第5話「戦場に舞う炎鳥」
飲んで騒いで煩かった男達。
私達が1晩眠ってる間に死人のように静かになっていた。
どんなに小さな音も出さないように。
客の1人、繊細さが一切感じられない無精髭の大男の動作をジッと見つめてこの違和感に気づいた。
「もしかして私達に気を使ってる?」
「いや、違う。今朝境界線の近くにちょっとな…こいつらは"兵士"だ。王がもうすぐ命令を出すだろうって身構えてんだよ」
「でも食事まで無音?鼻息すら聞こえないよ?足音も」
ようやく会話が出来て嬉しそうなソフィー。
宿の受付の男だけが唯一、話を聞いてくれた。
1階の酒場は静寂という言葉がぴったり。
2階の宿泊部屋は…そもそも私達くらいしかのんびり昼まで寝てた客がいなかった。
「そんだけ集中してるってこった。お前達も外出はなるべく控えるんだな。もしくは王城に避難するか」
「全員出払うから街が無防備になるって言いたいの?」
「記録士の号外だ。見てみな」
記録士は各国に必ず数人いる役職。
キングエルにもいた…仕事は自国に関する出来事を記して国民に伝えること。
普通はひたすらに紙に言葉が詰め込まれていて読むだけで疲れるけど
「絵も書いてある…珍しい」
「だろうよ」
号外-境界線に魔王襲来の予兆か
魔物の武装勢力を退けた戦士達を記録していたところ、突然"空が裂けた"。
裂け目からは雷と炎のようなものが魔国の方向へ。
我々が戦場で目撃したのはそれだけだが、目撃した出来事は自然に起こりうるものではない。
あれだけの大きな魔法を扱える人間は大賢者マディンただ1人…しかしそれは生きていればの話。
つまり、あの雷も炎も人間が引き起こした魔法ではないということは魔国側…魔法の規模を考えれば魔王ではないかと考えるのが自然で…
その先は濡れて文字が潰れていて読めない。
大きく描かれた絵は、空が縦に裂けてそこから雷と炎が地上に柱のように降り立ったものだった。
「酒臭い…」
「悪いな。驚いた時にこぼしちまった」
ソフィー達が号外のことで話をしてる間、私は考えていた。
妖精が私を道案内してくれるはず。
ということはこの記録士の号外にある雷と炎の魔法を使った存在を辿れば…
「あぁ!だから言ったろ。魔王が来たってんなら敵の勢力が圧倒的に強くなる。ゴルゴラだけじゃあ足りないだろうから"ハート"の"守り人"に救援要請を」
「ソフィー。この場所に行こう」
「なっ!?お前俺の話を」
「分かった。私も気になってたから」
「お前もか!?やめとけ!女2人じゃ」
宿に1人の男が駆け込んできた。
「ゴルゴラの王より!!境界線から魔国エンヅォルトへ進行せよ!!」
音を立てずに待っていた男達がざわついた。
ところどころ聞き取ると、守るんじゃなくて攻めるというのが予想外だったみたい。
それでもすぐに出発する準備を始めたから、私達はついて行くことにした。
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「城門から出発すると境界線はすぐなんだって。危なくなったらすぐ引き返せるよ」
私はむしろ危険な場所に行かなきゃいけない。
兵士の行進。
その最後尾に私達がくっついてる。
境界線が近づいてくると焦げ臭さと黒煙が存在を主張してきた。
「キャル?」
飛び去っていく妖精も見つけた。
「魔物だーーー!」
先頭が声を上げると隊列が崩れて全員が前進。
「私達はここで待とう」
ソフィーは落ち着かない様子。
提案した私は最低な見物客だ。
「危ない…あっ…」
「どこ見てるの?」
ソフィーは乱戦状態でもよく見えてるみたいだった。
私には気色悪い魔物と人間がぐちゃぐちゃに混ざりあってるようにしか見えない。
「魔物は強いの?」
「…短い槍を持ってる。鎧の隙間に刺して動きが鈍ると頭を何度も殴って…でも人間も負けてない。突進して、踏みつけて、剣や斧を体に振り下ろして。……キャル、逃げよう。魔物がこっち見てる」
それからすぐに、少し離れた位置にいた私達のとこへ魔物が
《死ねええええええええええええ!》
分かりやすい。
両手を広げて口を開いて牙を剥き出すいかにもな飛びかかり。
「キャル!」
でも、大丈夫。
《ふぎゅっ!?》
魔物の手も牙も私達に届くことはなかった。
空中で突然体がへし折れたから。
「何今の…誰も触れてないのに」
「私を守ってくれるんだ」
「何が?」
妖精の仕業だ。
「ソフィー。記録士が近くにいるはずだから探そう」
