第7話「動き出す物語」
来た道を戻る。
お母さんから離れていく気がして心が曇っていく。
「もう少しでミフィーリア。行きと帰りってこんなに違うの?かかった時間も疲れも」
「………」
ミフィーリアは壊滅状態だ。
ソフィーはそれを思い出したのか元気がなくなっていた。
でも、その滅びかけた村に変化が起きていた。
「ソフィー。人がいる」
「………あ、あの黒い鎧って…もしかしてみんなも…!」
ようやくたどり着いたミフィーリアには、黒の鎧を鳴らす男達と例の騒ぎで真っ先に逃げ出した村の住民達がいた。
ソフィーが駆けていくのを見て、私は鞄の中を確認した。
捨てるほど収穫したはずのリンゴはあと2個しかない。
移動中の疲労回復、飢えを満たすため、人との交渉…もう少し配分を考えるべきだった。
あとはボロボロの着替えと鏡、空の弁当箱に…
「そんなあ!!」
ソフィーの声だ。
「こればかりは我々の責任ではない…」
「いいえ!あなた達の責任でしょ!?なんで村から離れたのよ!誰の命令なの!?責任とって…よぉ…」
1人の兵士と、ソフィー、それから…地面に倒れる白い人間。
"生"を主張するはずの赤が失われてる。つまり、死んでる。
「我々が戻った時にはこの男も生きていた。それは覚えている。わざわざ生き残りを殺す残虐な人間がゴルゴラの兵士にいるとでも!?」
「そうかもね…」
「貴様!」
「ソフィー」
「キャル…」
「恋人、だよね」
黙って項垂れる彼女の頭を撫でた。
「何を騒いでるんだぃ?」
そこに1人、男がやってきた。
「はっ、チャド様!」
「チャド…ん」
「キャルぅ」
ソフィーに抱きつかれた。
彼女の体温を感じたら、世界に色が戻った。
黒でも赤でもない、群青色の鎧を纏う大男…それがチャドだ。
背中には大きな…大きな…武器を背負っていた。恐らく武器だ。
「この若者、我々が村に戻った時には生きていたのですが少し見ない間に首を」
ソフィーの恋人の彼は右手に小さなナイフを持っていた。
そして首には深い傷。
辛いだろうけど、これは誰のせいでもない。
「村がこの状態だからねぃ…家族や友人、恋人が殺され、喰われ、そこらに捨ててあったのを見ちまったらまぁ気持ちは分からんこともないねぃ。この村の娘か?守ってやれなかったのは悪かっ」
「"真実のソフィー"よ、魂を守りたまえ…」
「ソフィー?」
私に抱きつきながら、右手をチャドの顔に向ける…そしてその手には光が集まって
「正義を追求せし光、」
((ホーリーグレイヴ))
乱れた感情の爆発。そして魔法の発動。
近距離で放たれた魔法の武器でチャドの顔が爆発
「珍しい魔法だねぃ」
しなかった。
眼前で弾けて消えてしまった。
「どうして…!」
「話を続けてもいいかぃ?」
「正義を…!」
ソフィーの手を止めてやれなかった。
吐き出すなと、我慢しろと。
そんなこと言えるわけないよ。
大好きな人を失ったショックを抑え込めなんて。
ただ、チャドに攻撃が届かないのを見て都合が良いと思った。
彼女が疲れて落ち着くまで攻撃を受けてもらえばいい。
それから2回、ソフィーは感情のままに魔法を使ったけど案の定チャドには届かずついには腰が砕けて地面に座り込んでしまった。
「そっちの娘は落ち着いてるねぃ」
「言い分があるんでしょ?」
チャドが最後にもう一度ソフィーを見た。
ソフィーはもう力尽きて話を聞いていない。
「まあねぃ。実はミフィーリアの上空を飛んでいく鳥を見たんだよねぃ。真っ赤に燃えた」
「炎鳥…!」
「ん?知ってるのかぃ?…ともかく、オイラ達はそれが新手の魔物だと見て追いかけることにした。そこらの魔物よりも危ないと本能で感じたんだよねぃ」
「……そ、それで?」
「消えちまったねぃ。あのライヴァンの空を飛べるはずもないと考えるのが真っ当なんだろうけどねぃ…どうにも腑に落ちないねぃ」
思わぬ話が聞けて、私はチャドともっと話すことにした。
けど、チャドはそれなりの立場の人らしくて部下に指示を出しながら途切れ途切れの会話になってしまう。
「少し待っててもらえるかぃ?ミフィーリアの状況確認と死者の埋葬を終えたらゆっくり話そうじゃないかぃ」
私とソフィーは村のはずれで休んで待つことにした。
兵士の1人がくれたパンと甘酸っぱいチョレンジのジュースを貪った。
兵士や住民が頑張って、村が少しだけ綺麗になった。
地面に染みた血は落ちないけど。
村の中心に死者を埋葬して墓を建てて、お祈り。
そしてチャドが私達の元へ来た。
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「ゴルゴラがそんなことになってたとはねぃ…」
私達がゴルゴラで体験した事を話した。
木に寄りかかって話をする、彼。
チャド・サンダーバーグ。
ゴルゴラで生まれ育った29歳の男。
"大将軍"の異名を持つらしい。
自慢の武器である斧は地面に突き立てられている…刃がギザギザしていてそれは雷のように見えた。
彼は時々目が光る。
というのは、ゴルゴラのピンチを知ったり誰かの窮地を知るとキラリと茶色の目に黄色い閃光が走る…そんなようなことで。
「チャドさんはゴルゴラに戻るの?」
「…そうするべきだろうねぃ。自分の故郷を失う辛さはもう十分に分かってるつもりだしねぃ」
