第4話「知らぬ存ぜぬ」
「ギ、ギーナ…」
「外に出ようにもこの人数を相手にするのは…信仰信仰と何も見えなくなってるみたいだけど、罪無き人間なのは変わらないはずだからねぃ」
礼拝堂に避難していた国民達全員が3人を取り囲み追い詰める。
「戦う覚悟を決めた人間とは違う。でも強い意志を感じるねぃ…」
「2人とも怖がりね。私からすれば、さっさと襲ってこない時点でこんなの問題視してないわ。今あなた達が味方にしてる人間がどれだけ優秀なのか教えてあげる。」
そう言ってギーナが一歩踏み出し、
「実際に手を出すことは出来ない愚かな人々よ。私もあなた達を傷つけないつもり…多分ね。ふふっ……フェイク・バインド。」
彼女の体から限りなく黒に近い赤色の濃い煙が吹き出た。
大きな部屋を一瞬で満たしたこの煙は、視界だけでなく様々な感覚を曖昧にしてしまう。
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「はーち…きゅう…じゅう…」
数を数えた。
数える前と変わらない緊張感。
数えてる間は静かだった。
本当に戦ってる?
もしかして私を置いてカヒリだけ逃げ…
「いいぞ、目開けろ。」
「うわ…」
襲ってきた"それ"はバラバラになってた。
「ま、4%もあればこんなもんチョロいな。キャロライン、顎見せろ。」
カヒリは無傷だ。
両手で私の頬を押さえて顔を上に向けると
「マジかよ。こんなに痛そうだとケツ顎になりそうだな…」
「それ何?」
「ケツ顎?一部の男女にしか似合わない特徴というか。もっと大人で濃い系統の美女顔じゃないとさ。お前がケツ顎になったらおしまいだよ?似合わなすぎて世界滅亡だ。」
あまり彼の言いたい事が分からない。
でも、話しながら右手が私の顎に触れてるのが分かった。
全然痛くなくて、少し物足りなさを感じる温かさ。
「大体の回復魔法ってさ、傷に触れることなく手をかざして緑色とか黄色とか光が出てさ。触られると新鮮だろ?まあ俺が特殊だから触りながらじゃないと治せないんだけど…さ。おっけい。」
カヒリの手が離れて自分で顎を触ってみた。
元通りだ。
「確か子供時代のキャロラインは王族に仕えてる魔法使いに転んだケガとか回復してもらえたんだよな。」
「子供時代?私の?」
「あ。忘れて。」
「私のこと知ってるの?」
「あちゃー…やらかした。」
「どこかで見てたの?カヒリもキングエルに住んでたってこと?」
「すんごい食いつくじゃん…」
知りたい。知りたい。知りたい。
カヒリはもしかしたら、私の知らない私を、私の知らないストーン一族を知ってるのかもしれない。
「はいはい。皆のとこ戻るぞ。」
「嫌だ」
「お父さん反抗期なんて許しません。」
「お父さん?」
「ボケ通じないのな!…あ、俺が下手くそなのか。」
「ねぇ、カヒリは私の何を知ってるの?…私の辛い人生を知ってるなら…もっと早く…さっきみたいに助けてほしかった…」
「え、キャロライン?…キャロラインさん?」
カヒリは間違いなく私のことを知ってる。
もしかしたら私以上に。
そんな気がして、腹立たしくて。
私が人類の恥であるマクシミリアン王の代わりに酷い目にあってた時…彼は
「待てよ、ちょっ、泣くなって。……」
終わった後に優しくされたいんじゃない。
傷つけられる前に守ってほしかった。
それを誰にも分かってもらえない。
「だあもう!話せばいいのか!?お前のこと!」
「…え」
「俺が知ってるのはお前が産まれてすぐのこと、初めて立って歩いた時のこと、あとは当時絶対友達になれないと思ってた意地悪な男の子と仲良くなる話に、お前の10歳の誕生日パーティーに飼い犬が逃げ出して国中てんやわんやになった話…まだまだメモリいっぱいに知ってる!でもな、どれも話してやらないからな!」
カヒリが早口でまくし立てる。
聞き取れなかったわけじゃないけど、私は言われたことを理解するのに時間がかかった。
そして、とても残念に思った。
「なんだ…私のこと、何も知らないんだ」
「あ?」
「ううん。なんでもない。戻ろう」
「あれ?なんか思ったのと違う。」
私も同じ意見。
道端に襲ってきた謎の生き物の死体を残して、礼拝堂に戻ることにした。
「そういえばさ。アグリアスに人がいない理由が分かったんだよ。」
「そうなんだ。何?」
「さっきの化け物のせい。あれを国王が呪いだーって言って、皆を礼拝堂に避難させたんだ。んで、俺がそれ殺したわけじゃん。つまりもうこの国は平和で何も問題ないわけ。通常営業に戻るし国王に感謝されるしで俺達は高待遇されるだろうなー。」
「ふーん」
「なんだ?急に素っ気ないなぁ。」
「別に」
「お、今で言う炎上案件。」
カヒリは嘘をつく。
それらしい事を言って私の気をひく。
…もしかしたら、私をキングエルに連れ戻すつもりなのかも。
味方のフリをして、私を信じ込ませてから確実に。
「んあ?あれって…おい、キャロライン。」
「今度は何…きゃ」
突然抱き抱えられた。
「緊急時の合図だ。悪いけど俺は俺で優先したいことがある。」
合図?もしかして…
「お、降ろしてよ!私、うわっ!」
何も言えなくなった。
カヒリが私を抱えたまま高く飛んだから。
細い道を行くんじゃなくて、建物の上を行く。
信じられない速さで飛び跳ねて、
「ほら、見てみろ。」
カヒリが言った。
振り落とされそうで怖いから、目だけで何を見てほしいのか探った。
……煙?
