第6話「力無き者達」
「……り!しっかりしてよ!キャル!!」
頬の痛み。
目に涙を溜め込んだソフィーが私を睨みつけていた。
「戦場で棒立ちなんて有り得ない!!」
「今…」
炎鳥はどこへ?
私に話しかけたのは?
状況を整理しようとしたところで右、左。
ソフィーの手が私の顔を往復した。
「こんな危ないとこにもういられない!死にたいの!?」
手を引かれて走り出す。
状況は人間の不利…劣勢…いや、敗北まで見えていた。
圧倒的に魔物の数が多い。
例え個々の戦力が低かったとしても、それが百、千…万を超える数になれば無条件で結論が出る。
しかしここにいる人間達は撤退をしなかった。
記録士や私達を除いて、戦いに来た人間達は1歩も下がることなく戦いを続けていた。
《逃がさん》
見慣れた魔物だ。
狼人間。
素早さと攻撃的な性格はまさに戦闘向き。
焦げ茶の体毛が半分以上血に染まっているあたり、人間を大量に殺したのだろう。
「だ、だめ魔法はまだ」
慌てる時間ももらえなかった。
ソフィーが腹に威力のある膝蹴りをもらった。
その瞬間だけ、その光景が切り取られた。
そう、写真みたいに。
ソフィーは地面を転がされた。
動けないのを確認してから狼人間は私へ向き直って、退屈そうな顔をした。
《どいつもこいつも弱い。殺してくれと言わんばかりに隙を見せている。特にお前は殺されるために存在しているようだ》
「完全に否定はしない。私はもっと違う生き方をしたかったから…でも、私がここであなたに殺されるとは思ってない」
《何を》
甘い香り。
そして世界が白と黒と赤に変わって
「私を守れ」
狼人間は直後に壊された。
/////////////now loading......
「傷は深いがここはゴルゴラ。治療のために強い薬が備蓄してある…この薬草を煎じて飲ませるといい」
宿まで逃げ帰ってきた。
ゴルゴラまでは妖精がソフィーを抱えつつ私達を守った。
門番に戦況を伝えて、宿に戻る途中でゴルゴラで最も優秀な医者をリンゴで雇った。
ソフィーは腹部周辺の骨が全て折れていた。
痛みのショックで気絶してるけどよく死ななかったなと思う。
「ソフィーを見てて。私はやることがあるから」
私達と同じようにゴルゴラに戻っているはずの人物に会いに行かなくては。
どこを探せばいいのか…を考えながら宿を出たらすぐに見つけた。
「マーフ」
「なむむ!」
私を見て驚くその姿は後ろめたい何かを隠す子供のようだ。
そんな反応をして今更見抜かれないとでも思っているのだろうか。
「話を聞かせて。何が起きたの?」
たった一瞬のことのはず。
なのに、その一瞬で人間は圧倒的不利になり私達は魔物に背を向けて逃げなければならなくなった。
「聞くより読みなさい。これは王には見せられん…」
記録した紙を1枚、私に見せてくれた。
-戦場に舞う炎鳥
再び空が裂けた。私だけでなく、すぐそばにいた少女2人も目撃した。
前回と同じように雷と炎が魔国へ向かって飛んでいくと考えていたが、そうはならなかった。
戦場に雷が落ちたのだ。魔物を焼き払ったのだ。
人間だけは無傷で魔物だけを消滅させる雷の魔法だ。
それを見て魔王の襲来を予測した私の間違いが判明してしまった。
しかし、それだけではない。
裂け目から虹色の羽を魅せる炎鳥が現れたのだ。
まっすぐにこちらへ向かって、戦場に降りるとそれは強大な爆発となった。
視力を奪われ、一時的に聴力を失うほどの爆発は拮抗状態だった人間と魔物の勢力を圧倒的に人間の有利に変えた。
兵士と戦士が声を上げ士気を高めた。
しかし、それで終わらなかった。
気づけば裂け目が消え、雷も炎鳥も消え、代わりに境界線の方から魔物の大軍が押し寄せてきたのだ。
それは数百ではない。もっと、もっと桁の違う数だ。
無限にも思えるほどの魔物達が戦場に駆けつけ、人間達を殺してもるあかそれからしやんまわたしはありぬそとおくにぺやんくおおきなみただなめだまをしらもとみたのだてりゃいあそ…
続きの字がぐちゃぐちゃになってる。
最後の方はあまりにも意味不明で読むのを諦めた。
「さすがに逃げながらは書けないよね」
「私が見たのはそれが全て…ふむぅ…しかしこのままではゴルゴラも危ういかもしれない」
「ねぇ。この炎鳥の爆発の時、人を見なかった?2人組で私に近づいてきたんだけど」
「書いた通り、何も見えない聞こえないというのが答え…だが、気になるのでぜひ聞かせてほしい」
「……何も」
ゴルゴラの王が動き出したのだろう。
店が続々と閉められ、家を囲うように男達が土嚢を積んでいく。
「魔物が国内に攻めてくることを読んだのだろう…お嬢さんもお逃げなさい」
「マーフ…あなたとはまた会わなきゃいけない気がする」
「ほっほっ…」
彼は人差し指を立てて指先を自身の右目、左目の順に向けた。
「不思議な魔法をお持ちのようだ」
それだけ言い残して記録士マーフは兵士に連れていかれた。
魔法?
