第6話「歓迎」
「………」「………」「………」
森を歩く私達はとても静か。
私はそこまでお喋りな性格じゃないし、チャドは襲われないか警戒してて右手だけはいつでも武器を取れるようにか首や肩を揉むフリをしてる。
ソフィーは割とよく話す人だけど険しい顔で歩いてる。
チャドの攻撃で開けた道を堂々と進む。
基本的に生き物は見当たらないけど時々小鳥が近くの木に止まる。
メドルーナ。どんな国なんだろう。
「っ。2人とも止まれ」
森に入る前にも少し聞いたチャドの真剣な声。
普段の声より低くて、力がこもってる。
「………馬の足音、武装した人間だ」
チャドが私達の前に立って大斧を手に取る。
それからようやく私にも聞こえた。
……気のせいかと思えるほど小さく。
「ソフィー嬢、念のため魔法を使えるように準備を」
「う、うん」
立ち止まって戦闘の準備を整えた。
私は一応買っておいた短剣を手に取った。
そして進行方向から…
「翠の鎧…噂は本当だったのか!」
黒い馬が駆けてくる。
跨るのはチャドが言った通り翠の鎧を纏った人間。
…もしかして、私の見間違い?
「片手に槍を2本持ってる…?」
姿を確認してすぐに私達の前まで来て止まった。
馬からは降りずに私達を見下ろしてる。
鎧と同じ色をした不思議な形の兜が目についた。
「ゴルゴラの聖騎士…バルディン」
チャドが1歩下がった。
…え、ゴルゴラ?
「大将軍、チャド・サンダーバーグか。ここで出会うとは珍しい」
なんとか聞き取れたけど、この人の声は苦手。
ビリっとする。
声の大きさも感情も多分普通なはずなのに、怒鳴られてるような気分。
顔は見えないけど深く低い声からして若くない男性だと思う。
左手で馬を撫でて、右手は私達に槍を向けてる。
やっぱり片手に槍を2本持ってる。
「若い娘を2人も連れてメドルーナへ向かうのか。ゴルゴラを捨てて新たな生き方を見つけたようだな」
「随分と挑発的な挨拶。俺はゴルゴラを捨ててなどいない」
「ならばゴルゴラの"最期"で私がお前を見なかったのは何故だ?」
「…っ」
「チャドはその時、ミフィーリアを守ってくれていたん!…です」
ソフィーが口を開いた。
「ほう。ミフィーリアか」
チャドを庇おうと出た言葉。
でも最後に勢いがなくなったのはこの人が怖いからじゃない。
嘘をついたから。思ってないことを言ったから。
本当は逆なのに。
「待って。あなたはゴルゴラにいたの?」
顔は見えないけど、睨みつけられた気がする。
「お前も居たな。そこの娘も」
「え、私達見られてたの…」
「それなら。あなたこそゴルゴラを捨てたんでしょ?チャドが言ってた。ゴルゴラは負けた時には先に行かせないように岩で道を塞ぐんだって。つまり、逃げ出さないとあそこから生きて出られないはず」
「それはライヴァンの方向への道を塞ぐという取り決めだ。ロガドガ山を超えれば生きて出られるが」
「あのロガドガ山を人間が超えるなんて無理だよ!それに馬だって入りたがらないはず!」
「馬はハートで買った。王を避難させたついでにな」
「王は無事なのか…!」
話を聞くほどこの人がどれだけ強いのかが分からなくなっていく。
カヒリやギーナみたいに強いのかな。
「ふん。メドルーナで"遊び疲れたら"お前もハートに向かうといい。私はキングエルに向かう」
「っ」
チャドの目が光った。
ぐっと堪えてる。
「待って。キングエルに何の用なの?」
「小娘、所詮そこの男の玩具にすぎないお前に話すとでも?」
「…あなた、自分の力に自信があるんだね」
兜の隙間から目が見えた。
私を睨む血走った目が。
「いつか後悔すると思う。私に…私達に失礼な態度をとったこと」