「多分あいつら礼拝堂から離れるよな。こっちも合図出せば合流狙えるけど、敵に追われてるとしたら面倒になる。…あ、全員ぶっ飛ばせばいいのか。」
カヒリが止まって、私を降ろした。
「今から全員合流するけど、多分その時にお別れになるかもな。」
「え?」
「ギーナが緊急時の合図を出すってことは俺達でも危ない相手がいるってことだ。唯一の戦力のチャドも俺達からすれば足手まといだし。そもそもアグリアスに行くために同行しろってのがお前の提案だしさ。目的は果たしたろ?」
そう言って
「フェイク・ショット!」
カヒリの手から煙が吹き出た。
「すぐ来るよな…来いよ?来い。来い。」
礼拝堂から少し離れた空に、炎鳥が現れた。
それはまっすぐこっちに飛んできて
「ふぅ。やれやれだよ全く。」
カヒリが一息ついて安心すると、炎鳥が私達の真上まで来て消滅した。
代わりに
「ごめんなさい。」
ギーナとチャドとソフィーが降ってきた。
ギーナはふわりと着地して、チャドはソフィーを抱き抱えながら片膝をついて着地。
「あの高さから落ちてなんともない…ギーナの魔法は珍しいものばかりだねぃ」
「よかった!キャルも無事だった!」
ソフィーとチャドが私に駆け寄ってきて、カヒリとギーナが話をしてる。
「キャル嬢。一体どこに行ってたんだぃ?」
「ちょっとね」
「大変なんだよ。礼拝堂にアグリアスの国民が全員逃げ込んでたんだけど…」
「カヒリから聞いた。化け物から隠れてたんでしょ?もうカヒリが倒したから」
「いや、それだけじゃないんだよねぃ」
「え?」「はぁぁっ!?」
同じタイミングでカヒリが叫んだ。
「どんだけ腐ってんのこの国!変だと思ったんだよ!呪いの魔物の正体がキメラ人間なんだもん!」
ギーナがカヒリを落ち着かせてる。
「キャル。何か分かる?」
「カヒリが言ってたのは化け物のこと。人間の体なんだけど、腕がいっぱい生えてたり頭が1つじゃなかったり…」
ソフィーが聞いたままに想像したみたい。
気持ち悪そうな顔してる。
「おい。お前ら。」
カヒリ達も話に混ざった。
「次の目的地は?」
「えっと、アグリアスから近いメドルーナ…」
「メドルーナ…推奨より絶対低いけどどうする?」
「チャドがいればきっと大丈夫よ。行かせてあげましょう?」
「…分かった。じゃあ頼む。」
「私についてきて。アグリアスからメドルーナに向かう出口まで連れてくわ。」
「早めに戻ってきてくれよな。」
カヒリとギーナは何かを知ってる。
2人は目を合わせて頷くと、ギーナが建物の屋上同士を繋ぐように魔法で道を作った。
「急いで。」
「そんじゃ、久しぶりに暴れちゃおうかなー!」
私達を見送りながらカヒリが意気込んでた。
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最初からこうすればよかったのに。
なんて、図々しいことを考えてしまうくらい建物の上を移動するのは効率的だった。
下の細い道を彷徨うのとは明らかに目的地に着くまで差がある。
「はい。あとはこれを滑り降りて。」
幅の広い坂を魔法で作ってくれた。
「私、土魔法はそんなに好きじゃないの。燃費も悪くて…愚痴ってる場合じゃないわね。それじゃあ、皆気をつけて旅を続けてね。」
「ギーナ嬢、ありがとう」
「魔法教わりたかった…」
「ふふっ。」
チャドとソフィーが坂を滑っていく。
「キャロライン。仲間を大切にね。」
「ギーナ。どうせ別れるなら教えてほしい」
「……」
「2人は」
「ダメ。」
「え」
「もしかしたらまた会うかもしれないもの。それも近いうちに。」
私が次に発言しようとするより早く、ギーナは続けた。
「それに、教えられないわ。万が一私とカヒリが死ぬようなことがあれば…それも有り得ないけど。ほら、早く行きなさい。」
