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私、この世界を征服します。  作者: イイコワルイコ
1章「王女の行方」
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第10話「2人の名前」



黒い布を纏う男と女。

その2人は間違いなく私達を見張ってる。


…ううん、私のことを見張ってる。

きっとこれから先の旅の道中も何度も関わってきて、あれが違うここが違うああしろこうしろと言ってくるんだ。


「なら仲間にしてしまえばいい」


「…キャル嬢?」


「忘れてないよね、もう負けないって私達に言ったこと」


「やれやれだねぃ」



私を店の外で待つように言うとチャドは取っ組み合いになっている2人へ仲裁人の体で近寄っていった。



「男の方は単純に強い。女の方は炎鳥…魔法なのかな。だとしたら女もそれなりに強いってことに」


旅の仲間に加えてしまえば、安心出来る。

戦力が増えるし、見張られてるという不安が無くなるし、突然の妨害も無くなる。

そして彼らが隠してる私の"正しい進み方"とやらを聞き出したい。


「卑怯なやり方だけど、あの人類の恥も役に立つかもしれない」


何度かあいつが指示していたのを覚えてる。

キングエル国内で犯罪が発生した時に、容疑がかかった者の親しい人間を人質にするやり方。

その人質があるから、犯人は自首するし仲間のこともペラペラと話す。

そして人質は女子供がよくて若ければさらに良いと。


もしここでチャドが男を仲間に引き入れることが出来なくて返り討ちにされても、女の方を捕まえてしまえば男も従うしかなくなる…



「おいおいおいおいやめろおおおお!!」


ようやく店から出てきたのは…店主だった。



「俺の店だ!ここまで大きくするのにどれだけ…喧嘩なら外でやりやがれええ!あああ!看板があああ!」


面白いことに、この酒場だけ建物が揺れている。

右隣の店は騒がしいのを気にしないでのんびりとご婦人の髪を切ってる。

左隣は…鍛治職人がひたすら鉄を熱してる。


「分かったよ!出てこいチャド!ぶっ飛ばしてやる!」


そして黒い布の男が出てきた。



「約束したからねぃ。オイラが勝ったらキャル嬢の言うことをきいてもらうからねぃ…!!」


男もチャドもやる気がある。

でもチャドは斧を宿に置いてきたまま。


「親父さん、この業物を借りる。」


「オイラはこれを」


鍛治職人は2人の声掛けを無視して鉄を打ちはじめた。


男は小さな剣を2本。

チャドは小ぶりな斧。


「専用武器が無いとお前ちょろい説あるからな!縛りだと他の武器が全部適正低いから結局素手推奨だし!」


「ゴルゴラの人間は武器のせいにしないんだよねぃ」


チャドは間合いを気にしながら酒場の右隣の店先にある毛糸の玉を手に取った。


「キャル嬢!これ払っておいてほしいんだよねぃ!」


「…分かった」


何をするんだろう。

チャドに投げ渡された巾着にはゴールドがたんまり入っていた。

ゴールドだけじゃなくて、特殊なヴォルド銀貨まで。

名前だけ聞いたことはあるけど、使われてるのを見たことない。



「なんだお前、俺達はそんな赤い糸で結ばれてねえからな?俺はもう結婚してるぞ?既婚者だぞ?あと同性に興味はない!」


「何を勘違いしてるのか…でも、"結ばれる"のはあながち間違いじゃないかもねぃ」


支払いを終えて2人に視線を戻すとチャドは小さな斧に毛糸を結びつけてた。

あの斧は仕方なく選んだわけじゃないみたい。


「専用じゃなきゃ俺でもいける…よし。」


両手に持った短剣を何度も打ち合わせて金属音を鳴らす男。


「共鳴…!」


耳に突き刺さる嫌な音が少しずつ伸びて不快感が消えていく。


「チャド。お前、"音より速い"って理解出来ないよな?」

「がうっ!」


2人の間には十分な距離があった。

適度に離れていた。


なのに瞬きするよりも速く男はチャドの腹部に膝蹴りしていた。

