第11話「少女達の逃亡」
「おい、起きろ。起きろって。」
気分が悪い。
吐き気がするほど
「揺らさないで…」
「やっと起きたな。外にキングエルの兵とブラウンが待機してるんだけど心当たりは?」
「え?」
「松明に大量の武器、むき出しの殺意。なんていうか…おかしくね?キングエルとライヴァンが戦争とか?」
「……カヒリ。皆をすぐに起こして。出発しないと」
「あー、理由知ってるのか。話せよ。じゃないと俺、動かないぞー?ん?言ってみ。」
「なんで意地悪な態度なのか分からないけど、このままじゃ私が」
「私が?……気配からしてもう時間ないなこれ。」
「……後で全部話す。だから」
「おぉ?立場逆転かぁ〜?」
カヒリはチャドに毛糸で縛られてからのことを根に持ってたみたい。
…前に私を襲おうとした狼人間も同じような笑顔を見せてた気がする。
「こんな真夜中にぃ?キングエルの兵がぁ?ライヴァンの宿の前でぇ?何ぃ?」
「とにかく私達を逃がして。捕まるわけにはいかない。アグリアスに向かう途中で話すから」
「あれれぇ?やっぱり王女ともなるとそうやって人を顎で使うようになるんですかねぇ?」
「…お願い、カヒリ」
「俺はなぁ、ちゃあんと節度を守ってだなぁ…この世界でぃぃったたたたたたあい!!」
「ナ…カヒリ。意地悪しないの。」
「ごべんなさい…」
カヒリの耳を摘んでるギーナ。
彼女は優しく…甘やかすように彼を注意すると私を見て同じように優しく微笑んだ。
「今回だけ特別よ?準備なさい。」
カヒリの騒いだ声でソフィーとチャドも起きてた。
荷物をまとめてすぐに出発の準備を終えると、ギーナとカヒリがひそひそと会話してた。
「ギーナ。私達はいつでも行けるけど」
「分かったわ。」
「んじゃ、始めますか。」
「気をつけてね…カヒリ。」
「ここは心配要らないってカッコつけて言うとこだけど、むしろ不安そうな顔見るとこれ以上ヒロイン悲しませまいとやる気スイッチが入るんだよな…俺ってつくづく毒されてる気がするよ。」
「うふふ。そんなあなたも大好きなの。」
まただ。雰囲気が変な方向に変わってしまった。
2人の関係はわざわざ聞くまでもない。
……きっと今の私には理解出来ない。
カヒリが1人で外に出ていった。
「私達は彼が時間を稼いでる間にアグリアス霊道まで向かうわ。合図に合わせて走るから、心の準備をしっかりね。」
「ソフィーの荷物はオイラが持つことにしようかねぃ」
「大丈夫だよ。持てるって」
「ソフィー。チャドに任せて」
ソフィーは非力だ。自分に割り当てられた荷物を背負ったままではまともに走ることは出来ないと思う。
そしてチャドは荷物が増えたことで動きにくそう…追われながらすぐに武器を取り出すのは難しいかな。
私達が逃げる時間をカヒリが稼ぐ…ということは、"騒ぎ"が起きるであろうことは予想出来る。
これからの行動次第では私達全員が本当に追われる身になってしまう。
「行きましょうか。」
静かな宿。
暗い廊下をそっと歩きながら、外に通じるドアへ向かう。
でも、今外に出ればすぐそこにブラウン達がいるんだろうけど。
私達がドアのすぐ後ろに待機すると、少しだけ外の様子が聞こえてきた。
「旅人か。そこを退きなさい、我々は」
「キングエルから来たんだろ?なぁ、聞くだけ無駄かもしれないけどお前ってブラウンが本名なのか?フルネームでブラウン?」
「…私を知っているのか、」
「まあね。おぉっと、止めとけ。そこの屋根の上に待機させてる弓兵にハンドサインとかさ、生で見ると意外と気づかないもんだな。」
「なるほど、この手の事柄にはいくらか詳しいようだ」
「まあ…世界を救う程度には。」
「屈強な我がキングエルの兵士よ、王女を取り戻すのだ!」
「お前執事だろうよ…なんで軍師枠になって…ちょおおおお!」
私は我慢出来なくてドアを少しだけ開けた。
隙間からカヒリとブラウンの様子を知りたかった。
多勢に無勢。
見たらすぐに分かった。
黒い布…マントをはためかせて宙を舞うカヒリは自分に向かってくる兵士達の肩を踏みつけて飛び回ってる。
まるで水溜りを避けて大きく飛ぶ子供のように。
「ブラウン!弓兵も使っていいけど味方を誤射しないようにな!」
「舐めた真似を…!」
「真正面からぶつかるのも悪くないけどさ!?そんなことしたらお前ら全員、」
カヒリが地面に降りた。
そして右手を前に突き出した…ただそれだけなのに、私は嫌な感覚を覚えて、気づけば頬を汗が伝ってた。
