君、僕の事好きかい?
「君、僕の事好きかい?」
なんて言って僕は、寝ている君に話しかける。花の上に寝転んでいる君は、チラリとこちらに目を向けると、尻尾をプイッと一振りして、大きなあくびをした。
またそれですか、そう言っているように思えて、思わず頬が緩んだ。
君が家に来た日から、10年くらい経つかな。思えば僕は、君にはちゃんと名前をつけたのに、君のことをいつも「君」と呼んでいたね。
僕は毎日のように、君に聞いたよね。
「君、僕の事好きかい?」
返事をしてくれる事もある。
無視される事もある。
しつこすぎてはたかれた事もある。
いつも僕は君にたずねて、そして言うんだ。
「僕は、君のことが好きだよ」
君と出会ったのは、僕が一人暮らしを始めたばかりの頃だったね。まだ大人になってなかった君は、僕の住むアパートの下で、雨をしのいでいた。
見つけた途端、コンビニへ走ったよ、貢物を買いにね。猫缶を開けて君にあげると、美味しそうに食べてくれたんだ。
それから毎日、僕はそこに猫缶を置いた。君がいても、いなくても。
そんな日々をしばらく過ごして、ある君と居合わせた日。僕が猫缶を置こうとすると、君はいきなり肩に乗ってきたんだ。
それから君は、うちに来た。
「名前は、どうしようかな……三毛猫だから、ミケってどう?」
僕がそうたずねると、君は寝転んだまま尻尾をプイッとふった。
今思えば君は眠っていて、僕の声を聞いてなかったんだね。
でも僕には、いいんじゃない?って言ってるように思えて。
「じゃ、ミケで決まりだね」
勝手にそう決めちゃったから、君、多分この名前が気に入らなかったんだね。
もし、君が僕の事を好きになってくれたら、この名前を気に入ってくれるかな。
いつか、君のことを名前で呼べるかな。
だから僕は聞くんだ、僕の事が好きになってくれたかなって。
いっつも聞くんだ。
10年間、僕のそばにいてくれた。一緒にお風呂に入って、一緒に寝て。
散歩にもよく行ったね。賢い君は、リードなんかしなくても、僕と一緒に歩いてくれた。
そしてそのまま、いってしまった。
もう、君とは、この夢の中でしか会えないんだね。
もうそろそろ、僕の事を好きになってくれたかも。
「ミケ」
そう呼ぶと、君は、返事をしてくれたんだ。
思わず涙がでて、うれしくて、うれしくて。
「僕のこと、好きかい?」
また僕は、そうたずねた。
目を覚ますと、枕元に置いてある君の写真が目に映る。
君は僕のことを、好きになってくれたんだね、ミケ。
また、逢えるかな。
一度書いてみたかった、猫と人間との絆のお話でした。