背中を押されて
「うわ、ちょっと、待って!」
「うふふ。感染ったみたいね。」
坂を滑り降りる。
子供なら楽しいだろうけど…ううん、この高さだとさすがに楽しくないと思う。
体の中の色んなものが浮くような感覚がして、速度が上がってく。
「よっと。キャル嬢、怪我はないかぃ?」
下でチャドが受け止めてくれた。
「見つかったら大変だから急ごう」
ソフィーに急かされてアグリアスから離れることにした。
門を抜けてすぐ、空気が温かくなった。
「メドルーナはオイラも行ったことがないからねぃ。どんな国か…」
「確か…メドルーナには大きなお風呂とか美味しいご飯があって、訪れた人は故郷を忘れてそこに住み着いてしまうとか聞いたことあるよ」
「それは楽しみだねぃ」
2人はもうカヒリとギーナのことを心配してないのかな。
アグリアスでのことが全部無かったことみたいに次の目的地を楽しみにしてる。
チャドとソフィーの背中を後ろから追いかけながら、私は遠くを見ていた。
霊道とは違って木が増えて、先には森が見える。
そして、私の目にはその森の中にたくさんの"赤"が見えた。
どうしてだろう、その"赤"達は私達を待ち構えてるようにも見えた。
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およそキャロライン達と入れ替わるような形で、ブラウン率いる一軍がアグリアスに入国する。
「アグリアスからの報告が途絶えていたが、これは何事か…」
入国してすぐ、異様な光景を目にした彼らはすぐに礼拝堂を目指す。
「くっ、そこら中に人が倒れていて馬が思ったように走れないか。全員、馬から降りろ!」
総勢30名。長い列を作り建物の間の細い道を進む。
どの道を進んでも数人が道に寝かされており、それらの生存は
「息がある…特に怪我もない」
何が起きたのか、全く思いつかないブラウン。
しかし、剣を抜いて警戒することにした。
アグリアスをよく知る人間がいたため、スムーズに礼拝堂に到着したブラウン一行。
「中に入るぞ。恐らくヒンマ国王は中だ」
開かれた大きな扉。
そして
「ふははは。殺したいのならそうすればいい。肉体が滅びたとしても信仰する魂は失われない!我がアグリアスは永遠なのだ!」
「何が永遠だ。もうお前以外全員気絶してんだよ。これがガチだったらアグリアス滅んでるからね?」
「信仰を深める洗脳魔法の開発に失敗して生まれた"結合された人間"を悪魔だ呪いだって騒いで崇めるなんて…しかもそれを生かすために人間を食べさせてたなんて。それでも国王なの…!?」
「見えぬから信じないという者もいる!だから好都合だと思ったそれだけのこと!現に全国民が私を信じた…!そして信仰の力により"あれ"は礼拝堂の中に入ってくることもなかった!完璧じゃないか!」
ブラウンが見たのは、宙に浮くヒンマ国王。
そして下には黒い布を纏った2人。
ブラウンが危険視している2人。
「お前達!ヒンマ国王に何をしている!」
「ブラウン!?お前なんでこんな所に…てか何その」
「執事が軍隊を連れ回すなんておかしな話よね。おかしな王様の次はこれ?この世界、やっぱり変よ。」
「ヒンマ国王!今お助けします!お待ちを!」
「ちきしょう!どいつもこいつも話聞く気ゼロかよ!」
「ヒンマ国王を守るぞ!全員…」
ブラウンと睨み合うカヒリ。
「行けえぇぇ!!」
ブラウンの号令により、戦闘が開始された。
「ふぅ、殺さないように倒すの大変なのにさぁ…」
「油断しちゃダメよ。向こうは本気なんだから」
「信仰こそ力…!はっははははは!!」
/////////////To be continued...




