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私、この世界を征服します。  作者: イイコワルイコ
3章「女神の伝説」
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第2話「眠る者、目覚める者」




「狙ってる時は…息を止めて…」


「…………ふっ」



矢を番えて、引きながら息を吸う。

息を止めて、狙いを定めて、


蝋燭の火を消すように息を短く"ふっ"と吐きながら矢を放つ。


クロアに教わったおかげか、短距離なら狙いが正確になった。

でもまだまだ狙うのに時間がかかってしまうし、少し的が遠くなるだけで難易度は急上昇する。


でも、未来の自分に心が踊る。



「もう1回だけ……」


「すぅ…………ふっ」


的は毎回同じ。


ハートの人が戦いを学ぶ広場の端に生えてるワルトの木…から散ってひらひらと落ちてくる"葉"。

大人1人ほどの大きさの時もあるし、石ころより小さい時もある。

そんな不思議なワルトの葉を撃ち抜く。


30回中14回。後半は10回連続で命中した。



「上手だよ……」


「腕が痛いかも。弓にこんなに力が要るって知らなかった」


「僕も…最初は……でも…お母さんに薬もらえば…大丈夫…帰ろう…」


「うん」



「あー!弱虫クロアじゃーん!」



「う……」


クロアが私の後ろに隠れた。


「10歳にもなって女の子の後ろに隠れてらー!恥ずかしくないのー!?」


嫌な気分だ。

子供は言葉の効力を分かってない。

どれだけ簡単に人を傷つけることが出来るか…それを知らずに


「クロアはずっと弓だけー!みんな全部の武器を学ぶのにー!」


「…ぼ、僕……」


「怖がりクロアー!」


歳はクロアと同じくらいだろう。

でも体は同年代の子供より大きくて、控えめに言ってお腹が出てる。


メドルーナでも似たようなのが…


「弱虫クロアー!これでもくら」


それ以上は私がさせなかった。

一言二言悪口を言えば満足して帰る人もいるから、言わせておいた。

この子は違った。満足どころか手を出すつもりだ。

だから私は一線を越えようとするその男の子の振り上げた右手を掴んだ。


「な、何すんだよー…」


「あなたこそ。その手に握った小石をクロアに投げつけるつもりだった?体に当たれば5点!股間なら7点!頭なら10点!…そんなの許さない。そんな風に人を傷つけることしか出来ないなら、この手も!その口も!私が切り落としてやる!」


「ひっ……!!」


「あなたもビッグブーと同じように美味しいといいね。不味かったら魔物に食べさせるけど。…でも魔物にも吐き出されそう…心から汚れてるもんね」


「う、う、うわあああああああああ!離してよー!嫌だよー!死にたくないよー!食べられたくないよーーー!」


「どう?どんな気分?あなたがクロアに何回意地悪をして悪口を言ったのか知らない。でもあなたがそうする度に、クロアは今のあなたのように怖い思いをして傷ついた。…その償いをしないとね」


「嫌だー!!お父さーん!!お母さーん!うわああああああん!!」


「次、クロアを傷つけたら。あなたはお父さんにもお母さんにも友達にも会えなくなる。分かった?」


「うわああああああああああああああん」


感情が振り切ってしまった。

男の子はもう泣きわめくだけ。

こうなってしまうと、大人がどうしたの?って慰めない限り止まることはないんだろうな。



クロアを見たら申し訳なさそうな顔をしてて、少し震えてた。


「ごめんね、怖がらせて。私も同じようなことをされたから我慢出来なかった。帰ろう」


きっとお母さんが愛する我が子にするようにクロアを抱きしめて頭を撫でた。

クロアも手を回して抱きしめ返してくれた。



/////////////now loading......