驚くべきなのはそれだけじゃない。

チャドの強固な鎧をなんとも思わせないその威力。


「どうしたよ。」


何度もチャドを下から抉るように攻撃する男。

ついには蹴り上げでチャドの大きな体が浮いてしまった。


「まさか気絶してないよな?フィナーレには程遠いぜ。」


ここまで1度も。


1度も。


男は短剣を使っていない。使う素振りも見せない。

チャドは蹴りだけで圧倒されていく。



最初はお酒が進むと賑わってた酒場の客も、いつの間にか静観してた。

店主は顔が青ざめてた。

危うく自分がってことだもんね…それに、鎧も着てないし。



「ざっと130kgってとこか!?重いのは鎧の胸元のプレートだよな!大将軍さんよお!!!」


ふらつくチャド。

男は軽く飛び跳ねると背の高いチャドを軽く超えた。


そのまま、時間がゆっくりになったみたいに男は空中にとどまって


「ブレイブ・キック…ボルケーノ!」


「……!」


空中にとどまったまま回転蹴り。

理解出来ない光景はまだ続いた。


チャドに伸びた足先が炎を纏った。


ようやくやられっぱなしだったチャドが反応したけど、私はさすがに見てられなくて目を閉じてしまった。


次の瞬間、歓声があがった。



「なっ!?」


「キャル嬢に…負けないって…言ったからねぃ…」


何事かと目を開けた。


男は地面に尻もちをついてて、チャドは今も先が燃えてる男の右足を捕まえてた。

ブーツに斧が引っ掛けられてる。


「さ、終わりにしようかねぃ」


赤い毛糸が男に巻き付けられていく。


「やめ、やめろよ!おい!ちょ…縛りってそういうことじゃなくて…ねぇ…チャドさん?チャドさん?大将軍!ねぇ!恥ずかしいのは嫌だ!お願い!解いてぇ!っっあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"~〜!!」



「キャル嬢、オイラは負けてないからねぃ」


チャドが最後にそう言って喧嘩?は収まった。

酒場の店主に客に、いつの間にか近隣の店の人達まで騒いでた。

歓声に包まれてやかましいと思ったほどに。


チャドは酒場の店主にお礼を言われながら店の中に引っ張られていったから、しばらく出てこられないかも。


だから、道の真ん中に1人残されて陸に打ち上げられた魚みたいに跳ねてるこの男には私から話をつけよう。



「………」


「はは…キャロライン…ちゃん、…さん?…様?あ、お嬢!?…なあ、助けてくんない?縛られて海老の真似事するためにこの世界に来たわけじゃないんだよ俺は!」


「…こういうの、なんて言うんだっけ?…かっこ悪い」


「やめてくれ…その目やだぁ…俺そういう羞恥心に止め刺すような目は嫌だぁぁ…」


「勝った特権、だよね」


「え、え。…あ、待って!それはダメぇ!待ってくださいお願いしますぅ!何でも言うこと聞くから!1個だけだけど!内容によってはお断りするけど!」


私が男の顔を見ようと黒い布に手をかけると男は途端に慌てた。


「顔見られたらまずいの?」


「うん。とっても。」


「追われてる悪人とか?強いしきっと大罪人だよね」


「一時期はその…やんちゃじゃ片付けられないような闇堕ちも…本当に、このオーバーマントは生命線なんだよ。頼む。」


「何でもするって本当?」


「あ、はい…でも死ねとかこのマント取れとか素顔見せろとかこっちに都合が悪いのは無理です。はい。あくまでもこっちに被害ゼロでそっちに利益が生まれるようなお願いで…」


「………」


何でもするならその布を取れ


という私の言いたいことを、早口で阻止された。

…マントだったんだ、これ。



「……じゃあ、最初のやつでいいよね」


「え?」




「あなたの仲間の女の人も呼んできて、私達と一緒にアグリアスへ行って」




男は、"やられた"って表情をしてると思う。

少し見える口元だけでそれが伝わってくるのだから、素顔を晒すようになったら"顔がうるさい"人なんだろうな。




/////////////now loading......