「ふはは!後悔か、それなら既に。ここでの会話の全てを無かったことにしてしまいたい!なんと無駄な時間を過ごしてしまったことか!ははは!」
馬が動き出して、私達の真横を抜けていく。
「"真実のソフィー"よ、魂を守りたまえ…」
「なっ!待つんだソフィー嬢」
準備をしていたからか、ソフィーの向けた手から光が溢れるのはとても早かった。
「正義を追求せし光、」
((ホーリーグレイヴ))
まだ馬は速度を上げていない。
魔法は一瞬で私達に背中を向けたままのゴルゴラの聖騎士と呼ばれたその人へ、
「ふははは!」
振り返ることなく槍を後ろに向けてそれを弾いた。
彼が遠くに消えていくのを見届けてから、また私達は静かに歩き出した。
暗い雰囲気が荷物を少し重くした。
「川がある。少し休んでいこうかねぃ」
私達を気遣ってチャドが休憩を提案した。
あまり休まらない雰囲気だけど、透き通る川の水に癒された。
食事も済ませることになって、チャドがゴルゴラの聖騎士について少し話してくれた。
「ゴルゴラで国王の次に偉いのが、あの聖騎士バルディンなんだよねぃ。でも、その姿を見ることはまずない…ずっと国王を守ってるわけじゃないのは分かるよねぃ?」
「私達がゴルゴラにいたことを知ってた。私達は宿とゴルゴラから近い戦場の2ヶ所くらいしか見て回ってなかったから、そのどっちかにいたのかな。でもあの鎧の色は珍しいから見たら覚えてると思う」
「バルディンについては噂話が存在するばかりで戦功その他何も知ることは…あ、バルディンという名前も国王がたまたま言ってしまったことで知られたんだよねぃ」
「私達はそのバルディンにかなり詳しくなったよ。強いらしいけど嫌われ者な性格!」
ソフィーが"ヤドウ"を1粒、また1粒と口に頬張りながら言った。
黄色くて丸い果実がいくつも付いた房で売られてるヤドウ。
どこでも育つ果物らしくて、ソフィーが言うには庶民の味だとか。
「片手に槍を2本。私これ何回言ったんだろう…でも」
「その通り。噂話では片手に5本まで握ることが出来るらしいねぃ。束ねて太くなった槍は巨体を有する魔物を容易く射止めるとか」
「射止めるって、投げるの?」
「聖騎士が姿を現さない理由は、ゴルゴラの大きな城の上から槍を投げて敵を攻撃しているからだとか…。これは噂好きの子供から聞いたねぃ」
「ねえそのバルディンはもういいよ。違う話をしよう」
ソフィーに止められて、話題はこの森へ。
「この森には名前は付いてないの?」
「特に聞いたことないねぃ」
「私も知らない。でもチャドもキャルも何で普通にしてられるのか私ずっと不思議だった。もしかして2人、鼻詰まってる?」
「え?」
「健康だと思うけどねぃ」
「ずっと臭いよこの森。川の近くは綺麗な水のおかげか大丈夫だけど、なんていうか…絶対ご飯食べようとは思えない下品な臭さ」
もしかしてソフィーが険しい顔で歩いてたのって。
「なるほどねぃ」
「ソフィーは知らないんだ」
「え、何を?」
「確かに最初は感じたけど、これは」
「いや。キャル嬢、まだ教えないでおくのがいいんじゃないかぃ?」
「何?何なの!?キャル教えてよ!」
ソフィーが臭いと言ってたのは、入浴剤の匂い。
多分、材料がこの森の近くで採れるんだと思う。
慣れてしまえばそこまで苦じゃないし、それさえどうでもよくなるほど入浴剤の効果が大きい。
ただ浸かるだけで肌が若返り、怪我の治りが早くなる。
怪我への効果を期待して兵士達が好むことが多いから、私やチャドにはお馴染みなのかな…兵士が近くにいる暮らしだし。
ミフィーリアは護衛を雇わなきゃいけないくらいだからソフィーは縁がなかっただけなのかも。
「ソフィー。メドルーナに着いたら教える」