宿に戻って医者と2人でソフィーを看病した。
夜になって、外が少し騒がしくなったけど魔物は宿に入ってこなかった。
そして翌朝。
眠い目を擦りながら、私はソフィーが目覚めるのを見届けた。
「キャル…ここ」
「ゴルゴラ。体は?まだ痛む?」
「ううん…全然」
「そう。ならおやすみ」
「え?」
いい加減耐えられなくなって、ソフィーのベッドに潜り込んで寝ることにした。
半分ソフィーを追い出しながら、ベッドに残る温もりを感じて睡魔が加速する。
「キャル?キャル?…おやすみ」
/////////////now loading......
「ル!キャル!!キャル!!!」
この意識の戻され方、私は最近だけで何度経験してるんだろう。
「やっと起きた…!早く!ゴルゴラから出ないと!」
そこには荷物をまとめたソフィーが立っていた。
私の眠るベッドを何度も拳で叩いて急かしてくる。
「何があったの…今は」
焦げ臭い。
そして本能的に危険を察した。
寝坊と大遅刻が重なったような焦燥感がとにかく体を動かせと命令して
「行こう」
寝起きで少しだけふらついたけど、すぐにそれもなくなった。
「少し戻ることになるけど、ミフィーリアの方向に急いで逃げれば」
「ううっ!?」
「キャル!?」
「熱い…」
白よりも眩しい色が存在するのだろうか。
存在した。何色かは知らないが、確かに私の目に映っている。
ゆらゆらと揺れるそれは、熱で何もかもを燃やして
「キャル!」
「引っ張って…ああぁっ!?」
何も知らないソフィーが私を強引に歩かせる。
「急いで…もっと急いでえ!!死んじゃうぅ!!」
「どういうこと!?確かにいくつも建物が燃えてるけど私達からは離れて」
「早く国の外に出してぇぇ!!出せえええ!」
「っっ!?」
拷問。
それだけの感想を残して、ゴルゴラを離れた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「大丈夫?…キャルって火が嫌いなの?火事に嫌な思い出があるとか?」
「ない」
私を不思議そうに見てるんだろうな。
「キャルが寝て、本当にすぐだった。爆発する音が聞こえて外に出てみたら魔物がゴルゴラの中まで入ってきてて」
「もうゴルゴラはいい」
「え」
「用はない…はず…ソフィー、あそこに行かないと。えっと」
リーファンに会えるかもしれない場所。
よく分からないけど、もう一度リーファンに会わないといけないから。
「どこ?」
「……思い出せない…リーファン…リーファン…」
「リーファン?」
必死にリーファンとの出会いを思い出した結果。
「魔国エンヅォルト、の隣国…!そう!エンヅォルトの隣の国!」
「え!?…ゴルゴラも隣ではあるけど違うんだよね。だとしたらハートしかないよ。森林国ハート。」
「そう、それ。リーファン・ハート。彼に会わないと」
「国と同じ名前!?じゃあ王族!?」
「立場なんてどうでもいい。ここからハートまでどれくらい?」
「ここからだと………途方もないくらい遠い。それにハートは一番危険な国だよ?本当に行くの?」
「うん」
「分かった。ちょっと待ってね」
なるべく平面で綺麗な砂がある場所を探して、ソフィーが小石で地面に円と線を書いていく。
「えっと、ここが…」
西↑
魔国エンヅォルト
↓↑
魔物の世界と人間の世界の境界線
↓↑
ゴルゴラ←→ハート
↓↑
ライヴァン←→アグリアス←→メドルーナ
↓↑
大国キングエル
東↓
円の中に国の名を書き込んでいくと、かなり省略された世界地図が完成した。
「ゴルゴラとハートの間にはロガドガ山があるんだけど、ここにはまず人間は行かない。魔物の住む山だから」
「魔物が襲ってこなかったらそれが近道?」
「全然。人間が通らないから道なんてないしロガドガ山はとてつもなく大きいから超えるなんて無理」
「なら回り道…か」
「ミフィーリアまで戻って信仰国アグリアスを抜けて、」
「メドルーナって国からハート?回り道じゃなくて遠回り…」
「そもそも私達2人とも戦えるかっていうとそうじゃないからね?ミフィーリアというよりライヴァンに向かって護衛を雇うとかしないと」
「はぁ…」
「キャルは平気なの?境界線の時もそうだったけど、魔物がすぐそこで自分達を狙っててもなんで冷静でいられるの?」
「聞きたい?やめた方がいいよ。私の抱え込んでる全部を話さなくちゃいけなくなるから」
「なら少しずつでいい。寝る前に物語を読んでもらう感じで」
「そんなことしたら毎晩悪夢にうなされると思うけど」
ソフィーは時々後ろを振り返る。
ゴルゴラから完全に離れて安全を確信するまでそうするつもりなんだろうな。
逃げ出す形になったけど、ゴルゴラはどうなるんだろう。
これからの私達はどうなるんだろう。
まずは、来た道を戻らなくては。
/////////////To be continued...