ハートの夜。


夜は狩人の時間。


大人と子供が2人1組になって狩りに出る。

獲物は食用の動物と、国近辺の魔物。


ハートの近くにも境界線があって、そこには一部の人しか行ってはいけないみたい。

狩人の中でも飛び抜けた力を持つ人は守り手という役割を与えられる。

その守り手だけが、国王の住まう国一番のワルトの木の裏から境界線に行ける。



「…ところで、クロアも狩人なんでしょ?」


「大人より子供の数が多いのです。数が合わない場合は大人が連れる子供を選ぶのが決まりで…クロアは1度も」


「ごめんなさい…お母さん…」


「クロアも十分に強いのに」


「キャル。この子を守ってくれたこと、感謝します。あの子にはよくちょっかいを出されていたので…さっき親御さんにも謝ってもらいました」


「よかった。それならこれから安心だね」


「…うん…」


今夜のご飯もビッグブーが主役だった。

ビッグブーというのはワルトの葉を食べて大きく育った豚のこと。

その肉を食べると強くなれる…とのこと。


食後、クロアが後片付けをしてる間にお母さんが話してくれた。


「クロアの父親はあの子が4歳の時に亡くなりました。守り手になったあの人は、狡猾な魔物の手によって1人になった所を…そう聞きました。彼は弓の名手でどれだけ遠い敵だろうが、入り組んだ場所に潜む敵だろうが、弓で攻撃するのが不可能な場所にいる敵だろうが…狙いは正確でした」


「だからクロアも弓しか学ばないんだ…」


「あの子なりの優しさでもあるんです。弓を使い続けて守り手になることで、夫を失った私を慰めようとしてるんです。代わりになるんだって…」


「いいな…そういうの。私には無いから」


「話したいなら聞きますよ。深く知らない相手にだからこそ、自身の一番深いところにある話を遠慮なく聞かせることが出来るのですから」


クロアのお母さんの言葉は本当か分からない。

でも、私の話を…心の傷をさらけ出す機会をくれた。

それは分かった。

だから、甘えた。


親の愛情をほとんど知らないこと、クロア以上に辛い目にあっていたこと、思いつく限りの辛かった悲しかった記憶を話した。


気づけば、膝枕をしてもらって。

頭を優しく撫でられて。

私は泣いてた。


「キャル。あなたが望むのなら、いつまでもここにいて構いませんよ。クロアのお姉さんとして…私達の家族として」


「…キャルがお姉ちゃん……」


いつの間にかクロアに見られてたのが恥ずかしかった。


その日、クロアを2人で抱きしめながら眠った。



……"独りじゃない幸せ"。





/////////////now loading......





ライヴァンからほど近いミフィーリア。


今、この村は再び窮地に立たされていた。



それはゴルゴラから侵攻してきた魔物の軍勢が原因で。



「くっ!死んでもミフィーリアには行かせるな!魔物1匹通すなよ!」


「そんなこと分かってる!!っらあ!!」


ミフィーリアに残された"大将軍"の部下達がこの危機に大活躍。

少数で魔物達を次々に葬っていく。



《やれやれ。所詮量産の出来る魔物ではこの程度か…》


「てええええっ!!」


《こんなにも人間は弱いのに》


「っすぶ!?」


一刀両断を狙って大きな剣を振り下ろしてきた男。

しかし、何が起きたのかを知ることも許されず即死する。


《簡単なこと。頭を引き抜けばいい。それなら馬鹿なお前達でも出来るはず》


それを聞いて魔物達はまた人間を襲う。



ミフィーリアの夜は長い。




/////////////now loading......