「存在が消し飛ぶくらいに死んじまうぜ?」
「な、何を…」
「そうだ。賭けをしよう。俺を捕まえられたらキャロラインを渡してもいい。鬼ごっこ…分かるか?逃げる俺をお前らが捕まえる、遊びみたいなもんだ。」
「この人数を見て言っているのか旅人よ。さすがにそれは愚かだとは思わないか」
「ならやってみようぜ。今からよーい、どん!って言うから"どん"で追いかけてきてくれ。OK?」
「……捕まえた者にはマクシミリアン王から特別手当を戴けるだろう!」
カヒリの提案にブラウンが乗った。
兵士が追いかけるために道に散らばるとようやくカヒリとブラウンがよく見えるようになった。
ブラウンは執事ではなく、兵士になっていた。
胸当てを着けて武装してるなんて…
「それじゃあ行くぞー!よーーーい…」
カヒリがこっちを見て笑った気がした。
「どんっ!!!」
大きく叫んで、私達が向かうべき方向とは真逆に走り出す。
「合図よ。行きましょう。」
ギーナに背中を押されて私達も宿を出ようとした、その時だった。
「ここだぁぁ!!キャロライン王女はここにいるぞおおお!兵士さん!捕まえてくれええ!」
背後から声がした。
助けを求めるような、生死をかけるほどの叫びだ。
振り返れば、宿のオーナーだった。
私と目が合ったオーナーは一瞬だけ口元を歪ませてからまた同じ内容を叫んだ。
ブラウン達を呼んだのは……
「ひどい人ね。お仕置きよ。」
ギーナが指を鳴らすとオーナーの寝間着が発火した。
「うぎゃあああ!!火!火!?火だあ!!!」
慌てて外に出た私達。
カヒリを追いかけていくはずの兵士の数人が今の叫びを聞きつけて引き返してきていた。
「仕方ないわね。走りましょう!」
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胸が…心臓が痛い。
肺も、足も。激痛で捻じ切れてしまいそう。
「もう走る必要はないわね。追手がギブアップしたみたいだわ。」
ギーナの言う通り、いつの間にか追いかけてきていた兵士達はいなくなっていた。
ライヴァンの門番が私達を悪人と勘違いして追いかけてきた時は生きた心地がしなかった。
「ふぅ。アグリアス霊道の入口まで来たのはいいけど、カヒリがまだ来ないねぃ。5人以上じゃないと」
「そうね。信仰国アグリアスにたどり着けないまま途中で全員死んでしまうかも。」
「ギーナさんは霊道について何か知ってるの?」
「…話しても問題なさそうだから、少しだけ。5人以上で霊道を抜けられるというのはいわゆる"裏技"なの。それは世界中の食材を仕入れてる商人から聞いた話でしょう?」
「何でそれを!」
「うふふ。本来ならここは然るべき時まで通れないように出来ているの…何故かは教えられないけれど。そんな自然の理を無視してアグリアスに行けてしまう…そこまでしてどんな良い事があるのか。気にならない?」
「どういうこと?」
「それは…あ、良かった。」
ギーナが遠くを見つめて手を振った。
「まさかあれ、カヒリなのかぃ?君たちは只者じゃないとは思っていたけど、いよいよ人間かどうかすら」
「疑う?はは。それで正しいと思うぜ。」
「ぅわっ!?これは驚いたねぃ…」
遠くから平原を走ってきていたカヒリらしき人物は、存在を認識するよりも早く私達の目の前に現れた。
「平気?どこも怪我してない?確認するわね。」
「ヒカ…ごっほ!ごっほ!…何も問題ないよ。全然。余裕。」
「カヒリ!ブラウンは?」
「ん?あぁ、全員から武器取り上げて降参させたよ。王様によろしくなってメッセージ付きで帰らせた。」
「そうなんだ…」
「もちろん、向こうにも怪我人はいな…いや、1人つまずいて転んだやついたけど俺の責任じゃないし。」
チャドも言ってたけど、カヒリとギーナは本当に人間離れしてる。
もしかして、魔物なのかな。だから姿を隠すために黒い布を…
でも私達を助けてもくれる…それじゃあもしかして…
「5人揃ったし、キャル。行こう。お母さんを探しに」
「うん」
「だねぃ」
「………なぁ、今の。」
「話を聞く必要があるわね。少し様子を見ましょう。」
/////////////To be continued...
次回から2章が始まります。
なかなかスローペースではありますが今後もよろしくお願いします。
作者の前作「俺達が魔法を使う理由」は完結済みなので、もしよければそちらもご覧になってください。




