表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、この世界を征服します。  作者: イイコワルイコ
プロローグ
2/83

第2話「雷降る国、ライヴァン」




「ハイドシークの森を抜けるには…」


「あっち。少なくとも私はあっちに行くから」


「いいですよ」



彼。リーファンは私を守りながら狼人間を複数相手にしても余裕だった。

私を守っていたのか疑問なくらい。


長剣を構えると狼人間がリーファンに飛びかかって返り討ち、が繰り返された。


それだけの呆気ない戦闘だった。




ズカズカと森を進む私。


何度も私の前に出て草木を長剣で刈ってくれるリーファン。


沈黙は長く続かなくて。



「そろそろ自己紹介をお願いしてもいいタイミングだと思うのですが」


「………」


ペラペラと話すわけない。

私が"アレ"の娘だと知れば、さっきの狼人間と同じように斬られるかもしれない。


「…キャル。どこにでもいるような町娘」


「嘘ですね」


「えっ」


「ふふっ。それでも構いませんよ。話したくなったらいつでも」


「私を知ってるの?」


「いいえ。ただ嘘だと分かっただけです」


その時、リーファンの視線が私の首元のペンダントに向けられたのが分かった。

だから自然に服の中に隠した。



「それにしても、この森で何を?女性が1人でうろつくには」


「…あ」


都合のいいタイミングで森を抜けた。



「アクトリオ平原が向こうに見えますね。ここから近い町は」


「平原の向こう」


「いえ、近いのは」


「私は……」



何て言おう。

お礼を言ってここで別れれば…でも、正直魔物のことは考えてなかったから…そうだ。



「私はライヴァン出身だからその…へ、平原を」


「そうでしたか…てっきりキングエルの町娘かと思いましたよ」


「こんな国…」


キングエル。それがマクシミリアン王が名付けたこの国の名前。



「聞いていたほど酷い国ではありませんでしたけどね。魔王との盟約によってハイドシークの森以外では魔物が出現せず安全に暮らすことが出来る。ハートでは常に危険と隣り合わせですから羨ましいくらいです」


「それってつまり森の魔物に城と城下町を守ってもらってるだけでしょ」


初めて知った。森にしか魔物が出てきてなかったなんて。

森に入らなければ、魔物の脅威とは無縁…


「ああ…!見方によってはそうなりますね。城と城下町を守るように森が広がって、森の外に他の町や小さな村が点在して…面白い国だ」


「どこが…」


初めての場所。


アクトリオ平原…ずっと先まで広がって見える。

走ったら気持ちいいかも。


「キャル」


「な、なに?」


「森の中は薄暗かったからあまりよく見えなかった…でも改めて見ると君は」


「………」


「どうして裁縫道具なんて持ち歩いているんだろう」


「…こ、これ!?し、趣味!」


ふーんって反応を見せながら、彼は私をしっかり観察していた。


「では、ライヴァンへ」


「うん…ライヴァンへ」


初めてキングエルを出られる。




/////////////now loading......




アクトリオ平原、思ってたより広い。



朝早く城を出て…森を抜けて、今はもう昼を過ぎた頃かな。


太陽が眩しい。



途中で行商人からリーファンが果物を買ってくれた。


リンゴに似た果物。



「あま…くない。しょっぱ…」


「レンゴだよ。1口齧れば3日働けると言われてる果物で…」


「早く言ってよ」


文句を言いながらもまるまる1個食べてしまった私は1ヶ月は働き続けられるのだろうか。


青空の色をしたレンゴを食べた私はとても元気になった。


歩く速度が上がって、スキップになって、子供みたいに走りだした。



「すごい…!ずっと走れそう!」




「なるほど…」



リーファンは歩いて私を追いかけた。

少しも走ってくれないから私は仕方なく走るのをやめてリーファンに合わせた。



「キャル。ひとつ、意地悪を言っていいかな」


「じゃあダメ。なんでそんなの確認するの?」


「性格かな。…レンゴはね、ライヴァンの特産の果物なんだよ。ライヴァン出身の君が知らないはずは」


「ダメって言っても言うんだ…」


嘘がバレた。


「これ以上言うつもりはないよ。でも、言いたくないなら言わないで構わないから嘘はつかないでほしい。見えてきましたね、ライヴァンが」


「あれがライヴァン?」


目的地はすぐそこ。

でもそこだけ天気がおかしい。


「"雷が降る国"ですから」


禍々しい雲がライヴァンの地を覆って激しい雷雨で襲っている。

すぐに危険な場所だと分かったけど


「キングエルには戻れない理由があるんですよね」


「言えないけどそう。私は…」


「まずはライヴァンへ。宿を確保して、食事をして、それから話せることを話しましょう」



ライヴァンに近づくと雨が降ってきて服も体も濡れた。


だんだん大きくなる雷鳴に耐えられず耳を塞ぐと、ようやく到着した。




/////////////now loading......