メドルーナ。


襲撃の騒ぎや一国の王女の死亡の報せで、短期間でとても騒がしい日が続いたがようやく普段通りの姿を取り戻しつつあった。


しかし、その"普段通り"を取り戻せない者もいた。



「どんな事でもいい。礼はする」


「ただの言い伝えだぞ?なのに聞かせるだけでそんなに大金を…正気かあんた!」


「聞かせるんだ」


兵士として、力で脅す手もある。

しかし彼はそうしなかった。

命懸けで国を守り、築き上げた財産。

それを簡単にすり減らすのは、真偽不明な話を聞くため。


本物の伝説かもしれない。


金目当ての作り話かもしれない。


誰から聞いたかも忘れた話かもしれない。


酒の席で聞いたものが混ざりあって出来た話かもしれない。



それがどんなものでも、今回は手がかりになりうるのだ。



「そ、その…チアン様は俺たちと変わらない人間の姿をしているそうだ。というのも、人間に紛れて今も生きてるとかどうとか」


「…それは知ってる。他に」


「ほ、他…。チアン様は人を癒すのが得意だって聞いたな…!体を揉むのが上手いのか傷を治すのが上手いのかは知らんが」


「…受け取れ」


袋いっぱいの金。

大儲けを期待してメドルーナに足を運んだ商人が、商売をしなくてもいいと思ってしまうほどの金額。


話を聞いた男はまっすぐ帰路につく。



「おかえりなさいませ。大将軍様」


「マリタさんはどこに?」


「庭で食後のお茶を」



そのままの足で庭に向かう。



「おお…チャド。その顔、今日も何か聞けたようだ」


「はい。…施しのチアン。人の姿になって傷ついた者を癒す力を持ちます。それが体の傷か心の傷か分かりませんが…」


「そうかそうか…まあこれでも飲みなさい。気を張るな。こういう時こそ、普段通りの自分を大切に」


勧められるまま茶を飲むチャド。


「…普段通り。そうだねぃ…。オイラは確かにあの夜にチアン様に会った」


チャドは1人の宿娘を思い出す。

飾られた姿で道行く男を誘う女達とは違う…モナという名の宿娘。


雇い主から文字通り買い取った彼女と部屋で2人きりになった際、チャドはその真偽を確かめていた。



「"施された"ねぃ…愛を」


女神かと聞いて、その返答として首にされた口づけ。

薄い紅の跡が残ったが、それ以上に体の奥深く…魂の部分が熱くなったのをチャドは覚えている。



「キャル嬢は瀕死だった。もし、チアン様がキャル嬢に会っていたとしたら」



彼女の死を認めないチャド。

彼はキャロラインが生きている根拠を探していた。

そして可能性が高い仮説が



「キャル嬢を癒したはずだよねぃ」


"癒し"の意味は不明だ。

施しのチアンと呼ばれる女神なのだから、施したのかもしれない。


何を?癒しを?

癒しとは?


「体を回復させたか…もしくは」


キャロラインの体をあるべき場所へ…キングエルへ運ぼうとしたか。

その途中でキャロラインが力尽きてしまったから、ライヴァンの国王から報せが…



「何にしても本人に聞かないことには分かるまいよ。食事は?」


「腹が減らないんだよねぃ…」


「しっかり食べなさい。せっかく強い体なのに、栄養不足で弱ったら勿体ない」


「……」


「続きはまた明日。この後は外に出ないこと。どうせ宿娘を見て回るつもりだったろう?」


「さすがに分かりやすかったねぃ…」


「言って聞かないならどっちかだけでも。食べて無理するか、食べずに休むか」


「食べ物を受け付けないんだよねぃ。大人しく休みます…」


「そうしなさい。ソフィーもお前さんを必要としているはず。声をかけてやってくれ」


「はい」



ソフィーが引きこもりつつある寝室に向かったチャド。


部屋の扉に手をかけたところで、動きが止まった。

驚きで、動きが止まった。




「あなたはもう十分に悲しみました。もうあなたの中は空になっています。流す涙もないのでしょう」


聞き覚えのある声。


「"施し"ましょう……」


扉の隙間から優しい光が漏れる。


少ししてそれが落ち着くと、チャドは覚悟を決めて扉を開けた。



ベッドで眠るソフィー。


ベッドの脇に立つ女性。


その見覚えのある姿。



「…チアン様…!」


そうだと信じて疑わない。


声に反応し、チャドに目を向ける。

そして、蝋燭の小さな明かりに手を被せ、ふわりと火を"膨らませて"部屋を明るくした。


「扉を閉めていただけますか」


従うチャド。


「…またお会いしましたね。ふふ。そしてまた私が誰なのかを言い当てた」


「あなたにもう1度会いたかった…」


「そうですか」


チアンと呼ばれた、宿娘モナの姿をしたその女。

乱れた髪やあまり綺麗とは言えない服。

化粧もほとんどしていない。

しかし声だけは、あの夜、宿の部屋で聞いたのと変わらず神々しい。



「どうかいなくならないでください。…お聞きしたいことがあります」


「…なんでしょうか」


「チアン様…あなたはキャロライン・ストーンを」



「ん…」


チャドがついに"本人"に話を聞いていたその時、癒されたソフィーが目覚めた。



「あ、そんな…待ってください…!」


それを見たチアンはチャドに優しく微笑むと、自身の体を抱きしめて消えてしまった。



「…チャド?どうしたの?」


「…いや、なんでもない」


「あのね。私、夢を見たんだ。私とチャドとキャルの夢。3人で世界中を旅する夢」


「……」


「…変…だよね。もういないのに…」


チャドはソフィーから目を離さなかった。

まだ泣かないからだ。

本来なら、すでに大泣きしているはず。

眠りから覚めた時点で赤子よりも声を大きくして泣いているはず。

それなのに、どこか晴れやかに見えるのは。


「私達はキャルがどうしたいのか、知ってる。誰に会って何をしたいのか…知ってると思う。だから」


チャドを見つめるソフィーの目には、もう悲しさが映っていなかった。

そこに見えたのは新たに生まれた強い信念。



「行こう。魔国エンヅォルトに」




/////////////To be continued...


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