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私、この世界を征服します。  作者: イイコワルイコ
プロローグ
3/83

第3話「天職」




「天職かも…!よいしょっ」



何もせずに過ごした昨日があまりにも退屈でなぜか罪悪感さえ感じた。

だから今日は早起きして宿屋の手伝いを申し出た。


風呂掃除、皿洗い、床磨き…


今までの私なら当たり前に誰かにやってもらっていたことの数々。


それらが妙に楽しい。

体に蓄積する疲れに喜びを覚えてる。



「そんなとこまでやってんのかぁ!いいんだよそんな廊下の隅なんて誰も見てないんだから」


「いえ。見えないからこそ綺麗にするべきなんです」


廊下の突き当たりの壁は1度も拭かれていないようだった。

クモの巣が当たり前に広がって、少し大きな"主"が更に領地を獲得しようと活動している。


「邪魔しちゃうのは悪いよね…」


普通の女の子ならクモひとつでギャーギャー騒いでいたと思う。

でも私にとってクモは人間に比べれば天使のように清い存在だ。


…………………でも、前に1度毒グモを顔に乗せられたことあったっけ。



「キャル、おはよう。早起きだね」


「おはよう…あ、持ってて」


「クモを?」


「掃除するならクモの巣は邪魔。でもこの子にとって巣は大切なもの…よいしょっ…せめて…巣を…広げるなら…もっ…と…人の来ない場所に…し…よっ…」


「キャル、変わるよ」


天井付近の掃除が上手くいかなくてリーファンと交代した。

身長なんて気にしたことなかったけど、こういう所で響くものなのかな。



「ありがとうリーファン。続きは私がやるから」


「もしかして…全部掃除しているのは」


「どこか汚かった?どこ?すぐに」


「いや、とても綺麗だったよ…だけど意外に思えてね。あ…いや。失礼…」


「ううん。今までやったことないよ。でも掃除してるのはよく見てたから」




「2人とも。朝食の用意が出来たぞ!食うなら来てくれ」



私が仕事の手伝いをしたこともあってか、朝食は少し豪華だった。



「あんた細かいとこまでやってくれてありがとな。ほら、フリーチョもう1枚」


「ありがとうございます」


フリーチョ。

薄く切った肉をカリカリに焼いてピリ辛に味付けしたもの。

肉なら種類は問わない庶民お馴染みのお手軽料理だけど、使う肉や調味料次第でいくらでも変化が生まれる不思議な料理でもある。


私がボロボロになって帰ると、薬で治療した後にブラウンがよく作ってくれたっけ…


「…美味しいご飯が体を育てる……」


「ん?」


「なんでもない」



「ちょっと!何があったのよぉ!」



宿屋のオーナーの奥さんだ。


「蛇口から何から風呂場がピカピカじゃない!新品に交換するほど余裕なんて」


「ゴクッ。…その子がやってくれたんだ、お前も感謝してくれ」


「はあ!?………食器まで綺麗に磨かれてる…」


「少しだけパーユを使わせていただきました」


「パーユ?それでこんなに綺麗に?」


パーユは酸っぱい調味料。

ブラウンがパーユには頑固な汚れを落とすのに必要な成分が全て含まれているって言ってた。


「ほ、本当にどれも新品に買い換えたり」


「1ゴールドも使ってない。いいからお前も席についたらどうだ」


オーナーの奥さんは私をチラチラ見て、目が合う度にありがとうと言ってくれた。


なんでも、諦めるほどの汚れだったらしい。



「それにしても、この雨はひどいですね…」


リーファンが外を心配してる。

雨が弱い弾丸になって屋根を撃ち続けてるように感じる激しさで、騒音に感じるほどうるさい。



「あまり客のことを聞くことはしないんだが…まだまだ暇な日が続くからなあ…あんたらのこと聞かせてくれないか?」


オーナーの不意打ちに心臓が止まるかと思った。


「ええ。私はリーファン…リーファン・ヨーデル」


「え?」


「こちらはキャル・ジョーズ。私は世界中を旅する彼女の護衛です」


「え?」


リーファンはスラスラと嘘を並べて私に微笑んだ。


「へぇ、旅ねえ…」


「キングエルから出発したばかりでまだ日が浅いですけどね。確か旅の目的は…」


突然リーファンの嘘が失速した。


私の不安そうな顔に気づいたからなのか、それとも続きが思いつかなかったのか。


「そりゃあ世界中見て回るってんなら国宝巡りだろうよ。違うか?」


「え、ええ。そうです…」


オーナーがそれっぽいのを肉を頬張りながら言ってくれた。