ミフィーリアを見渡すように目を向けてそう言った。
「もしかして炎鳥を探したいとか」
「ゴルゴラが敗北して魔物に占領された時はゴルゴラからライヴァンへ続く道を塞ぐことになってるんだよねぃ…最後の意地とでも言うべきか…ゴルゴラの近くには大きな岩がいくつもあって、それをねぃ…」
私への説明じゃなくて自分への言い訳だ。
見捨てるのとは違うけど、ゴルゴラに戻れない理由を無理やり説明して言い訳してる。
「…チャドさん、ソフィーに対してどんな気持ち?」
「どんな?」
「結果としてあなたの選択は間違いだった。目の前の守るべき人達を見捨てて追いかけた炎鳥は見失ったし、ミフィーリアは壊滅状態。ソフィーの恋人も、ソフィーを失ったと思って自殺したのかもしれない。あなたは今、どんな気持ち?」
チャドは黙って深いため息をついた。
「悪いと思っているのなら、私がソフィーの代わりにあなたに罪滅ぼしの機会をあげる」
「……聞こうじゃないかぃ」
夕暮れ。
チャドと話をつけて、ソフィーの回復を待った。
「私寝てた?…あ、」
「ソフィー。村の人達にお別れを言おう」
建てられた墓の前でソフィーが死者に、恋人に、別れを告げた。
「家族も友達も恋人もいなくなっちゃった…へへ」
「私がいるよ。私達の関係ってよく分からないけど」
「…そうだね。でも、ありがとう」
「旅の仲間、でいいんじゃないかぃ?」
「………」
「ソフィー。チャドさんは私達の護衛になった」
「え?」
黙ってチャドを睨みつけていたソフィーが目力を失って私を見た。
「キャル嬢と契約をしたんだよねぃ。魔国エンヅォルトまで2人共一切傷をつけずに連れていくって…ねぃ」
こめかみを掻く仕草、困惑した表情。
私のぶつけた無理難題をそのまま受け入れてしまった彼の後悔の証だ。
「……ど、どういうこと?」
「2人には話すよ。ここで。私の全てを」
命を預ける人達だ。
嘘で着飾るようなことをすれば、いつか裏切られてしまうかもしれない。
だから全てを語った。
キングエルの王女であること、死んだはずの母親がまだ生きているかもしれない…その答えか手がかりがエンヅォルトにあるということ…
それでも妖精の存在や時々世界が違って見えることは伏せた。
「とんでもない娘だったねぃ…キャル嬢は」
「…そっか、お姫様だったんだね…」
「そんなに良いものじゃないよ。人類の恥の娘なんだから。死んだほうがマシだと思えるような人生だもん」
「魔国エンヅォルト。別名を死者の国、地獄、他にもいっぱいあるよ。とにかく人間が踏み入れていい国じゃないってこと。キャルはそれでも行くの?」
「うん。行かなきゃ…そうじゃないと私生きている意味がない。目的がない。どんなに危険でも私は"生きていたい"」
ソフィーは記憶した世界地図で私を案内する。
チャドは私とソフィーを命懸けで守る。
脆い約束で繋がった私達は、夜に出発することにした。
「そうそう、2人ともオイラのことはチャドでいいからねぃ。今じゃさん付けされるほど立派な人間じゃないからねぃ」
私とソフィーは軽装の防具をもらった。
服の下に着られる胸当て、肘当て、膝当て。
強度は不明だけど、上から軽く叩いてみると小さな衝撃は体まで伝わらなかった。
チャドの部下達はミフィーリアに残って村の再興に協力することになった。
村のため、馬車も置いていくことになったのが少しだけ勿体ない気持ちになった。
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その頃、大国キングエルでは国王がもう一度キャロラインの捜索隊を編成していた。
捜索範囲、引渡しの謝礼金なども前回より大きくしそろそろ出発というところ。
「ゴホッ。じゃあ頼む…後のことはブラウンがやるから」
捜索隊が城から発つのを見送るマクシミリアン王は付き添いが必須になっていた。
自力では立てず、動けず。
かろうじて許されるのは短く話すこと、血を飛ばすほど痛々しい咳をすること、糞尿をその場で漏らすこと。
「国王様、今日はもうお休みください」
「だな…うっ…ゲホッ」
汚してしまった玉座から離れ寝室へ…移動しようとしたその時だった。
「待て!何者だ!侵入者ーーー!侵入者だー!王を守れーーー」
王の間の外から聞こえる叫び。
そして閉ざされたばかりの大きな扉が勢いよく開いた。
正確には、"蹴り破られた"のかもしれない。
扉は勢いで限界まで開くがそれ以上に加わる力に反発しようと軋む音を大きく立てる。
「悪いな。悪人じゃないんだけど1回はこういう登場の仕方もしてみたくってさ。」
そこには2人、人間が立っていた。
全身を隠すような黒い布を纏っている。
その布のせいで顔も見ることが出来ない。
「ゲッ…ゴホッ!何者だ…」
「ごめん、ちょっと待って。」
国王の問いを静止すると2人の内の1人が王を守るべく近寄る兵士達を睨みつけた。
「戦おうなんて考えるなよ?俺達は"異物"なんだからな。指1本でも全員…」
「いいから、話を続けましょう。」
「お、おう…」
この2人は男女だ。声でそれが分かった。
それ以外の情報は皆無だ。
いや、男の方が確かに言った。
自分達のことを"異物"だと。
「んじゃ、話そうぜ…勇者、マクシミリアン・ストーン。」
/////////////To be continued...