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戦場。戦場。戦場。
遠巻きに生死をかけた人間達の攻防を見ながら移動を続けると
「ふむふむ…ふむ」
「あなたが記録士?」
「なむっ!?なぜこんな場所に女…しかも子どもが2人も!」
「髭がくるんくるんだね…」
口周りに生える白髭は全て内側に、多分意図的に巻いている。
キングエルで私が見た記録士とは大分容姿に違いがある。
まず、戦場に来ているのに防具の類は一切なし。
武器も持ってないから襲われたらおしまい。
逆に、記録するための道具は多い。
言葉だけじゃなくて絵もあったから、記録士として相当なこだわりがあるんだろうか。
「私は記録士マーフ。ゴルゴラで最も信頼される記録士だ」
「信頼?ごめんなさい、私村からあまり出ないから記録士とかよく分からないんだけど」
そういえばソフィーは宿で号外を凝視してた。
興味の矛先が違かったんだ。
「記録士が伝える情報を信じるかどうか。私達が見た号外の記事、絵が無かったらキングエルでは書いた記録士を嘘つき呼ばわりしていたかもしれない。」
「ほっほっ。キングエル?あのキングエルなら処刑されているだろう。私と国王は"言葉"を覚える前から付き合いがあるから、そんなことはまずありえん」
「国王はどうでもいい。あなたが見た空の裂け目と雷と炎の魔法のことを知りたい」
「ほうほう。ふむふむ…いいとも。何でも聞きなさい」
記録士はここまで私達とは1度も目を合わせていない。
戦う自国の男達を観察し、勇姿を国民に伝えるべく淡々と記録を続ける。
「例の裂け目はどこで見たの?」
「ここからさ。私は毎回ここで記録している。見てごらん遠くに見えるあの黒いのが境界線、人間からすれば世界の果てだ。あれを越えれば人間の世界ではない。裂け目はここから北西の空、雷と炎はまっすぐ西へ向かっていった」
「おじさん絵が上手。キャル、見てよ」
記録士の絵。
魔物の頭に上から剣を突き刺す男の絵。
「今戦っている人間達が勝とうが負けようが、私はゴルゴラの勝利を伝える。国で待つ兵士も戦士も私の記録を読んで戦闘意欲が湧き、勝利を信じて次々に乗り込んでいく。ゴルゴラの強さは自信によるものだ」
「へぇ…」
「ん」
妖精の独特な甘い香りが鼻をついた。
妖精を探して見回した、その時だった。
「2人とも、仲良く話してる場合じゃない」
「おぉ…まさしく!私が見た空の裂け目!」
「ちょっと怖くなってきた…」
「ソフィー。行こう」
「嘘でしょ!?」
ソフィーの手を引っ張って駆け出した。
北西。記録士が示したのと同じ位置だろう。
戦闘で生まれる黒煙が青空を濁す。
その汚れた空に亀裂が生まれて、左右に広がると吸い込まれるような黒が見えた。
それから、神の怒り。
「うわぁっ!!」
雷が私達の近くに落ちた。
その場にいた魔物と人間はもちろん…
「…人間だけ無傷?どういうこと」
轟音に怯むソフィーを置いて私はさらに裂け目に近づくために走った。
「どいて!」
何が起きたのか分かっていない人間。
突然仲間が消えたことに驚く魔物。
それらを掻き分けて走る私。
「お母さん!」
もしそうなら。
「聞こえる!?」
もし届くなら。
その返事は
「炎…」
天から降るのは見惚れるほど綺麗で大きな炎。
翼を広げた鳥のよう。
それが私に向かってくる、ということは、そういうことで。
「おか…あ、さ、?」
これが返事なのか?
私の呼びかけへの返事?
これが?
さっきは落雷で魔物が大量に消えた。
これも攻撃なのではないか?
雷が魔物を殺し、炎が人間を殺すとしたら?
一瞬で思考が巡る。
思考するという行為が私の足を地面に縛りつけて、逃げ場をなくす。
「綺麗…」
炎。炎鳥。
固定概念を燃やし尽くす、虹色の炎鳥。
「わ」
それが私に直撃した。
眩しい。
冷たいような熱いような、不思議な感覚と音が失われていく感覚。
《なあぁぁぁぁぁっ!!!》
私のすぐ後ろで声が聞こえた。
「………」
ついに訪れた無音。
私はまだ生きてるの?
好奇心に釣られてあっけなく死んでしまったの?
何も分からない。
…と思ってた。
色まで燃やした爆発。
白の背景に人影が見えた。
2人…
その内の1人が歩いてくる。
「キャロライン・ストーン、あなたは進み方を間違ってる。まずはリーファンを探すのよ。彼がいないと」
もう1人に引き戻されて、2人は消えた。
リーファンを探す?
進み方?
「誰?」
/////////////To be continued...