「ライヴァンの国宝、ガーディアンスキンはなぁ…前は"守護神の肌"って呼ばれてたんだ」


「守護神の…」


「この人、こないだまで王族に関わる仕事してたっていうのに体壊して宿屋1本になっちまって」


「そう言うなよ。俺の腰はもう悲鳴すらあげられねえんだから」


奥さんは愚痴っぽく言って、オーナーは声が少し暗くなった。


「あの、もし知ってるなら続きを聞きたいです」


「ああ。ガーディアンスキンは一種の"魔法"なんじゃないかと言われてる。この国全体に範囲を広げるとなると消費する体力は人間のそれじゃあまず賄えないだろうけどな…。一方で、城の中にガーディアンスキンを発生させている"道具"があるんじゃねえかとも噂されてる。玉だか杖だか知らねえが、それが劣化してきたせいで今みたいに途切れ途切れになってるとかどうとか」


「………」


不思議と興味が湧いてきた。


「何にせよ、発生源を見てみたいところだね」


「う、うん」


「なら王様と友達にならなきゃな!はーっはーっはっ!あ"っ…」


オーナーが仰け反りながら大笑いした。

けど途中でそれがピタリと止まって



「マズい…腰が」


「またかい!?ったく…すまないねぇ。こいつをベッドまで運ぶのを手伝ってくれるかい?」


「喜んで」


リーファンと奥さんがオーナーを寝室まで運ぶことになった。

とりあえず、夫婦揃ってダイエットを始めた方がいいと思う。

オーナーもだけど、奥さんはそれよりもさらに一回りお腹が大きかったから。



「なんてね」


1人残されてそんなことを考えながらゆっくり食事を続けてた…ら。


「なに…?」


身に着けてるペンダントが熱い。

それから、何者かの気配を感じて。


「呼ばれてる」




/////////////now loading......





誰の声も聞こえない。



誰の姿も影も見えない。



でも気づいたら私は




「お母さん」



何かに導かれて外を歩いてる。



分かってる。正気じゃない。



「お母さん」



雨が痛い。


息が苦しい。


それでも体が動くのを止められない。



「おか…あれ?」



着いたのは教会だった。



扉はほんの少しだけ開いていた。



「ここに何があるんだろう」



「大丈夫ですか…!!」


神父が大慌てで私に近づいてきた。



「ああ!なんということだ」


「え?痛っ!!」



自分の体の異変に気がつかなかった。


体中が青黒くなってる。


「まって…これ…耐えられない!」


「私の肩を」


「無理…」


そのまま床に倒れてしまった。

その衝撃がまた激痛で。


「っくうぅぅ」


「なぜこの雨の中を…!」


どこかへ消えていった神父。


私はもがき苦しみながら高い高い天井を見上げて。



天井付近をひらひらと舞っている蝶が見えた。




/////////////now loading......




「う…」


グラグラする。


首が役目を放棄して、頭を支えきれてないみたい。



《無理はいけない。いけないよ》



「……だれ…」



上下逆さまになった世界。


こっちに歩いてくる細くて大きい何か。



《君と同じで寂しい。寂しいんだよ》



男性?女性?


高くて低い声。2つが混ざったような…



《目を閉じて。全てが終わるまで見ない方がいい。見るのはとても辛い。辛いよ》



「ふぁ…」



キラキラした粉を振りかけられて、私は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、




《どこにあるんだ。どこにあるんだよ》



《………持ってない。持ってないよ》



「おま、お前は…ばば化け物!」



《………持ってない》



「ひ、ひぃ!?」




/////////////now loading......





「キャル!!キャル!!」



「リー…」



気がついたらリーファンがいた。


それから、祈りを捧げる神父。



そうだ。ここは教会。



「探したよ。どうして外に出たりなんか」


「私は…」


「まずは水を飲むんだ。話は後でいい」


「水要らない。…それよりも」


私がここに来た理由を知りたい。

何かに導かれてここに来た理由を。



ふと、教会のステンドグラスに見覚えがある気がした。





/////////////To be continued...




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