜を照らす火」
「適任とはいえ、王様ってやっぱり人使いが荒いんだな。」
黒い布を纏った一人の男。
「2人で仲良く行動したかったけど、どっちもゆっくりしてられない。まったくさぁ…」
ライヴァンを出発してすぐ、2人から1人になった。
というのは、ただならぬ気配を感じたから。
1人は先にメドルーナへ。
1人は気配を感じる場所へ…
「ミフィーリア…こんなに静かだっけか?確かチャドが部下を残してたはず。まさか全滅してないよな?」
夜明けはまだ少し先。
松明の火が揺れる。
ミフィーリアの村は静かだ。
「…血の跡は無い。あえて挙げるとしたらちょっとだけ焦げ臭い。」
村の中を1歩ずつ…警戒しながら調べる。
どうしても平和を感じられない雰囲気の中、微かな物音を逃さない。
「誰だ。」
「ばっ、ばけものぉ!!」
「こらぁ…!何やって…早く戻りなさい!」
男の子だ。
木の枝を投げてきた。
しかし惜しくも届かず…転がって足下までようやくたどり着いた枝を拾い上げる。
「化け物?」
男の子を引っ張り逃げようとするのは母親だろうか。
とても慌てている。
「なあ、化け物って」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ!!この子は…この子はただ…!殺さないでえ!!」
「何があったか話してくれない?」
「お願い…せめてこの子だけでも!!」
「あの…」「この子はまだ子供よ!何も悪くないの!」
「うるせえ!人の話聞け!!」
声を荒らげてようやく黙った。
母親を見つめ、会話することを強制する。
「何があったのか話せ。」
「……ゴ、ゴルゴラの方から魔物の群れが来てるって…兵士さんが慌てて村に来てそ、それで…村の者はライヴァンに避難するようにって…でも村の男達は兵士に加勢してしまったし、女子供だけで逃げるにも…そう簡単には」
暗いが薄らと分かる。
あまり裕福な家庭ではないであろうことが。
服の1着が貴重で、着替えも多くないのだろう。
母親の服なんて、片腕だけ袖が無い。
「そこに怪我人がいるのか。」
きっと止血するために使ったんだろう。
案内するように言うと、家に招かれた。
中は蝋燭の火だけでほぼ暗闇。
その中でうめき声がする。
「敵から身を隠してるつもりだろうけど、魔物って人間の何万倍も鼻が利くし勘が鋭いんだよ。犬かっ!てな。だから暗くしても無駄。よっと。」
蝋燭の火が強くなり、そして消えた。
次の瞬間、室内が異常なほど明るくなる。
そして判明したのは
「狭い所にぎゅうぎゅう詰めか。ざっと11人。ライヴァンの兵もいるな。」
ほとんどが単純な戦闘不能状態。
少数が致命傷。
うめき声の主は右の手足を失っていた。
「魔物のやることだしな…"取られた"体がここにあれば治してやれたけど。ごめんな。」
1番回復の見込みがある兵を1人選び、胸に手を置いた。
「蘇生魔法とは違うけど…よい…しょ!」
手に雷を纏ったかと思えば室内に衝撃音が響く。
「起きろ。」
「…っかは!」
「よーし。」
「こ、ここは…」
「ミフィーリアの民家だな。いや、お前の状況確認はどうでもいいんだよ。それよりも何があったか教えてくれ。何とどこで戦った?」
「……」
「なんだよ。早く。敵の居場所分かんないと倒しようがないだろ?本当指定された敵を探す手間ってのは」
「ゴルゴラ…。魔物を束ねる奴が…そう…ゴルゴラから来たと」
「おっけ。ならゴルゴラに向かいつつ出てくる魔物皆殺しにすりゃあ…子供の前だったな。ごめん。」
皆殺しという物騒な言葉を使ったことを詫びる。
「その、なんだ。…よく守ったな。」
違和感こそあるものの、ミフィーリアはまだ無事だった。
それは兵士達が命懸けで戦って魔物達を食い止めたことを証明する。
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元、ゴルゴラ。
魔物の軍は拠点まで退いていた。
互いを喰らって飢えを凌ぎ、次の戦いの指示を待つ魔物達。
《人間にも意地があるということか。馬という動物に乗り機動力を得て、このような細い枝を撃ち飛ばす…剣を振り回すだけが人間の術だと思っていたが…》