「不思議な国。国内は静かだなんて…外から見たら大災害なのに」


ライヴァンの首都、サンデル。

空は白い。

雷雨は国内には影響が無くてどういうわけか晴れてる。


宿を確保して、食事をするべく外を歩いていた。




「僕が少しだけお話しましょうか」


「え」


「ライヴァンは以前、平原から見た通り激しい雷雨が降り続いていた。今のように落ち着いたのは"あれ"のおかげなんです」


「あれ?」


リーファンは空を見上げた。


「…どういうこと?」


「ライヴァンの国宝、"ガーディアンスキン"。国と空の間に広がる保護膜。それが雷雨を防いでくれているみたいだね」


「国宝…」


よく観察してみると、白い空が時々揺れる。

ほんの僅かな違和感だけど何かに守られているのが理解できた。


「さて、キャル。相談があるんだけどいいかな」


「何?」


「気前よくレストランを…と思ったけど僕は今金銭的に苦しくてね…」


「あぁ…」


勝手についてきてくれて、途中で果物を買ってくれたり部屋も取ってくれた。

その都度お礼の言葉は伝えてるけど、頼りきりなのは…


「申し訳ないけど今日は屋台飯でもいいかな?夜のうちに僕が旅の資金を少しでも」


「どうして?…魔物から守ってくれたことや、レンゴを買ってくれたこと、宿のことも感謝してるけど。けど。あなたはまだ私といる理由があるの?」


ハイドシークの森に女性1人でいるのが危険だからとついてきてくれて、いつの間にか隣国。


「これといった理由はありません。私は旅の途中ですから、どこへ行くのもどこに留まるのも自由です」


「でも、王子…なんでしょ?旅って嘘なんじゃ」


「王に相応しい人間になるために旅をしています。ふふっ、そのフレアライスを2つ…ガトンのバーベキューとアクラシアサラダもお願いします。」



「あいよぉっ!」



「食事にしましょう。父上は言っていました。"巡り合わせ"を大切にしろと。きっとキャルと共に行動するのも巡り合わせなんじゃないか…僕はそう考えています」


嘘…とは言いきれない。

もしかしたら、1人でいる私を気遣ってくれているのかもしれない。

私が正直になって全て吐き出すのを待って、本来いるべき場所まで送り届けるつもりなのかも。


もしかしたら、本当に旅のついでなのかも。

たまたま行き先が同じで。



「…ありがとう、何もかも」


「キャル。いただきます…ですよ?」


「うわ」


屋台横のテーブル席についた私達の元に運ばれてきた屋台飯。


「この赤いのは?」


「フレアライス。若者に人気の米料理だね」


「この大きな骨付き肉は?」


「ガトンという動物の肉だよ。見た目より柔らかい肉なんだ」


「…このカラフルなのは」


「アクラシアを使ったサラダだね。アクラシアは僕の出身国、ハートの特産の植物でね。加熱すると葉の色が鮮やかに変化するんだ」


「お金余裕ないんだよね?」


「2人前で合計7ゴールド。大分安いと思うけど…」


「7ゴールド!?」


キングエルには屋台が少ない。

でもとびきり安い店でもパン1つで5ゴールドはする。

なのに3品、2人分。量も大人が十分に満足出来る。

それが7ゴールド。


「さあ、冷めないうちに食べようか」


「…い、いただきます」


「いただきます」


フレアライスは辛い料理だった。

口から火が出そう。


ガトンの肉は本当に美味しかった。

ブラウンが自信満々に用意してくれるステーキよりも。


アクラシアの葉は柔らかいけどシャキシャキとした歯ごたえがあった。

赤色の部分は甘くて、黄色い部分がほんのりしょっぱい…甘じょっぱい味だった。



………食事をしながらふと気づいた。

初めてのことだらけの今日がもう少しで終わろうとしてる。

あの城…自分の家にこれだけ長く帰ってないのも初めてだ。


私は本当に…



「どうして泣いてるのかな…」


突然泣きだした私をリーファンが心配してる。


「全部……全部話すから、っく!宿に…!」





私は宿に戻ると、リーファンに正体を明かした。



