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いのち

作者: 悠太郎

男はいのちを売った。



その男は不祥事の罪を被せられ、職を失い、

家族を失い、恋人を失った。

家もなく、夢も希望も失った。


男の小学校の頃の将来の夢は

『大物になる』と、ふざけた夢だった。


漠然とした男の夢は、やはり叶うことはなかった。



此処はとある教会。



今、男は虹色のテラスに照らされながら、悪魔とも、天使とも崇められる不思議な女神像の前にいる。

ここは知人から聞いた。いのちの交換所。

よくある適当な募金活動と違う点は、自分のいのちを売り、金銭を得る。いのちはランダムに、生きたいと願いながら死にゆく人々へ提供される。

提供された人間は、提供されたぶん寿命が延びる。いのちの価値は以前は1日数十万円していたが、近頃は数万円に下落していた。



男はもちろん、自分の寿命を知らない。



儀式は単純で女神像の前で目を閉じるだけ。自分の提供したい年月を浮かべ、3分間過去を振り返る。3分後に目を開ければ、目の前に現金が置かれている。という単純なものだ。ただ、真剣に儀式を行い、真剣にいのちを提供したいという思いがなければ何も起こらないと知人からきいていた。




男は静かに目を閉じる。




男の人生は、それこそ華やかではなかったしありふれたものだったが、それでも今思えば幸せだったと感じていた。男は人生を選択だと思っている。意識無意識含め、自分で選択を繰り返し、今の人生があると思っている。だから誰も憎まないし、期待もやめた。

男はこの先の人生の選択が面倒になっただけだ。自分の選択で誰も傷つけたくないし、傷つきたくもない。失敗もしたくなければ、失敗と思いたくもない。甘いかもしれないが、これも人間だろう、と思う。




…しかし男は最後に誰かの役に立ちたかったのだ。




…もう、3分間経った頃だろう。

男は時間内に人生を振り返る。それはカップラーメンの出来上がりを待つより短く感じていた。




男は静かに目を開ける。




目の前には変わらず女神像が無表情にそこにある。

虹色のテラスが鮮やかに光輝く。


目の前には数千万円の札束がピラミッドのように

積み上げられている。


嘘みたいな話だな。

男は少しだけ嬉しくなり笑いそうになったが、

泣いていた。

無意識に。







既に男の心臓は

止まっていた。





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