解放されたチャドと一緒に、男を宿に連れて戻った。

黒い布の女が合流するまで男は毛糸でギュッと縛られたままにしておくつもり。



「なあ、なんで1人じゃないって分かったんだよ。」


「そんな黒い布を纏う人いないよ。ただでさえ珍しいのにどっちも私に関わってくるんだから、自然と仲間だろうなって考えると思うんだけど」


「だって…むぐぐ…」


「あとで全部聞かせてね。私の"進み方"って何なのか」


「…無理っす。」


「最悪人数さえ揃ってればいいし、あなたの仲間の女の人が来たらそっちもチャドに縛ってもらおうかな。私毛糸買ってくるね」


「ごめんなさいそれだけは許してくださいお願いします。」


「早口過ぎて聞き取れないかと思ったねぃ」


「俺の知ってるキャロラインはこんなに卑劣な手を使わない。」


「そういうのも全部聞かせてもらうつもり」



それからソフィーが目覚めて、ここまでの状況を話した。


日が暮れて宿に静けさが訪れたのと同じ頃、指を鳴らす音と共に彼女は部屋に突然現れた。



「うふふ。負けちゃったの?」


「うぅ〜…それを言われると辛い…」


「可愛い。」



現れて早々、変な何かを見せつけられた気がした。


ベッドの上で大人しくしてる男と、すぐ横に腰掛けて彼の頭を撫でながら可愛がる女。


2人は"仲間"ではなさそうだった。



「キャル嬢、どうするんだぃ?」


「キャル。この人魔法使えるよ。しかも瞬間移動だからすごく強いはず」


私は魔法のことをよく知らない。

だから、ソフィーのさり気ない一言が重要な情報になった。


油断したら男を連れて逃げられてしまうかもしれない。



「ナ…、彼を倒すなんて。まずはあなたのことを褒めないといけないわね、チャド・サンダーバーグ。」


「音より速いっていうのは言うだけあるねぃ。最初は殺されるかと思ったくらいだけど、」


「うふふ。最後に大きな隙を見せたのね?」


「ば、ばーろー…」


「なるほどねぃ。最初から最後まで手加減されていたんだねぃ」


「何の話か分からないけど、キャル。この人にも言わないと」


「何かしら?」


ソフィーが無理やり話を進めた。


「私達と一緒にアグリアスに行ってほしい」


女はそれを聞いて、男の方を見た。



「負けて縛られてさ…オーバーマント剥ぎ取られそうになったからついその…何でもするって…言いました…ごめんなさい…」


「そう。何でもするって言った。アグリアス霊道は人間が通ると強制的に"通行料"を取られてしまうから、あなた達がいればその問題を解決出来る」


「ソフィー。マンイーターは別にパーティーを5人以上にしなくても女神の腕ぎゃあ!!?」


「うふふ。分かったわ。でも私達は同行するだけであなた達を守るために戦うことはしない。どうしても助けが必要になったら1度だけ助けてあげるけど、その時は今アグリアスへ行くことは諦めてもらうわ。」


男が何かを言いそうだったけど女に頬を抓られて途中で終わってしまった。


でも、こうしてアグリアスに行くための用意は整った。



「彼が何を言ったか分からないけど、私達については"何も"教えられないの。ごめんね、キャロライン。」


私が次に口を開こうとしたら釘を刺された。

さらに続けて


「私達を利用したいのであれば、素性を知りたいという考えを捨てることよ。旅の仲間にも情報を共有しないことを勧めるわ。」


最後に彼女は唇に指を当てて、"黙っていろ"と私に念押しした。



「何でもいいけどせめて呼び名くらいは教えてもらいたいねぃ」


チャドがそれとなく鋭いことを聞いた。


「そうね…ふふっ。彼はカヒリ。私はギーナ。」


「何それ俺はいぃったたたたた!!」


「問題ある?」


「よろしくお願いしまぁぁぁぁす!」



黒い布の男、カヒリ。

黒い布の女、ギーナ。


改めて、2人がアグリアスまで同行することになった。



「それにしてもこの毛糸頑丈ね。」


「ゴルゴラの兵士は罪人を捕まえることも少なくないからねぃ。どんなに細い糸でも同じくらい強く結んで縛り上げることが出来るんだよねぃ」


「そんな技術があるの…?」


「ソフィー嬢はまず鍛えないと難しいねぃ…」


「え?どういうこと?」


ソフィーが自分の非力さを自覚してないと知ったところで。

翌朝に出発することが決まった。



/////////////now loading......




「キャロライン様…あなたはこの国に何か因縁でもあるのでしょうか…」


真夜中、ライヴァンに入国したのはキングエルからやってきた使者達。


それを指揮するのは


「マクシミリアン王も私も、ただあなた様の無事を、安全を思ってのこと…今回は以前よりも手荒になることをお許しください…」


「ブラウン様、キャロライン様は前回と同じ宿に宿泊しているとの情報が」


「分かりました。向かいましょう…このお祈りが済んだあとに」



教会。

顔を上げ、修復中のステンドグラスを見つめるブラウン。


「女神の慈悲を」



/////////////To be continued...



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