「そうか…君があのマクシミリアン王の娘…」


「誰にも言わないで。バレたら私は」


「どうなるんだい?」


「………………れるかも」


「ん?」


「殺されるかもぉ…っ!アイツは城から1歩も出ないから絶対に安全。だけど実の娘は城の外。キングエルじゃ私を見つけた国民は何をしてもいいって決まりがあるみたいに!………」


「心身共に傷ついているんだね」


苛立ちや不安が一瞬で消え失せた。

ぼーっとしたままその原因を考えてみたけど分からない。


「キャロライン王女。あなたは年相応の人間には育っていない…悲しいことに、ずっと大人だ。怒りや悲しみ、苦しみに育てられてしまった…ここまでの道中で何度か見せたあなたの笑顔は辛そうでした。その全てを癒せるとは約束出来ません…ですが、」



「身を委ねて…眠りなさい」




/////////////now loading......




気がついたら朝だった。


窓からは白い空が見える。


リーファンとは同じ部屋だけど別のベッド。


でもリーファンはいなかった。



「…外に出よう」




もし、彼が私と一緒にいるのをやめたのなら。

私は自力で生活出来なきゃいけない。

住み込みの仕事を見つけ



「………なんだろう」


白かった空が黒くなって



「ん……雨…?」



「雨…!雨だあああ!ガーディアンスキンがあああ!」

「早く建物に!すぐに避難するのよ!」

「くっそおおお!来るぞおおお!」



ポツポツ…サァァ…申し訳程度に段階を踏んで雨はすぐに激しくなった。


黒い空を一瞬明るくするのは雷。



「キャル!」


「リーファン…」


「宿に戻るんだ!走って!」




宿に戻ってすぐ、平原から見た通りの激しい雷雨が音で存在を主張してきた。


室内にいるのに見上げる動作を繰り返してしまうほど不安な気持ちにさせられる。



「リーファン。どこにいたの?」


「昨日言った通り、旅の資金を調達しようと思っていたけどこの雨が降ってきたんだよ」


「守られて…るんでしょ?」


ガーディアンスキン。

国宝って話だったはず。


「僕にも分からない…」



宿屋のオーナーがノックして部屋に入ってきた。



「5日だそうだ」


「何がです?」


「あぁ、あんたらよそ者だったか。前はこんなこと無かったんだがなあ。噂じゃガーディアンスキンの力が弱まってるらしい…今は時々雨が降ってくると皆部屋に閉じこもるんだ。なんてったって死の雨だからな」


「死の雨とは?」


「なんでもこの雷雨は魔王が降らせてるって話だ。この雨に深く濡れた命あるものは闇に溺れ死ぬ。正義を裁く雷が人間を焼き殺すってなあ。聞いたことねえか?」


「………」


「僕は初めて聞きました。では、5日というのはこの雷雨が…ガーディアンスキンが力を取り戻すまでの日数ということでしょうか」


「そういうことだ。追加料金は要らねえ…あんたらもここで大人しく過ごしててくれ。食事の用意が出来たら知らせるからよ」



死の雨。


そんな恐ろしい"呪い"が存在するのも、魔王が生きているから。

魔王を生かしておいた"人類の恥"がいるから。


ということは、ライヴァンでも私の扱いは変わらない。


私がアイツの娘だと知られたら、きっとこの雷雨に放り出される。

私が雨に溺れて雷に撃たれるのを見て国民は歓喜する。




「何を考えているのか…今なら少しは分かるよ」


「………」


「僕はキャルの正体を明かさない。今はね」


「………」


「いつか、正体を明かしても平気な世界が来るように。僕は王になるために必要なことの1つが分かった気がするよ」


「私、これからどうしたらいい…?」


「僕に聞くのかい?」



この日1日、大人しく…本当に何もせずに部屋で過ごした。


あのマクシミリアン・ストーンと同じように。






/////////////To be continued...



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