そう言って体に刺さる矢を自力で抜く。
矢の先に返しが付いているせいでなかなか抜けず、強引に引き抜くと血が垂れ落ちて肌の表面に肉が露出する。
《すぐに増やして報復を。でなければ》
「でなければ何だ?」
《魔王様に顔向け………っ!?》
「よっ。間抜け。」
《何者だ!》
「ん、部外者。」
そこに突然現れた人間。
両手には魔物の生首をいくつもぶら下げている。
「魔物ってさ、ハゲはいないんだよな。頭を掴まれることすら叶わなくて悲しんでる人もいるってのに。こいつらは髪の毛掴んだら生首振り回せるんだぜ?」
《……》
「ミフィーリアからここまで、チマチマと。狼人間のがまだ賢いぞ?あいつらデフォルトで人間の言葉話せるし…まあ狼"人間"だもんな。ま、それはそれとして。」
魔物の生首達を地面に転がして、黒い布を纏ったその人間は言った。
「勝手に栄えてんじゃねえよバグ風情が。」
そして。
何も見えなくなり、
聞こえなくなり、
無になった。
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人間が1人もいなくなってしまったゴルゴラの地を散策する。
見知っていたはずのそれとは違う荒廃した土地に、本心が漏れる。
「あーあ…って感じだよな。親に買ってもらった食べ物落として台無しにしちゃったみたいな。覆水盆に返らずっていうか。あの男臭い国の雰囲気、嫌いじゃなかったんだけど。切なくて寂しいな。」
魔物達の死体をなるべく1ヶ所に集めて、火を放つ。
軽く数百はいたはずの魔物達。
それは、たった1人の人間によって。
「リーダー役の魔物、あいつ可哀想だったな。人の言葉が話せて強さにも多少自信もあったんだろうけど、ロガドガ山に生息する雑魚と同じ種族だしな。何にも特別なもんじゃない。毒ガエルと人間のハーフみたいなもんだし…」
圧倒的な強さで1人の人間がゴルゴラの地を取り戻した。
しかし、
「緊急とはいえやり過ぎたな。反省しよ。」
目立つ行動は控えるようにと何度注意されたことか。
それで今回のことがある。これでは彼女に本気で怒られてしまう。
「…いや、どうせならここから境界線付近の魔物全体的に減らしても…いいよな、やっちゃったのは取り消せないし。」
崩壊した個人の価値観。
1度悪事を働いてしまったのなら、気の済むまでとことんやってしまえ。
それはきっと悪魔の誘惑に乗ったような考え方で、
「ロガドガ山からハートに…道中の魔物は…よし。そうしよう。」
魔物達を燃やす火はまだしばらく消えそうにない。
夜を照らすその火に背を向け別れを告げると、
「俺、確かキャロライン探すって目的のはずなのにな。」
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信仰国アグリアス。
ライヴァンから分かれて1人、彼女は入国した。
「国王はまだ民を洗脳してるのかしら。だとしたらお仕置きが必要ね。」
黒い布を纏った姿は、意外と目立ってしまう。
それを理解した上で彼女は夜空に炎鳥を飛ばす。
「おぉ…!なんだあれは!美しい!」
「あれ魔物なんじゃないのか!?なぜアグリアスに!」
明らかに目立つものに注目させて、自身を目立たなくさせる。
隙を見て建物の上に飛び移り屋上を移動する。
こうすればこの国で迷うことはなくなる。
建造物によって生まれた迷路…それは、救いを求めてこの国に移り住んだ人の多さを物語っていた。
「確かキャロラインはこの国で1人で別行動していたのよね。何か見つけたのかしら。」
記憶を元にキャロラインを探すための手がかりを探す。
彼女とはこの国で別れた。
間違いなくメドルーナへ送り出した。
それでもまたここに戻る可能性があるとしたら、この国に滞在していた間に何かを見つけた可能性がある。
「キャロライン、もう少し髪に気をつけてくれたら区別しやすいのに。あれじゃあ普通の女の子と区別がつかないわ。…ちゃんとしてればモテモテのはず……?」
足を止める。
目に止まったのは、大工に扉を付け直してもらっている男。
扉を失い中が丸見えになっているのは自宅だろうか。