「えー。なら急ごう!」
「がっかりするだろうねぃ…」
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《ただ今、完全に制圧しました。ええ、生き残りがしつこく抵抗しまして…分かりました。数を増やし活動範囲を広げます》
"元"ゴルゴラ。
高くそびえる城は瓦礫の山に変わっていた。
民が営む店、屋台、宿、鍛冶屋…何もかもが破壊されている。
舗装された道すら破壊され人間には近寄り難い姿に変わってしまったこの国。
《ライヴァンという国へ続く道は岩で潰されている…ならばアシッドの血族を増やそう。命令だ、アシッドの血を"増やせ"》
その声を聞いて二足歩行の魔物達が隊列を崩して散る。
そしてすぐに泣き叫ぶ声が聞こえた。
《耳障りな…》
破壊された国。
その中心には魔物達が意図的に広い空間を作り出していた。
邪魔な物を退かし、木を切り、雑に…しかし人間が組むよりも頑強に組み立てられた柱。
柱には逃げ遅れた人間が繋がれていた。
人間の手首を縛り柱に結びつけるのは鮮やかな色をした人間の臓物に魔物が加工を施したもの。
囚われた人間達は全ての衣服を剥がされ、両手を縛られ、魔物に囲まれ恐怖に怯えている。
《うるさいのは"どれ"だ?》
「ひっ」
《お前か。ならお前から》
指をさされた女。
黒く長い髪は乱れ、肌は泥を塗られ、逃げられないように足首から先がない。
「やめて…やめてっ!来ないで!来るな!」
奥から出てきて女に近づく魔物。
目はひとつ、鳥の嘴に似た口から細長い舌がチロチロと存在を主張する。
3足歩行のそれは、腕を持たない。
女が先の丸くなった足を振り回し暴れて魔物の接近に抵抗していると
《騒ぐんじゃない。どうせお前を死なせはしないのだから。用が済むまでは》
近くの魔物を睨むと、2体の魔物が女の足を外側に開くように引っ張り押さえる。
「いやだ!なんでっ!こんな…助けて!お父さん!お母さん!誰でもいいからぁっ!」
《さっさとしろ。日が沈むまでに20は増やさなければならない》
背を向けて立ち去る。
《心地よい…》
背後から聞こえる人間の叫び声。
今度は耳障りではなく、心地よく思う。
日が沈む頃、ゴルゴラの兵士達が身を犠牲にしてでも塞いだ道の岩を、たくさんの魔物達が少しずつ"溶かしていた"。
それは先ほど女に近づいた一つ目で細長い舌を持つ三足歩行の魔物だった。
大きさは様々…30を超える数にまで増えたその魔物は、細長い舌を岩に這わせる。
魔物の体液の効果か、岩が徐々に溶けていく…雪に熱湯を撒くような早さで。
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夜になった。
でも、
「空気が変わったねぃ」
「あれって湯気じゃない!?」
「森が終わる。あれって門だよね」
国を守る大きな門だ。
そして…そして?あれ?
「ようこそ、娯楽大国メドルーナへ!」
私達を迎えたのは門番…のはず。
でも武器を持たないし、楽な格好をしてる。
何より女性だ。門を守るというより、ただ歓迎してる。
「娯楽大国?」
「はい。ここはハートに守られし人類最後の楽園。温泉、舞踊、各国から取り揃えた美食の数々、それから…ふふ。どうぞ、心ゆくまでお楽しみください」
人類最後の楽園。
説明の途中でチャドに微笑んでた。
「キャル!なんか良い匂いがするー!行こう!」
「あ、待って」
甘い香りに誘われて。
「どうぞ…ごゆっくり」
振り返ると門番の女性がこっちを見ていた。
…嫌な笑顔だった。
/////////////To be continued...