そして、彼らには見えない壁の高い位置にある引っ掻き傷のようなものは。
下に降りて話を聞くことにした。
「あの。何かあったんですか?」
「んあ?まあね。留守にしてる間に家がめちゃくちゃにされて。帰ってすぐ慌てて家から出たよ。ところでお嬢さんなんだその格好」
「気にしないで。もしよければ中を見せてもらってもいいかしら。私、"使い"なの。」
キングエル、ライヴァン。
2つの国から授かった証を見せる。
「あ、ああ。そんな偉い人だとは。どうぞ中に」
「ありがとう。」
室内に足を踏み入れる。
そして目を閉じて、集中する。
これもまた、彼女の力のひとつ。
「感じるわ。キャロラインは確かにここにいたのね。」
匂いや毛などの本人の物。
そういった明らかな証拠とは違うもの。
「ここはトイレね。中には入らず…いえ、1度は入ってる。」
彼女は床に座ってみたり、部屋を見回してみたりと不審な行動を続ける。
「他の部屋も見ましょう。」
2階の寝室。
そこには彼女が求めていた答えがあった…ような気がした。
壁に刻まれた言葉。
「信仰こそ力、信仰こそ宝、信仰こそ…あの子もこれを見たはず。…きっとこの家で最初にこれを見つけたのね。そして下の階で…」
下の階に戻り、もう1度目を閉じる。
「彼女以外の存在が2つ。……あら?」
そして、ふと天井に目を向けて見つけた。
手をかざし、小さな風を起こしてそれを取った。
両手で収まる大きさのそれは、何かの一部だろうか。
「薄くて硬い。…羽根?」
天井に張り付いていた。
あまり見かけない形。
紙のように薄く、岩のように硬い。
先は鋭く、傾けると薄いながらも透明の中に色を感じる。
そして何より
「甘い香り。鼻の奥が痛くなるわね。…確か彼が倒した"呪い"とされた魔物って…じゃあ、これは何?」
キャロラインはアグリアスには戻らなかったようだった。
しかし、キャロラインがいたこの場所にはおかしな手がかりが残されていた。
すぐにメドルーナに向かおうとして、この家の主の男に止められた。
「あんた、名前聞いてもいいか。国の使いなんてさすがに珍しいからな」
「……ギーナよ。」
「…そうか」
「うふふ。リブート。」
男を指さし、魔法を使う。
「ん…あれ、何をして…」
「あなたは家を荒らされていたのよね?」
「んあ?ああ、そうだ。そうだった」
男はギーナのことを忘れてしまった。
「さて、メドルーナに行かないと。本当は2人でゆっくり国巡りしたかったわ。」
再び建物の上を移動して、メドルーナへ向かうためアグリアスを出ようとしたその時だった。
「…っ!何か…来る…!」
ギーナは何もない空を見つめる。
鳥は飛んでいない、雲も少ない。
それでも見えない何かがまっすぐこちらに向かって
「ブレイズ。」
《ッッッッッァァァァァァァァ!!!》
手から虹色の炎を出して盾の役割をさせた。
直後、それは姿を見せて目の前で悶え苦しむ。
「この甘い香り…あなたがこの羽根の持ち主ね?」
それはライヴァンで見たステンドグラスのように色鮮やかな薄い羽根。
それはあまりにも細く気味の悪い体。
屋上で転げ回るそれは、何も無いところを手で覆っている。
そういえば、それの頭に該当する部分が見当たらない。
だとしたら
「頭を見えないようにしてるのね。賢いわ。どんな生き物でも頭は大体急所だもの。」
《見せロぉ!証!証ィ!》
「……証?」
《………》
ギーナの炎が相当効いたのか、それは突然大人しくなった。
「あら…もしかして死んでしまうの?」
《…証…》
「ねぇ、死ぬ前に教えてくれる?あなた、キャロラインと何か関係あるの?」
《ッッァァア!!》
「ブレイズ。」
散り際の最後、それはギーナに腕を振った。
腕の先には小さな手。そこから鋭い爪が見える。
彼女はそれにとっての"禁句"を知らずに口に出したようだった。
それが何かを考えながら、ギーナは容赦なくそれを燃やした。
焦げる臭いと、甘い匂いが混ざって息苦しい。
「キャロライン…あなた、どんな秘密を?」
夜空を見上げて、呟いた。
/////////////To be continued...?




